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C級の絶望(1-10)
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「う…ん…」
シェリルはランスに与えられる快感になぜだか集中出来ずにいた。
…どうして…
…何がダメなんだろ…
…なんで集中できないの…?…
…ん………ん?…
自分の中で何かが警鐘を鳴らしている気がして、シェリルは揺蕩っていた意識を浮上させる。
馬のいななき…
蹄の音…
「ランスさんっ!大変です!!馬達が騷いでます!!」
慌ててシェリルが上体を起こした。
「ヤバい!剣外に置きっぱなしだ!」
ランスもすぐに起き上がり、近くにあった服を自分の腰に巻き付け、飛び出した。
…それ私のローブなのに…
シェリルは、ランスの後ろ姿を避難がましく見つめながらも、毛布を身体に巻き付け、天幕の隙間から外を覗いた。
「きゃぁ!!!」
繋いでいた手綱を強引に引きちぎったであろう、馬達が半狂乱でこちらに突進してきている、シェリルは着の身着のままで飛び出して避けるしかなかった。
馬達は天幕をなぎ倒し、ロープを身体に絡めてもなお、走りつづけた。
天幕は中身ごと引き摺られて いってしまった。
…一体何があったの?…
「!!!」
シェリルは目に映った光景が信じられなかった。
先程戦って倒したスナッピングタートルがその数倍は大きい、人も丸呑み出来そうな程の大きさのスナッピングタートルに喰い千切られている。ランス達が刃が立たなかった皮膚も甲羅も物ともしていない。
「そんな!?うそよ…。」
シェリルは腕を抱えて震えていた。
「シェリル。逃げるよ。」
スナッピングタートルに気付かれないように剣を取って戻ったランスがシェリルの手を引いた。
「でもっ!討伐対象なんじゃ?」
シェリルはあまりのことに目が離せず、足も氷のように動かない。
「シェリル。あれは無理だよ。眼孔から狙っても剣が脳まで届かないどころか、一撃でも受けたら確実に死ぬ。ここは引くしかない。」
ランスは頭を振った。
「でも、ランスさんは"爆炎の騎士"で、まだ魔法も使ってないじゃないですか…。火力調整する必要ないんですよ?倒せますよね…?山羊だって一気に燃えあがったんですから…。」
シェリルは恐怖に足が震え、寒くもないのに奥歯がカチカチと音をたてた。
ランスは黙って頭を振る。
「シェリルが逃げないなら、僕はいくよ。」
ランスはシェリルの手を離して歩き出す。
「ねぇ!ちょっと待ってっ!魔法で倒してってば!ねぇっ!!」
シェリルがランスに縋りつく。
「シェリル!静かにして!見つかるから!僕の魔法じゃダメなんだよ!」
ランスはシェリルの手を引き剥がそうとする。
「そんなことゆったって、この川溜まりから離れたら荒野ばっかりで、隠れるところなんてないじゃないですか!!何度でも燃え尽きるまで燃やし続けるしかないじゃないですか!!」
「だから!無理だって言ってるんだよ!!俺は魔法なんて使えないの!たまたま枯れ草が燃え広がっただけで、"爆炎の騎士"とか呼ばれてずっと迷惑してたんだ!!山羊の時だって、よく燃えるように油撒いてたんだよ!!」
しつこくしがみつき食い下がるシェリルに苛立ちランスが大声で怒鳴った。
スナッピングタートルの目がギロリとこちらに向き、身体をゆっくりとこちらへと方向転換させた。
「え…?そんな…嘘よ…。だって、ランスさん私に魔法教えてくれたじゃないですか?」
スナッピングタートルがこちらに向かって足を踏み出しはじめ__
「俺が何度も教わって来たことをそのまま言っただけなんだよ!俺はどれだけやっても、小さなファイヤーボールしか撃てないんだよ!!我乞い願う、火の精霊よ。我らの敵を燃やし給え。ファイヤーボール」
ランスは草野球のボールのように、目一杯振りかぶって投げた___
ジュッ
スナッピングタートルの鼻先に当たるも、マッチを水につけたかのような音と共に、スナッピングタートルの粘膜によって簡単に消火されてしまった。
スナッピングタートルの皮膚には傷1つつけることも出来なかったが、ランス達を敵と認識するには充分だったようで、攻撃しようと、首を勢いよく伸び縮みさせながら、顎を鳴らして跳ねるようにこちらへ歩みを進め出した__
