絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-29)

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門番「急患です!道を開けてください!」

神官「聖女様をお呼びしろ!」

今朝の教会は、担ぎ込まれた重傷者によって喧騒に包まれていた。

重傷者はすぐに、門番達によって急患用の手押し車に載せられ、治療希望者達のいる旧聖堂へと運ばれた。

女性など、配慮が必要な場合には個室へ運び込むこともあるが、それ以外の重傷者は大抵、この旧聖堂で治療することになっていた。

それは、治療希望者達に重傷者の回復する姿を見せて、聖女への信仰を高める狙いであったが、この旧聖堂で生活する期間が長い者にとっては、『また一枠減った。』と、また回復までの期間が伸びることを意味しており、胸の中に何かが蓄積していくのを感じている者が多いのが事実だった。

門番達は旧聖堂の1番奥の舞台下の開けたスペースに手押し車をとめて、聖女の到着までに状態確認を行う。


運び込まれたのは黒髪の男性で、帯剣をしていることから冒険者のようだ。

上半身に怪我をしているようで、上着を脱ぎ服を割いてキズの手当てをしたのであろう、上半身は裸で、腕と肩、腹部に布が巻かれており、血が滲んで赤く染まっていた。
出血量が多いのか、気を失っており、顔色も悪い。

門番「飲み屋の裏で倒れていたそうです。」

神官「失礼します。」

神官達はキズの状態を確認するため、巻かれた布をハサミで切り、傷口を確認する。

神官「うわっ。結構深いな…。」
 

「なんだあの傷。アイスピックでやられたのか?」

「飲み屋の裏って、酔っぱらいのケンカかよ。」

「色男じゃねぇか。痴情のもつれか?どうせ自業自得だろ。何でこんなやつが優先されんだよ。」

順番を割り込まれた治療希望者達は、運び込まれた男の顔を一目見て文句を言ってやろうとあつまり、手押し車の周りは人集りになっていた。


ララ「急患はどんな状態ですか。」

聖女が到着し、人集りで見えなくなった後から声をかけた。

神官「聖女様が到着されたぞ。道を開けろ。」

神官が人集りをかき分け道をつくり、聖女を促した。


神官「上半身を数か所、細く鋭い物で貫かれているようです。腹の傷は臓器に達しているかも知れません。」

ララ「まぁ。それは大変ですね。急いで治療を…」

ファルス「聖女様」

急いで駆け寄ろうとするララを制し、ファルスは聖女に耳打ちする。

ファルス「昨夜の犯人です。」

ララ「えっ!?でも髪の色が違いますよ?」

ファルス「魔道具で変えていたのでしょう。傷も私の武器と一致します。それに剣が昨日身につけていた物と同じです。間違いないでしょう。」

ララ「では、どうしましょうか。治療しないと死んでしまいますし…。」

ファルス「捕らえて治療後に例のウィルフレッド・フローディア侯爵に突き出しましょう。門番に武器を取り上げ、手を縛るように伝えます。聖女様はこのままここで待機を。」

ファルスが門番に耳打ちをすると、すぐに黒髪の男ーランスの体を横向きして剣を抜き取り、後ろ手に縛りあげた。

「?」

「なんだ?」

いつもと違う様子に治療希望者達が騒いだ。


ファルス「聖女様は私の後に。私の脇から手を出して、あの者の肩に触れて治療を。」

ララ「わかりました。」

ララはファルスの後に庇われて、その脇から少し身を乗り出して手をランスに伸ばした。

ファルスはランスに少しでも不審な動きがあれば、斬るつもりでショートソードに手を掛けている。

ララ「光よ!この者に癒しを!」

ララが触れた腕から順番に光がランスの体に巡り、露出されていた腕や肩、腹の傷がどんどん埋まって何事もなかったかのように平坦になった。

聖堂での治療の儀とは違い、室内を暗くしていないため見えにくいが、ランスの体を包む光はゆっくりと消えていった。


ファルス「っ!!!」

聖女を抱え後方に飛ぶファルス。

ランスの足がその空を掠め、その反動で跳ね起き、すぐさま手首を縛る縄を燃やした。

得意の気絶した振りで口内で詠唱を終えて、タイミングを測っていたのだ。

スナッピングタートルの件で縄を何度も燃やしたため、魔力操作はほぼ完璧に出来、火傷を負わずに済んだ。

跳ね起きた勢いのまま、ランスは自分の剣を持った門番をタックルするように押し倒し、自分の剣を奪い返す。

すぐさま、治療希望者の人集りの中に突っ込み、ファルスが昨夜のように武器を投げられないように、途中治療希望者を引き倒して盾にしながら外まで逃げ出した。
治療希望者達はほとんどが四肢のいずれかを欠損しており、素早く動作することは難しく、ファルスの追跡を困難にさせた。


 
…ファルスはララを守るため、離れて追って来ることはないだろう。

ランス「やった!!やったぞ!」

教会の敷地を抜け出し、聖都の街の路地裏へと逃げ込んだ。

…ララは肩に触れただけで、腹や腕の傷まで治したんだ。きっと…

ランスは期待を胸にズボンの前を寛げ中を確認した。

ランス「う…ウソだろ…。」

ランスはあまりのショックに壁に持たれかかり、ずるずると崩れ落ちた。




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