絶望のフェリス

笠市 莉子

文字の大きさ
上 下
31 / 37

C級の絶望(1-27)

しおりを挟む
コンコン コンコン

ランスは夜8時、教会の明かりが消えているのを確認して門をノックした。
門番は巡回しているのか見当たらない。

ランス「聖女様はいらっしゃいますか?」

分厚い木で出来た門に向かって小声で呼びかける。

聖女「はい。こちらにおります。少々お待ち下さい。」

しばらくすると閂を外す音がして、門が内側に少し開いた。

その隙間からスルリと聖女が現れると、すぐに門は閉じられ、閂がかけられた音がした。

ランス「??」

…護衛は??
 
疑問に思っていると、ゆうに3メートルはある門を飛び越え、音もなく男が着地した。

…護衛か?すごい身体能力だな…。もし、戦闘になったら梃摺りそうだな…。まぁ、上級冒険者を教会が雇えるはずないだろうから、俺の方が強いだろうけど。


ランス「では。こちらへ。よろしくお願いします。」

聖女「はい。」

宿の方へと案内を始めた。

…黙って縦に並んで歩くのも、おかしいよな…? まだ酔っぱらいなんかもいっぱいいる時間だし…

ランス「聖女様のお名前はなんとおっしゃるのですか?」

お忍びなのに、聖女様と呼んでいては意味がないので、ランスが小声で聞いた。

聖女「ララです。彼はファルス。お子さんの心臓病を治療したのをきっかけに、教会に勤めてくれるようになりました。」

ランス「私のことはウィルとお呼び下さい。」

聖女「ウィルさん。このワンピースありがとうございます。とても可愛いくて、嬉しいです。」

ランス「女性の好みは良くわからないので、街で人気の物をお願いしただけなんですけど…。よろこんで頂けて良かったです。」

ララ「すごくいい生地ですよね?着心地がすごく良くて…。修道服に戻るのが嫌になりそうです。」

ララは屈託のない笑顔を見せた。

その後も他愛もない話をしながら宿まで歩いた。



宿はヴィラタイプで、人払いを頼んでおり、誰にも会わずに部屋まで入ることが出来た。

ランス「では、奥の部屋にご案内しますので、ファルスさんはこちらで待機をお願いします。」

ファルス「…」

ファルスは何も口にしなかったが、頷いたため、理解してくれたようだ。

ランス「ララさん。お願いします。」

ランスは奥の部屋の扉を開けて、ララに先に入るように促した。

ララ「はい。」

ララが先に室内に入りランスが続いて後ろ手にドアを閉めた。

ランス「こちらへ。」

ランスは広い部屋の奥の方へとララを連れて
行く。

ランス「 実は嘘をついていたことをお詫びしなければなりません。」

ランスはファルスに聞こえぬように、小声で話し始めた。

ララ「どういうことでしょうか?」

ララは少し後退り、警戒の色を浮かべた。

ランス「治療して頂きたいのは私なのです。」

ララ「…。そんなことでしたか。構いませんよ。」

ララは安堵した様子だった。

ランス「ですが…治療して頂きたいのは男性器なのです…。魔狼に食い千切られてしまって…。」

ララ「まぁ!それは大変でしたね。では…あの…。私からのお願いも聞いて下さいませんか?」

ランス「私で出来ることなら。」

ララ「ウィルさん。いえ…ウィル様は貴族でいらっしゃいますよね?」

ランス「えっ。ええ…。」

ララ「では、私を囲って下さいませんか?」

ランス「それは?どういう意味でしょうか?」

ララ「私は10歳の時、ある日突然聖女の力に目覚め、両親に教会に売られたのです。」

ランス「突然?」

ララ「ええ。神官長が言うには、前の聖女が男性と関係を持って、突然力を失ったのだと。それで躍起になって新しい聖女を探していたそうです。」

ランス「…」

ララ「今もずっと私が働いたお金はすべて両親に支払われ続けています。私は処女を奪われることのないように夜は囚人のように監禁されて…。朝は早くから監視つきで信者の為に祈りを捧げたり、布教活動や奉仕活動…こんな生活もうウンザリ!!」

