絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-20)

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シェリル「なんだか外が騒がしいですね?」

お風呂を手早く済ませたシェリルが2階から降りてきて、窓の外を覗いた。

シェリル「あの失礼なおじさん達にお仕置きしてるんですね。フェリスさんさすがです。」

なぜかシェリルが誇らしげにする。

アイシャ「あんなに大きいなんて思わなかったわ。」

フェリス「そうなんだ。私も今まであんな大きさの亀の類を見たことがなくて。あそこまで大きくなったのは、あの個体のみだったけど、半分程度のはゴロゴロいたよ。」

アイシャ「おかしいわね。スナッピングタートルは最大でも50センチ位なのに…。」

フェリス「そうなんだ。何十年経ったって普通あそこまで大きくなんないよね。あそこの川溜まりに何か秘密があるに違いなくて…。」

アイシャ「そうね。あの川溜まりが出来たのは確か3年前の水害が原因だったわね。3年でそんなに大きくなるとも思えない…。」

フェリス「そうなんだ。3年前に出来た割には、周りの木々の樹勢も良すぎるし、水もめちゃくちゃキレイなんだよ。土壌なのか…水草なのか…分からないけど新たな成分の発見があるんじゃないかと思う。」


アイシャ「センターギルドに報告して調査してもらいましょう。あの川溜まりはカナートが1番近いし、うちで所有権を主張するわ。きっと畜産とか色んな分野で役に立つはずよ。」

フェリス「調査で王都からたくさん人が来るだろうし、この宿も人でいっぱいになるだろうね。今孵ってるスナッピングタートルは全部狩っといたから、すぐにでも調査で潜れるよ。」

シェリル「そのために、スナッピングタートルを全部打ち上げてたんですね。フェリスさんすごいです。」

アイシャ「すごいわ。フェリ。」

フェリス「いや。キャリーの防具作るついでだよ。だけど、この町を去る前に、みんなに恩返しができそうで良かったよ。」

アイシャ「フェリ…。早速明日町長に話して、センターギルドに報告するわね。」

アイシャは涙ぐみながらフェリスに抱きついた。

フェリス「じゃあ、シェリルも戻ったし。乾杯しよ?」

アイシャ「そうね。シェリルさんもビールでいいかしら?」

シェリル「あっ。はい。お願いします。」



アイシャ「は~い。どうぞ~。」

アイシャは3人分のビールを持って戻った。

シェリル「ありがとうございます。」

フェリス「それじゃあ」

『かんぱ~い!』

カチンとジョッキを合わせた後、3人は一気に飲み干した。

アイシャ「いい飲みっぷりねぇ。ピッチャーで持って来ないと大変そうね。」

アイシャは苦笑いして、奥からピッチャーに入ったビールとツマミを持って戻ってきた。

シェリル「あの。アイシャさん。お風呂と服ありがとうございました。」

アイシャ「いい服じゃなくて申し訳ないんだけど。」

シェリル「いえ。すごく助かりました。あの…。フェリスさんにお借りしたマントを洗ってお返ししたいのですが。洗濯場をお借りできますか?」

フェリス「ああ。気にしなくて大丈夫だよ。それ。浄化の魔法が組み込まれてるから、振るだけで汚れが落ちるし。」

シェリル「え!?すごい。初めて聞きました。」

アイシャ「私も初めて聞いたわ。」

フェリス「そう?シェリルのお父さん考案でね?高位冒険者は結構持ってるんじゃないかな。この服もシェリルのお父さんの冒険用の服もそうだし。」

アイシャ「でもそれってすごく高そうね。」

フェリス「たぶんね。耐魔法効果もついてるから。こうゆうアイテムの力もあって、高位冒険者でいられる訳ですよ?冒険中の快適さは、体力の温存にも繋がるからね。」

フェリスはそう言いながらマントを受けとり、振るってアイテムボックスへとしまった。

シェリル「ありがとうございました。」

フェリス「どういたしまして。」

アイシャ「シェリルさん。確認が遅れちゃったけど、回復薬は足りてるかしら?服が破れるほどだったなら大きな怪我をしたんじゃない?あいにくここには初級ポーションと毒消し位しかないんだけど…。持ってきましょうか?」

シェリル「いえ。大丈夫です。あの…。服は破けたんじゃないんです。あの…。聞いてくれます?」

アイシャ「ええ。もちろん。」

シェリルはまたジョッキを一気に空けて話し始めた。

シェリル「最初は優しくてすごく恰好良かったんです。おじさんに絡まれてたの助けてくれましたし。野兎ヘアーの捌き方を丁寧に教えてくれて、山羊ゴートから守ってくれて、魔法も教えてくれて…。あぁ。私の処女をあげるならこの人しかいない。って思ったんです。それで…」

3杯目をまた煽るシェリル。

シェリル「2人でなんとかスナッピングタートルを1体討伐したんです。フェリスさんが討伐したほどは大きくなかったんですけど…。何とか倒せて。その時はその1体しかいないと思ってたので、その…。盛り上がってしまって…。」

