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第一章 出会いと始まり

初めての依頼と雑用

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「よし、これに決めたっ!」

 新米冒険者でごった返すギルド内の掲示板にて、勇者ハクが勢いよく紙を切り取った。


 ・受注条件:Fランク以上の冒険者
 ・内容:一角獣3体の狩猟
 ・報酬:持ち帰った戦利品によって変動あり

 この紙は、見ての通り依頼書である。
 ランクとは冒険者の実力を示すもので、基本はパーティ単位で定められる。
 分類はF~SSまでの8段階で、この依頼の場合は最低ランクの冒険者でも受けられる事になっている。

 要するに初心者向けの簡単な依頼ということだ。

「うむ、少し簡単すぎる気もするが……初陣としてはこの程度が無難か」

「……ちょっとアンタ、相手が一角獣だからって舐めない方がいいわよ? 冒険者ってのは最初のクエストが一番危ないんだから――――」

「ハハハハハッ! 全く、いらぬ心配だなっ! 我が覇道にて、一角獣など道端の小石と同じ――――」

「レギ……その油断はちょっと危険……一角獣、怒ると意外に手ごわい……」

「むっ……確かに、そうだな……」

 この数分で、シーラをあしらう術は理解したものの……このフウという少女には、何故だか逆らうことができない。
 少し悔しい気もするが、どこか納得している自分もいるのだから仕方ないだろう。

 それに、先程の血判状騒ぎでは中々良い動きを見せてくれたからな!
 これから手駒にしていくとしても、今は下手に出ておいてやろうぞ!

 心の中で決意を固めていると、待ちわびたとばかりなハクの声が聞こえてくる。

「よーっし! それじゃあ早速……一角獣の待つ”青龍街道”へ向かおう!」

 気合の籠ったハクに釣られ、我ら三人もどこか気持ちを引き締めることができたような気がした。



◇◆◇



 青龍街道はギルドのある、”ファンの町”より東に位置する。
 危険度の低い魔物が多く生息しており、駆け出し冒険者の狩場としては中々に良い場所だ。

 そして、目当ての魔物――一角獣は、街道の隅に生える草木の間から顔を出していた。

「見つけたぜええええ! まずは一匹ィ!」

「キキ―ッ!」

 姿が見えた瞬間、目にも止まらぬ速さでハクが斬りかかる。
 その一撃は見事、急所を貫いたようで……

「キ、キー……」

 大きな角を左右に揺らしながら、一角獣はよろよろと倒れこんだ。
 得意気に表情を緩めるハク。

 ……だが、背後からは一つ……不穏な影が彼に迫ろうとしていた。

「ハクっ! 危な――――」

「たああああああああっ!」

 我が警告の声を上げるより先に、シーラの奴が長槍を突き上げた。
 正に会心の一撃である。

 ハクの背後から迫っていたもう一匹の一角獣は、一瞬の内に絶命していた。

「ふう……大丈夫、ハク?」

「へへっ、助かったぜ! やるな、シーラ!」

 うむ……出会ってまだ間もない筈なのに、見事なコンビネーションだ。
 我の入る隙間など、全くと言っていいほど無かった。

 べ、別に寂しいとか……想像以上に強い二人にしり込みしているとか……そういう訳ではない! 決して!

 ……なんて、自分の中で虚しい言い訳を述べていると――――

「……燃つきえなさい……深淵の炎アヴィス・フレイム……!」

 突如の我の背後で巻き起こる、激しい爆発。
 堪らず振り向くと、そこには横たわった一角獣の死体が存在していた。

「……レギ……ちょっと気を緩めすぎ……一角獣は群れで行動するから……完全に気配が消えるまで警戒しないと…………ダメ」

「ぐっ……すまん……」

 どうやら、危ないところをフウの魔術で救われたらしい。
 と、言うか……

「よっしゃ! 依頼達成、早いもんだなっ!」

 ハクがガッツポーズでアピールするように、この依頼は達成されてしまったのだ。
 ……我が手を加えるまでも無く。

「ぷぷぷ……散々息巻いてた癖に……ぷぷ……何もしないで終わっちゃったわねえ」

 先程からシーラのアホから飛んでくる煽りが鬱陶しい。

「ふん、この程度……我が手を下すまでも無かったというだけの事……無暗に手の内を明かさぬのも、強者が強者であり続ける条件であるのだ! ハハハハハハッ――――」

「ハイハイ、それは分かったから……アンタ、せめて素材の剥ぎ取りくらいはやってよね?」

 ふふっ……やはり来たか、噂で聞いていた”治療術師に対する雑用の押し付け”!

 気の弱い治療術師たちは、皆この雑用を経て……やがて追放に至るのだ。
 我の情報網を舐めるなよ……シーラ、貴様の思い通りにはさせん!

 我が答えは一つだ!



「我は断じて、雑用などせんぞおおおおおおおおお! ハハハハハハ!」



◇◆◇



 悠々と草原で寝そべる我の前で、他のパーティメンバーが黙々と夜の準備を始めていた。
 どうやら、今日はこの青龍街道で野宿するらしい。

「……ったく、あいつ……本当に何もしないつもりなのね……!」

 遠くでシーラのアホがぼやいているが、聞こえない振りが一番だな。
 勿論、罪悪感など微塵も感じないぞ。
 うむ。

「……っと! …よっ……あっ……」

 左手の方向から、何やら危なっかしい声が聞こえてきた。
 どうやら、フウが薪割りを行っているようだ。

 しかし、身の丈に合わない斧をめちゃくちゃに振り回しているだけで、非常に危険である。
 それに、他のメンバーも各々の準備で忙しいようで、助力は期待できないだろう。


 ………………


「フウ、ちょっといいか?」

「…………レギ? どうしたの? フウ……今これで忙しいから……」

 何もしないと決めていたのに、つい声を掛けてしまった……
 が、先程までとは打って変わって弱気な声に、つい身体が動いてしまう。

 気づくと、フウの手から強引に斧を取り上げていた。

「……レギ、返して……それは――――」

「少し……硬いな、それに……形も良くない」

「…………え?」

「こういう時は斧よりも楔を使ったほうがいい」

 我が愛用の魔道具・次元の大袋から楔を二つ取り出し、ハンマーで打ち込む。
 小気味良い音を響かせながら沈んでいく楔を、フウはただ、目を丸くして見つめていた。

 そして……

「ふっ、ざっとこんなものだな」

 ある程度まで行ったところで真っ二つに割ってやると、丁度いい薪が完成する。
 と、同時に……

「……ありがとう」

 小さい声だったが、確かに……フウの口から聞こえてきたものだった。
 うむ、やはり人を助けるとは言い気分である。

 もう絶対にしないがな!
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