絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-30)

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ファルス「取り逃がして申し訳ありません。」

ファルスが床に膝を付き頭を深々と下げる。

ララ「悪いのはファルスではありません。ファルスは私を守る為に…」

ララはファルスを庇うようにファルスの前に立つ。

ファルス「いいえ。私の失態です。すべて私の油断が招いたこと…。どうか処罰は私だけに…!」

ララ「いいえ。私が足手纏いなのがいけないのです。どうか私を処罰して下さい!」


ここは神聖教会の応接室。

件のウィルフレッド・フローディア侯爵の訪問に、ララとファルスは入室するなり、茶番のようなこのやり取りを始めたのだった。


ウィル「いったいこれは何なんだろうね?ジェイド君?」

応接室の正面の長椅子に座って脚を組み優雅に紅茶を飲む深緑の髪と瞳の美青年ーウィルフレッド・フローディア侯爵は、呆れた目で傍らに立つ側近に話しかけた。

ジェイド「さぁ?」

闇色の髪と瞳の黒いスーツに身を包んだ側近ージェイドも呆れた顔をしていた。

神官長「あの…。この者達もこう申しております。犯人を取り逃がしたのは、警護責任者でもあるファルスの責任。どうかファルスのみの処罰でお許し下さい。聖女にはまだ救わねばならない者が大勢おりますので…」

ウィルの正面の長椅子に座る神官長も、わざとらしく頭を下げた。

ウィル「どうやら勘違いをしているようだ。私は2人を処罰するつもりはないよ。聖女も高位冒険者も国の宝だ。今日は孤児院の視察のついでに2人に詳しい話を聞きに来ただけなんだけどねぇ。」

ジェイド「お立ち下さい。」

ララに手を差し伸べるジェイド。

ララ「え…?」

戸惑いながらも、ジェイドの手を借り立ち上がるララ。目線は神官長とウィルとの間を泳いでいた。

ウィル「どうやら、この茶番は神官長の主導のようですね。」

ウィルは微笑んだが瞳の奥が笑っていない。

神官長「い、いえ。そんなことは…。フローディア侯爵様の名を語った犯罪者を取り逃がしたのですから、その者は処罰されて当然ですので…」


ウィル「私は国の宝を処罰する気はないと言っているのに…。仕方ない。どうしても処罰がお望みのようだから、監督責任ということで、神官長の首を持って帰ることにしようか?ねぇ?ジェイド君。」

ジェイド「御意。」

ジェイドは瞬時に神官長の背後に周り、その喉元に短剣を突きつける。

ファルスも全く反応出来ない速度だった。
神官長を守るつもりもないが。

神官長「ひっ!ひぃ…。お助けを!」

神官長は慌てて部屋を飛び出していった。


ウィル「まったく。冗談だと言うのに…。挨拶どころか、ドアすら閉めないとはなんと礼儀のなっていない男だろうね。」

ウィルがララにウィンクをしてみせた。

ジェイド「閣下…。聖女様を口説くのはやめて下さい。」

ジェイドはドアを閉めながら呆れて溜息をついた。

ウィル「まぁ、掛け給え。」

ララ「失礼します。」

ウィルに促されララは素直に着席するが、ファルスはララの後に立ったまま控えた。

ウィル「それでは、私の名を語ったと言う男の話を聞かせて貰えるかな?」

ララは先日の経緯を順を追って話しはじめた。ただどうしても男性器のあたりの説明になると羞恥から口籠ってしまうため、その部分はファルスが代わって説明した。

ウィル「その男はこんな顔じゃなかったかな?」

ウィルはシェリルが魔道写真機で撮ったランスの写真をテーブルに置く。

ララ「大分遠目の写真ですが、おそらく同一人物かと。」

ウィル「間違いないね。ジェイド君」

ジェイド「そうでしょうね。」

ウィル「ぶっ…ふふふふ。あははは…」

ウィルは思わず吹き出してしまい、慌てて口を押さえるが耐えきれず大笑いしてしまう。

ウィル「魔狼だってさ。かっこいいよね。」

ひとしきり笑った後、目から涙を拭う。

ウィル「因みにララ嬢はその犯人の男性器は治したのかい?全身の傷を治療したんだったよね?」

ララ「いいえ。あの…。上半身にのみ怪我をしていたので、上半身にしか力を流してないんです。」

ウィル「聞いたかい?ジェイド君。聖都まで来てこんなに頑張ったのに治してもらえなかったんだってぇ。ぶっ…」

また大笑いしてしまうウィルにララ達は状況が飲み込めず、目が点になってしまう。

ジェイド「閣下。そろそろ説明を。」

ウィル「あー。ごめんごめん。まぁ、その男は爆炎の騎士ランスロットと言うC級の冒険者で…ぶっ!魔狼に食い千切られた男性器を元に戻すのが目的で間違いないから、私の名前を悪用するつもりはおそらくないだろう。だから、君達2人が気に病む必要はないよ。私は社交界でも色男で有名だからね。そこそこイケメンの彼がなりきるのにちょうどいいと思ったんだろう…。だけど、私の方がずっとイケメンだと思わないかい?ララ嬢?」

ウィルはじっとララを見つめた。

ララ「っ!あのっ。その通りです。」

ララは顔を真っ赤にして俯いた。

ウィル「ふふ。ララ嬢は可愛いねぇ。ララ嬢因みにお芝居に興味はあるかい?」

ララ「あの…。恥ずかしながら…生まれが裕福でないはなくて…。それに教会に来てからは個人の自由もないもので…。今まで1度も見たことがないんです。でも、すごく興味はあります!」

ウィル「なら、私がララ嬢の初めてをもらっても?」

ララ「あの…」

ララは再び茹でダコになって俯く。

ジェイド「閣下。誤解を生む言い方をいい加減改めませんと、刺されますよ。」

ウィル「はいはい。わかったよ。ジェイド君。では、今人気のお芝居はどうだろうか?」

ララ「人気の!?ひょっとして『侯爵令嬢の冒険』ですか!?」

ウィル「ご名答。」
 
ララ「全くチケットが取れない。とお聞きしますが…」

ウィル「おかげ様でそのようだねぇ。」

ララ「??」

ウィル「その侯爵令嬢と言うのが、私の愛娘でねぇ。愛娘が実体験を元に書いたお話しなんだよ。すごいよね。私の天使は可愛いだけじゃなくて、こんなに才能があったなんて…。この間、可愛いくおねだりされ…」

ジェイド「閣下。だだ漏れです。そして脱線してます。」

ウィル「ちょっと位シェリルちゃんの可愛いさを語ってもいいと思うんだけど…。明日の夜に追加公演をさせよう。楽しみにしてておくれ。」

ララ「ですが…あの。私来て行くドレスを持っていなくて…。」

ウィル「気にしないで、私に任せてくれればいいから。では明日に遣いの者をやろう。」

ララ「あっ。ありがとうございます。お待ちしております。」

ウィル「では、また明日。」

ララ「はい。」

ジェイドはさっと扉を開け、ウィルフレッドは颯爽と部屋を後にした。



ララ「すごい…。キラキラした方でしたね…。明日、愛人にして下さらないか頼んでみようかしら…。」

ファルス「あのお二方は元S級です。私より遥かに強い…。あの方々が聖女様を守って下さるなら心強いのですが…。もし逆だった場合、私では太刀打ち出来ません。」

ララ「そんなにお強い方だったのですね…。」

ファルス「明日も油断だけはなさらないで下さい。何かあればご自分の回復を最優先に。」

ララ「わかりました…。」
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