絶望のフェリス

笠市 莉子

文字の大きさ
上 下
6 / 36

C級の絶望(1-3)

しおりを挟む
シェリルは朝から早速仲間探しをすることにした。

この街は大きく、冒険者ギルドも大きいため、冒険者が集まりやすく、街のいたるところに冒険者がいるらしい。

武装してる者や旅装の者はたいてい冒険者だそうだ。

朝は通りに朝市や屋台が並ぶため、そこで食事を摂ってから、クエストに出る者も多いらしい。

屋台で朝食を買い、空いているテーブルを見回していると、冒険者達の姿が目に入る。

昨日の忠告を受けて、改めて冒険者達を見てみると、やはり男女のパーティには恋人や夫婦といった、親密さが伺えた。

…やっぱりそうゆうことなんだぁ。
絶対とびっきり格好いい人を見つけよう!!…

昨夜貰ったお守りが入ったポケットをぎゅうっと気合いと共に握り締めた。

「なぁ。嬢ちゃん。1人かい?仲間探し中か?」

シェリルが空いたテーブルに着き、朝食を食べながら、周りの冒険者達の様子をぼんやり眺めていると、お世辞にも格好いいとは言えない、中年の男が近づいてきた。

…うぇ~。パス~…

と心の中でボヤきながら

「そうなんです。出来たら同年代の女の子の仲間を探してて。」

シェリルはにっこりと微笑む。

「え~っ!別におっさんでもいいじゃん。俺D級よ?結構強いし、頼りになるってぇ。」

中年の男は長椅子の隣にどかっと座り、シェリルににじり寄ってくる。

「え~。でも女の子がいいし。なんだかお父さんといるみたいでちょっと…。」

「イヤイヤ。親子で冒険してるやつもいるって。親子みたいに年の差カップルもいるし。おじさんまだまだ現役だし、大丈夫だって。」

中年の男がシェリルの腰に手をまわす。

「困ります!」

…全然大丈夫じゃないし!妥協しないって決めたんだから!!

シェリルは中年男の体を一生懸命押し返す。

…え~ん。しつこすぎ。どうしよう。ウォーターボールお見舞いしてもいいかなぁ。
でも、D級だし、怒らせたらどうしよう…

シェリルが泣きそうになっていると

「もう。その辺で辞めといたら?」

助けを求めて振り向くシェリルの目に、赤い騎士服を纏った黒髪黒眼の長身の青年が映った。

「へっ。おいでなすった。」

中年男がフンと鼻を鳴らす。

「女の子が困ってるから、助けてあげて。って呼ばれてね。」

青年はアシメトリーに整えられた前髪を左側に払うように流して、2人の正面の長椅子に座り、爽やかに微笑んだ。

「誰も困ってねぇよ。仲良くしてるだけだっつの。」

中年男はシェリルに更にくっつこうとする。

「嘘です!めちゃくちゃ困ってます!!」

シェリルは必至に抵抗しながら、助けを求めた。

「どうする?彼女は嫌がってるけど?これ以上続けるつもりなら、一戦交えても構わないけど…?」

青年が目を細めた。

「へいへい。諦めますよ~。C級には敵いませんからね。"爆炎の騎士"ランスロット様に丸焦げにされちゃたまったもんじゃねぇ。」

中年男はすごすごと退散した。

「大丈夫かい?」

「ランスロット様。助けて頂き、ありがとうございました。」

シェリルは恭しく頭を下げた。

「そんな。大したことはしてないよ。それに、僕はC級のクエストがない時は、自警団の仕事も手伝っていてね。こちらこそ、ああいった輩にちゃんと対処が出来ていなくて申し訳ない。」

ランスロットも頭を下げる。

…っ!!なんって好青年なのっ!!

「ここはああいった輩が多いからね。君みたいに可愛い女の子が1人でいるのは危ないよ?僕は明日討伐クエストに出る予定なんだけど、今日はもうのんびりするつもりだったんだ。もし良かったら、仲間探し手伝おうか?」

「いいんですか!!仲間探しのコツとか色々教えて下さい!私シェリルって言います。」

「僕はランスロット。長いからランスでいいよ。」

「はい。ランスさん。よろしくおねがいします。」

「じゃあ、少し歩こうか?」

「はい!」

シェリルは朝食のトレーをお店に返却して、ランスの後についた。

2人で冒険者が多いところを見て回る。

「ランスさんは"爆炎の騎士"だなんて、格好いい二つ名があるんですね。」

「恥ずかしいことに、魔法はまだ練習中でね。火力が上手く調整できないんだ…。それで草原を焼け野原にしてしまって…。その名前をつけられちゃってね。その名前恥ずかしいからやめてほしいんだけど…。それに、馬に乗ったまま戦うことなんてめったにないから…。本当は剣士なんだけどね。」

「格好いいのに…」

…なんて、謙虚で素敵な人なの…

「ランスさんはどんなお仲間さんがいるんですか?」

「僕はC級だし、この街が好きで、クエストがなくてもここにいたくてね。基本的に、上級冒険者は上級者向けのクエストを取り尽くすと、違う街に行くから…。誰かとパーティを組む訳にも行かなくてね…。」

「でも、お一人で討伐できるなんてすごいです。」

「どうってことないよ。それに今度の討伐もスナッピングタートルだから、モンスターの階級も低いし、そんなに問題なさそうだし。」

モンスターにも討伐難易度によって階級がつけられており、冒険者の階級と同じなら冒険者の方が強く、討伐できるように設定されている。

今回のスナッピングタートルはD級のためランスには全く問題ないクエストだった。

「なかなか、良さそうな人いないね?」

たいていは、既にカップルが出来上がっていたり、1人でいる者はごりごりに厳つい感じで気後れしてしまったり(本当はタイプじゃない)…、でなかなか声をかけられずにいた。

「そうですね…。まだクエストもしたことないのに、仲間探しで難航するなんて…。」

「今回限りなら、僕が手伝ってあげられなくはないけど…。ただスナッピングタートルの巣までは馬車で3日かかる距離だから、途中でF級の討伐依頼を2.3個こなしながら向かって片道5日位はかかっちゃうし、馬で行くことになるけど…。乗馬経験はあるかい?」

「えっ!?いいんですか?私馬は持ってないけど、乗れます!」

…ランスさんは格好いいし、冒険もその他の色々も初めてはランスさんみたいな素敵な人がいい!!!

「僕のクエストも仲間として、登録すれば成果報酬は得られるし、帰ってきたらE級にはあがれるんじゃないかな?そんなに強いモンスターじゃないから、僕が守ってあげられると思うし…」

「C級冒険者の討伐が見られるなんて、勉強になります!!すっごく嬉しい!」

シェリルは満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ、明日の朝、西門で待ち合わせしよう。女の子は色々準備するものがあるだろうから、これから準備するといいよ。僕は荷造りは終わってるから、シェリルに良さそうなクエストを適当に見繕って、登録しておくよ。馬や天幕なんかも準備しておくから、シェリルは自分の支度だけしてきてくれたらいいからね。」

「ありがとうございます。よろしくおねがいします。」

シェリルはまた頭を下げた。

「それじゃあ、また明日ね。」

ランスが手を軽く振ると

「はい。また明日。」

シェリルも手をぶんぶんと振り返し、小走りで走り去った。


シェリルは薬草など、携行品を買い揃え、早めに宿に帰って、食事を済ませて、風呂に長めに入り、眠りについた。

…明日から、冒険だっ!!色々頑張らなくっちゃ!!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...