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水の精霊編
クラーケン
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音の方向を見ると、カリューさんが警笛を鳴らしていた。
「おい!出たぞ!みんな出てこい!!!」
ブショウさんが大きな声で集合をかける。
俺達も目標ポイントの方を見た。
やっぱりデカい。
スルメの顔が少し海面から出ていたが下から光が当たって海中の影になっている部分を見ると体長数十メートルじゃきかない。
ということはモビルスーツよりでかい。モビルアーマーでもあのサイズは……人参嫌いな人が物語の最後に乗ったヤツクラスか?
いや、それよりもデカいのかも。
どうにも比較対象が無いから大きさの感覚がよくわからんことになっている。
どちらにしろ、作戦開始だ。
俺達は準備していた箱の所に行くと特大サーチライトになるように【照光】を掛けた。
遠くで警笛が鳴っているのが聞こえる。
他の部隊も目標が現れたため戦闘準備に入っているようだ。
「攻撃部隊!攻撃開始だ!!!!!」
なぜかラウンドさんが大声で言った。
すると弓士が乗っている魔法陣が光り出す。
すぐ後ろにいる魔法使いが魔力を込めていた。
と同時に弓士は弓に魔法をかけている。
矢の先端に赤い光のエネルギーがこもった。
矢を弓に構えると、最初の攻撃がはじまった!
こちらから4発の攻撃がスルメに向って飛んでいく!
目標がデカいとは言え距離がかなりあるのにバッチリヒットした!
「どうだ!?」
スルメの顔で小さな火がポワンと着いたがすぐに消えた。
これ、ダメージ入ってるのかな?
モビルアーマーを人が倒せるのかって話になってきたぞ?
とはいえ、やれるだけのことはやりますか。
俺達は弓部隊の後ろに行くと魔力を大気に通し始めた。
と同時に他の部隊からも攻撃が始まり、矢が飛んでいくのが見えた。
こちらの弓士の攻撃も続く。
俺は目標地点上空の空気を操り回転させていく。
その速度をドンドン上げていき、竜巻を作り出した!
「これが俺達が開発した上級魔法、【逆上級竜巻突風】だ!!」
この魔法は特定範囲に竜巻を発生させ中で起こる真空波によりズタズタになる!
「普通の風上級魔法の【上級竜巻突風】と何が違うんだい?」
カリューさんが周囲を警戒しながらも聞いてくる
「見ててよ、その違い!通常の【上級竜巻突風】は近くにいるすべてを飲み込んで上空にまき散らすけど、これはその逆。上空から海上に向けて打ち付けるんだ」
そこにユイの魔法が続く
「【上級火炎柱】」
俺の作り出した竜巻上空に巨大な炎の塊が出現。すぐにその炎も竜巻に吸い込まれ、竜巻は炎の柱となって打ち付けた。
「ほぉー!これはすごいな!さすがのクラーケンもこれでも無事ってことは無いだろうぜ」
ユイの炎は対象に纏わりついて燃え続ける。少々暴れても消えないぜ?
炎の渦を打ち付ける魔法を続けていくと、なぜかクラーケンと目が合ったような気がした。
何かくる!
と思うと同時に、クラーケンはその触手を使って海の水をこちらに投げつけて来た!
こちらを敵と認識したということか!
「ライカ!頼む!」
「ボクに任せて!【風結界】」
と同時に高台全体に風属性の結界が張られる。
あの巨大な触手から放たれただけあってここまで届いた海水も尋常な大きさじゃない。
ライカの結界だけではキツイかもしれないので俺とユイは片手で攻撃魔法を続けながらもう片方の手をライカに添え魔力を送る。
すると出来上がっている結界の厚みが増した。
届いた水の塊は結界に触れると風の流れに従って後方へと弾かれていく。
投げて来た海水が無くなったところで結界も消滅した。
「思ったより強力な攻撃だったね、ありがとう」
結界が無くなったらこちらの弓攻撃もどんどん追加される。
弓の攻撃は俺達の竜巻にあたっても関係なく直進、クラーケンにヒットしていた。
俺達に海水攻撃が効かなかったのが分かったのか、それとも炎の竜巻が少しでも効いたのか、クラーケンは少し海面から出て来たと思ったら反動をつけて海中に潜ってしまった。
俺達は一度魔法攻撃をやめるが、海中にいても弓攻撃は続く。そして海の中でもヒットし続けた。
クラーケンはすぐに顔を出した。
一度海に潜ったのでユイの炎も消えてしまっていた。
そして海水での攻撃が効かないならばと触手を直接こちらに伸ばしてきた!
「くるぞ!各個撃破!!」
ラウンドさんが言うと護衛部隊は俺達の周りを囲んだ。
「ライカ!」
「わかってる!【火壁】
するとか高台の外側で炎の壁がぐるりと高台を取り囲んだ。
「おいおい、これのどこが【火壁】ってんだ? 普通の何枚分あるんだよ」
カリューさんはいちいち呟いているがそれは放置。
すぐに触手は俺達のところまで来たが、【火壁】を突き破って攻撃はしてこない。
火の無い上空から触手攻撃が来た。
「させるかよ!」
チョビさんがいる方向からきた触手を大きな剣で切り落とした。が、触手は切り落とされてもどんどん伸びてきて攻撃は続く。
攻撃が来たら切り落とす、切り落とされても触手攻撃は続く。
そうこうしているうちに、他の部隊の魔法攻撃も始まった。
どうやら通常上級風魔法の【上級竜巻突風】のようで竜巻の中は海水交じりの突風竜巻が出来ている。
触手の何本かは他の部隊へも伸びている。
が、こちらへの触手攻撃が一番多い。
気が付くと護衛5人はフル稼働で触手と戦っていた。
クラーケンを見ると、やっぱりこちらを睨んでいるように見える。
最初の火攻撃のせいで俺達をメインの敵としたのかな。それとも【照光】の効果でこっち向いてるだけかな。
見ると、【上級竜巻突風】の効果が終わるタイミングで、もう一つの部隊の魔法攻撃が始まった。
クラーケン上空に岩の塊がいくつも出現し、それが落下しクラーケンにあたっている。
あれは【上級岩石群落】のはずだ。一つの岩が1~2メートルはあるはずだ。
が、なんだろう。サイズ感が違いすぎて小石が当たっているようにしかみえない。
どこまでダメージが入っているのか疑問だ。
他の部隊を見てみると、こちらに攻撃してくる触手よりも本数は少ないはずなのに少しずつ迎撃が間に合わなくなってきているのか、本体への攻撃をしていた弓部隊の攻撃が何度かに一回は触手への迎撃に回っている。
そういえば、ギルドマスターのデンゼルさんの話ではヒゲーズが腕利きだからこちらに回したって言っていた。ということは他の部隊はヒゲーズよりも格下の部分なんだろうか。
クラーケンはこちらを睨んでいるような気がするが、これが気のせいじゃないとするならば最初の火柱が多少なりともダメージを与えたということになる。
であるならば何度か続けてみようかな。
俺は、【上級岩石群落】が切れるタイミングを見計らった
「もう一発【逆上級竜巻突風】だ!!」
上空から海上に打ち付ける竜巻が発生、クラーケンにぶち当たる!
