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水の精霊編
クラーケン戦後
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「「ふぁああああ、よく寝た」」
寝起き一発目のあくびもユイとハモる。
いくらテントの中とはいえ、ベッドより寝心地は悪い。
しかし疲れていたのだろう、俺達は雑魚寝でありながらしっかり熟睡していたらしい。
俺達意外の3人はまだ寝息を立てている。
なんとなーく、久々にモフモフ感触を楽しんだような気がするが、それはおいとく。
そっと抜け出すとテントを出た。
「おう、起きたか」
ラウンドさんが声をかけてきた。
「あ、おはようございます」
「お前たちの昼食もちゃんと残してある。食べるか?」
どうやらみんなは昼食を取り終えていたらしい。
ということは昼過ぎまで寝ていたのか。
「はい、いただきます」
出て来たのは、朝食で作った鍋をつぎ足すように作られたロックバード肉が入った鍋だった。
「朝食の鍋が残っていたからな。せっかくだからそれをベースに使わせてもらったんだ」
寝起き一発目でも塩味のスープは体に染み入るようで旨かった。
「それで、その後何か動きはありましたか?」
「ああ、こちらの魔法使い部隊もさっき起きて来たよ。それにどうやら他の部隊も無事のようだ。そこの近くの島の高台には人影が見えたし、もう一つの島からは光が見えた」
「なるほど、無事でよかったです」
「まぁ全員無事かどうかまでは分からんがな」
「じゃあ確かめにいきましょうか」
「どうやって行くんだ?」
「こちらの島なら、島と島の間が一番近いところで数百メートルってところでしょうから橋を掛けましょうか」
「おいおい、そんなことして魔力は大丈夫なのか? あれだけデカい魔法を使いまくったんだろ?」
「確かに全快とはいきませんが、ある程度は回復できましたから」
「お前さん達については常識的な尺度で計れないが……。もし出来るならそうしてくれ」
「わかりました」
食事を終えると俺とユイ、それにカリオンさんとカトランさんの双子、それにラウンドさんの5人で島と島の一番近い場所に来ていた。
「じゃあはじめようか」
「おっけー」
まず俺達がいる島に向けて土魔法で幅約2メートルほどの板を作り出すと、地面と平行になるように延ばしていく。
ちなみに硬さはコンクリート位に調整した。
そして高台へと続く壁に突き刺すとそのまま地中を伸ばしある程度伸びたところで止めた。
今度はその板を目標となる向こうの島に向けて延ばす。
島から海に出る直前に一度真下に向けて柱を作り、地中の硬い地盤まで届かせた。
「魔法をこんなにも自在に扱えるだなんて、どうやっているのか魔法使いの私でも分かりません」
「どうって、【土壁】の応用ですよ。作り出す方向とサイズが違うだけです」
「確かに私たちも【土壁】なら使えますが、方向もサイズも決まっています」
ああ、確かに詠唱した魔法って一律だったっけ。
土台が出来た土魔法の板の上に俺とユイが乗り、そこに両手をついて魔力を込める。
するとどんどん板が伸びていった。
30メートルほど延ばすと、そこで一度海中に向けて柱を作る。こちらも海底からさらに下に伸ばし、硬い地盤まで届かせる。
そこまですると俺とユイは一度立ち上がり、30メートル先まで歩いていく。
そこで両手を着くとさらに30メートルほど延ばし、柱を作る。
10回ほどこの作業を繰り返すと、ちょうど島と島の真ん中あたりまでこれた。
「おーい!おーーーーい!!」
ふと向こうの島を見ると、こちらの動きに気づいた人たちが高台から降りてきていたようでこちらに手を振っていた
「もうしばらく待っててくださいねー!」
俺達も手を振りながら返すと、作業に戻る。
俺達のすぐ後ろではラウンドさんをはじめついてきた人達が作業を眺めていた。
さらに10回ほど作業を繰り返すと目標の島まで到達できた。
ちなみに、到達したあともう一回延ばして地面に突き刺しておいた。
「モンドさん、お久ぶりです。そちらの部隊は無事ですか?」
島についてさっそく話しかけてきたのは30代位の男性冒険者だった。
どうやらラウンドさんとは顔見知りのようだ。
「ああ、こちらの部隊は全員無事だ。そちらはどうだ?」
「こちらは何人か負傷しています。なんとか無事に動けるのはここにいる6人と、あと高台に4人ってとこです」
「回復魔法を使えるのはいないのか?」
「魔法を使える冒険者は全員ダウンしています」
「わかった、じゃあこちらから行こう」
そういうと、俺達はみんなで島の高台に登っていった。
登ってから分かったのだが、こちらの高台にはテントがなかった。
そして負傷した人や消耗した人は地べたに寝かされていた。
かろうじて、布をかけてあげれているというところだ。
俺とユイ、カリオンさんとカトランさんで慌てて回復魔法をかける。
しばらくすると、負傷者達も苦しそうな感じから落ち着いたようで寝息を立て始めた。
どうやら話を聞いていると、クラーケンの触手との闘いにおいて護衛部隊や弓部隊は半壊したらしい。
残ったメンバーで奮闘していたが最後の爆発で残った魔法使いが壁を張ってくれたがそれでも耐え切れず吹っ飛ばされたということだ。
クラーケンと反対方向に高台を降りると、爆発の影響は少なかったらしいので吹っ飛ばされた後は大丈夫だったらしい。
それでも回復薬や食料などの荷物なんかも全部吹っ飛ばされて無くなり、救援の船を待つ間途方にくれていたところに俺達の動きが分かり急いで降りて来て合流となったようだ。
「とりあえず落ち着いたな。じゃあ動けるようになったら俺達の島へと移動させたらどうだ。こちらにはテントが残っているからここで寝るよりは多少マシだろう」
「はい、そうさせてもらえると助かります」
「じゃあ俺達は一旦戻る。カリオンとカトランは念のためについていてくれ。動けるものは先に移動するか?」
「そうですね、では何人かは先に移動させてもらいます」
そういうと、ラウンドさんと6人ほどが俺達の島へと出発した。
俺とユイはどうするか迷ったが、とりあえずラウンドさんと一緒に島に戻ることにした。
