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転生者

第21話

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 漁村で人魚についての情報を聞いて回ったところ得られた情報は、近くだとエリモ岬と呼ばれる辺りでの目撃が比較的多かったこと。そこから海岸沿いにサンゴ礁の一帯があり、さらにその先にベルモ岬と呼ばれる辺りでも目撃があるという事だった。

 エリモ岬には出発した日のうちに到着することができた。



「気持ちいいーーー!!!」



 人魚くんが海に入って思う存分泳いでいる。ありゃ絶対気持ちいわ。なんせこの世界の海はどこもかしこも沖縄の海みたいにキレイなんだもの。

 ただ、俺達はもう夕暮れのこの時間帯から海に入るのは避けた形だ。



「よかったわ~、海が見えてからずっと入りたそうにしていたものね~」

「無邪気な子供って癒されるわよね」

「そうだね。さて、俺達は野営の準備を進めるかー。どっちかは人魚くんを見てて欲しいけど、どっちかは手伝ってくれる?」

「私が行くわ」

 サラがお手伝いに名乗りを上げてくれたので二人で野営の準備を進める。





「おさかなとった~」

 しばらくすると人魚くんが両手に大きな魚を2匹持っていてきた。



「こりゃ立派な魚だな!すごいじゃないか」



 手に持っていたのは40センチはありそうな、見た目真鯛っぽい魚だった。よくやった!と頭を撫でてやると嬉しそうにしていた。朝は少し俺に怯えていたような雰囲気があったのに、今では何も問題ないようでよかったよかった。



 ところで人魚って魚食べるのだろうかと不安になった。なんというか、同族を食べるようなもんじゃないだろうか?という危惧だったが、「はやくたべたいなー」とか言っていたのでどうやら問題ないらしい。



 俺はさっそく受け取った魚をサバイバルナイフでガリガリと鱗を落とし三枚におろしていく。



「いつ見ても獣人族がこんなに器用に魚を捌く姿ってなんというかアレよね」

「お姉さんも驚きよ~、ほんと、アレよね~」

「アレってなんだよ!?」

って聞いても二人とも答えてはくれなかったわけだが。



 ちなみに、一匹分はまるまる刺身に、もう一匹分は捌いてから一口大に切って塩焼きにした。骨は粗炊きにしてみたわけだが、見た目同様真鯛のような味と食感で大変美味しゅうございました。



「やっぱりこういう食事だとご飯がほしくなるな」

「分かるわ~、それに日本酒もあれば最高よね~」

という獣人族と竜人族の会話だったわけだが、これって衝撃だよね?

 突っ込もうとした瞬間、



「エルフの国に行けばあるわよ?」



「「なんだってー!?」」

 この世界にも米あったのか!!いや、それよりもだ。



「シェリーさんも、転生者?」

 転生者でなければ日本酒なんて単語が出てくるはずがない。



「そうよ~。この旅が終わったらすぐにエルフの国へ行きましょう~?」



「いやいやいやいや、米も大事だけど転生者って事のほうが驚きだからね?」



「そうよ!今まで隠していたの!?」



「あれ~?言ってなかったかしら~?」



「聞いてないし!」



 そうなのだ、もっと疑うべきだった。そもそもバイクに乗っている時点でこの世界とは異質だったし。あの時は錬成の正確さと速さに研究者目線で見ていたからと心の中で言い訳している俺ガイル。



「っていうか、シェリーさんは俺達が転生者なのを知っていたの?」



「知っていた訳じゃないわよ~、旅の途中で気づいただけよ~」



「いつ?なんで?っていうか、なんでその時に言ってくれなかったの??」



「だって、二人とも食事の時に『いただきます』や『ごちそうさま』って言うじゃない~。すぐ分かったわよ~」



 確かにこの世界の人たちは精霊や神様へのお祈りをしたりすることはあっても、そういうのは無い。ただ俺は転生後もつい言ってしまっていた。サラと一緒になってからは二人とも言うから違和感なくなっていた。そしてシェリーさんも同じようにしていたから尚更だ。



 違和感、仕事しろ!



「そうだったの。でもシェリーさんが竜人族でありながらハイテク機械を作る発明家という違和感は消えたかもしれないわ」



 違和感さんは引退らしい。



「確かに。そうだ、シェリーさん。俺達、鉱物系の魔物の成分を分解抽出して『魔力筋』として再構築、運用する研究をしているんだけど、何かそういう発明ってしてる?」



 数秒、人差し指を顎にあて空を見ながら考えている素振りをした。



「あるわよ~」

 なんだってー?という気持ち半分
 あるのかー!という気持ち半分が正直なところだ。



「見せてもらってもいい?」



「いいわよ~」



 収納庫インベントリから奇妙な弓っぽい道具を取り出した。その形、弓ではないことは確かである。俺の記憶が正しければおそらくこれは、ボウガン。

 ただ、その形状は俺の知っている物とは少し違っていた。

「ボウガン?にしては何か変だけど……」



 それはボウガンの弓になっている部分が薄く、2枚張り合わせたような形になっていた。

「これはね~、こうやるのよ~」

 と言ってボウガンに矢をつがえるが、そこには2本の矢がセットされていたのだ。



「どうなっているの?」



「これはね~、矢を2本セットできるのよ」

「ええ、それは分かるわ。それで?」



「このまま同時に発射することも出来るし、別々に2回に分けて発射することもできる私の発明品よ~」

「やばっ!ちょっとロマン武器かも」



「普通こういう構造にするとどうしても一つ一つの威力が落ちるのが課題だけど~、弓の弦の部分に魔力筋を使ってその弱点を克服したものなの~。便利よ~」



 確かに、魔力筋には伸縮するという特徴がある。その伸縮を使って射出するのが俺のパイルバンカーであり、サラの如意棒であるが、弓の弦にするという発想はなかった。



「使ってもらっても?」

 確かに使用しているところも見てみたい。



「いいわよ~」

といって近くの地面に向けて射出した。射出した時のパシュッという音と、地面に刺さったドスッという音が同時にしか聞こえなかった。



「すげぇー!」

「ほんと、すごいわ!」

 俺とサラに褒められて嬉しそうにするシェリーさん。



「使うにはかなり慣れが必要なのが難点かしら~。込める魔力の量なんかで狙いが全然変わるから~。私みたいなか弱い女の子が一人旅するんですもの、このくらいの用意はあるわよ~」



「護身具的なポジションみたいな言い方してるけど、それ十分に戦闘力あるからね?」



「一対一ならまだしも乱戦だと怖すぎるわね」



 俺も直撃コースをライトウェポンで防御できれば多少は耐えれるかもしれないが、乱戦だと対応できる自信がない。



「この中で最強なのはもしやシェリーさんなのでは!?」



「そんな事ないわよ~。私はゲンスイ君みたいに力もないし、サラちゃんみたいに素早くもないわよ~」



 一般的には竜人族と獣人族の腕力は同等程度ある。だが、シェリーさんは謙遜している、という訳でなく本音で言っていそうだ。俺の場合ライトウェポン使っている腕力として見られているようだ。



どちらにしても、シェリーさんを怒らせないようにしようと思ったのは俺だけじゃなくてサラも同意見だったようだ。
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