合わせるようにユイが続く
「威力2倍だ!【逆上級竜巻突風】」
上空から打ち付ける竜巻がさらに長くなりかなり上空からの海上へ打ち付ける!
すぐに海水の表面が凍り始めた。
かなり上空の氷点下になる冷たい空気を海上に打ち付けているのだ。
みるみるうちに海水の広い部分が凍っていく。
スルメみたいな顔が海上に出ている部分が凍っていき、動きが無くなる。が、本体へのダメージはどこまで通っているのか分からない。
その証拠に攻撃してくる触手は変わらず動き続けている。
いや、むしろ他の部隊へ攻撃していた触手が減りこちらへの攻撃が増えてきたような気がする!
近くを見ると、ヒゲーズはもちろんカリューさんもサーベルで触手を迎撃しているし、素早い動きで双剣を扱い踊るように迎撃しているラングさん。
でも触手が増えたことでどうも分が悪くなってきた。
他の部隊よりも俺達を優先的に攻撃してきている以上、クラーケンにとって俺達をより敵として認識しているので間違いないだろう。
しかし触手が増えてもまだ耐えているのはライカの【火壁】とかがり火のおかげかもしれない。触手は火のない場所からしか攻めてこないからだ。
だがそれでもこれ以上触手が増えてきたらヤバイかもしれない。
チョビとブショウはいっぱいいっぱいになっているし、他の護衛メンバーもそのフォローに回れないでいる。
俺とユイも周りを見たりはしているが【逆上級竜巻突風】で集中しているんだよね。
ライカも防御のための【火壁】に集中しているのでフォローには回れそうにない。
さって、どうしようか。
もう少しがっつり凍らせてカッチンコッチンにしてやりたいのだけども、完全に凍らせるにはまだ時間がかかりそうだ。
「ぐわっ!」
どうしようか考えていると、チョビさんが攻撃を捌き切れず攻撃を食らって吹っ飛んだ!
「おい!しっかりしろっ!!!」
ラウンドさんがチョビさんに声を掛ける。
どんどん触手が増え、弓部隊も本体へ攻撃せずに触手の迎撃に回っていた。
だいたいクラーケンの触手ってどんだけあんだよ!
普通タコとかイカの化け物なら8本とか10本?じゃないの??
と思っても、実際にバカみたいな数の触手が攻撃してくるのは変わらない。
チョビさんがいたあたりの触手が弓部隊の方面へ攻撃を開始する。
「「【電撃】」」
電撃が当たった部分の触手がはじけ飛び、残った部分は一瞬動きを止めるが、しばらくするとまた動き出す。
俺とユイが片手で【逆上級竜巻突風】を操りながらも、もう一方の手から魔法で迎撃に回る
「わ、わりぃ!」
攻撃を受けたチョビさんが再び戦線に復帰した。が、先ほどのダメージが残っているようで最初ほどの軽やかな動きではない。
とそこに二つの影が割り込み、チョビさん方面の触手をザクザク切り刻んでいく!
「おまたせしました!!」
「またせたにゃ!!」
そこに現れたのは、長い髪の上に犬耳とお尻からふさふさ尻尾がついており軽鎧に身を包んで少女に似つかわしくない剣を装備していた。
もう一人は長い髪の上に猫耳とお尻から長い尻尾がついており軽鎧に身を包んで通常よりも細長い剣を装備していた。
この二人には見覚えがある!
「ジーナ!リンダ!!」
「ひさしぶりにゃ!」
どんどん触手を迎撃しながらリンダが声をかけてくる。
その動きは俺達が知っているころよりもずっと鋭かった。
「やたらと触手がこちらを攻めてきてるんだ。助かった!」
「まだまだこれからですよ」
見るとジーナはチョビさんの防御範囲を超えてとなりにいるブショウさんのエリアまでカバーしていた。
「すまねぇ、助かる」
ブショウさんも結構いっぱいいっぱいだったので本気で助かったようだ。
二人の加勢で護衛部隊全体に少し余裕が出て来た。
「護衛は持ち直した!弓は本体を狙ってくれ!」
ラウンドさんが攻撃を指示する
見ると、他の二つの部隊への触手攻撃はなくなっていた。
たまに弓部隊が凍ってしまった本体ではなく俺達の部隊に攻撃をしている触手の根元あたりに
弓による攻撃をしてくれているようだ。
俺とユイは片手で操作していた【逆上級竜巻突風】に集中しなおして、
上空の冷気を海面に叩きつけた。
クラーケンを中心に冷たい空気が海上を伝わり、島にも届いくる。
周囲をライカの【火壁】とかがり火に囲まれたこの空間は通常よりも気温が高いはずなのに、少しずつ寒くなっていく。
クラーケンの周囲の海上はすっかり凍っているが、海中からこちらに伸びてきている触手は島の近くから地上に出てきており、そのあたりは氷水のようで完全に凍ってはないようだ。
島のところまでがっつり凍れば触手攻撃も出来なくなるだろうに。
しかし、海上に出ているクラーケン本体はある程度凍ったようなので身動きはできないはずだ。
凍っていても顔はこっちを睨んでいるように見えるから怖い。
俺とユイは【逆上級竜巻突風】を止めた。
続いて俺とユイはクラーケンの上空に土魔法で槍を作り始めた。
槍といってもクラーケンに通用するサイズだから直径1メートルくらいはある。
長さは出来る限り長くしてくつもりだが、簡単に折れたら意味がないので強度もかなり必要だ。
それをクラーケン上空100メートル位、俺達の目線よりもさらに高いところに作る。
棒を作り出すのなんて簡単だけど、これだけ距離が離れていてしかも強度も必要になるわけだから結構集中力が必要だ。
こちらの弓部隊はなんとか本体への攻撃を再開させていた。
クラーケン本体の表面は凍っているが、攻撃はそれを貫通して届いているようで氷の内側で小さな爆発が起こっているのが見えた。
凍らせた部分がデカすぎるのでこの程度の小さな爆発では氷が解けることはない。
近くを見ると、護衛部隊がザクザク切り落とした触手がビチビチ動いているのが見えた。
こう見るとかなりの触手が切り落とされているはずなんだけど、いったいどれくらいあるんだろう。
異世界ファンタジーで触手とくれば、子供には見せられないヒロインピンチ展開がお決まりじゃないのか。と思うが、この状況もある意味子供には見せれない。グロいって意味で。
しかし、ジーナとリンダは強くなった。やり手冒険者であるラウンドさん達よりも動きがいいようなに見えし、実際登場してから触手を迎撃した数はかなり多い。
「じゃあ俺達も頑張らなきゃな」
「だね」
ユイとの独り言を交わすと、俺達が作っている槍は長さ100メートルを超えていた。
長さも硬さも申し分ないはずだ!
