絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-17)

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「かはぁっ!!」

ランスは咳き込んで目を覚ました。
唾を吐き出すと血が混じっている。


…やばい…なんだあれは?化け物なのか?まさか、A級とC級にここまで実力差があるなんて…。どうする?どうすれば助かる?


ランスは辺りを見回した。

馬と2人の足跡は川溜まりへと向かっていた。


…逃げるなら今しかない。1番近いのはカナートか?…小さい町だし、医者もいなかったはずだ…。着いてから馬車を頼んで、ステラに行くかマウビルに行くか…。それが1番だよな…

…でも待てよ…。"絶望のフェリス"が来たのはたしかカナートの方角…。もし、カナートかステラに滞在してるなら、"絶望のフェリス"が先に馬で帰ると、俺が後から歩いて辿り着いた時鉢合わせする可能性もある…

…もしかすると、断罪されたりするんだろうか…。シェリルを犠牲にしようとしたし…。あの娘多分高位貴族の令嬢だしな…。生き残ったのが誤算…。ああ…"絶望のフェリス"が来なければ、こんなことにならなかったのに…。パーティ申請も出してないから死んだって、俺のせいだなんてバレなかったのに…。ヘタしたら死刑だよ。クソッ…。マジで絶望じゃねぇか…


…やっぱりカナート方面はナシか…。かといって、今まで散々C級として恰好つけて来たのに、この恰好でマウビルに帰ったりしたら、笑い者だしな…

…どうする?2人に土下座して赦しを乞うか?必死に頭を下げれば赦してくれるだろうか…

…ひとまず、隠れて様子を探るか…?
もし機嫌が良さそうなら…

ランスは川溜まりの方へと、音を立てないように、気配も殺して忍び寄り、木陰に隠れて様子を伺う。


…ん?フェリスは川溜まりでスナッピングタートルの駆除か?シェリルはテントを張ってた場所を片付けてる?


………



…あれ?

今なら2人とも馬から離れてるし、奪えるんじゃ?俺が先に馬で出てしまえば、歩くしかない2人と鉢合わせすることなくステラまでいける!!



ランスはフェリスの馬へそっと忍び寄った。


「あっ!!」

バチィィィ



シェリルが声をあげるのと雷が落ちるのがほぼ同時だった。


「またっ!性懲りもなく!!」


シェリルがこちらに向かって怒鳴っているのが遠くに聴こえ、ランスは目の前が真っ白になり、自分の身体が崩れ落ちていくのを感じていた。






…ん?

手に触れる柔らかい感触と背中の鈍い痛みにランスは目を覚ました。

…ん?縛られてるのか?どうする抵抗するか?でもなー。手にシェリルの胸あたってるし…もうちょっとこのまま感触を…シェリルはお嬢様だし…きっと簡単に抜けられるだろ…。大丈夫。大丈夫…


…ん…なんか…ちょっと…ヤバいな…今まで縛られるとか経験なかったから…これはちょっと…アリ…かも…







…あー!今反応したらヤバいって俺!死にかけると、生存本能が高まるってヤツなのか?討伐後に楽しもうと思って、この5日間溜めてたけどさぁ…。よりにもよって、全裸…!誤魔化しようがない時に…




シェリルは縛る際、気絶して脱力した状態ではなく、少し抵抗があった気がして、また気絶した振りをしているのかと、ランスの顔を覗きこんだ。
 

…ヤバい。シェリルさん…目の前にしゃがんでふとももチラリは、もう完全にー…


ランスは深呼吸で落ち着かせようとするが…


シェリルに肩を掴まれ、身体を返されるのに身を委ねるしかなかった。


「きゃあ!!変態っ!!」


シェリルの蹴りが鳩尾に入る。

「ゔぅお!!」

反射的に声が出てしまったが、フェリスの様子がわからない以上は、気絶した振りが妥当と判断し、ランスは薄目で周りの様子をバレないように伺いながら、気絶した振りを続行した。

「フェリスさ~ん!!」

…ヤバい!フェリスが来たら確実終わる…。あっ、落ち着いたわ…



…シェリルは何してるんだ?
…見えないな…?





