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C級の絶望(1-5)
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野兎が薬草を食い荒らしていると報告のあった辺りに到着し、2人は馬から降りた。
手近な木に手綱を結ぶと、身を低くして、
辺りに野兎の痕跡がないか確認する。
道中で決めた作戦は、とにかく野兎を発見したら、ランスがシェリルに向かって誘導し、シェリルが倒す。という単純なものだった。
「野兎なら、咬まれても死ぬことはないし、まずは自分で考えて、思うようにやってみるといいよ。危なそうなら手を貸すけど、基本は自分で依頼達成しないとだからね。」
ランスは見守るスタンスのようだ。
茂みを捜索すること数時間、もうすぐ夕暮れ時と言う頃だった。
「シェリルー」
ランスが小さな声とジェスチャーでシェリルを呼び、近くの茂みを指差した。
「あ!!」
野兎に思わず、声を上げてしまうシェリル。
「しー…」
と人差し指を口にあてるランス。
そのジェスチャーすら格好いいと思いながら、シェリルは慌てて、自分の口を両手で押さえ、コクコクと頷く。
シェリルはそっと距離を取り、呪文の詠唱準備に入った。
シェリルがランスに大きく頷くと、ランスも頷き返し、茂みの野兎を追い立てた。
「我乞い願う、水の精霊よ、我に恵みを与え敵を捉えん」
シェリルは茂みから飛び出した野兎の進路を遮り
「ウォーターボール!!!」
野兎へ向かって、大きな水の塊を放った。
人の腰程まである大きな水の塊は、スライムのように粘性があるのか、野兎を中に閉じ込めて、藻掻き逃げようとする野兎を離さなかった。
しばらくして、野兎が窒息し動かなくなったのを確認して、シェリルは術を解いた。
丸い金魚鉢を割ったかのように辺りに水が飛び散り、地面へと吸収されていった。
湿った土の上に残った野兎から思わず目を背けてしまうシェリル。
討伐とはこういうものだと理解しながらも、初めて生き物の命を奪う感覚に戸惑っていた。
「よくやった。」
そんなシェリルの頭をランスは優しく撫でた。
「これぐらい当然です。」
シェリルは強がってみせる。
「すごいね。俺は初討伐結構ショックだったよ。命を奪ってる感じがね…。だけど、こうやって害獣を狩ることで、貴重な薬草が減るのを防げた訳だし。結局これって人助けになってるんだよね。薬草が多ければ、それだけ回復薬が作れて、助かる人がいるってこと。」
「そうですね。ありがとうございます。」
シェリルは少し気持ちが軽くなるのを感じていた。
「あっ!それともう1人。討伐証明の毛皮がマフラーになって、寒さに凍える人を救うことが出来る。」
ランスが人差し指を立てて、得意げに話した。
「あっ!まだ救える人がいるんだけどー?」
「え?誰ですか?」
「腹ペコのランス君。早く兎の串焼きが食べたいってさ。」
「ふふっ。そうですね。お昼食べそびれちゃいましたもんね。でも、腹ペコのランス君は1羽で足りますか?捌き方教わるためにも、もう1羽頑張って捕まえましょうか。」
「そうだね。この辺りを探せばまだ巣穴はありそうだ。」
今度はそうかからず、野兎を発見し、先程と同じ要領で捕まえた。
その後、ランスに教わりながら血抜きをして、シェリルは震える手で 捌きながら
「ガタガタですね。」
と笑った。
ランスの指示で、焚き火用に枯れ枝を集めて、その中から、真っ直ぐな枝を何本か選って、ウォーターボールで濡らして、野兎の肉を刺した。
ランスは小さな岩塩を巾着から取り出し、野兎__ヘアー__#の肉にナイフで削って振りかける。