こいつを奥まで突っ込んでやるぜ!!
「「いっっけーーー!!」」
クラーケン上空に俺達が土魔法で作った槍は思いっきり密度も上げているのでほぼ鉄と化している。
通常落下だけでも十分な威力だろうが、そこからさらに俺達が加速させて海上のクラーケン本体を襲う!
ガリガリガリガリという異様な音を立てながら槍はクラーケンに突き刺さっていった!
槍はクラーケンに突き刺さってもなお、15メートル位ははみ出ていた。
と同時に俺達を襲っていた触手が動きを止めた!
「やったか!?」
それを見たカリューさんが言った。
「それはフラグだよ!なんで言っちゃうの!!」
「フラ・・なんだと?」
「まだ倒せてないってこと!」
と同時に触手の動きが再開した!
「おい!まだ動いているぞ!!」
いやいや、あなたがフラグ立てるから。
まぁ、立ててなくてもこのくらいで倒せたりはしないだろうけど。
慌てて護衛部隊は触手迎撃を再開する。
高台を守るようにぐるりと囲っているライカの【火壁ファイアーウォール】の勢いが少し衰えてきた。
「ライカ、大丈夫か?」
「ボクのほうはまだしばらく大丈夫だよ」
初級魔法とはいえ同時に30個くらい出し続けるのは普通だととてもできる芸当ではない。
それを最初からずっと防壁を張り続けているライカ。かなりの魔力を消費しているはずだ。
「ユイ、やっちゃおう」
「おっけー!」
俺達はまた独り言をつぶやくと、クラーケン上空に向けて再度魔力を込める!
今度は雨雲をかき集める作業だ。するとクラーケンのいる辺りに雨が降り始める。
しかし気温がかなり下がっているので雨はあられとなって降り注いでいた。
雨あられは放置し、俺達はさらに雨雲を集める。
すると濃い灰色の雨雲からゴロゴロと雷の音が鳴り始めた。
「そろそろいいな。いくぞ!」
「おっけー!」
「「【高圧稲妻落雷】」」
ゴロゴロビシャーーーーン!
轟音と共に稲妻が駆け抜けた!
もちろん避雷針のように突き出た槍を伝ってクラーケン本体にダメージが通った。
その証拠に触手もまとめて動きが止まった。
「もう一発!」
「「【高圧稲妻落雷】」」
ゴロゴロビシャーーーーン!
再度、轟音と共に稲妻が駆け抜けた!
「グアッ!」
「ウワッ!」
「ギャッ!」
え?何事?と思ったら動きの止まった触手に攻撃をしていたカリューさん、ジーナ、リンダの3名が本体から触手まで伝わってきた電撃のため一瞬感電してしまったようだ。
「大丈夫か!?」
慌てて声を掛ける
「大丈夫、少し驚いただけ!」
「こっちも大丈夫にゃ!」
「カリューさん?」
「……あ!あぁ、大丈夫だ」
想定外に感電すると一瞬頭が真っ白になる。その状態だったようだ。
「気を付けてください!もう一発いきます!」
今度は一応注意をかけておいた。
「「【高圧稲妻落雷】」」
ゴロゴロビシャーーーーン!
3度、轟音と共に稲妻が駆け抜けた!
と同時に俺達を襲っていた触手がその場で地面に崩れ落ちた。
ライカの【火壁】があるところに崩れ落ちた触手はその場で灰になっていった。
「倒した……のか?」
カリューさんが遠慮がちに聞いてくる。
「いえ、無事ではないでしょうが倒せてはいないと思います」
「そりゃ、あんなバカでかい雷を食らって無事な奴はいないだろうぜ」
ぐったりしながらも、ラウンドさんが呟いた。
「しかし遠距離魔法をこれだけ撃っても倒せないなら、もう接近戦で倒すしかないようですね。これから俺達は直接叩きにいきます。みなさんは戦える状態ではないでしょうから休んでいてください」
とだけ言うと、俺とユイは高台から飛び出た!
すぐ後ろにライカが付いてきていた
「ライカ、大丈夫なのか? 高台で休んでいていいよ」
「まだ大丈夫!【身体機能強化】や近距離魔法ならまだいけるから!」
ライカちゃんカッコイー!