6人の動ける人達も完全な状態ではなくある程度はやはり消耗していて危なっかしいと思ったからだ。
そうして俺達は一度高台から海まで降り、橋を通って島を渡り、高台に登ってきた。
「戻ったよー」
「おかえりー!」
出迎えてくれたのはライカだった。
「こっちの島の護衛部隊と弓部隊は一緒に向こうの島まできてくれ。のこりの魔法使い部隊はこっちで休んでいてくれ」
ラウンドさんが戻ってみんなに声を掛けた。
「どういうことだ?」
「向こうに負傷者がいるんだ。とりあえず回復魔法は掛けれたので命に別状はないと思うがテントも何もないらしいからこっちに連れてこようと思う。手を貸してくれ」
そういうとヒゲーズ、ラング、カリューの5人の護衛部隊、ライム、マシリト、モウラ、ラウルの4人の弓部隊が立ち上がった。
そこにジーナとリンダも立ち上がったのだが
「ああ、オチビちゃんたちはいいわ」
まぁ、大人を運ぶのにジーナとリンダではね。
「私たちも護衛部隊のはずですよ?」
「そうにゃ!」
はっきりといいにくいラウンドさんが言葉に詰まっている……
「ジーナとリンダには手伝ってもらいたいことがあるんだ。あっちは大人に任せて、こっちを手伝ってよ」
俺はラウンドさんに助け舟を出すことにした。
まぁ、実際に手伝って欲しかったしね。
「そういうことなら」
簡単に説得できる辺りは昔と変わってないな。
なんて思っていると、さっそくラウンドさん部隊は向こうの島へと出発した。
「ライカ、昼食の残りってどのくらいあるの?」
「ボク達も頂いたけど、まだ結構残ってるよ」
「そっか、向こうの島の人達は荷物も全部無くなったらしいから食事を振舞えないかな?」
「そうなんだ。だけど何人くらいいるのかな?足りるかな?」
鍋を覗くと、半分以下にまで減っていたので全員分は無理っぽい。
「じゃあ、俺達が食材を探しに行ってくるからとりあえず今回来た人たちの分を頼むよ」
「わかった。さあ皆さん椅子に座って下さい。今温めますのでちょっと待っていてくださいね」
「ああ、ありがたい」
そういってこちらの島にやってきた6人がテーブルについた。
ライカは釜土に火を入れて鍋を温めている。煮詰まっていたのか、味見をしたあと少し水を足したりして調整をしていた。
「ジーナ、リンダ。俺達は食材を取りにいこう」
「わかったにゃ!」
そういうと俺とユイ、そしてジーナとリンダは魔法鞄を持つと高台を出発した。
「ジーナとリンダは野草とかって詳しいの?」
「詳しいというほどではないけど、食べれるものくらいは分かるよ」
「そうにゃ。でも魚のほうが好きにゃ!」
「うん、じゃあ野草探しチームと魚探しチームに分かれて行こうか?」
「私は魚チームにゃ!!」
リンダさんの固い決意。
「わかったわかった。じゃあリンダは俺と魚探すか。ユイとジーナで野草探しでいい?」
「おっけー。じゃあ夕暮れ時になるか、もしくはある程度食材が集まったら高台に戻るってことで」
ということでユイとジーナは高台から降りる途中、獣道へと入っていった。
俺とリンダはまたしても海までやってきた。
「【索敵】……? ありゃ、前はたくさんいたキラーフィッシュはいないみたいだ」
「魚……いにゃいの?」
リンダさんが悲しそう。
悲しそうなリンダさん。
「いや、魔物がいないってだけで魚がいないわけじゃないと思うよ?試してみるか」
とはいえ、俺達は釣り道具なんて持っていない。
そんな俺がどうやって魚を取るかと言えば、
「【電撃】」
海に向って電撃を飛ばした。
アジ?か何かの魚が何匹かぷかぁ~と浮かびあがってきた。
「お、いるじゃん!」
「魚いたにゃーーー!!!」
リンダは一目散に海まで駆けていくと、そのまま海に飛び込んだ!!
「あぶっ!おぶっ!ぎゃ!だず!けてっ!」
あれ?リンダさん、溺れていませんか?
慌てて俺も海辺から魔法で作り出した棒をリンダにのばす。
リンダも何とか棒を掴んだのでそのまま陸地に引っ張り出す。
「おい、お前泳げなくなったのか?」
そうだ、リンダは泳げたはずだ。うちのプールでさんざん泳いでいたのだから。
「これが重かったにゃ」
といいながら慌てて鎧を脱いでいく。
鎧だけでなく服までも脱ぎ去り、下帯一丁になると再度海に入っていった。
なかなかの脱ぎっぷりですが、まだまだ女性としての恥じらいとは無縁の子供のようだ。
今度はちゃんと泳げていたが、残念ながら魚はいなくなっていた。
電撃で一時的に気絶はさせても、時間が経てば気が付いて泳いでいくのは仕方がない。
「魚いにゃいにゃ……」
悲しそうに言わないでよ。溺れてなければとれていたじゃん。
「リンダ、そのあたりに魚はいそうか?」
「見えないにゃ」
「じゃあ、こっちの岩場に来て貝を取ろうよ」
「わかったにゃ」
魚が取れなくて悲しそうだったが、リンダは貝類も好きなはずだ。
これで機嫌がよくなればいいな。
岩場では岩牡蠣がめっちゃ獲れた。
そのあと砂浜のほうに回って熊手状の箒っぽいのを土魔法で作り出し、浜辺でザクザクしていくとアサリが取れた。
牡蠣もアサリも流石に無人島だけあり、人の手が入ってないためでっぷりと大きく太っていた。
俺はダンボールサイズのボックスを土魔法で作り出すと、牡蠣とアサリとを分けて入れた。
ちなみにアサリの方は海水に塩を入れ、塩分濃度をかなり高めて塩抜きをしたあと、魔法で作り出した真水に入れておいた。
俺は二つのボックスを土魔法で繋げ、さらに両サイドに持ち手を付けた。
「リンダ、これだけ取れれば十分だからそろそろ帰ろう」
「わかったにゃ」
リンダは乾かしていた自分の服と鎧を着こむとボックスの端を持った。
俺も【身体機能強化】を自分とリンダにかけると、出発した。
高台に着くと、ちょうどユイとジーナも戻ったところだったようだ。
「ライカー、戻ったよ!」
「おかえりー。どうだった?」
「魚はいなかったけど、貝類がたくさんとれたよ」
「そっか、よかったね。そっちはどうだった?」
「こっちはキノコ類がたくさんとれたよ」
ユイ、ジーナ組は春菊みたいな野草やキノコ類、それに大根っぽいものまでこちらも大収穫だったようだ。
「これだけあれば向こうの島の人がきても大丈夫そうだね」