__2人は全力で逃げるしかなかった。
全力で逃げ続ければ、スナッピングタートルとの距離は縮まることはなかった。
…水棲生物なんだ、荒野を逃げ続ければいずれ諦めるはずだ。こちらの体力が尽きるのが先か…スナッピングタートルが諦めるのが先か…
ただ走り続けるしかなかった。
瞬く走り続けて、川溜まりのオアシスがかろうじて肉眼で見えるかどうかの距離まで逃げていた。スナッピングタートルはいまだ諦めておらず、50mほど後方で顎を鳴らしている。
『!!!』
逃げる前方に女性冒険者の姿が見えた。
馬を降り、手綱を岩に結ぼうとしている。
…馬っ!!僥倖だっ!!これで助か…
「逃げてー!!そこの方!!こっちは危ないわっ!!!」
シェリルが叫んで、女性冒険者に警告する。
「なっ!!」
…せっかく馬で逃げられるチャンスなのに!!!…
ランスがシェリルを睨みつけ、シェリルが
それ以上叫ばないように、シェリルの腰に腕を回すようにして捕らえ口を押さえた。
「ゔん゛ん゛ん~!!!」
走る勢いが捕らえられた腹部にかかり、圧迫感から息が漏れた。
口を塞がれ言葉にならない。
シェリルが身体に巻いていた毛布が外れ、足を取られて、ランスと絡まり転倒する。
スナッピングタートルとの距離は半分に縮まっていた_
ランスは絡まるシェリルを剥がしてすぐに起き上がり、走り出そうとする。
「いやっ!置いていかないでっ!」
シェリルはランスに縋りつく。
「悪いけど、底辺F級はここで喰われて時間を稼いでくれ。C級の俺が生き残った方がより多くの人間を救えるんだ…。」
ランスはシェリルをスナッピングタートルに向かって突き飛ばした。
シェリルの身体が後方に倒れていく_
その瞬間をシェリルはスローモーションで感じていた。
…ああ…。私はここで死んでしまうのね…。
まさか初めての冒険で命を落とすなんて…。こんなことになるなら、お父様の忠告をちゃんと聞いておけば良かった。それに全裸で死んじゃうなんて、馬鹿みたい…。でもまぁ、食べられてしまうから、お父様にはこんな死に方だなんてバレないか…
シェリルは自分の滑稽な死に様を想像して笑ったが、その頬には涙が伝っていた。
シェリルはランスに与えられる快感になぜだか集中出来ずにいた。
…どうして…
…何がダメなんだろ…
…なんで集中できないの…?…
…ん………ん?…
自分の中で何かが警鐘を鳴らしている気がして、シェリルは揺蕩っていた意識を浮上させる。
馬のいななき…
蹄の音…
「ランスさんっ!大変です!!馬達が騷いでます!!」
慌ててシェリルが上体を起こした。
「ヤバい!剣外に置きっぱなしだ!」
ランスもすぐに起き上がり、近くにあった服を自分の腰に巻き付け、飛び出した。
…それ私のローブなのに…
シェリルは、ランスの後ろ姿を避難がましく見つめながらも、毛布を身体に巻き付け、天幕の隙間から外を覗いた。
「きゃぁ!!!」
繋いでいた手綱を強引に引きちぎったであろう、馬達が半狂乱でこちらに突進してきている、シェリルは着の身着のままで飛び出して避けるしかなかった。
馬達は天幕をなぎ倒し、ロープを身体に絡めてもなお、走りつづけた。
天幕は中身ごと引き摺られて いってしまった。
…一体何があったの?…
「!!!」
シェリルは目に映った光景が信じられなかった。
先程戦って倒したスナッピングタートルがその数倍は大きい、人も丸呑み出来そうな程の大きさのスナッピングタートルに喰い千切られている。ランス達が刃が立たなかった皮膚も甲羅も物ともしていない。
「そんな!?うそよ…。」
シェリルは腕を抱えて震えていた。
「シェリル。逃げるよ。」
スナッピングタートルに気付かれないように剣を取って戻ったランスがシェリルの手を引いた。
「でもっ!討伐対象なんじゃ?」
シェリルはあまりのことに目が離せず、足も氷のように動かない。
「シェリル。あれは無理だよ。眼孔から狙っても剣が脳まで届かないどころか、一撃でも受けたら確実に死ぬ。ここは引くしかない。」
ランスは頭を振った。
「でも、ランスさんは"爆炎の騎士"で、まだ魔法も使ってないじゃないですか…。火力調整する必要ないんですよ?倒せますよね…?山羊だって一気に燃えあがったんですから…。」