「これで準備は完成。じゃあ、火を起こそうか。」
ランスは周りに火が燃え移り難い場所を選んで、枯れ枝や松ぼっくりを積み上げて、詠唱を開始した。
「我乞い願う、火の精霊よ。我らに温もりを与え給え。ファイヤーボール」
ランスの手から、ふよふよと小さな炎の玉が放たれ、松ぼっくりに火がついた。
小枝を少しずつ重ねて火を育て、周りに兎の串を刺していく。
「じゃあ、焼けるまで。」
ランスは、火にほど近い岩に毛布をクッション代わりに敷くと、シェリルに座るように促し、木のジョッキを手渡して、蒸留酒を注いだ。
「初討伐お疲れ様。」
ランスは隣に座りながら、シェリルのジョッキに自分のジョッキをカチンとぶつけた。
「お疲れ様です。」
シェリルは小さな岩に2人で密着して座っていることにドギマギして、半ばヤケになりジョッキを一気に呷った。
「この酒強いのに大丈夫?」
ランスは心配して顔を覗き込むが
「ちょっと体が熱いくらいで、全然。大丈夫です。」
シェリルは慌てて目線を落とした。顔が少し赤らんでいるが、酒の影響ではなかった。
その後は、他愛もない話をしながら、
「えっ!?めちゃくちゃ美味しい!!」
と兎串に舌鼓をうった。
途中、腰や肩を抱かれることが何度かあり、その度に、シェリルは緊張に身を縮めたが、ジョッキを呷って誤魔化した。
ランスからジョッキに酒を注がれる度にシェリルもランスのジョッキに注ぎ返すことを繰り返しているうちに、ランスの方が酔い潰れ、
「ゴメン。先に休ませて。3時間位経つか、シェリルが眠気が我慢できなくなったら、交代に起こしてくれていいからね。それまで火の番と見張りよろしく。」
後ろに天幕を張って引っ込んでしまった。
シェリルは少しがっかりした自分を否定しながら、火の番をしつつ、半ばヤケ酒気味に、何度もジョッキを呷っていると、空が白み始め、慌ててランスを起こして、代わりに天幕で眠りについた。
手近な木に手綱を結ぶと、身を低くして、
辺りに野兎の痕跡がないか確認する。
道中で決めた作戦は、とにかく野兎を発見したら、ランスがシェリルに向かって誘導し、シェリルが倒す。という単純なものだった。
「野兎なら、咬まれても死ぬことはないし、まずは自分で考えて、思うようにやってみるといいよ。危なそうなら手を貸すけど、基本は自分で依頼達成しないとだからね。」
ランスは見守るスタンスのようだ。
茂みを捜索すること数時間、もうすぐ夕暮れ時と言う頃だった。
「シェリルー」
ランスが小さな声とジェスチャーでシェリルを呼び、近くの茂みを指差した。
「あ!!」
野兎に思わず、声を上げてしまうシェリル。
「しー…」
と人差し指を口にあてるランス。
そのジェスチャーすら格好いいと思いながら、シェリルは慌てて、自分の口を両手で押さえ、コクコクと頷く。
シェリルはそっと距離を取り、呪文の詠唱準備に入った。
シェリルがランスに大きく頷くと、ランスも頷き返し、茂みの野兎を追い立てた。
「我乞い願う、水の精霊よ、我に恵みを与え敵を捉えん」
シェリルは茂みから飛び出した野兎の進路を遮り
「ウォーターボール!!!」
野兎へ向かって、大きな水の塊を放った。
人の腰程まである大きな水の塊は、スライムのように粘性があるのか、野兎を中に閉じ込めて、藻掻き逃げようとする野兎を離さなかった。
しばらくして、野兎が窒息し動かなくなったのを確認して、シェリルは術を解いた。
丸い金魚鉢を割ったかのように辺りに水が飛び散り、地面へと吸収されていった。
湿った土の上に残った野兎から思わず目を背けてしまうシェリル。
討伐とはこういうものだと理解しながらも、初めて生き物の命を奪う感覚に戸惑っていた。