「じゃあさっそく手分けして作っていこうか」
リンダは自分で撮った牡蠣の殻を剥きはじめた。
ユイとジーナとライカはそれぞれ土がついているのを水で洗い流したり、大根の皮を取ったりし始めた。
俺は手持ち食材の中からニンニクを取り出すとみじん切りにしていく。
釜土には空になった寸胴があったのでそれをセットし手持ちの食用油を入れる。
弱~~い火でセットしてみじん切りにしたニンニクと鷹の爪をひとつまみ入れる。
しばらくするとニンニクの香りがオイルに移ってきたので釜土の火を強火にし、数秒待ってから塩抜きしたアサリを全部投入した。
そこに手持ちの料理酒を全部投入し、フタをした。
しばらくすると沸騰したアサリの酒蒸しがやたらと旨そうな匂いになってきた。
そこにユイが一口サイズにカットしたキノコ類をまとめて投入し軽く混ぜる。
すぐに再度沸騰してきたのでそこに大根と水を投入した。
寸胴をさらにサイズアップした鍋いっぱいまで水を投入したので沸騰までしばらくかかる。
その間にまだ半分も終わっていないリンダのカキの殻から身を取り出す作業を手伝う。
これも殻付きのまま網で焼いて、醤油をちょろっと垂らしたら旨いんだろうな。
いや、一欠けらのバターも一緒にやいて、バター醤油にするのもいいな。
そんな妄想をしながら作業を終えると、今度は人数が増えても対応できるように椅子とテーブルのセットを増設していく。
ユイは人数分のどんぶりを土魔法で作っていた。もはや陶器のようなどんぶりは、これを売るだけで食べていけるんじゃないかという出来だ。
ライカはというと、人数分のサジを作っていた。陶器っぽいからレンゲのほうが近いかな。
そんなことをしていたら、ラウンドさんが向こうの島の人達を引き連れて戻ってきた。
なんとか陽が沈み切る前に辿り着けたようだ。
「調子の悪いものがいるからテントを使わせてくれ」
というので、何人かはテントで寝かせることになったが、
それ以外の人たちはとりあえず増設した椅子に座ってもらった。
「向こうの島では食材を含む荷物が全部吹っ飛んだらしいからまずは腹ごしらえして貰おうと思う。用意はできているか?」
「うん、もうちょっとで出来上がるから待っててください」
俺は答えると鍋の様子を見る。
ちょうど沸騰してきたようなので牡蠣と野草を加えてフタをする。
一煮立ちしたところで塩で味を整えて完成だ。
鍋の底まで届く長いレードルを作ると、よくかき混ぜユイが作ってくれたどんぶりに具沢山でよそっていく。
ライカ特性レンゲを付けてジーナとリンダがみんなに配っていった。
カリオンとカトランがテントの人の分は持って行ってくれた。
向こうの島から来た部隊が全部で22人。
こちらの部隊が18人なので全部で40人にもなる。
それでも、全部配り終えても鍋は半分位までしか減っていなかった。
あれ?作りすぎちゃったかな?
まぁ、お代わりするひともいるだろうしいいか。
明日の朝ごはんにしちゃえばいいか。
食事もほどほどに進んだ頃、一人の男が立ち上がった。
「みんな、聞いてほしい。俺はダンキュリー隊のリーダーでダンキュリーと言う。まずは食事に感謝する。そして、壊滅状態だった部隊を救ってくれた事、負傷者に手当してくれた事、今回の件すべて改めて感謝する」
そういうと深々と頭を下げた。
それを見て、向こうの部隊だった人達みんな立ち上がって頭を下げた。
「そう硬くなりなさんな。あのクラーケンが相手だったんだ。いろいろ起こるのは仕方ない。今は旨い食事を楽しもうや」
ラウンドさんが代表してそれに答えた。
「こんなに旨い食事は産まれて始めてだ」
それはたぶん、空腹が最高のスパイスってやつだと思いますが。
「食事を作ってくれたのは君たちか?」
俺達のことかな?
「はい、現地調達の食材ばかりですが満足していただけて良かったです」
「とんでもなく美味しかった。ありがとう」
「結局クラーケンを倒したのもその子達だぞ!」
チョビさん、そんなガヤいりませんよ!!
「なんだって? ほんとうかい??」
「たまたま最後に攻撃していたのが僕たちだったというわけで、たまたまですよ」
「おお!いっちょ前に謙遜してやがる!もっと堂々としろよ!最初のどでかい炎から始まって、凍らせたのもでっかい稲妻をぶつけたのもその子達なんだぜ?」
だからチョビさん、そういうのいいですって。
ほら、他の人達もざわついちゃってるじゃないですか。
「そうか、君たちが上級魔法を使いこなす子供ということでギルドで話題になっていた……名前を聞いていいかい?」
「ケンです。こっちはユイ。そしてこっちはライカです。あっちの犬耳がジーナでその隣がリンダです」
「そうか、君たちの名前は決して忘れないだろう。この魂に刻ませてもらう。改めて勇者に感謝を」
そういうと膝をつき腕を胸の前にして敬礼した。
「いえ、こちらこそです。みんなで戦ったから何とかなったんですよ。だからみんなが勇者です」
「お!いい事言った!」
チョビさんの煽りでみんなが笑顔になった。
こうして和やかに夕食は終わり、高台のあちこちで適当にまとまって就寝となった。
翌朝、俺は温かいモフモフの感触で夢見心地だった。
朝になったということはお日様の陽射しで分かってはいる。
が、この微睡みから抜け出したくないと本能が言っているのだ。
二度寝。
したいところだけどだんだん頭が覚醒してきてしまった。
目を開けるとどうやら俺はジーナを抱き枕にしていたようだ。
ふと隣を見ると、ユイがリンダを抱き枕にしている。
あ、ライカも目覚めたみたいだ。
「ライカ、こっちにおいで」(小声)
「うん?」
「ほら、ここ触ってみてよ」(小声)
もぞもぞと近くまで来る。
そして俺の反対側からジーナを触る……触る……触り続ける……
うん、気に入ったみたいだ。
「抱き枕にすると超気持ちいよ」(小声)
そっと触っていたのが大胆に抱き枕にしていく。
「ほんとだ」(小声)
という訳で、俺とライカがジーナを両サイドから抱き枕にして、ユイはリンダを独り占めするという、天国のような二度寝が始まったのだ。
のだ……。
のはずだったのだが。
「おーおー!見せつけてくれるねー!」
絡んできたのはカリューさんだった。
ここは無視しよう。俺達は寝ているんだ!
