頭脳派脳筋の異世界転生

気まぐれ八咫烏

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転生者

第15話

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 結局ギルドを出て買い出しに走り自宅に戻って準備を整え出発したのは昼過ぎだった。





 ぼかぁ~幸せだなぁ~。



 地竜アースドラゴンが引く馬車に揺られながら暖かい陽射しを受け御者台に並んでサラと座っている。

 購入した馬車の荷台には浴槽が一つ。荷車と違い俺が手で持って固定しなくても落ちてしまわないよう、ちゃんと固定してある。

 研究者とは、一度の失敗を糧とし次につなげる事が出来る者なのだ。



「そろそろ教えてよ」

「ん?」

「もう。いくら街道は魔獣があまり近寄らないって言っても出るときは出るのよ?そうやって緩み切ってると危ないわ。だからお話しようって言い出したのはゲンスイさんでしょ!?」



 本来人魚を一刻も早く海へ届ける事を目的にしている俺達だが、移動中こう平和だと眠くもなってくる。

 そこでサラとたくさんお話できるウェーイ!と思っていたのだが、地竜アースドラゴンの話になり、名前を教えて欲しいといいだした。

 何とか有耶無耶にしていたのだがいつまでも隠せるものでもないし、仕方ない。



「パイオツカイデー」



「……え?」

 数瞬の間、フリーズしていたがサラが俺と自分の胸を見比べている。



「ちゃうねん!名前を付けたのは親父だし!俺じゃないし!!」



「なんでエセ関西弁になってるのかな?」

 なぜかサラは笑顔なのに俺が嬉しくない。眉間に皺を寄せながらの笑顔ってちょっと……。



「どうせ私は小さいですよ!!もう知らないっ!」

 プイッと顔を背けられたが、その仕草可愛いですからー!残念っ!っと懐かし侍の音頭で突っ込んだのは声にしなかった。



「じゃあサラの地竜はなんて名前なの?」



「………しゅ……ろ」

 ついさっきまで大声だったのに急に小声になるから聞き取れなかった。



「え?なんて??」



「だからぁ!!………ましゅ…まろ…」

 キャー言っちゃったっ!みたいに顔を赤くしながら俯くの反則ですからっ!仕草で俺を殺しまくるマンですからー!マンじゃないけどー!



「可愛い、いい名前だね」

「……!私が3歳のころの話なのよ!仕方ないじゃない」

 ふむ、頭脳派の俺から言わせてもらうと仮にサラが3歳だっとしてもそれは転生後のお話。つまり中身は転生前プラス3年後ですよね。でもそんな事は言わない喋らない。



 そんな他愛もない会話をしながら俺達の馬車は進む。





「そろそろ野営の準備しとこうか?」

「え…あっそうね」

 なぜか言葉に詰まったサラだが、馬車を止めるのに反対はないようで俺達は野営できそうな場所を探した。



 夕暮れを過ぎ少しだけ肌寒い風が心地よくなってきた頃俺達は街道沿いの外れにちょうど良さそうな場所を見つけそこを本日の野営場所とした。


 近くに川もあるし少し小高くなっていて周りも良く見え不審者が近づいて来ても気づきやすいこの場所は俺達以外にもここで野営したであろう痕跡があった。



「いいかぁ、よく聞け。ここをキャンプ地とぉする! デデン!」

「え、ええ。」

 某ローカル番組のディレクター風にキメ顔で言ったが、サラの反応を見る限り知らないようだ。ちょっとスベッた空気を強靭な精神力で無視して準備に取り掛かる。




 俺もサラも研究者メインであるとはいえ、冒険者もちょくちょくやっていたので野営はお手の物。
 簡易テントを一つ組み立てるサラに、パイオツカイデーとましゅまろを馬車から放し世話をする俺。

 ここまで馬車を引いてくれた2頭の地竜アースドラゴンを労いつつ世話を終えると、サラの方もテントは完成しており火を起こす準備に入っていた。



「簡単な物しか作れないけど、料理は任せて」

 自信はあるけど謙遜する場合のセリフとしての常套句を告げたサラに料理を任せるとして用意しておいた薪を収納庫インベントリ収納庫インベントリから出して火を起こしているサラの近くに置くと、俺は少し離れた場所に陣取った。


 簡単な話だが、風呂を作るのだ。正直、使い捨ての浴槽でよければ土魔法でお手軽に作れるのだ。

 という訳で、浴槽を作り、すぐ横にスノコを作り、四方を囲むように目隠しを作り、水魔法で浴槽に水を満たす。



 それが出来るころにはサラのほうも夕食が出来たようで、いいタイミングだ。



「獣人族でこんなに器用に魔法を使うのは初めて見たわ。それも【贈物ギフト】?」

 夕食を取りながら俺のお風呂づくりを見ていたらしく、少しだけ驚かれた。



「うーん、そうだけどそうじゃないかも?適正は確かに【贈物ギフト】なんだが魔法の調整の方は努力したんだ。何せ魔力との親和性が高くない種族だからね。まぁそれでも頭脳派の俺からすれば魔法の研究は10歳になる前に終わったんだ」



「それはすごいわね。私なんかまだ上級魔法とか使えないから研究の合間に練習したりしてるのに」

 気晴らしに魔法を練習するくらいでエルフの平均的な魔法は使えるらしいサラは十分に才能ありなのだろう。
 が実際のところサラは魔力筋関係の研究以外では棒術の練習のほうが何倍も時間を費やしていた。大暴れしたいという欲求からなんだろう。



 夕食も終わったタイミングで俺は焚火の中に入れておいたキンキンに熱された石を浴槽の中に投入した。すぐに浴槽の水は焼き石によって温度が上がりいい具合になった所でサラに入るよう促す。




 ――さて、ここからが俺の本番だ!