シェリルが再び戻って来たが、一緒にフェリスがいないことに、ランスは安堵した。



…助かった…



シェリルはくの字に横たわったままのランスの肩を踏みつけるようにして仰向けにした。



…ちょっ…もう中…見えそうだし…


シェリルは再びランスの下半身が反応して起き上がるのを見て、ランスが気絶した振りをしていると確信した。

「ほんっとに変態ね。まぁ丁度いいわ。」

蔑むような視線を向け、肩を踏む足をグリグリと捻じるように強く踏みつけてから、俯いて顔にかかった髪を振り払いながら、シェリルは背中を向けた。  


…ヤバい…もっと…蔑んで…罵って…
…えっ?丁度いいって何?アレ足元の方にいない?クソッ…死角で見えないんだよな…えっ!?もしかして、今まで触ったことも見たこともないお嬢様だから、興味津々でいじってくれたりとか……?

ランスは期待に胸を高鳴らせた。





バシュッ
「い゛っ!!!!!!」


…なんだこれ!!なんでこんな!亀が俺のチン◯を!!

…ヤバい!死ぬ死ぬ死ぬ…@#$&#@/"

…ハァハァ、ロープ何とかしないと…手が…

ランスは藻掻き、腕を引き抜こうとするが、ロープは全く緩まなかった。

…なんだこのロープ!?ビクともしない!?なんだ?この木???


…い゛い゛っ!!更に噛みやがった!!
ヤバい…死ぬ死ぬ死ぬ…シェリル!!

「なぁ。シェリル。シェリル助けて…。頼む!お願いだから、とって…とって…。お願い…シェリル…」

「助ける訳ないじゃない。私殺されかけたもの。それに、その位では死にませんことよ。」


……フェ…フェリス!!助けてくれ!!
 

「フェリ…フェ…フェリス様、た…たすけ…」

ゴツ!

「うるっさい」


こめかみに衝撃を感じた瞬間、目の前が真っ白になった_____ 




「んっ!!」

ランスは息苦しさで目覚めた。

…苦っ…。

口の中には咀嚼も出来ない程、ギチギチに草が詰め込まれ、吐き出そうと下を向いただけでは出て来なかった。手が使えず、舌を使って押し出し、やっとすべて吐き出すことが出来たが、口の中が苦くて仕方なかった。


「なんだったんだ?嫌がらせだったのか?」


ランスは首を傾げる。

ふと視界に亀が映り、まだ噛み付いたままだったことに驚愕する。

「ヤバい!!」

…痛みを感じない?噛まれた部分が壊死してるのか?

恐ろしい疑念が頭を擡げ、背筋が寒くなった。

…早く何とかしなければ!!

ランスは急いで立ち上がり、使える物がないか、辺りを見回した。

冒険にランスが持参したものは何も見つからず(シェリルがすべて燃やした)、木や岩しか目に入らなかった。

…岩に打ち付けるしかないか…

ランスは岩まで走り、体当たりをするように、股間を打ち付けた。


「い゛い゛っ!!!!!」


ランスは転がり回って悶絶した。


…痛みがある!!◯◯タマは無事だ!!

僥倖だった。


スナッピングタートルを観察するも、その甲羅にはキズもついておらず、まだ噛み付き離そうとしない。

…岩に打ち付けるのは、こちらのダメージがひどくてもう無理だな…ロープを何とかするしか…

岩や枝に擦りつけてみるが、解れる様子はない。


「!!!」

名案が思いつく。

…ファイヤーボールで焼き切ろう!!俺のファイヤーボールでもその位なら出来るはず!!

「我乞い願う、火の精霊よ。我を縛りし縄を燃やし給え。ファイヤーボール」

ふよふよと浮くファイヤーボールに手を突っ込み、縄を焼く。

「あちっ!あちちっ!」

手と背、尻に火傷を負いながら、3度目のファイヤーボールで何とかロープを焼き切る。

「よし!!」

ランスはスナッピングタートルの頭を掴んで口を開けようとする。なんとか口を開くとスナッピングタートルは更に深く喰おうと喰い付き、またランスは悶絶した。

頭を切り落としたいが、切れる物がない…

ふと転がる石が目につき、ランスはそれを握ってスナッピングタートルの甲羅を無心で何度も叩続けた。

甲羅が割れ、内臓が飛び散った。

「やっ…やった…」

スナッピングタートルの息の根が止まり、安堵から気が緩んだのか、ランスは目の前が白み意識を手放してしまった…


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