「お? おいおい、気づいているんだろ? 狸寝入りはよくないぜ」
見よ、これが前世より受け継がれたスルースキル!
「なんだよ、せっかく俺達のパーティーが朝食の食材をみんなに提供しようってのに」
だったら普通にそう言ってよね。
「あ、おはようございます、カリューさん。今起きました」
「なんだよ、白々しい。まぁいいか。ダンキュリー達の部隊が合流して食料も必要だろう? 昨日のロックバードはマシリト隊からの差し入れだったから、今日は俺達のパーティーから提供させてもらうぜ。またお前さん達が作ってくれるんだろう?」
「まだ昨日の鍋が残っているので、それをベースに何か作ろうとは思っていましたが、食材ってなんですか?」
「これだよ」
そういって見せられたのはほぼ、白い物体だった。
「これ、なんですか?」
「なんだ、あんなに料理してたのにこれが分からないのか? これは小麦粉だよ。水と塩で練りこんだものだ。これを焼けばパンになるだろう?」
なるほど。ただ、イースト菌とかも入っているのだろうか。なんかそうは見えないな。
「なるほど、ありがとうございます。でもせっかく鍋があるので別の形にして使ってもいいですか?」
「そりゃ、かまわねーがどうするんだ?」
「それは出来てからのお楽しみってことで」
「ああ、分かったよ。お前さん達の作ったのは旨いから任せたぜ」
振り返ると、当然ユイも起きているしライカも起きていた。
「これ、うどんにして鍋に入れよう。ライカも手伝って!」
「うどん? どうすればいいの?」
綺麗な布の袋に手持ちの小麦粉を振りかけて中に貰った塊を入れた。
「じゃあライカ、これを踏んでくれ」
「ええー? せっかくの食材を踏みつけたりしちゃダメだよ」
「いーからいーから」
そういうと俺とユイでライカのブーツを脱がせると、お湯を出してライカの足をキレイに洗う。
もちろん魔法の石鹸できれいにね。
そのあと、台の上に置いた布袋の上にライカを立たせて踏み踏みしてもらう。
俺とユイでライカがバランスを崩さないように手で支えつつ、形が延びてきたら二つに折りたたんでさらに踏み踏みしてもらう。
「このくらいでいいんじゃないかな。じゃあライカ、降りて。そして今度は釜土に火を入れてお湯を沸かしてくれるかな?」
「本当に料理しているのか不安になったけど? じゃあお湯を沸かしてるね」
「うん、お願い」
程よい硬さになったので袋から取り出し、台の上に小麦粉で打ち粉をすると綿棒で薄く延ばす。
それを折りたたむと千切りにしていく。
もう一つの釜土では昨日の鍋を温め治す作業をユイがしてくれていた。
だいぶ煮詰まっていたようなので水を入れたりして調整していた。
俺はライカが用意してくれた沸騰した鍋にうどんを入れていく。
全部を投入するとよく混ぜながら麺を茹でていく。
味の調整が終わったユイがどんぶりを作り始めていた。
ライカにはフォークを用意してもらう。
うどんが茹で上がったところで火を止めて大きなザルを作り水を切る。
すぐに鍋に氷水を張ってそこで絞める。
絞めた後はユイが味の調整をしてくれた昨日の鍋にどばっと投入し、火を入れる。
その頃には大半の人たちが起きていて、中には体操を始めている人もいた。
爽やかな朝の体操をしている中心にヒゲーズがいたのは見なかったことにしよう。
一煮立ちしたところでどんぶりにうどんを人数分に割り振っていく。
昨日の鍋の具もたくさん残っていたので、あったか具沢山うどんが出来上がった。
「みなさん、朝食が出来ましたよ」
「おお、今日はスープパスタか。でもこんなパスタは初めて見るな!」
「パスタじゃなくてうどんっていうんです。味も食感もパスタとは違うのでご賞味ください」
「それは楽しみだ」
手の空いた人から順番に出来上がったうどんを食べはじめた。
「ほぉー、こりゃ旨い。確かにパスタとは違った食感だし、スープが染みてうまいな」
「ああ、しかもしっかり歯ごたえというか、そう。腰があるのもたまらんね」
ということで朝食のうどんは好評だった。
ライカには、あの腰を出すには踏みの作業が必須なんだよって話すと、頑張った甲斐があったと笑顔になってくれた。
朝からいい笑顔が見れて幸せな気持ちになった。
結局お代わりをする人もいて、鍋はすっからかんになっちゃった。
朝食が終わり、これからどうしようか考えている時だった。
「おーーーい!!!船が来たぞーーーー!」
高台から監視していた人が大声でみんなに伝えた。
見に行くと、確かに遠くから船が近づいてくる。
しばらくすると、船が俺達が乗ってきたギルドの船だと分かった。
俺達は高台から船が到着するあたりに移動した。
到着した船にはコスィーさんとギルドの職員二人が乗っていた。
「皆さん無事で何よりです」
「それはお互い様だ。船がいなくなっていてみんな心配していたんだぞ」
コスィーさんとラウンドさんがお互いの無事を確認した。
「さっそくだが、こことダンキュリーのところの部隊とは合流できたんだが、もう一つの部隊がどうなっているのか分からん。まずはそっちの様子を見に行きたいのだが船を出してくれるか?」
「もちろんです。では、誰がいきますか?」
ということで、話し合いの結果ヒゲーズの3人とカリューの恵みの5人が行くことになった。
向こうで何かあってもベテランパーティーなら対応可能だろうということだ。
それらの人員が船に乗り込むと、さっそく出航した。
俺達は高台に戻って船の行方をぼんやり眺めていた。
寝起き一発目のあくびもユイとハモる。
いくらテントの中とはいえ、ベッドより寝心地は悪い。
しかし疲れていたのだろう、俺達は雑魚寝でありながらしっかり熟睡していたらしい。
俺達意外の3人はまだ寝息を立てている。
なんとなーく、久々にモフモフ感触を楽しんだような気がするが、それはおいとく。
そっと抜け出すとテントを出た。
「おう、起きたか」
ラウンドさんが声をかけてきた。
「あ、おはようございます」