シェリルは恐怖に足が震え、寒くもないのに奥歯がカチカチと音をたてた。
ランスは黙って頭を振る。
「シェリルが逃げないなら、僕はいくよ。」
ランスはシェリルの手を離して歩き出す。
「ねぇ!ちょっと待ってっ!魔法で倒してってば!ねぇっ!!」
シェリルがランスに縋りつく。
「シェリル!静かにして!見つかるから!僕の魔法じゃダメなんだよ!」
ランスはシェリルの手を引き剥がそうとする。
「そんなことゆったって、この川溜まりから離れたら荒野ばっかりで、隠れるところなんてないじゃないですか!!何度でも燃え尽きるまで燃やし続けるしかないじゃないですか!!」
「だから!無理だって言ってるんだよ!!俺は魔法なんて使えないの!たまたま枯れ草が燃え広がっただけで、"爆炎の騎士"とか呼ばれてずっと迷惑してたんだ!!山羊の時だって、よく燃えるように油撒いてたんだよ!!」
しつこくしがみつき食い下がるシェリルに苛立ちランスが大声で怒鳴った。
スナッピングタートルの目がギロリとこちらに向き、身体をゆっくりとこちらへと方向転換させた。
「え…?そんな…嘘よ…。だって、ランスさん私に魔法教えてくれたじゃないですか?」
スナッピングタートルがこちらに向かって足を踏み出しはじめ__
「俺が何度も教わって来たことをそのまま言っただけなんだよ!俺はどれだけやっても、小さなファイヤーボールしか撃てないんだよ!!我乞い願う、火の精霊よ。我らの敵を燃やし給え。ファイヤーボール」
ランスは草野球のボールのように、目一杯振りかぶって投げた___
ジュッ
スナッピングタートルの鼻先に当たるも、マッチを水につけたかのような音と共に、スナッピングタートルの粘膜によって簡単に消火されてしまった。
スナッピングタートルの皮膚には傷1つつけることも出来なかったが、ランス達を敵と認識するには充分だったようで、攻撃しようと、首を勢いよく伸び縮みさせながら、顎を鳴らして跳ねるようにこちらへ歩みを進め出した__
__2人は全力で逃げるしかなかった。
全力で逃げ続ければ、スナッピングタートルとの距離は縮まることはなかった。
…水棲生物なんだ、荒野を逃げ続ければいずれ諦めるはずだ。こちらの体力が尽きるのが先か…スナッピングタートルが諦めるのが先か…
ただ走り続けるしかなかった。
瞬く走り続けて、川溜まりのオアシスがかろうじて肉眼で見えるかどうかの距離まで逃げていた。スナッピングタートルはいまだ諦めておらず、50mほど後方で顎を鳴らしている。
『!!!』
逃げる前方に女性冒険者の姿が見えた。
馬を降り、手綱を岩に結ぼうとしている。
…馬っ!!僥倖だっ!!これで助か…
「逃げてー!!そこの方!!こっちは危ないわっ!!!」
シェリルが叫んで、女性冒険者に警告する。
「なっ!!」
…せっかく馬で逃げられるチャンスなのに!!!…
ランスがシェリルを睨みつけ、シェリルが
それ以上叫ばないように、シェリルの腰に腕を回すようにして捕らえ口を押さえた。
「ゔん゛ん゛ん~!!!」
走る勢いが捕らえられた腹部にかかり、圧迫感から息が漏れた。
口を塞がれ言葉にならない。
シェリルが身体に巻いていた毛布が外れ、足を取られて、ランスと絡まり転倒する。
スナッピングタートルとの距離は半分に縮まっていた_
ランスは絡まるシェリルを剥がしてすぐに起き上がり、走り出そうとする。
「いやっ!置いていかないでっ!」
シェリルはランスに縋りつく。
「悪いけど、底辺F級はここで喰われて時間を稼いでくれ。C級の俺が生き残った方がより多くの人間を救えるんだ…。」
ランスはシェリルをスナッピングタートルに向かって突き飛ばした。
シェリルの身体が後方に倒れていく_
その瞬間をシェリルはスローモーションで感じていた。
…ああ…。私はここで死んでしまうのね…。
まさか初めての冒険で命を落とすなんて…。こんなことになるなら、お父様の忠告をちゃんと聞いておけば良かった。それに全裸で死んじゃうなんて、馬鹿みたい…。でもまぁ、食べられてしまうから、お父様にはこんな死に方だなんてバレないか…
シェリルは自分の滑稽な死に様を想像して笑ったが、その頬には涙が伝っていた。
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