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C級の絶望(1-15)
しおりを挟む…ふふん。きっと薄目でこちらの様子を確認してるわね。
シェリルはそう読んで、魔導写真機とスナッピングタートルを両手に持ち、ランスの死角となる足元からそっとランスの元に戻った。
魔導写真機のスイッチにしっかり指をかけ、確実に写真が撮れるようにスタンバイして__
ランスの下半身にスナッピングタートルの口を近づけ思いっきり噛みつかせた__
バシュッ
「い゛っ!!!!!!」
ランスはフラッシュのせいなのか、痛みのせいなのか、頭が一瞬真っ白になり、悶絶する。
後ろ手に縛られ、体験したことのない痛みによる悶絶で思うように、身体を起こすことができない。
「ひっ、ひぃ…。」
必至に痛みを逃がそうと、呼吸しながら藻掻く。
その間にも
カリカリカリカリ
シェリルは歯車を回して写真を引き抜き
バシュッ
カリカリカリカリ…
何度も写真を撮った。
「うふふ。おかしい~。あー。最高~。」
写真が切れるまで悶絶するランスを撮り続けて、シェリルは満面の笑みを浮かべていた。
やっと起き上がったランスは泣いていた。やっと起き上がることが出来ても、手を後ろ手に縛られているため、自分ではスナッピングタートルをどうすることも出来ない。何とかしようにも、痛みで混乱していい案が浮かばない。ランスは懇願する他なかった。
「なぁ。シェリル。シェリル助けて…。頼む!お願いだから、とって…とって…。お願い…シェリル…」
シェリルに近づき、懇願するランス。
「助ける訳ないじゃない。私殺されかけたもの。それに、その位では死にませんことよ。」
そう言って蔑むような目で見下ろすシェリルの姿は、悪役令嬢そのものだった。
「!!」
ランスは歯を食いしばり、痛みに耐え、必至に方向を変え、今度はフェリスの方へと向かう。
「ふ…ふぇ、フェ、フェリス…フェ、フェリス様、お願いです。お願い、助けて…ひっひっ、助けてー!」
ランスは必至に大きな声でフェリスに助けを求め、駆け寄る。
「フェリ…フェ…フェリス様、た…たすけ…」
ゴツ!
「うるっさい」
フェリスの元に膝をついて、助けを乞おうとするランスのこめかみを、フェリスがうっとおしそうに剣の鞘でついた。
ランスは脳が揺れそのまま横に倒れ、気を失った。
スナッピングタートルはまだしっかり喰らいついていた__
「あはは。フェリスさん最高すぎます。」
シェリル可笑しすぎて、目に涙を浮かべていた。
フェリスは全く眼中にない様子で、今だスナッピングタートルの厳選を続けていた_
「よし。これに決まり!!」
フェリスは厳選に厳選を重ねた最高の一匹を太陽に翳した。
ぐぅ~
集中が切れた途端、腹の虫が鳴きだし、朝から何も食べていないことを思い出したフェリスは、厳選した最高の一匹を締めてアイテムバッグに入れ、ウォーターボールで手を洗って、焚火の方へと向き直った。
ぐにゅ
足元が柔らかい。
「なんだこれ!?」
全裸で股間を亀に噛まれた変な色の生き物を踏みつけ思わず声をあげる。
「元はイケメンだったなんて、嘘みたいですよね。」
シェリルは討伐証明の写真と見比べ、鼻で笑った。
「え!?イケメンだったの?フ◯チンで全力疾走してくる、キモいヤツとしか認識してなかったわ。すぐに前歯折れてたし。」
フェリスはシェリルの持っている写真を覗きこんだ。
「あはは。見る影もないね。誰がどう見ても変態だし!」
「本当にそう。」
ひとしきり笑った後、フェリスがシェリルの頭をぽんぽんと撫でて
「朝ごはんも食べてなくて、もうお腹ペコペコなんだけど。一緒に焼魚食べない?」
「頂きます。」
焚き火へと向かう最中
「じゃあはい。」
フェリスがアイテムボックスからスキットルを取り出し、差し出した。
「あ。あの、でもグラスも何もなくて…」
シェリルが戸惑っていると
「?ああっ。違う違う。こうだよ。」
とフェリスは自分の手にアルコールをかけて、手指の消毒をした。
「子供がいるからついね、ご飯の前には手を綺麗にしようね。って言ってるからさ。スナッピングタートル触ってるから、さすがに消毒したくてねー。」
「!!本当そうですね。フェリスさんすみません。消毒の前に私にもウォーターボール出してもらえませんか?もう魔力切れで自分で出せなくて…」
「いいよ。」
すぐさま目の前に、ウォーターボールが現れ、シェリルは手を突っ込んでしっかり丁寧に洗って、アルコールをかけて貰った。
「じゃあ、早く食べよー。もうお腹減り過ぎて死にそう。」
フェリスが足早にシェリルの背中を押して焚き火の近くに座らせた。
「はい。どうぞ。」
フェリスは串を2本とって、1本をシェリルに手渡し、自分の串にすぐさま齧り付く。
「ん~~。おいしい。」
フェリスは満面の笑みを浮かべて、更に一口頬張る。
「すごい!とっても美味しそう!」
シェリルはフェリスの笑顔と串に目を輝かせた。
しっかり化粧塩され、中骨を縫うように串を打たれた魚は、遠火でじっくり焼かれ香ばしい匂いがしていて、食欲をそそる。
見よう見真似で齧りつくと、皮はパリっとして、身はしっとりふわっとしていた。
「ん~!!!」
シェリルはあまりの美味しさに足をバタつかせ、言葉を失う。
フェリスが4本。シェリルが2本を黙々と食べつづけた。残りの4本をシェリルが観察していると契約精霊が手にとっているのか串が浮いていて何かがキラキラと輝き、魚の身はどんどんなくなっていった。
「コーヒー飲む?それとも紅茶にする?」
美味しい魚でお腹がふくれ、ぼんやりするシェリルにフェリスが声をかけた。
「コーヒーが飲みたいです。出来ることなら抽出ポットをよく見せてもらえますか?同じもの作りたくて…。」
「ん。どうぞ。」
シェリルはポットを受け取りじっくり観察した後に、淹れ方を教えてもらい、食後のコーヒーブレイクを満喫した。
その後、フェリスは積み上げたスナッピングタートルを処理すると言って、討伐した巨大スナッピングタートル同様に竜巻で圧縮して魔石に変えた。
その間シェリルは、フェリスに許可をもらい、テントの残骸や散乱していたランスの服や靴、自分のローブなどを焚き火に放りこんだ。
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