「お前たちの昼食もちゃんと残してある。食べるか?」
どうやらみんなは昼食を取り終えていたらしい。
ということは昼過ぎまで寝ていたのか。
「はい、いただきます」
出て来たのは、朝食で作った鍋をつぎ足すように作られたロックバード肉が入った鍋だった。
「朝食の鍋が残っていたからな。せっかくだからそれをベースに使わせてもらったんだ」
寝起き一発目でも塩味のスープは体に染み入るようで旨かった。
「それで、その後何か動きはありましたか?」
「ああ、こちらの魔法使い部隊もさっき起きて来たよ。それにどうやら他の部隊も無事のようだ。そこの近くの島の高台には人影が見えたし、もう一つの島からは光が見えた」
「なるほど、無事でよかったです」
「まぁ全員無事かどうかまでは分からんがな」
「じゃあ確かめにいきましょうか」
「どうやって行くんだ?」
「こちらの島なら、島と島の間が一番近いところで数百メートルってところでしょうから橋を掛けましょうか」
「おいおい、そんなことして魔力は大丈夫なのか? あれだけデカい魔法を使いまくったんだろ?」
「確かに全快とはいきませんが、ある程度は回復できましたから」
「お前さん達については常識的な尺度で計れないが……。もし出来るならそうしてくれ」
「わかりました」
食事を終えると俺とユイ、それにカリオンさんとカトランさんの双子、それにラウンドさんの5人で島と島の一番近い場所に来ていた。
「じゃあはじめようか」
「おっけー」
まず俺達がいる島に向けて土魔法で幅約2メートルほどの板を作り出すと、地面と平行になるように延ばしていく。
ちなみに硬さはコンクリート位に調整した。
そして高台へと続く壁に突き刺すとそのまま地中を伸ばしある程度伸びたところで止めた。
今度はその板を目標となる向こうの島に向けて延ばす。
島から海に出る直前に一度真下に向けて柱を作り、地中の硬い地盤まで届かせた。
「魔法をこんなにも自在に扱えるだなんて、どうやっているのか魔法使いの私でも分かりません」
「どうって、【土壁】の応用ですよ。作り出す方向とサイズが違うだけです」
「確かに私たちも【土壁】なら使えますが、方向もサイズも決まっています」
ああ、確かに詠唱した魔法って一律だったっけ。
土台が出来た土魔法の板の上に俺とユイが乗り、そこに両手をついて魔力を込める。
するとどんどん板が伸びていった。
30メートルほど延ばすと、そこで一度海中に向けて柱を作る。こちらも海底からさらに下に伸ばし、硬い地盤まで届かせる。
そこまですると俺とユイは一度立ち上がり、30メートル先まで歩いていく。
そこで両手を着くとさらに30メートルほど延ばし、柱を作る。
10回ほどこの作業を繰り返すと、ちょうど島と島の真ん中あたりまでこれた。
「おーい!おーーーーい!!」
ふと向こうの島を見ると、こちらの動きに気づいた人たちが高台から降りてきていたようでこちらに手を振っていた
「もうしばらく待っててくださいねー!」
俺達も手を振りながら返すと、作業に戻る。
俺達のすぐ後ろではラウンドさんをはじめついてきた人達が作業を眺めていた。
さらに10回ほど作業を繰り返すと目標の島まで到達できた。
ちなみに、到達したあともう一回延ばして地面に突き刺しておいた。
「モンドさん、お久ぶりです。そちらの部隊は無事ですか?」
島についてさっそく話しかけてきたのは30代位の男性冒険者だった。
どうやらラウンドさんとは顔見知りのようだ。
「ああ、こちらの部隊は全員無事だ。そちらはどうだ?」
「こちらは何人か負傷しています。なんとか無事に動けるのはここにいる6人と、あと高台に4人ってとこです」
「回復魔法を使えるのはいないのか?」
「魔法を使える冒険者は全員ダウンしています」
「わかった、じゃあこちらから行こう」
そういうと、俺達はみんなで島の高台に登っていった。
登ってから分かったのだが、こちらの高台にはテントがなかった。
そして負傷した人や消耗した人は地べたに寝かされていた。
かろうじて、布をかけてあげれているというところだ。
俺とユイ、カリオンさんとカトランさんで慌てて回復魔法をかける。
しばらくすると、負傷者達も苦しそうな感じから落ち着いたようで寝息を立て始めた。
どうやら話を聞いていると、クラーケンの触手との闘いにおいて護衛部隊や弓部隊は半壊したらしい。
残ったメンバーで奮闘していたが最後の爆発で残った魔法使いが壁を張ってくれたがそれでも耐え切れず吹っ飛ばされたということだ。
クラーケンと反対方向に高台を降りると、爆発の影響は少なかったらしいので吹っ飛ばされた後は大丈夫だったらしい。
それでも回復薬や食料などの荷物なんかも全部吹っ飛ばされて無くなり、救援の船を待つ間途方にくれていたところに俺達の動きが分かり急いで降りて来て合流となったようだ。
「とりあえず落ち着いたな。じゃあ動けるようになったら俺達の島へと移動させたらどうだ。こちらにはテントが残っているからここで寝るよりは多少マシだろう」
「はい、そうさせてもらえると助かります」
「じゃあ俺達は一旦戻る。カリオンとカトランは念のためについていてくれ。動けるものは先に移動するか?」
「そうですね、では何人かは先に移動させてもらいます」
そういうと、ラウンドさんと6人ほどが俺達の島へと出発した。
俺とユイはどうするか迷ったが、とりあえずラウンドさんと一緒に島に戻ることにした。
6人の動ける人達も完全な状態ではなくある程度はやはり消耗していて危なっかしいと思ったからだ。
そうして俺達は一度高台から海まで降り、橋を通って島を渡り、高台に登ってきた。
「戻ったよー」
「おかえりー!」
出迎えてくれたのはライカだった。
「こっちの島の護衛部隊と弓部隊は一緒に向こうの島まできてくれ。のこりの魔法使い部隊はこっちで休んでいてくれ」
ラウンドさんが戻ってみんなに声を掛けた。
「どういうことだ?」