「わかった、無理はするなよ!」
「うん、ありがとう」
「相変わらずですね」
「ライカちゃんには優しいのにゃ」
見るとジーナとリンダもついてきていた。
海のところまで降りてくると、俺達は触手を切っておいた。
これで高台のほうは多少安全になったはずだ。
そして触手がある付近は氷が破られていたけど、少し離れると海面はガッチリ凍っているのでそこからクラーケンに向けて走り出す。
スケートのように滑るには起伏があるため滑れず、普通に走るにしては滑りやすいので走れず。
なんとも移動が難しい地面だけど、なんとか走り抜けてクラーケンの顔までやってきた。
近くで見るとやはりバカでかい。
「こういう力技は私が最も得意とするとこなの!いきます!」
ジーナは身軽にクラーケンに飛び乗るとちょっとした起伏を使ってクラーケンの顔を登っていく。
そして頂上まで着くと剣を構え、大振りの一撃!
ズガーーーーン!!
という音と共に、クラーケンの頭の一部を切り落として見せた!
「力はジーナ程にゃいけど、にゃければ数で勝負できるにゃ!」
今度はリンダがクラーケンの顔を駆け上ると、ジーナと反対側の頭をその細身の剣で突きまくった!
ズガーーーーン!!
という音と共に、クラーケンの頭の一部を切り落とした!
俺とユイも正面から剣を構えると呼吸を整えた。
剣気を帯びた状態にさらに【身体機能強化】をかける。
剣に剣気をを集められるだけ集め、狙いを定めてっと
としている最中で、雷撃で意識を失っていたクラーケンが気が付いたのか目が動いた!
「ちょくちょく睨んできやがって!怖いんだよ!」
狙いを目に定めて力を集めた剣を一振り!
俺とユイの剣から飛び出た剣気の一撃がクラーケンの両の目に着弾!
表面の氷を突き破り、両目ともざっくりと縦に剣筋が深く入った!
ゴゴゴゴッゴゴゴゴッゴゴッゴ
地面の奥から何やら低い音が鳴り始める
意識を取り戻したクラーケンが暴れ始めているようだ。
クラーケンの顔の上ではジーナとリンダが次々に攻撃をして切り落としている。
もがくクラーケンだが、がっつり凍っている海水に動きを封じられて何もできない。
凍っていない海の深い部分は俺達は直接は何もできないが、方法がないわけじゃない!
俺は手をチョーカーに持って行き魔力を少しだけ込める。
するとチョーカーの水印が光り、ウンディーネが現れた!
『ちょっとちょっと今忙しいのに何事よ~?』
なんとまぁ、のんきに出て来たもんだ。
「見ての通り今クラーケンと戦っているんだ。手を貸してくれないか」
『そんな事より今シーマ海で大きな動きが……ってあれ? ここってシーマ海の、バリの近くぅ!? なになに!大きな動きの元凶はあんた達だったの!?』
「違うって、これを見ろよ!クラーケンと戦ってるんだよ!大きな動きも何も、このクラーケンが元凶じゃねーの?」
『あんた達こんなデカいのと戦ったの? バカじゃない? サイズ差を考えなさいよ!あんた達みたいなちっこいのが勝てるわけないじゃない』
「もっと小っちゃいお前が言うな!いや、そんな事より海水を凍らせて動きは封じたんだが、凍ってない深い海のところの触手が何かしてるんだ。動きを止めてくれないか?」
『そうねぇ……どうしようかな。何とかしてあげてもいいけど条件があるわよ?』
「おい、精霊のくせに今すっごい悪い顔してるぞ?」
『だってあんたたちに恩を売る機会なんですもの。ウフフ』
わっるい笑顔だ。
「聞くだけ聞いてやる。言ってみろ」
『あらぁ? そんな言い方? おかしくない~? 助けてほしいのよね?』
殴りたい、この笑顔!
「ど……どうか、条件を聞かせて……くださいませ」
『あらぁ、そこまで聞きたいのぉ? 仕方ないわねぇ。簡単よ、私が合図を送ったらいつものように魔力を送る。あんた達はほっといたらなかなか魔力を送ってくれないんだから。こっちもいろいろ都合があるのよ。だからこっちの都合に合わせて魔力を送るだけよ!バカでもできるでしょ?』
結局魔力が欲しいだけじゃないか。だが、それだけならまぁいっか。
「わかりました。合図があったら送るようにします」
『分かればよろしい。じゃあ、この氷の下の海水を全部聖水に変えてあげるわ!』
言い残してウンディーネは氷の地面の中に入っていった。
あいつ、通り抜けることもできるのか。
聖水になったらどうなるんだろう。触手が動けなくなるのだろうか?
ゴゴゴゴゴッゴッゴゴッゴッゴゴッゴゴゴゴゴ
という足の下から響いてくる低い音は相変わらずだ。
某RPGみたいに、強い魔物に聖水は効かないなんてことはあるんだろうか。
とすれば、全く効果のない事になる。今回はあのバカ精霊に騙されたか?
くそぉ、あの殴りたい笑顔が脳裏を過る。
くっそ、もう考えないようにしよう。
「ユイ、こっちも攻撃を再開しよう」
「そうだね。あいつに頼っても無駄だったね」
剣に剣気をを集められるだけ集め、狙いを先ほどと同じ場所に力を集めた剣を一振り!
ズガッ!!
ブシュウウウウッッ!!
クラーケンの体液が噴出する。
俺達は再度剣に剣気をを集められるだけ集め、同じ場所を狙って攻撃する!
ズガッ!!
ブシュウウウウッッ!!
俺達の頭上、クラーケンにとっても頭上だけど、そこではジーナとリンダが頭を少しずつ削り取っている。
ライカは……あれ?どこだ?
「ライカーーー?」
「はーい?」
声だけ返ってきた。
「どこにいるのー?」
「顔の裏側から攻撃してるのー」
ライカは俺達の攻撃の邪魔にならないように顔の裏側まで回って、後ろから攻撃していたらしい。
なるほど、人間でも後頭部を攻撃されたほうが深刻なダメージに繋がりやすい。
後ろから攻撃するほうがよかったのか!