よほど腹が立っているのか、言葉遣いが乱れていた。

ランス「それはさぞお辛いことでしょう…」

ララ「そうなんです!!あのデブ!!こんな風に私を使って私腹を肥やして、自分は高級娼館に入り浸ってるくせに!!文句を言っても、私には監禁部屋に安い酒が差し入れされるだけ!!それ以上を要求すると、暴行されて…。だから私は日に5人治療出来るのに、自分を治療するために、毎日3人までにあいつが制限して…」

ランス「それはひどい…」

ララ「だからお願いです。私を連れて逃げて下さい。そして、ウィル様のお屋敷で保護してほしいのです…。」

ランス「ぐっ…。」

…俺もこれから保護してもらえる貴族を探して、口説かなきゃならないのに…。保護なんて出来る訳がないし…。だが、逃亡中にララがいて怪我がすぐに治せるのは、めちゃくちゃ魅力
的だ…

ランス「!!!」

…ララの兄の振りをして、国王に教会の実態を説明して、保護を求めれば…王名の元に聖女が治療を行なうようになれば、聖女信仰も国王支持に取り込むことが出来る!!それに兄である俺も保護を受けられるはず、このままウィルとして生きていけば、ランスとして処刑されることもなくて…ひょっとして最高のカードなのでは…?

…ここは本当のことを話した方が無難だな…

ランス「すみません。ララ。本当のことをお話ししなければなりません。」

ララ「?」

ランス「私は実は、貴族ではないんです…」

ララ「へ?」

ランス「実は上級冒険者なんです。貴族の振りをして、ギルドカードで金を借りて振り込みました…。」

ララ「はあ!?」

ララの声には明らかに怒気を孕んでいた。

ランス「ですが、ララ。私と一緒に逃げて国王陛下に保護を求めませんか?道中私がお守りしますから!」

ララ「はぁ。軟派な貴族様だと思ったから、愛人として迎えてもらって、贅沢三昧出来るかと思ったのに…。国王の元に行ったって結局働かされるんじゃない!」
 
ランス「今よりいい暮らしは出来るはずです!」

ララ「そんなことわからないじゃない!それにあなたと助けを求めたところで国王陛下にお目通りが叶うかどうかすら怪しいもの。もういいわ。帰ります。」

ランス「そんな!私の治療は?」

ララ「借金まみれの冒険者なんでしょう?残りの礼金もどうせ踏み倒すつもりだったんでしょう?そんなヤツ治す必要ないわ。神官長にもそう伝えておしまいよ。」

ランス「なっ!!なら金返せよ!!」

ランスはララの腕を掴んだ。 

ララ「知らないわよ。私の元には一銭も入ってこないんだから!!」

ランス「お前が治せばいいだけの話だろ!!」

ランスは己のズボンを下げ下半身を剥き出しにして、掴んでいるララの腕を近づけた。

ララ「きゃー!!襲われるー!!ファルス!!助けて!!」



ダン!!ダン!!


壁から衝撃音がしたかと思うと、ランスはララを掴んでいた腕に痛みと熱を感じてララを掴んでいた腕を思わず離す。

ランスの腕には頭のない五寸釘のような金属が突き刺さっていた。


ドアを破壊し駆け寄るファルス。
ララもすぐにファルスの後に隠れた。


…壁越しに正確に俺の腕を狙いやがった!!ヤバい!!こいつ格上かっ!



バリィィィン


ランスはズボンを引き上げながら、奥の窓を窓枠ごと破壊して、外へと飛び出し走る。

ダン!!

ダン!!

ダン!!

ランスの走る経路を壁を貫きながら攻撃するファルス。

ランス「くっ!!」

…ファルスはララの身を守るのが最優先のはず。離れれば追ってこないはずた!!

全弾命中したが、幸い足には当たっておらず走れる。ランスはただひたすら走り続けた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...