「向こうに負傷者がいるんだ。とりあえず回復魔法は掛けれたので命に別状はないと思うがテントも何もないらしいからこっちに連れてこようと思う。手を貸してくれ」
そういうとヒゲーズ、ラング、カリューの5人の護衛部隊、ライム、マシリト、モウラ、ラウルの4人の弓部隊が立ち上がった。
そこにジーナとリンダも立ち上がったのだが
「ああ、オチビちゃんたちはいいわ」
まぁ、大人を運ぶのにジーナとリンダではね。
「私たちも護衛部隊のはずですよ?」
「そうにゃ!」
はっきりといいにくいラウンドさんが言葉に詰まっている……
「ジーナとリンダには手伝ってもらいたいことがあるんだ。あっちは大人に任せて、こっちを手伝ってよ」
俺はラウンドさんに助け舟を出すことにした。
まぁ、実際に手伝って欲しかったしね。
「そういうことなら」
簡単に説得できる辺りは昔と変わってないな。
なんて思っていると、さっそくラウンドさん部隊は向こうの島へと出発した。
「ライカ、昼食の残りってどのくらいあるの?」
「ボク達も頂いたけど、まだ結構残ってるよ」
「そっか、向こうの島の人達は荷物も全部無くなったらしいから食事を振舞えないかな?」
「そうなんだ。だけど何人くらいいるのかな?足りるかな?」
鍋を覗くと、半分以下にまで減っていたので全員分は無理っぽい。
「じゃあ、俺達が食材を探しに行ってくるからとりあえず今回来た人たちの分を頼むよ」
「わかった。さあ皆さん椅子に座って下さい。今温めますのでちょっと待っていてくださいね」
「ああ、ありがたい」
そういってこちらの島にやってきた6人がテーブルについた。
ライカは釜土に火を入れて鍋を温めている。煮詰まっていたのか、味見をしたあと少し水を足したりして調整をしていた。
「ジーナ、リンダ。俺達は食材を取りにいこう」
「わかったにゃ!」
そういうと俺とユイ、そしてジーナとリンダは魔法鞄を持つと高台を出発した。
「ジーナとリンダは野草とかって詳しいの?」
「詳しいというほどではないけど、食べれるものくらいは分かるよ」
「そうにゃ。でも魚のほうが好きにゃ!」
「うん、じゃあ野草探しチームと魚探しチームに分かれて行こうか?」
「私は魚チームにゃ!!」
リンダさんの固い決意。
「わかったわかった。じゃあリンダは俺と魚探すか。ユイとジーナで野草探しでいい?」
「おっけー。じゃあ夕暮れ時になるか、もしくはある程度食材が集まったら高台に戻るってことで」
ということでユイとジーナは高台から降りる途中、獣道へと入っていった。
俺とリンダはまたしても海までやってきた。
「【索敵】……? ありゃ、前はたくさんいたキラーフィッシュはいないみたいだ」
「魚……いにゃいの?」
リンダさんが悲しそう。
悲しそうなリンダさん。
「いや、魔物がいないってだけで魚がいないわけじゃないと思うよ?試してみるか」
とはいえ、俺達は釣り道具なんて持っていない。
そんな俺がどうやって魚を取るかと言えば、
「【電撃】」
海に向って電撃を飛ばした。
アジ?か何かの魚が何匹かぷかぁ~と浮かびあがってきた。
「お、いるじゃん!」
「魚いたにゃーーー!!!」
リンダは一目散に海まで駆けていくと、そのまま海に飛び込んだ!!
「あぶっ!おぶっ!ぎゃ!だず!けてっ!」
あれ?リンダさん、溺れていませんか?
慌てて俺も海辺から魔法で作り出した棒をリンダにのばす。
リンダも何とか棒を掴んだのでそのまま陸地に引っ張り出す。
「おい、お前泳げなくなったのか?」
そうだ、リンダは泳げたはずだ。うちのプールでさんざん泳いでいたのだから。
「これが重かったにゃ」
といいながら慌てて鎧を脱いでいく。
鎧だけでなく服までも脱ぎ去り、下帯一丁になると再度海に入っていった。
なかなかの脱ぎっぷりですが、まだまだ女性としての恥じらいとは無縁の子供のようだ。
今度はちゃんと泳げていたが、残念ながら魚はいなくなっていた。
電撃で一時的に気絶はさせても、時間が経てば気が付いて泳いでいくのは仕方がない。
「魚いにゃいにゃ……」
悲しそうに言わないでよ。溺れてなければとれていたじゃん。
「リンダ、そのあたりに魚はいそうか?」
「見えないにゃ」
「じゃあ、こっちの岩場に来て貝を取ろうよ」
「わかったにゃ」
魚が取れなくて悲しそうだったが、リンダは貝類も好きなはずだ。
これで機嫌がよくなればいいな。
岩場では岩牡蠣がめっちゃ獲れた。
そのあと砂浜のほうに回って熊手状の箒っぽいのを土魔法で作り出し、浜辺でザクザクしていくとアサリが取れた。
牡蠣もアサリも流石に無人島だけあり、人の手が入ってないためでっぷりと大きく太っていた。
俺はダンボールサイズのボックスを土魔法で作り出すと、牡蠣とアサリとを分けて入れた。
ちなみにアサリの方は海水に塩を入れ、塩分濃度をかなり高めて塩抜きをしたあと、魔法で作り出した真水に入れておいた。
俺は二つのボックスを土魔法で繋げ、さらに両サイドに持ち手を付けた。
「リンダ、これだけ取れれば十分だからそろそろ帰ろう」
「わかったにゃ」
リンダは乾かしていた自分の服と鎧を着こむとボックスの端を持った。
俺も【身体機能強化】を自分とリンダにかけると、出発した。
高台に着くと、ちょうどユイとジーナも戻ったところだったようだ。
「ライカー、戻ったよ!」
「おかえりー。どうだった?」
「魚はいなかったけど、貝類がたくさんとれたよ」
「そっか、よかったね。そっちはどうだった?」
「こっちはキノコ類がたくさんとれたよ」
ユイ、ジーナ組は春菊みたいな野草やキノコ類、それに大根っぽいものまでこちらも大収穫だったようだ。
「これだけあれば向こうの島の人がきても大丈夫そうだね」
「じゃあさっそく手分けして作っていこうか」
リンダは自分で撮った牡蠣の殻を剥きはじめた。
ユイとジーナとライカはそれぞれ土がついているのを水で洗い流したり、大根の皮を取ったりし始めた。
俺は手持ち食材の中からニンニクを取り出すとみじん切りにしていく。