俺達も後ろ側に回ってみる。
するとライカはクラーケンの後頭部に氷を貫通して中まで達している直径1メートル程の穴をあけていた。
「【火球】」
もはや初級魔法の威力を超え、直径50センチくらいの火の球だ。
その穴に向けて魔法を放つと穴の奥が燃え、そしてより深くまで穿っていった。
と、同時にクラーケン全体が光はじめたかと思うと、クラーケンの周囲に透明な魔法陣が浮かび上がった。
「おい!出たぞ!みんな出てこい!!!」
ブショウさんが大きな声で集合をかける。
俺達も目標ポイントの方を見た。
やっぱりデカい。
スルメの顔が少し海面から出ていたが下から光が当たって海中の影になっている部分を見ると体長数十メートルじゃきかない。
ということはモビルスーツよりでかい。モビルアーマーでもあのサイズは……人参嫌いな人が物語の最後に乗ったヤツクラスか?
いや、それよりもデカいのかも。
どうにも比較対象が無いから大きさの感覚がよくわからんことになっている。
どちらにしろ、作戦開始だ。
俺達は準備していた箱の所に行くと特大サーチライトになるように【照光】を掛けた。
遠くで警笛が鳴っているのが聞こえる。
他の部隊も目標が現れたため戦闘準備に入っているようだ。
「攻撃部隊!攻撃開始だ!!!!!」
なぜかラウンドさんが大声で言った。
すると弓士が乗っている魔法陣が光り出す。
すぐ後ろにいる魔法使いが魔力を込めていた。
と同時に弓士は弓に魔法をかけている。
矢の先端に赤い光のエネルギーがこもった。
矢を弓に構えると、最初の攻撃がはじまった!
こちらから4発の攻撃がスルメに向って飛んでいく!
目標がデカいとは言え距離がかなりあるのにバッチリヒットした!
「どうだ!?」
スルメの顔で小さな火がポワンと着いたがすぐに消えた。
これ、ダメージ入ってるのかな?
モビルアーマーを人が倒せるのかって話になってきたぞ?
とはいえ、やれるだけのことはやりますか。
俺達は弓部隊の後ろに行くと魔力を大気に通し始めた。
と同時に他の部隊からも攻撃が始まり、矢が飛んでいくのが見えた。
こちらの弓士の攻撃も続く。
俺は目標地点上空の空気を操り回転させていく。
その速度をドンドン上げていき、竜巻を作り出した!
「これが俺達が開発した上級魔法、【逆上級竜巻突風】だ!!」
この魔法は特定範囲に竜巻を発生させ中で起こる真空波によりズタズタになる!
「普通の風上級魔法の【上級竜巻突風】と何が違うんだい?」
カリューさんが周囲を警戒しながらも聞いてくる
「見ててよ、その違い!通常の【上級竜巻突風】は近くにいるすべてを飲み込んで上空にまき散らすけど、これはその逆。上空から海上に向けて打ち付けるんだ」
そこにユイの魔法が続く
「【上級火炎柱】」
俺の作り出した竜巻上空に巨大な炎の塊が出現。すぐにその炎も竜巻に吸い込まれ、竜巻は炎の柱となって打ち付けた。
「ほぉー!これはすごいな!さすがのクラーケンもこれでも無事ってことは無いだろうぜ」
ユイの炎は対象に纏わりついて燃え続ける。少々暴れても消えないぜ?
炎の渦を打ち付ける魔法を続けていくと、なぜかクラーケンと目が合ったような気がした。
何かくる!
と思うと同時に、クラーケンはその触手を使って海の水をこちらに投げつけて来た!
こちらを敵と認識したということか!
「ライカ!頼む!」
「ボクに任せて!【風結界】」
と同時に高台全体に風属性の結界が張られる。
あの巨大な触手から放たれただけあってここまで届いた海水も尋常な大きさじゃない。
ライカの結界だけではキツイかもしれないので俺とユイは片手で攻撃魔法を続けながらもう片方の手をライカに添え魔力を送る。
すると出来上がっている結界の厚みが増した。
届いた水の塊は結界に触れると風の流れに従って後方へと弾かれていく。
投げて来た海水が無くなったところで結界も消滅した。
「思ったより強力な攻撃だったね、ありがとう」
結界が無くなったらこちらの弓攻撃もどんどん追加される。
弓の攻撃は俺達の竜巻にあたっても関係なく直進、クラーケンにヒットしていた。
俺達に海水攻撃が効かなかったのが分かったのか、それとも炎の竜巻が少しでも効いたのか、クラーケンは少し海面から出て来たと思ったら反動をつけて海中に潜ってしまった。
俺達は一度魔法攻撃をやめるが、海中にいても弓攻撃は続く。そして海の中でもヒットし続けた。
クラーケンはすぐに顔を出した。
一度海に潜ったのでユイの炎も消えてしまっていた。
そして海水での攻撃が効かないならばと触手を直接こちらに伸ばしてきた!
「くるぞ!各個撃破!!」
ラウンドさんが言うと護衛部隊は俺達の周りを囲んだ。
「ライカ!」
「わかってる!【火壁】
するとか高台の外側で炎の壁がぐるりと高台を取り囲んだ。
「おいおい、これのどこが【火壁】ってんだ? 普通の何枚分あるんだよ」
カリューさんはいちいち呟いているがそれは放置。
すぐに触手は俺達のところまで来たが、【火壁】を突き破って攻撃はしてこない。
火の無い上空から触手攻撃が来た。
「させるかよ!」
チョビさんがいる方向からきた触手を大きな剣で切り落とした。が、触手は切り落とされてもどんどん伸びてきて攻撃は続く。
攻撃が来たら切り落とす、切り落とされても触手攻撃は続く。
そうこうしているうちに、他の部隊の魔法攻撃も始まった。
どうやら通常上級風魔法の【上級竜巻突風】のようで竜巻の中は海水交じりの突風竜巻が出来ている。
触手の何本かは他の部隊へも伸びている。
が、こちらへの触手攻撃が一番多い。
気が付くと護衛5人はフル稼働で触手と戦っていた。
クラーケンを見ると、やっぱりこちらを睨んでいるように見える。
最初の火攻撃のせいで俺達をメインの敵としたのかな。それとも【照光】の効果でこっち向いてるだけかな。
見ると、【上級竜巻突風】の効果が終わるタイミングで、もう一つの部隊の魔法攻撃が始まった。
クラーケン上空に岩の塊がいくつも出現し、それが落下しクラーケンにあたっている。
あれは【上級岩石群落】のはずだ。一つの岩が1~2メートルはあるはずだ。
が、なんだろう。サイズ感が違いすぎて小石が当たっているようにしかみえない。
どこまでダメージが入っているのか疑問だ。
他の部隊を見てみると、こちらに攻撃してくる触手よりも本数は少ないはずなのに少しずつ迎撃が間に合わなくなってきているのか、本体への攻撃をしていた弓部隊の攻撃が何度かに一回は触手への迎撃に回っている。
そういえば、ギルドマスターのデンゼルさんの話ではヒゲーズが腕利きだからこちらに回したって言っていた。ということは他の部隊はヒゲーズよりも格下の部分なんだろうか。
クラーケンはこちらを睨んでいるような気がするが、これが気のせいじゃないとするならば最初の火柱が多少なりともダメージを与えたということになる。
であるならば何度か続けてみようかな。
俺は、【上級岩石群落】が切れるタイミングを見計らった
「もう一発【逆上級竜巻突風】だ!!」
上空から海上に打ち付ける竜巻が発生、クラーケンにぶち当たる!