「よくやった。」
そんなシェリルの頭をランスは優しく撫でた。
「これぐらい当然です。」
シェリルは強がってみせる。
「すごいね。俺は初討伐結構ショックだったよ。命を奪ってる感じがね…。だけど、こうやって害獣を狩ることで、貴重な薬草が減るのを防げた訳だし。結局これって人助けになってるんだよね。薬草が多ければ、それだけ回復薬が作れて、助かる人がいるってこと。」
「そうですね。ありがとうございます。」
シェリルは少し気持ちが軽くなるのを感じていた。
「あっ!それともう1人。討伐証明の毛皮がマフラーになって、寒さに凍える人を救うことが出来る。」
ランスが人差し指を立てて、得意げに話した。
「あっ!まだ救える人がいるんだけどー?」
「え?誰ですか?」
「腹ペコのランス君。早く兎の串焼きが食べたいってさ。」
「ふふっ。そうですね。お昼食べそびれちゃいましたもんね。でも、腹ペコのランス君は1羽で足りますか?捌き方教わるためにも、もう1羽頑張って捕まえましょうか。」
「そうだね。この辺りを探せばまだ巣穴はありそうだ。」
今度はそうかからず、野兎を発見し、先程と同じ要領で捕まえた。
その後、ランスに教わりながら血抜きをして、シェリルは震える手で 捌きながら
「ガタガタですね。」
と笑った。
ランスの指示で、焚き火用に枯れ枝を集めて、その中から、真っ直ぐな枝を何本か選って、ウォーターボールで濡らして、野兎の肉を刺した。
ランスは小さな岩塩を巾着から取り出し、野兎__ヘアー__#の肉にナイフで削って振りかける。
「これで準備は完成。じゃあ、火を起こそうか。」
ランスは周りに火が燃え移り難い場所を選んで、枯れ枝や松ぼっくりを積み上げて、詠唱を開始した。
「我乞い願う、火の精霊よ。我らに温もりを与え給え。ファイヤーボール」
ランスの手から、ふよふよと小さな炎の玉が放たれ、松ぼっくりに火がついた。
小枝を少しずつ重ねて火を育て、周りに兎の串を刺していく。
「じゃあ、焼けるまで。」
ランスは、火にほど近い岩に毛布をクッション代わりに敷くと、シェリルに座るように促し、木のジョッキを手渡して、蒸留酒を注いだ。
「初討伐お疲れ様。」
ランスは隣に座りながら、シェリルのジョッキに自分のジョッキをカチンとぶつけた。
「お疲れ様です。」
シェリルは小さな岩に2人で密着して座っていることにドギマギして、半ばヤケになりジョッキを一気に呷った。
「この酒強いのに大丈夫?」
ランスは心配して顔を覗き込むが
「ちょっと体が熱いくらいで、全然。大丈夫です。」
シェリルは慌てて目線を落とした。顔が少し赤らんでいるが、酒の影響ではなかった。
その後は、他愛もない話をしながら、
「えっ!?めちゃくちゃ美味しい!!」
と兎串に舌鼓をうった。
途中、腰や肩を抱かれることが何度かあり、その度に、シェリルは緊張に身を縮めたが、ジョッキを呷って誤魔化した。
ランスからジョッキに酒を注がれる度にシェリルもランスのジョッキに注ぎ返すことを繰り返しているうちに、ランスの方が酔い潰れ、
「ゴメン。先に休ませて。3時間位経つか、シェリルが眠気が我慢できなくなったら、交代に起こしてくれていいからね。それまで火の番と見張りよろしく。」
後ろに天幕を張って引っ込んでしまった。
シェリルは少しがっかりした自分を否定しながら、火の番をしつつ、半ばヤケ酒気味に、何度もジョッキを呷っていると、空が白み始め、慌ててランスを起こして、代わりに天幕で眠りについた。
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