釜土には空になった寸胴があったのでそれをセットし手持ちの食用油を入れる。
弱~~い火でセットしてみじん切りにしたニンニクと鷹の爪をひとつまみ入れる。
しばらくするとニンニクの香りがオイルに移ってきたので釜土の火を強火にし、数秒待ってから塩抜きしたアサリを全部投入した。
そこに手持ちの料理酒を全部投入し、フタをした。
しばらくすると沸騰したアサリの酒蒸しがやたらと旨そうな匂いになってきた。
そこにユイが一口サイズにカットしたキノコ類をまとめて投入し軽く混ぜる。
すぐに再度沸騰してきたのでそこに大根と水を投入した。
寸胴をさらにサイズアップした鍋いっぱいまで水を投入したので沸騰までしばらくかかる。
その間にまだ半分も終わっていないリンダのカキの殻から身を取り出す作業を手伝う。
これも殻付きのまま網で焼いて、醤油をちょろっと垂らしたら旨いんだろうな。
いや、一欠けらのバターも一緒にやいて、バター醤油にするのもいいな。
そんな妄想をしながら作業を終えると、今度は人数が増えても対応できるように椅子とテーブルのセットを増設していく。
ユイは人数分のどんぶりを土魔法で作っていた。もはや陶器のようなどんぶりは、これを売るだけで食べていけるんじゃないかという出来だ。
ライカはというと、人数分のサジを作っていた。陶器っぽいからレンゲのほうが近いかな。
そんなことをしていたら、ラウンドさんが向こうの島の人達を引き連れて戻ってきた。
なんとか陽が沈み切る前に辿り着けたようだ。
「調子の悪いものがいるからテントを使わせてくれ」
というので、何人かはテントで寝かせることになったが、
それ以外の人たちはとりあえず増設した椅子に座ってもらった。
「向こうの島では食材を含む荷物が全部吹っ飛んだらしいからまずは腹ごしらえして貰おうと思う。用意はできているか?」
「うん、もうちょっとで出来上がるから待っててください」
俺は答えると鍋の様子を見る。
ちょうど沸騰してきたようなので牡蠣と野草を加えてフタをする。
一煮立ちしたところで塩で味を整えて完成だ。
鍋の底まで届く長いレードルを作ると、よくかき混ぜユイが作ってくれたどんぶりに具沢山でよそっていく。
ライカ特性レンゲを付けてジーナとリンダがみんなに配っていった。
カリオンとカトランがテントの人の分は持って行ってくれた。
向こうの島から来た部隊が全部で22人。
こちらの部隊が18人なので全部で40人にもなる。
それでも、全部配り終えても鍋は半分位までしか減っていなかった。
あれ?作りすぎちゃったかな?
まぁ、お代わりするひともいるだろうしいいか。
明日の朝ごはんにしちゃえばいいか。
食事もほどほどに進んだ頃、一人の男が立ち上がった。
「みんな、聞いてほしい。俺はダンキュリー隊のリーダーでダンキュリーと言う。まずは食事に感謝する。そして、壊滅状態だった部隊を救ってくれた事、負傷者に手当してくれた事、今回の件すべて改めて感謝する」
そういうと深々と頭を下げた。
それを見て、向こうの部隊だった人達みんな立ち上がって頭を下げた。
「そう硬くなりなさんな。あのクラーケンが相手だったんだ。いろいろ起こるのは仕方ない。今は旨い食事を楽しもうや」
ラウンドさんが代表してそれに答えた。
「こんなに旨い食事は産まれて始めてだ」
それはたぶん、空腹が最高のスパイスってやつだと思いますが。
「食事を作ってくれたのは君たちか?」
俺達のことかな?
「はい、現地調達の食材ばかりですが満足していただけて良かったです」
「とんでもなく美味しかった。ありがとう」
「結局クラーケンを倒したのもその子達だぞ!」
チョビさん、そんなガヤいりませんよ!!
「なんだって? ほんとうかい??」
「たまたま最後に攻撃していたのが僕たちだったというわけで、たまたまですよ」
「おお!いっちょ前に謙遜してやがる!もっと堂々としろよ!最初のどでかい炎から始まって、凍らせたのもでっかい稲妻をぶつけたのもその子達なんだぜ?」
だからチョビさん、そういうのいいですって。
ほら、他の人達もざわついちゃってるじゃないですか。
「そうか、君たちが上級魔法を使いこなす子供ということでギルドで話題になっていた……名前を聞いていいかい?」
「ケンです。こっちはユイ。そしてこっちはライカです。あっちの犬耳がジーナでその隣がリンダです」
「そうか、君たちの名前は決して忘れないだろう。この魂に刻ませてもらう。改めて勇者に感謝を」
そういうと膝をつき腕を胸の前にして敬礼した。
「いえ、こちらこそです。みんなで戦ったから何とかなったんですよ。だからみんなが勇者です」
「お!いい事言った!」
チョビさんの煽りでみんなが笑顔になった。
こうして和やかに夕食は終わり、高台のあちこちで適当にまとまって就寝となった。
翌朝、俺は温かいモフモフの感触で夢見心地だった。
朝になったということはお日様の陽射しで分かってはいる。
が、この微睡みから抜け出したくないと本能が言っているのだ。
二度寝。
したいところだけどだんだん頭が覚醒してきてしまった。
目を開けるとどうやら俺はジーナを抱き枕にしていたようだ。
ふと隣を見ると、ユイがリンダを抱き枕にしている。
あ、ライカも目覚めたみたいだ。
「ライカ、こっちにおいで」(小声)
「うん?」
「ほら、ここ触ってみてよ」(小声)
もぞもぞと近くまで来る。
そして俺の反対側からジーナを触る……触る……触り続ける……
うん、気に入ったみたいだ。
「抱き枕にすると超気持ちいよ」(小声)
そっと触っていたのが大胆に抱き枕にしていく。
「ほんとだ」(小声)
という訳で、俺とライカがジーナを両サイドから抱き枕にして、ユイはリンダを独り占めするという、天国のような二度寝が始まったのだ。
のだ……。
のはずだったのだが。
「おーおー!見せつけてくれるねー!」
絡んできたのはカリューさんだった。
ここは無視しよう。俺達は寝ているんだ!