合わせるようにユイが続く
「威力2倍だ!【逆上級竜巻突風】」
上空から打ち付ける竜巻がさらに長くなりかなり上空からの海上へ打ち付ける!
すぐに海水の表面が凍り始めた。
かなり上空の氷点下になる冷たい空気を海上に打ち付けているのだ。
みるみるうちに海水の広い部分が凍っていく。
スルメみたいな顔が海上に出ている部分が凍っていき、動きが無くなる。が、本体へのダメージはどこまで通っているのか分からない。
その証拠に攻撃してくる触手は変わらず動き続けている。
いや、むしろ他の部隊へ攻撃していた触手が減りこちらへの攻撃が増えてきたような気がする!
近くを見ると、ヒゲーズはもちろんカリューさんもサーベルで触手を迎撃しているし、素早い動きで双剣を扱い踊るように迎撃しているラングさん。
でも触手が増えたことでどうも分が悪くなってきた。
他の部隊よりも俺達を優先的に攻撃してきている以上、クラーケンにとって俺達をより敵として認識しているので間違いないだろう。
しかし触手が増えてもまだ耐えているのはライカの【火壁】とかがり火のおかげかもしれない。触手は火のない場所からしか攻めてこないからだ。
だがそれでもこれ以上触手が増えてきたらヤバイかもしれない。
チョビとブショウはいっぱいいっぱいになっているし、他の護衛メンバーもそのフォローに回れないでいる。
俺とユイも周りを見たりはしているが【逆上級竜巻突風】で集中しているんだよね。
ライカも防御のための【火壁】に集中しているのでフォローには回れそうにない。
さって、どうしようか。
もう少しがっつり凍らせてカッチンコッチンにしてやりたいのだけども、完全に凍らせるにはまだ時間がかかりそうだ。
「ぐわっ!」
どうしようか考えていると、チョビさんが攻撃を捌き切れず攻撃を食らって吹っ飛んだ!
「おい!しっかりしろっ!!!」
ラウンドさんがチョビさんに声を掛ける。
どんどん触手が増え、弓部隊も本体へ攻撃せずに触手の迎撃に回っていた。
だいたいクラーケンの触手ってどんだけあんだよ!
普通タコとかイカの化け物なら8本とか10本?じゃないの??
と思っても、実際にバカみたいな数の触手が攻撃してくるのは変わらない。
チョビさんがいたあたりの触手が弓部隊の方面へ攻撃を開始する。
「「【電撃】」」
電撃が当たった部分の触手がはじけ飛び、残った部分は一瞬動きを止めるが、しばらくするとまた動き出す。
俺とユイが片手で【逆上級竜巻突風】を操りながらも、もう一方の手から魔法で迎撃に回る
「わ、わりぃ!」
攻撃を受けたチョビさんが再び戦線に復帰した。が、先ほどのダメージが残っているようで最初ほどの軽やかな動きではない。
とそこに二つの影が割り込み、チョビさん方面の触手をザクザク切り刻んでいく!
「おまたせしました!!」
「またせたにゃ!!」
そこに現れたのは、長い髪の上に犬耳とお尻からふさふさ尻尾がついており軽鎧に身を包んで少女に似つかわしくない剣を装備していた。
もう一人は長い髪の上に猫耳とお尻から長い尻尾がついており軽鎧に身を包んで通常よりも細長い剣を装備していた。
この二人には見覚えがある!
「ジーナ!リンダ!!」
「ひさしぶりにゃ!」
どんどん触手を迎撃しながらリンダが声をかけてくる。
その動きは俺達が知っているころよりもずっと鋭かった。
「やたらと触手がこちらを攻めてきてるんだ。助かった!」
「まだまだこれからですよ」
見るとジーナはチョビさんの防御範囲を超えてとなりにいるブショウさんのエリアまでカバーしていた。
「すまねぇ、助かる」
ブショウさんも結構いっぱいいっぱいだったので本気で助かったようだ。
二人の加勢で護衛部隊全体に少し余裕が出て来た。
「護衛は持ち直した!弓は本体を狙ってくれ!」
ラウンドさんが攻撃を指示する
見ると、他の二つの部隊への触手攻撃はなくなっていた。
たまに弓部隊が凍ってしまった本体ではなく俺達の部隊に攻撃をしている触手の根元あたりに
弓による攻撃をしてくれているようだ。
俺とユイは片手で操作していた【逆上級竜巻突風】に集中しなおして、
上空の冷気を海面に叩きつけた。
クラーケンを中心に冷たい空気が海上を伝わり、島にも届いくる。
周囲をライカの【火壁】とかがり火に囲まれたこの空間は通常よりも気温が高いはずなのに、少しずつ寒くなっていく。
クラーケンの周囲の海上はすっかり凍っているが、海中からこちらに伸びてきている触手は島の近くから地上に出てきており、そのあたりは氷水のようで完全に凍ってはないようだ。
島のところまでがっつり凍れば触手攻撃も出来なくなるだろうに。
しかし、海上に出ているクラーケン本体はある程度凍ったようなので身動きはできないはずだ。
凍っていても顔はこっちを睨んでいるように見えるから怖い。
俺とユイは【逆上級竜巻突風】を止めた。
続いて俺とユイはクラーケンの上空に土魔法で槍を作り始めた。
槍といってもクラーケンに通用するサイズだから直径1メートルくらいはある。
長さは出来る限り長くしてくつもりだが、簡単に折れたら意味がないので強度もかなり必要だ。
それをクラーケン上空100メートル位、俺達の目線よりもさらに高いところに作る。
棒を作り出すのなんて簡単だけど、これだけ距離が離れていてしかも強度も必要になるわけだから結構集中力が必要だ。
こちらの弓部隊はなんとか本体への攻撃を再開させていた。
クラーケン本体の表面は凍っているが、攻撃はそれを貫通して届いているようで氷の内側で小さな爆発が起こっているのが見えた。
凍らせた部分がデカすぎるのでこの程度の小さな爆発では氷が解けることはない。
近くを見ると、護衛部隊がザクザク切り落とした触手がビチビチ動いているのが見えた。
こう見るとかなりの触手が切り落とされているはずなんだけど、いったいどれくらいあるんだろう。
異世界ファンタジーで触手とくれば、子供には見せられないヒロインピンチ展開がお決まりじゃないのか。と思うが、この状況もある意味子供には見せれない。グロいって意味で。
しかし、ジーナとリンダは強くなった。やり手冒険者であるラウンドさん達よりも動きがいいようなに見えし、実際登場してから触手を迎撃した数はかなり多い。
「じゃあ俺達も頑張らなきゃな」
「だね」
ユイとの独り言を交わすと、俺達が作っている槍は長さ100メートルを超えていた。
長さも硬さも申し分ないはずだ!