フェリス「あー。」

アイシャ「まぁ。討伐後に盛り上がって…。っていうのはよくあることよね。」

シェリル「それでその…しようとしてたところに、フェリスさんが討伐したすごく大きいスナッピングタートルが現れて、なす術もなく逃げてたんです…。」

恥ずかしさを隠そうと、またもジョッキを煽るシェリル。

フェリス「だから、2人で全裸で走って来てたのね…。まぁ、そんなことだろうな…。とは思ってたんだけど。」

アイシャ「それは災難だったわねー。」

シェリル「災難どころではないんです。そいつスナッピングタートルから逃げ切れないと思うと、私を犠牲にして、1人だけ生き残ろうとしたんですよ。」

アイシャ「最低ね!!」

シェリル「そうなんです。その時にフェリスさんが颯爽と現れて、助けてくれたんです。フェリスさんすごく恰好良くて。」

フェリス「どうも。」

フェリスは照れくさそうにして、ピッチャーからビールを注いだ。

シェリル「それで、そいつがフェリスさんの馬を盗んで逃げようとしたので、フェリスさんがボコボコにしたんです。」

アイシャ「それで救護要請したの?」

アイシャがフェリスを非難するように見る。

フェリス「それだけなら、自力で何とかさせるよ。シェリルがトドメに子ガメにチン◯齧らせたんだ。」

アイシャ「ぶっ!!!」

アイシャが吹き出した。

シェリル「あっ!私が言おうと思ってとっておいたのにー。フェリスさんひどいです。」

シェリルがポカポカとフェリスを叩いた。

フェリス「あはは。ごめん。まぁ、そんなわけで、触って状態確認とかも嫌だしさ。救護隊にお願いしようかな?って。多分あれは壊死してるね。」

シェリル「最低の変態野郎には当然の報いです。因みに写真も撮ってあるんですけど、見ます?」

シェリルはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、アイテムバッグから写真を取り出した。

アイシャ「え!?見せて見せて!」

フェリス「何度見ても笑えるわ。」

シェリル「ですね。」

アイシャ「やだー。きもーい。」

3人は写真を指差して大笑いした。

アイシャ「あー。思い出した!救助要請の!!"爆炎の騎士"!!だからなのね。要注意人物だったから、マウビルのクエスト申請者の照会の時、受付嬢がやけに淡々としてて、ちょっと疑問だったのよねー。普通C級以上の冒険者って、ギルドとしては損失なのにって。きっと手を焼いてて、ザマァミロって思ってたのね。」

シェリル「え?その要注意人物って何ですか?」

アイシャ「あれ?知らない?マウビル周辺の新人の女性冒険者には、注意喚起があるはずなんだけど…?」

シェリル「え?」

アイシャ「まさに、シェリルさんみたいに、おじさんかチンピラに絡まれてるところを恰好良く助けて、クエスト手伝ってあげるよって、いい人の振りをして一緒に旅に出ちゃうの。悪質なのが、パーティ申請を出さずに行っちゃうのよ。パーティ申請を出しに行くと受付嬢が止めるから、全部僕がやってあげるよー。って、事後報告にしちゃうの。何もなければいいけど、シェリルさんみたいなことがあって、万が一還らぬ人になってしまったら、こちらは何も把握出来ないから、タチ悪いわよね。」

シェリル「え??」

シェリルは変な汗がでてきて、落ち着かない。

アイシャ「"爆炎の騎士"はヤリ捨て目的で新人冒険者の女の子を喰い物にしてるのよ。惚れさせて、合意の上で関係を持つから処罰のしようがなくて…。強盗とか強姦だったら、逮捕とか資格剥奪も出来るんだけど…結局注意喚起止まりなのよね…。」

シェリル「…」

アイシャ「実際、都会の方だと、新人の女性冒険者を強姦して、持ち物を奪う事件なんかも多いのよ。だから、特に女性には慎重にパーティメンバーを選ぶようにデビューの時にしっかり説明するのよ。シェリルさんは内容忘れちゃったかしら?それともどこか遠くで登録したの?」

シェリル「いえ…。マウビルです。初回の説明を聞かずに逃げてしまいました…。お父様がA級冒険者で色々聞いてたから…すっかり分かった気になってて…。私、マウビルを出る時から騙されてたってことですか!?」

アイシャ「残念だけど…。」


シェリルは沸々と込み上げる怒りに顔を赤くして、またビールを煽り、グラスを叩きつけるように置いた。

シェリル「おかわりください。」

アイシャ「でも未遂ですんで良かっじゃない。スナッピングタートルに感謝よね。関係を持った後にお家を強迫されたご令嬢も過去にいたのよ。」

シェリル「え!?」

今度は自分の軽率な行動に顔を青くする。
またヤケになってビールを煽り…


シェリル「あの…私…ちょっと休憩室に…。」


フェリス「そこの通路の突き当たりを左~。」

フェリスがお手洗いの場所を伝える。

シェリル「ありがとうございます。」

フェリス「ん。いってらっしゃい。」


シェリルは慌ててお手洗いに駆け込む。


アイシャ「余計なこと言い過ぎたかしら…?」

フェリス「いいや。世間知らずの家出娘にはあれ位でちょうどいいんじゃない?冒険者は諦めて帰るでしょ?」

アイシャ「だといいけど…。」

フェリス「シェリルちょっと遅いね?」

アイシャ「大きい方なのかしら…?」



30分ほど待ってみてもシェリルは戻らず、お手洗いのドアをノックする2人。

フェリス「シェリルー?大丈夫?起きてるー?」


シェリル「すん…すん…。」

中からすすり泣く声がした。

フェリス「どうしたの!?」

シェリル「えーん。フェリスさーん。排泄しようとしたら、すごく痛くて…。」

フェリス「あー。膀胱炎か膣炎だね。」

アイシャ「アルコールで消毒しなかったの?怪我した時とかそうゆう時に、手を消毒するためにアルコールが携行推奨品になってるのに…?」

シェリル「知らなくて…。全部飲んじゃいました…。」

フェリス「あーらら。」

アイシャ「今から毒消し草煮出しておくわね。痛みが引くまで2.3日かかるかも知れないけど…。」

シェリル「アイシャさん。ありがとうございます。」

フェリス「まぁ、ゆっくり戻っておいで。」



シェリル「…うぅ。この恨み晴らで置くべきか…。」

シェリルは俯き独り言のように唸った。
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