「お? おいおい、気づいているんだろ? 狸寝入りはよくないぜ」
見よ、これが前世より受け継がれたスルースキル!
「なんだよ、せっかく俺達のパーティーが朝食の食材をみんなに提供しようってのに」
だったら普通にそう言ってよね。
「あ、おはようございます、カリューさん。今起きました」
「なんだよ、白々しい。まぁいいか。ダンキュリー達の部隊が合流して食料も必要だろう? 昨日のロックバードはマシリト隊からの差し入れだったから、今日は俺達のパーティーから提供させてもらうぜ。またお前さん達が作ってくれるんだろう?」
「まだ昨日の鍋が残っているので、それをベースに何か作ろうとは思っていましたが、食材ってなんですか?」
「これだよ」
そういって見せられたのはほぼ、白い物体だった。
「これ、なんですか?」
「なんだ、あんなに料理してたのにこれが分からないのか? これは小麦粉だよ。水と塩で練りこんだものだ。これを焼けばパンになるだろう?」
なるほど。ただ、イースト菌とかも入っているのだろうか。なんかそうは見えないな。
「なるほど、ありがとうございます。でもせっかく鍋があるので別の形にして使ってもいいですか?」
「そりゃ、かまわねーがどうするんだ?」
「それは出来てからのお楽しみってことで」
「ああ、分かったよ。お前さん達の作ったのは旨いから任せたぜ」
振り返ると、当然ユイも起きているしライカも起きていた。
「これ、うどんにして鍋に入れよう。ライカも手伝って!」
「うどん? どうすればいいの?」
綺麗な布の袋に手持ちの小麦粉を振りかけて中に貰った塊を入れた。
「じゃあライカ、これを踏んでくれ」
「ええー? せっかくの食材を踏みつけたりしちゃダメだよ」
「いーからいーから」
そういうと俺とユイでライカのブーツを脱がせると、お湯を出してライカの足をキレイに洗う。
もちろん魔法の石鹸できれいにね。
そのあと、台の上に置いた布袋の上にライカを立たせて踏み踏みしてもらう。
俺とユイでライカがバランスを崩さないように手で支えつつ、形が延びてきたら二つに折りたたんでさらに踏み踏みしてもらう。
「このくらいでいいんじゃないかな。じゃあライカ、降りて。そして今度は釜土に火を入れてお湯を沸かしてくれるかな?」
「本当に料理しているのか不安になったけど? じゃあお湯を沸かしてるね」
「うん、お願い」
程よい硬さになったので袋から取り出し、台の上に小麦粉で打ち粉をすると綿棒で薄く延ばす。
それを折りたたむと千切りにしていく。
もう一つの釜土では昨日の鍋を温め治す作業をユイがしてくれていた。
だいぶ煮詰まっていたようなので水を入れたりして調整していた。
俺はライカが用意してくれた沸騰した鍋にうどんを入れていく。
全部を投入するとよく混ぜながら麺を茹でていく。
味の調整が終わったユイがどんぶりを作り始めていた。
ライカにはフォークを用意してもらう。
うどんが茹で上がったところで火を止めて大きなザルを作り水を切る。
すぐに鍋に氷水を張ってそこで絞める。
絞めた後はユイが味の調整をしてくれた昨日の鍋にどばっと投入し、火を入れる。
その頃には大半の人たちが起きていて、中には体操を始めている人もいた。
爽やかな朝の体操をしている中心にヒゲーズがいたのは見なかったことにしよう。
一煮立ちしたところでどんぶりにうどんを人数分に割り振っていく。
昨日の鍋の具もたくさん残っていたので、あったか具沢山うどんが出来上がった。
「みなさん、朝食が出来ましたよ」
「おお、今日はスープパスタか。でもこんなパスタは初めて見るな!」
「パスタじゃなくてうどんっていうんです。味も食感もパスタとは違うのでご賞味ください」
「それは楽しみだ」
手の空いた人から順番に出来上がったうどんを食べはじめた。
「ほぉー、こりゃ旨い。確かにパスタとは違った食感だし、スープが染みてうまいな」
「ああ、しかもしっかり歯ごたえというか、そう。腰があるのもたまらんね」
ということで朝食のうどんは好評だった。
ライカには、あの腰を出すには踏みの作業が必須なんだよって話すと、頑張った甲斐があったと笑顔になってくれた。
朝からいい笑顔が見れて幸せな気持ちになった。
結局お代わりをする人もいて、鍋はすっからかんになっちゃった。
朝食が終わり、これからどうしようか考えている時だった。
「おーーーい!!!船が来たぞーーーー!」
高台から監視していた人が大声でみんなに伝えた。
見に行くと、確かに遠くから船が近づいてくる。
しばらくすると、船が俺達が乗ってきたギルドの船だと分かった。
俺達は高台から船が到着するあたりに移動した。
到着した船にはコスィーさんとギルドの職員二人が乗っていた。
「皆さん無事で何よりです」
「それはお互い様だ。船がいなくなっていてみんな心配していたんだぞ」
コスィーさんとラウンドさんがお互いの無事を確認した。
「さっそくだが、こことダンキュリーのところの部隊とは合流できたんだが、もう一つの部隊がどうなっているのか分からん。まずはそっちの様子を見に行きたいのだが船を出してくれるか?」
「もちろんです。では、誰がいきますか?」
ということで、話し合いの結果ヒゲーズの3人とカリューの恵みの5人が行くことになった。
向こうで何かあってもベテランパーティーなら対応可能だろうということだ。
それらの人員が船に乗り込むと、さっそく出航した。
俺達は高台に戻って船の行方をぼんやり眺めていた。
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