こいつを奥まで突っ込んでやるぜ!!
「「いっっけーーー!!」」
クラーケン上空に俺達が土魔法で作った槍は思いっきり密度も上げているのでほぼ鉄と化している。
通常落下だけでも十分な威力だろうが、そこからさらに俺達が加速させて海上のクラーケン本体を襲う!
ガリガリガリガリという異様な音を立てながら槍はクラーケンに突き刺さっていった!
槍はクラーケンに突き刺さってもなお、15メートル位ははみ出ていた。
と同時に俺達を襲っていた触手が動きを止めた!
「やったか!?」
それを見たカリューさんが言った。
「それはフラグだよ!なんで言っちゃうの!!」
「フラ・・なんだと?」
「まだ倒せてないってこと!」
と同時に触手の動きが再開した!
「おい!まだ動いているぞ!!」
いやいや、あなたがフラグ立てるから。
まぁ、立ててなくてもこのくらいで倒せたりはしないだろうけど。
慌てて護衛部隊は触手迎撃を再開する。
高台を守るようにぐるりと囲っているライカの【火壁ファイアーウォール】の勢いが少し衰えてきた。
「ライカ、大丈夫か?」
「ボクのほうはまだしばらく大丈夫だよ」
初級魔法とはいえ同時に30個くらい出し続けるのは普通だととてもできる芸当ではない。
それを最初からずっと防壁を張り続けているライカ。かなりの魔力を消費しているはずだ。
「ユイ、やっちゃおう」
「おっけー!」
俺達はまた独り言をつぶやくと、クラーケン上空に向けて再度魔力を込める!
今度は雨雲をかき集める作業だ。するとクラーケンのいる辺りに雨が降り始める。
しかし気温がかなり下がっているので雨はあられとなって降り注いでいた。
雨あられは放置し、俺達はさらに雨雲を集める。
すると濃い灰色の雨雲からゴロゴロと雷の音が鳴り始めた。
「そろそろいいな。いくぞ!」
「おっけー!」
「「【高圧稲妻落雷】」」
ゴロゴロビシャーーーーン!
轟音と共に稲妻が駆け抜けた!
もちろん避雷針のように突き出た槍を伝ってクラーケン本体にダメージが通った。
その証拠に触手もまとめて動きが止まった。
「もう一発!」
「「【高圧稲妻落雷】」」
ゴロゴロビシャーーーーン!
再度、轟音と共に稲妻が駆け抜けた!
「グアッ!」
「ウワッ!」
「ギャッ!」
え?何事?と思ったら動きの止まった触手に攻撃をしていたカリューさん、ジーナ、リンダの3名が本体から触手まで伝わってきた電撃のため一瞬感電してしまったようだ。
「大丈夫か!?」
慌てて声を掛ける
「大丈夫、少し驚いただけ!」
「こっちも大丈夫にゃ!」
「カリューさん?」
「……あ!あぁ、大丈夫だ」
想定外に感電すると一瞬頭が真っ白になる。その状態だったようだ。
「気を付けてください!もう一発いきます!」
今度は一応注意をかけておいた。
「「【高圧稲妻落雷】」」
ゴロゴロビシャーーーーン!
3度、轟音と共に稲妻が駆け抜けた!
と同時に俺達を襲っていた触手がその場で地面に崩れ落ちた。
ライカの【火壁】があるところに崩れ落ちた触手はその場で灰になっていった。
「倒した……のか?」
カリューさんが遠慮がちに聞いてくる。
「いえ、無事ではないでしょうが倒せてはいないと思います」
「そりゃ、あんなバカでかい雷を食らって無事な奴はいないだろうぜ」
ぐったりしながらも、ラウンドさんが呟いた。
「しかし遠距離魔法をこれだけ撃っても倒せないなら、もう接近戦で倒すしかないようですね。これから俺達は直接叩きにいきます。みなさんは戦える状態ではないでしょうから休んでいてください」
とだけ言うと、俺とユイは高台から飛び出た!
すぐ後ろにライカが付いてきていた
「ライカ、大丈夫なのか? 高台で休んでいていいよ」
「まだ大丈夫!【身体機能強化】や近距離魔法ならまだいけるから!」
ライカちゃんカッコイー!
