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転生者

第13話

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 ここ数日、街を出入りする人を俺がナンパするかどうかでキューとモロが賭けを行っていたらしい。
 そして、シフォンちゃんにセクハラするかどうかも賭けの対象だったらしいが、結果キューが大損したことも俺の知った事ではない。



 余談だが、シフォンちゃんの店で出前という、この世界初のデリバリーサービスができたのだ。誰が届けるのかで配達料が変わる一風変わったシステムが生まれたのは別の話。



 いつの間にか夕日になって来た。少しでも早く発見できるかもしれないのでこっちが風下になった時に頑張って匂いも嗅いだ。狼ベースの獣人族である俺はかなり鼻が効く。でも、植物の匂いや旅人の匂いや行商人の匂いはしたがサラの匂いは漂って来なかった。



 さらに時間が経ち日が暮れる。

 そんな時間帯に差し掛かった頃、一匹の地竜アースドラゴンが駆けて来た。そして俺はこの地竜アースドラゴンに見覚えが、いや匂い覚えがあった。

 サラの地竜アースドラゴンだ。


 間違いない。



「おい、俺だ!ゲンスイだよ!何があった?」



 そこには地竜アースドラゴンしか居らずサラの匂いはすれど本人はどこにも見当たらなかったのだ。

 俺は嫌な予感がして焦って声を掛ける。


 すると地竜アースドラゴンの後ろ脚付近に血が付いているのが見えた。しかし地竜アースドラゴンをよく見るがケガなどはしていない。



 ……まさか



「おい! 何とか言えよ! おい!」



 正面に回り目を見て話しかけるが相変わらず返答はない。代わりにぐるりと向きを変え、腰を下ろした。



「俺に乗れって……ことか? サラが待っているのか……」



 俺の言葉が分かるのかコクンと頷いたように見えた。慌ててその背に跨ると、すぐに地竜アースドラゴンが街の外に駆け出した。



「サラーーーーー!!!!!」

 俺はつい叫び声をあげていた。






 俺は地竜アースドラゴンの背に跨ったまま必死で前を見ていた。


 体感では1時間くらい、結構走ったはずだ。街道を直走る地竜アースドラゴンが進路を変えた。


 急に街道を外れ林の中へ入っていったのだ。スピードは落ち振動は増し、夜の闇はさらに深い物になったが俺は目を凝らす。



 しばらく進むと池が見えて来た。そして池のほとりに遂に見つけた。



「サラーーー!」



 俺の声に気付いたサラが、人差し指を口にあて静かにするよう合図する。



 周りに危険な魔獣の気配や匂いはない。それでもサラがこうするという事は意味があるはず。


 そっと地竜アースドラゴンを降りると音を立てないよう気を付けながら近づくと、そこには一匹の魚とそれを手当てのため回復魔法を使っているサラがいた。



「サラ、会えてうれしい。けどこれはどういうこと?」

 状況からみて何故このような事になるのか頭脳派の俺でも分からなかった。



「私も会いたかったわ。これは、数時間前にね……」



 サラから聞いた話では、街へ向かう途中瀕死になっている子供が街道に出て来たらしい。慌てて回復魔法を使ったので傷なんかは癒えたのだが衰弱が激しくそのまま意識を失った。

 意識を失った状態で子供は見た目がどんどん魚になっていった。それで近くにあるこの池まで連れてきて様子を見ているということである。


 水に漬けると衰弱状態から幾分マシになったものの、意識はハッキリしないままだし30分に一度くらいの割合で回復魔法を使っているらしい。



「このままじゃどうしていいか分からなくて。この子、たぶん人魚だと思うけど、人魚の生態なんてサッパリだし。それでましゅ……いえ、地竜アースドラゴンに頼んで街まで助けを呼ぶため走ったもらったの。まさかゲンスイさんが来てくれるなんて思わなかったわ」



