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転生者

9.4話(サラ視点)

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 『Don't Think. Feel!』という言葉がある。



 有名な映画のセリフだ。

 映画ではFEEEEEEEEEL!!!と感情たっぷりのセリフだったけど、それがその時の私には深く刺さった。



 映画を見た時、私は何でも細かく考えてしまう性格だったけどそのせいでいろいろ悩んでいた時期だったということもあり、特に感慨深いものとなり私の中に入った。



 正しくは考える事を放棄するのを許容していないのだが、そんな事はお構いなしに小難しく考えるのを止めて大暴れしたいという私の中の願望が顔を見せたのもこの時だと思っている。

 それから映画や漫画やゲームや小説など娯楽作品の中で結構派手に大暴れする作品を中心に見るようになり、そしてハマった。



 いろいろあって私は転生した。このエルフという種族、一般的に身体能力は人族と大差ない。森の中にいると不思議な加護が働くのでとても身軽に動くことが出来るが、それ以外の場所では人族のそれより低いかもしれない。

 しかし魔法との親和性も高く生れ育ったエルフの国で一通りの魔法も習得するのに苦労はしなかった。

 その時、日本での娯楽作品が参考にならなかったとは言わない。









 転生前は化粧品の開発研究をする一研究者だった。転生前の知能と技術で化粧品を作ってとも考えて試した事もある。が、エルフ族は化粧なんてしなくても肌艶はいいし顔の造りも美男美女が多く、しかも伝統を重んじる風習のため新しい物をあまり受け入れないという環境だった。


 そもそも私は転生特典として健康な体と誰にも負けない俊敏性を願った。そして貰った【贈物ギフト】は、『肩こり無縁』『胃腸強化』『俊敏爆発』。
 その時はいろんな種族がいるなんて思いもしなかったから転生先種族の指定は確かにしていないのだけど。



 『胃腸強化』はその名の通り。朝からステーキを食べても胃もたれすることは無かったし、前世での悩みの一つである便秘にも転生してからは一度も体験していない。
 エルフって基本ベジタリアンで小食だ。私もその例外にはならず、転生前の半分の量で満腹になるし肉も食べれなくはないがあまり美味しいと感じなくなった。
 つまりエルフである以上あまり意味のない物だったわけだ。

 せっかくの【贈物ギフト】を無駄遣いしたようなものだ。




 この事実を知った時、転生神への怒りは60%に達した。



 『肩こり無縁』はその名の通りだ。ありがたいと言えばそうなのだが、その原因の一つと思われる大きな胸というのは望めない。なにせエルフはみんな貧乳なのだから。



 この事実を知った時、転生神への怒りは90%を超えた。



 『俊敏爆発』は簡単に言うと俊敏性が爆発的に上がるというものだ。
 これは剣と魔法の世界への転生と聞いた時、現代のような治安は望めないと予想した。ならば争いごとを前提に考えた時何が一番大事かというと確実に素早さだと直感したため望んだ。
 私が好きなアニメではすごい火力でどんどん攻撃されても全部回避してしまう赤い人がいた。その姿は憧れほどカッコイイものだった。
 それに前世では頭脳労働ばかりだったので今度は最前を単機突入しても無双できるような能力を望んだの。

 なのになんでもともと俊敏性の低い後方確定種族のエルフなわけ?転生前が人間なら転生後も人族でしょ。100歩譲って違う種族ならもっとこの能力を生かせる種族にするべきでしょ。



 この事実を知った時、転生神への怒りは120%を超えた。





 ただ、私は他の種族じゃなくてエルフでよかったと思えるのが、可愛い事。

 確かに前世では女を捨てたような生活をしていたけども、女じゃなくなったわけじゃない。本当はキレイで可愛いをしたかった。

 だから転生神への怒りはマイナス20%してあげることにしたの。結果100%よ。



 転生神の事は思い出したくないのでこの位にしておくけど、転生していろいろ苦労したのよ。
 魔力筋についての発想を思いつき研究を始めたけど、エルフの国では化粧品の時と同じで新しい事を受け入れるのが難しく説明しても誰も同意も支援も賛同も受けられなかった。


 それは家族にすら当てはまり、結局家を出た。



 エルフの国を飛び出して人族のアインレーベという街に来て研究を続けて2年は経っただろうか。活動資金や研究資金を得るためにツテもコネもないこの街で手を付けた仕事は冒険者だった。


 私の見た目が比較的可愛いのは自覚しているが、それを目当てに言い寄られることもしばしばあった。もちろん一蹴してやったけど。

 それがよかったのか冒険者で活動をする時に言い寄られることは無かった。まぁよっぽど私がピンチになっていたならばあったのかもしれないが、基本はソロで活動していたし単発でパーティーを組むときもエルフに求められる後衛に徹していた。

 後衛がピンチになる時は前衛が全滅した時だけだからね。仮にそうなっても私には爆発した俊敏性があるから確実に逃げ切る自信もあったしね。
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