絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-12)

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「??」

シェリルは死を覚悟して、目を強く閉じていたが、身体の何処にも痛みを感じない。

…上手く丸飲みされたのかしら?…

目を閉じたまま思案していると




「大丈夫?」

女性の_フェリスの声が頭上から聴こえ、シェリルは恐る恐る片目を開ける。

目の前にはこちらに手を差し伸べる金髪紅眼の女性フェリスがいた。


シェリルは身体を隠しながらも、フェリスの手を取り立たせてもらう。

「そのローブはあなたのでしょう?着ないの?」

先程ランスともみ合った時に、掴んでしまっていたローブが足元にあった。

裸よりはマシなのだが、つい先程自分を殺そうとした人間の股間に巻かれていたと思うと、自分のローブでも気分がいいものではない。

「・・・」

シェリルがローブを拾うのを躊躇ってしまっていると

「こんなもので良ければ貸そうか?」

フェリスがアイテムボックスからマントを取り出し手渡す。

「ありがとうございます!」

シェリルの顔がぱぁっと輝き、笑顔で受け取るといそいそと身体に巻き付けた。

その様子を見て、フェリスはシェリルの背後に周り

「ごめんね?」

そう声をかけるとマントを剥ぎ取り、目にも止まらぬ速さで巻き直す。

布の両端を持ち胸の前あたりで交差させたあと、首の後ろで結ぶ。

パレオの巻き方だ。

「あっ。すごい。これなら動き易いですね。ありがとうございます。」

くるりと回り、パレオの着心地を確かめ、笑顔でお礼を言うシェリル。

「どういたしまして。」

シェリルの笑顔につられて、フェリスも笑顔になった。

フェリスの凛々しい笑顔にシェリルは少し顔を赤らめ下を向くと、ふと自分がスナッピングタートルに喰われかけていたことを思い出した。

「あの…?スナッピングタートルは?」

恐る恐る聞くと

「ああ。もうすぐ戻ってくるかな?」

フェリスはシェリルの後方に視線を送った。

シェリルはすぐにフェリスの視線の先を追うと50mほど先には、ひっくり返った体勢から藻掻き、首を使って身体を返そうとするスナッピングタートルがいた。

「どうやってあんなところまで?」

「ん?蹴っただけだよ?」

フェリスはこともなげに答えた。

「えっ!?蹴ったって…」

半信半疑のシェリルに

「ちょっと待ってて。」

フェリスは微笑み、馬の方へと戻った。

その先にはこっそりと馬に近づこうとするランスが見えた。

「なっ!何をやってっ…!」

シェリルの大声にランスは一瞬バツが悪そうに振り返ったが

「もう。こっちのもんだ。」

捨て台詞と共に微笑み、馬に跳びのろうと跳躍した__



バチィィィィ


空気を切り裂く閃光と雷鳴の後
ランスは馬の手前で地面に墜ちた。
フェリスの放った雷に打たれ気を失ったのだ。


「え??」

自分の目を疑うシェリル。

その横にランスの後頭部を鷲掴みにしたフェリスが戻る。

「えっ?えっ??」

無詠唱魔術の次に、大の男を片手で余裕で引き摺ってくるフェリスの行動に、驚きっ放しのシェリルに

「見ててね?」

フェリスはにっこり微笑むと___


ランスを上に投げ上げ、ボールを蹴るかのように、腹部を蹴ってスナッピングタートルにぶつかるよう飛ばしてみせた。


「おっ!咄嗟にガードしたな!やっぱり気絶したフリしてたか。」

フェリスの蹴りが入る直前、ランスは両手で内臓をガードしていた。

「まぁ、4本てとこかな?」

フェリスは蹴った方の足をコキコキと動かしながら感触を確かめていた。




「ぐっはぁあ」

スナッピングタートルにぶつかり、地面に落下したランスは四つん這いになり、胃の中のものを吐き出した。

「はぁ。はぁ…腕と肋骨いかれた……」

そう言いながらも、口を拭いよろよろと立ち上がる。

…スナッピングタートルが起き上がったら襲われる。あの女も俺を敵視してる…。出来る限り、2人とは反対方向に逃げなければ…

ランスは必至にフェリス達とは反対方向に走り出した。



「!!」

ランスは前方に転倒する。

それでも逃げようと身体を起こすと、目の前には微笑む金髪紅眼の鬼がいた。

フェリスがランスの足を払い転倒させたのだ。

フェリスはなんとしても逃げようとするランスの足を何度も払い、転倒させ続けた。

スナッピングタートルは既に起き上がっていた__


「なぁ。頼むよ…。冒険者同士の争いはご法度だろ。馬を盗もうとした俺が悪かった。謝るから。頼むから、助けてくれ…。」

ランスはひざをついたまま起き上がることが出来ずにべそをかき、フェリスに懇願する。

「貴様の理論に基づけば、少しでも強い者が生き残ればより多くの命が救えるのだろう?では私のために貴様は犠牲になってくれ。私はA級なんだ。」

「A級…。剣と槍…。金髪紅眼…。ひょっとして…ぜっ…"絶望のフェリス"…?」

「正解だ。貴様を絶望の縁へと叩き落としてやろう。」

フェリスは軽くランスをスナッピングタートルの方へと蹴飛ばし、ゆっくり剣を抜いた。

「最後に選ばせてやろう。生きたままスナッピングタートルに齧られるか、一思いに首を刎ねるか、どちらがいい?」

フェリスが艶然と微笑む笑顔は刃物のように鋭く冷たく、ランスは身震いをした__













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