「うん、でも俺も人魚の生態なんて知らないからな。俺じゃないほうがよかったのかもしれない」



「そんな事ない!」



 声を荒げてしまったのを照れて俯く仕草も可愛いね。チューしてもいいかな?いかん、そんな場合じゃない。

「この場でこれ以上の回復が見られないのならば、分かる人に見てもらうしかないよね。街まで連れていければ誰か分かるだろうし」



「でも意識を失ってからずっと魚の形態よ? 陸に上げたらどうなるか……」

 困った時ほど頭脳派の俺が役立つというものだ。



「よし、水槽を作って街までそれで運ぼう。サラはこのまま様子を見ていて。俺は街道に水槽を作ってくる」



 多分この展開は時間との勝負だとあたりをつけて、急ぎ街道まで戻る。そして収納庫インベントリから家の改装の時に使った木材を取り出すと、頭の中で設計図を作りながら切って組み立ててと現場頭脳労働という俺らしい動きをした。



 作ったのは荷車だ。


 まぁ結構短時間で作り上げたので完成度は妥協してもらうしかない。まぁどうせ使い捨ての消耗品だからな。

 ただし、走行時の振動は抑える必要があるから金属製のショックアブソーバーを装備した微妙にハイテクな荷車なのだぜ。



 荷台の上に収納庫インベントリから取り出したお風呂の浴槽を乗っける。

 一度普通の浴槽を作ったけれどサラとの愛の巣にはちょっと役不足だと思って作り直したのだ。
 結果、余っていたのを取り合えず収納庫インベントリに入れたままにしていたのが功を奏した。

 そして浴槽に水魔法で水を入れるとサラの所まで戻る。



「準備できたよ。その子を濡れた布で包んでダッシュで連れて行こう」



「分かったわ。私が走るから街道までの道案内してくれる?」



「了解だ!」



 さっそくここから街道までの道のりを、サラが走りやすいルートで分かりやすく光魔法で目印をつける。そしてそれが最低限の照明にもなる。



 荷馬車のある場所まで戻って来た俺と、魚さんを抱えて走って来たサラが到着するのはほぼ同時だった。先にルートを作りながら来たはずだが、やはりサラは俺よりも素早く動ける。

 サラは荷馬車の上の浴槽を見て、すぐにお魚さんをそこに入れる。そして素早く再度回復魔法をかけてあげている。



「思うんだけど、人魚って俺のイメージで海の生き物なんだよね。淡水だから良くないんじゃない?」



「もしかしたらそうかも。でも海水なんて持ってないわよ」



「せめて塩分だけでも追加してみようか」



 収納庫インベントリから調理用の岩塩を取り出すと浴槽の中にドボンと沈めた。おそらくは海水の塩分濃度ほどにはならないだろうが、調理用岩塩なんてそんなに大量に持ち歩いていない。今の分だけでも調理で使う分には結構持つ量だったのだ。



「見て、岩塩の近くを泳ぎ始めた。ゲンスイさんの予想通りだったのかも」

 そう言ってサラも収納庫インベントリから岩塩を取り出すと、俺と同じように浴槽に入れた。



「よし、じゃあ今のうちに街まで運ぼう。荷台の前に地竜アースドラゴンを繋いでくれる?」



「分かったわ」

 見事な手際でその作業を終え、いざ出発だ。

 とっさの事とは言え俺の完璧な作戦によって見事に難関を乗り切る、それが順調に遂行されているので満足感あがった。

 なんとなく流れで手綱をサラが持っていたので操縦は任せることにして、俺は荷台の僅かな空きスペースに乗り込んだ。


「出発ー!」

 と発進した直後、グラッと浴槽がずれた。慌てて浴槽と荷台を手で掴み落ちないよう力を込める。



 その様子に気付かず、サラは更にスピードを上げていく。



 こ……これは、キツイ。

 でもサラに弱音を吐くなんて事はしたくない。


 でもキツイ。ライトウェポン1号のおかげで筋力増強している状態ではあるものの、中腰の姿勢で力と魔力を使いつつ維持……苦行や。



 せめてちょっと止めてもらうか?



 いやでも……





 男の意地でなんとか街に着いた。

 が、俺は疲労のあまりその場で力尽きた情けない姿をサラに見られてしまった。

 消したい記憶だ。
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