「わかった、無理はするなよ!」
「うん、ありがとう」
「相変わらずですね」
「ライカちゃんには優しいのにゃ」
見るとジーナとリンダもついてきていた。
海のところまで降りてくると、俺達は触手を切っておいた。
これで高台のほうは多少安全になったはずだ。
そして触手がある付近は氷が破られていたけど、少し離れると海面はガッチリ凍っているのでそこからクラーケンに向けて走り出す。
スケートのように滑るには起伏があるため滑れず、普通に走るにしては滑りやすいので走れず。
なんとも移動が難しい地面だけど、なんとか走り抜けてクラーケンの顔までやってきた。
近くで見るとやはりバカでかい。
「こういう力技は私が最も得意とするとこなの!いきます!」
ジーナは身軽にクラーケンに飛び乗るとちょっとした起伏を使ってクラーケンの顔を登っていく。
そして頂上まで着くと剣を構え、大振りの一撃!
ズガーーーーン!!
という音と共に、クラーケンの頭の一部を切り落として見せた!
「力はジーナ程にゃいけど、にゃければ数で勝負できるにゃ!」
今度はリンダがクラーケンの顔を駆け上ると、ジーナと反対側の頭をその細身の剣で突きまくった!
ズガーーーーン!!
という音と共に、クラーケンの頭の一部を切り落とした!
俺とユイも正面から剣を構えると呼吸を整えた。
剣気を帯びた状態にさらに【身体機能強化】をかける。
剣に剣気をを集められるだけ集め、狙いを定めてっと
としている最中で、雷撃で意識を失っていたクラーケンが気が付いたのか目が動いた!
「ちょくちょく睨んできやがって!怖いんだよ!」
狙いを目に定めて力を集めた剣を一振り!
俺とユイの剣から飛び出た剣気の一撃がクラーケンの両の目に着弾!
表面の氷を突き破り、両目ともざっくりと縦に剣筋が深く入った!
ゴゴゴゴッゴゴゴゴッゴゴッゴ
地面の奥から何やら低い音が鳴り始める
意識を取り戻したクラーケンが暴れ始めているようだ。
クラーケンの顔の上ではジーナとリンダが次々に攻撃をして切り落としている。
もがくクラーケンだが、がっつり凍っている海水に動きを封じられて何もできない。
凍っていない海の深い部分は俺達は直接は何もできないが、方法がないわけじゃない!
俺は手をチョーカーに持って行き魔力を少しだけ込める。
するとチョーカーの水印が光り、ウンディーネが現れた!
『ちょっとちょっと今忙しいのに何事よ~?』
なんとまぁ、のんきに出て来たもんだ。
「見ての通り今クラーケンと戦っているんだ。手を貸してくれないか」
『そんな事より今シーマ海で大きな動きが……ってあれ? ここってシーマ海の、バリの近くぅ!? なになに!大きな動きの元凶はあんた達だったの!?』
「違うって、これを見ろよ!クラーケンと戦ってるんだよ!大きな動きも何も、このクラーケンが元凶じゃねーの?」
『あんた達こんなデカいのと戦ったの? バカじゃない? サイズ差を考えなさいよ!あんた達みたいなちっこいのが勝てるわけないじゃない』
「もっと小っちゃいお前が言うな!いや、そんな事より海水を凍らせて動きは封じたんだが、凍ってない深い海のところの触手が何かしてるんだ。動きを止めてくれないか?」
『そうねぇ……どうしようかな。何とかしてあげてもいいけど条件があるわよ?』
「おい、精霊のくせに今すっごい悪い顔してるぞ?」
『だってあんたたちに恩を売る機会なんですもの。ウフフ』
わっるい笑顔だ。
「聞くだけ聞いてやる。言ってみろ」
『あらぁ? そんな言い方? おかしくない~? 助けてほしいのよね?』
殴りたい、この笑顔!
「ど……どうか、条件を聞かせて……くださいませ」
『あらぁ、そこまで聞きたいのぉ? 仕方ないわねぇ。簡単よ、私が合図を送ったらいつものように魔力を送る。あんた達はほっといたらなかなか魔力を送ってくれないんだから。こっちもいろいろ都合があるのよ。だからこっちの都合に合わせて魔力を送るだけよ!バカでもできるでしょ?』
結局魔力が欲しいだけじゃないか。だが、それだけならまぁいっか。
「わかりました。合図があったら送るようにします」
『分かればよろしい。じゃあ、この氷の下の海水を全部聖水に変えてあげるわ!』
言い残してウンディーネは氷の地面の中に入っていった。
あいつ、通り抜けることもできるのか。
聖水になったらどうなるんだろう。触手が動けなくなるのだろうか?
ゴゴゴゴゴッゴッゴゴッゴッゴゴッゴゴゴゴゴ
という足の下から響いてくる低い音は相変わらずだ。
某RPGみたいに、強い魔物に聖水は効かないなんてことはあるんだろうか。
とすれば、全く効果のない事になる。今回はあのバカ精霊に騙されたか?
くそぉ、あの殴りたい笑顔が脳裏を過る。
くっそ、もう考えないようにしよう。
「ユイ、こっちも攻撃を再開しよう」
「そうだね。あいつに頼っても無駄だったね」
剣に剣気をを集められるだけ集め、狙いを先ほどと同じ場所に力を集めた剣を一振り!
ズガッ!!
ブシュウウウウッッ!!
クラーケンの体液が噴出する。
俺達は再度剣に剣気をを集められるだけ集め、同じ場所を狙って攻撃する!
ズガッ!!
ブシュウウウウッッ!!
俺達の頭上、クラーケンにとっても頭上だけど、そこではジーナとリンダが頭を少しずつ削り取っている。
ライカは……あれ?どこだ?
「ライカーーー?」
「はーい?」
声だけ返ってきた。
「どこにいるのー?」
「顔の裏側から攻撃してるのー」
ライカは俺達の攻撃の邪魔にならないように顔の裏側まで回って、後ろから攻撃していたらしい。
なるほど、人間でも後頭部を攻撃されたほうが深刻なダメージに繋がりやすい。
後ろから攻撃するほうがよかったのか!
俺達も後ろ側に回ってみる。
するとライカはクラーケンの後頭部に氷を貫通して中まで達している直径1メートル程の穴をあけていた。
「【火球】」
もはや初級魔法の威力を超え、直径50センチくらいの火の球だ。
その穴に向けて魔法を放つと穴の奥が燃え、そしてより深くまで穿っていった。
と、同時にクラーケン全体が光はじめたかと思うと、クラーケンの周囲に透明な魔法陣が浮かび上がった。
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