 最初は遠慮していたサラだが一番風呂を譲って浴槽の囲いの中に消えた。そして俺は周囲を警戒する見張り番につく。

 すると、聞こえてくるのだ。


 サラが脱衣しているであろう衣擦れの音、かけ湯する音、浴槽に浸かる音。それを想像してみて欲しい!それはもうある意味拷問と言っても差し支えないのではないだろうか!

 だが、俺は理性の塊のような男だ。覗き見したり、ましては乱入するような不埒な真似はしない。絶対にしない。何が何でもしない。

 そういえばテントのせいで四方警戒するのにちょっと移動したほうが警戒しやすいような気がするな。移動先が浴槽がある方向にはなるがこれは偶然だ。決して不純な動機ではなー



「ゲンスイさん?」



「ひゃい!ゴホッゴホッ!」

 やましい気持ちがあったから変な声が出たわけじゃない。ちょっと発音するタイミングで器官に唾が入ってむせただけだ。



「やっぱりお風呂はいいわね。日本なら毎日入れて当然だったのにこの世界ではそうもいかないのが困りものよね」

 確かにパーティーを組んで冒険者活動をしていると身体を拭くだけということもよくある。それに貴族でもない限り自宅にお風呂がある家なんてまず無い。宿にだってほぼ無い。



「昨日は結局使うタイミングがなかっけど、ウチにはお風呂作ったんだ」



「ほんと?それはありがたいわ。そういえばお風呂どころかほとんど家の中に入らなかったわね。せっかく一緒に住むことになったのに……」



 そうなのだ。せっかく用意したムーディーライト付きジャグジーの露天風呂を作ったのに、使われることなく旅立ってしまったのでせめて自宅で一泊しとけばよかったなんて本音言わないよ絶対。人魚さんを早く海に連れて行かなきゃだしね。



「帰ってからのお楽しみだ」

 ムフフ……お楽しみだ!楽しみだ!!



 そんな話をしているとサラの入浴が終わり囲いから出て来て焚火の前に座った。



 出て来たサラは髪をアップに纏めている以外は入る前と同じ格好ではあったが、程よく赤みを帯びた肌は焚火の火に照らされてとても妖艶に見えた。ヤバイ、理性の塊ではあるが獣人族の肉体的衝動のせいで我慢ならんーーー!!



 体が勝手にサラに飛びつくーーー!



 まるで世界的怪盗の三世のようなダイブを見せた俺だったが、サラにヒョイっと回避されそのまま地面に突っ込んでしまった。



「もう何やってるのよ。泥だらけになって。お風呂どうぞ」

 何だかサラの言い方が冷たい気がする。



 俺が何したっていうんだ!!



「そうさせてもらいます。覗かないでね?」

「覗きません!」

「絶対だよ!絶対覗くなよ!!」

 と敢えてフラグを立てて俺は浴槽の囲いに入った。

 身体を清め浴槽に浸かり、程よく温まったけどもサラが覗いている気配がない。



「サラ、いる?」

 つい気になって声をかける。

「いるわよ」

 少し遠くから声がするから焚火の前から動いてないのか。

「覗くなよ」

「覗かないわよ。さっきからそればっかりだけど、覗いてほしいの?」

「そんなわけないだろ~」

 探りを入れてみて、こっちに来る気配がないので覗きには来ないだろう。っていうかお風呂に乱入してきてくれてもいいんだが、俺はフラグ建築士にはなれないらしい。

 やっぱり頭脳派元帥でいこう。



 必要以上に湯船に浸かって少しのぼせてきたので入浴を終えた。



 焚火の前に座るとやっぱりサラが色っぽい。三世ダイブをしないように理性を保つのは厳しいかもしれない。

「先に見張りするわよ?」

「いや俺が先にするよ?」

「いや私が」

「いや俺が」

「いやいや私が」

「いやいや俺が」

「じゃどうぞどうぞ」

 なんていうベタなやりとりをしていたらつい二人して笑ってしまった。

 一通り笑い合うとさっきまで獣人族の本能に抗っていたのが嘘のように理性さんが帰宅していた。



「こんなにキレイな星はこの世界じゃないと見れないわね」



 見上げると満点の夜空。

 こんな素敵な光景を見れた事に感動しつつ、本当に嬉しかったのはこの感動をサラと共有できた事だ。



「サラとここに来れてよかった」



 つい、そんな事を呟いてサラを見るとそれに同意してくれたようで笑顔で返してくれた。そしてその後も俺を見つめている。



 俺はそんなサラから目を離せなくなり、どちらからともなく――











 チュンチュン



 翌朝、少し寝不足感と疲労感を感じつつも朝陽を浴びて目を覚ました。二人でもう一度お風呂を使ったのは言うまでもない。

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