絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-25)

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義足の青年の治療の儀がその日の最後の儀式だったため、観覧者は早々に教会を後にしていった。

皆、蜘蛛の子を散らしたかのような急ぎようだったため、何かあるのかと門番に聞くと、今は繁忙期のため宿はどこも早く埋まるので、安い宿の争奪戦なのだと言う。

ランスも慌てて参戦したが、惨敗で宿代1万ベリーを支払うこととなったが、そのおかげで豪華な海の幸尽くしの夕飯に舌鼓をうち、ふかふかのベッドに気がつくと意識を溶かされてしまい、朝食の時間だと呼ばれるまで、ぐっすり眠ってしまった。

…まずい…。指名手配されてたら、こんなに爆睡したらアウトだろう…。ちゃんと神経を張り巡らせないと…

ランスは朝食を食べるとすぐにチェックアウトをして教会へと向かった。


門番「礼拝ですか?」

ランス「治療の相談に。」

門番「では、あちらの建物の中へどうぞ。」

門番は礼拝の順路とは反対方向の古い石造りの礼拝堂の方へと促した。

ギィ

軋む扉を押して中に入ると、すぐに受付の神官らしい青年が声をかけてきた。

青年「治療のご相談ですね。」

ランス「はい。」

青年「まず、ご説明させて頂きます。」

と前置きをしてから受けた説明によると、現在治療は順当に行っても3~5年待ち。石碑に名前を記し治療が済むと名前が消されるため、順番が来るまで定期的に訪問して確認するか、魔導通信で確認してもらうことも出来るらしい。順番が来ると訪問から数日の間に治療が受けられるそうだ。

数年も待つことが出来ない程衰弱している場合は優先して治療をするそうだが、その判断は奥にいる神官が行うとのこと。

そして重症ではないが、少しでも早く治療を希望するものは、教会での奉仕活動を条件にこの礼拝堂に滞在することを許され、重症者がいない日には1人。順番が来た者の再訪がまだなければ1人。と治療を受けることが出来るらしい。
見渡すと通路の左右にある長椅子で生活しているであろう人々の荷物が置かれていた。

青年「では、あちらの神官が詳しい状態をお伺いします。お好きな方にお並び下さい。」

そのまま進んだ中央の通路の先に、神官が2人おり、その前に順に治療希望者達が並んでいた。

どちらもほぼ同じ長さだったため、ランスは小太りな方の神官の列に並んだ。

前にはもう既に20人位並んでいて、教会の朝は早く、完全に出遅れたな。と反省して長時間待つ覚悟をしていたが、2時間とかからず、神官の元まで辿り着いた。

神官「見たところ五体満足のようですが、どなたか身内の方のご相談ですか?」

ランス「いえ。私です。実は服で見えないところの肉を魔狼に食い千切られまして…。」

名誉の負傷だと見栄を張るランス。


神官「ではその部位を確認します。重症であれば早く治療させて頂きます。」

ランス「他の方の目もありますのでここでは…」

ランスは言葉を濁し、小太りの神官の手に1000ベリーの紙幣を握らせた。

神官「わかりました。この先に今は使われていない告解室がございます。そちらで確認いたしましょう。」

小太りの神官はニヤリと下卑た笑みを浮かべ、先程の受付の青年を呼んで列の対応を変わらせた。


神官「どうぞ。」

ランス「はい…」

案内された告解室は暗く狭かった。

神官「少々お待ち下さい。」

そう言って、壁の方に向かってゴソゴソとすると、ランプに火が灯り、告解室内を照らした。

神官「それで?私に金を握らせたのは、順番を早めてほしいと言うことですか…?」

また先程と同様の下卑た笑みだ。

…単純に大勢の人がいる中でチン◯を出す訳に行かなかった訳だが…ありがたいことに、これは使えるな…。

ランス「今は手持ちが余りありません。いかほどご用意すれば、お助け下さいますか?」

神官「聖職にある私がそのようなことを堂々と申し上げる訳には…」

ランス「幸いここは告解室です。罪も懺悔すれば許されましょう。先程の10倍では?」

神官「では50倍で。」

ランス「すぐに用意いたします。明日お持ちしても?」

…やった。これですぐに治療が受けられる!それにしても、この神官なかなかやり慣れてるな…。5万ベリー+治療費1万ベリー。一般家庭の平均月収3カ月分だ。大抵の者が頑張れば出せる金額。それで失った手足がすぐ取り戻せるんだ。感謝こそされても恨まれることはない。ボロい商売だな…。羨ましいくらいだ。

神官「それでは、明日苦しそうに門番の肩を借りて入って来て下さい。ああ。冷や汗をかいていた方が信憑性が増します。顔に水でも被ってから来て下さい。」

ランス「さすがですね。」

ランスは苦笑いを浮かべた。

神官「それでは、念のため状態を確認させて下さい。」

ランス「お恥ずかしい話、戦闘で魔狼に喰い千切られまして…。」

名誉の負傷だと見栄を張りながら、背を向けズボンの紐を緩めるランス。

…腿か尻でも食いちぎられたのだろうか…

神官が息を飲む。

ランス「すぐに医学院で手術をしてもらったのですが、半分になってしまったのです。この気持ち、同じ男ならわかりますよね?」

ランスは下半身を露呈させて、小太りの神官へと向き直った。

小太りの神官の目に映ったのは、目深にフードを被ったまま、下半身を露呈させる…紛れもない変態だった。

神官「なっ!」

ランス「お静かに!」

大声を出しかけた神官の口を慌てて押さえるランス。

ランス「だから、人目がある場所では見せられないと言ったのです。チン◯を食い千切られたんですよ!」

神官「嘘をつくな!変態め!ただの短小ではないか!食いちぎられたと言うならそんな短いだけの普通の型のはずなかろう!!」

医学院での再建手術を行った医師は多くの学生に慕われゴッドハンドと言われる程の腕前だったらしい。
短い以外違和感がないそれはあまりにも出来が良く、信じさせることが出来なかった。

神官「さては貴様!聖女を穢そうと!力を奪うつもりだな!えっ!衛兵っ!」

…それならこんなところでチン◯見せてないだろ…

ランスは呆れながらも、叫ぼうとする小太りの神官の後に周り、口を塞ぎながら締め落とした。

ランス「すまないな。」

気を失った小太りの神官を椅子に座らせて着衣を整え、居眠りをしているかのように頭を壁に凭せ掛けた。

…賄賂を受け取ろうとしてたんだ。俺のことは公言しないだろう…



…穢れると力を失うか…聖女様に色仕掛も無理だな…となると、リスクは高いがあの作戦をやってみるしかないか…



ランス「はい。では、また3年後に確認に参ります。わかりました。そう伝えます。」

そう言いながら告解室の扉を開け中に向かってお辞儀をした。その後、先程交代させられた青年の神官に声をかけた。

ランス「すみません。先程の神官様が具合が悪いので、少し休むとおっしゃってました。」

青年「また…あの人は…。わざわざありがとうございます。気をつけてお帰り下さいね。」

青年神官はいつものことだと言った調子で呆れて溜息をついた。

ランス「ありがとうございます。」

ランスは聖堂の軋むドアを開けて、冒険者ギルドへ向かった。






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