385 / 391
21.月の裏側
5.謎の館
しおりを挟む
コストイラが苛ついているが、それも仕方ないことだ。今までが何かありすぎたのだ。
コストイラ達は魔物と出会わない世の中を目指しているはずなのに、魔物が出てくる事に違和感を覚えるという矛盾を抱えている。にもかかわらず、それを誰も指摘できない。
魔物に出会ないことで苛ついていたコストイラが、隣の部屋に行くための扉に手を掛けた。
ゴト。
何かが動いた音がした。コストイラが反応して部屋の中を見渡すが、気になるものはない。気のせいにしておきたいが、そんなはずがない。
もう一度ちゃんと観察する。
ところどころ破れているが、それなりに価値があったことを窺わせる絵画。かなりの値打ちが予想される骨董品の壺。かつては青々とした緑が生えていたのであろう、罅割れて放置されたのであろう鉢。おそらくその鉢に植えられていたのだろう植物や土。
明らかに争った形跡があり、それも跡が新しい。やはりディーノイはいる。そしてここで何かと戦った。こんなにも激しい形成があるにもかかわらず、音が聞こえてこなかった。それだけでディーノイの力量の高さが見えてくる。
ディーノイの容姿も戦闘スタイルも何もかもが不明だが、コストイラは戦いたいと考え始めた。
「どうしたの?」
いつまで経ってもノブを握って動こうとしないコストイラに、アストロが声をかける。
「あぁ、何でも……」
コストイラの意識は現実に戻され、何でもないと対応しようとした。しかし、そこで気付いた。今、骨董品の壺がなかったか?
何が動いた音なのか確かめようとした時、向こうから動いてきた。マジックポットの口が光を放ち、魔物が出現した。
人の上半身に蜘蛛の下半身。アラクネが複数体出てきた。どうやらレベルの高いマジックポットは魔物を複数体召喚することができるようだ。
壺があることに気付いておきながら、マジックポットである可能性を考えていなかった己に舌打ちして、刀を抜く。筋骨隆々なアラクネが両手持ちのメイスで頭をかち割ろうとしてくる。コストイラはメイスに軽く刀を当てかち上げると、アラクネの胸が無防備に晒される。その無防備な腹をアシドが突き刺した。
両手に剣を持ったアラクネが2体突っ込んでくる。シキはシロガネから貰った魔剣に魔力を流した。何でもなさそうにぶつかったロングソードが、アツアツのナイフを入れられたバターのように、簡単に切れる。シキはそのままの勢いでアラクネ2体を切った。
『ほぉ、あの勇者は魔剣持ちだったのか。資料に書いていなかったぞ。カンポリーニの奴め、あとで文句を言っておかなければな』
『……』
タジャンクの部屋からでもディーノイは魔剣だと見抜けるほど、ディーノイの魔力探知能力が高い。尻を床につけた状態で、ぐったりと背を壁につけて項垂れているタジャンクにとって、絶望に値する情報だ。お前はどうあがいても勝てない、と言われたに等しい。
ディーノイほどの魔力探知の高さ、それに加えて精度が高く、魔術師が魔力を溜めているのが丸見えであると言っていい。
これと戦って勝てっていうのか? 無理だろ。
しかも、今はとある事情により、声が出せない。魔術を出すのに声は要素として必要ないが、不便である。というか、そもそも声を出すのに必要な、外部からの魔素を取り込む器官が喰われている。
体術もある程度学んでいるとはいえ、相手は月での物理最強だ。挑んだところで勝てるビジョンが浮かばない。
タジャンクは決死の思いで飛び出し、部屋の扉を目指した。ディーノイは何でもないように剣を振るい、タジャンクの左腕を切り落とした。
『フム。これぐらい削ればなんとかなるだろう。……なるよな』
コストイラ達は魔物と出会わない世の中を目指しているはずなのに、魔物が出てくる事に違和感を覚えるという矛盾を抱えている。にもかかわらず、それを誰も指摘できない。
魔物に出会ないことで苛ついていたコストイラが、隣の部屋に行くための扉に手を掛けた。
ゴト。
何かが動いた音がした。コストイラが反応して部屋の中を見渡すが、気になるものはない。気のせいにしておきたいが、そんなはずがない。
もう一度ちゃんと観察する。
ところどころ破れているが、それなりに価値があったことを窺わせる絵画。かなりの値打ちが予想される骨董品の壺。かつては青々とした緑が生えていたのであろう、罅割れて放置されたのであろう鉢。おそらくその鉢に植えられていたのだろう植物や土。
明らかに争った形跡があり、それも跡が新しい。やはりディーノイはいる。そしてここで何かと戦った。こんなにも激しい形成があるにもかかわらず、音が聞こえてこなかった。それだけでディーノイの力量の高さが見えてくる。
ディーノイの容姿も戦闘スタイルも何もかもが不明だが、コストイラは戦いたいと考え始めた。
「どうしたの?」
いつまで経ってもノブを握って動こうとしないコストイラに、アストロが声をかける。
「あぁ、何でも……」
コストイラの意識は現実に戻され、何でもないと対応しようとした。しかし、そこで気付いた。今、骨董品の壺がなかったか?
何が動いた音なのか確かめようとした時、向こうから動いてきた。マジックポットの口が光を放ち、魔物が出現した。
人の上半身に蜘蛛の下半身。アラクネが複数体出てきた。どうやらレベルの高いマジックポットは魔物を複数体召喚することができるようだ。
壺があることに気付いておきながら、マジックポットである可能性を考えていなかった己に舌打ちして、刀を抜く。筋骨隆々なアラクネが両手持ちのメイスで頭をかち割ろうとしてくる。コストイラはメイスに軽く刀を当てかち上げると、アラクネの胸が無防備に晒される。その無防備な腹をアシドが突き刺した。
両手に剣を持ったアラクネが2体突っ込んでくる。シキはシロガネから貰った魔剣に魔力を流した。何でもなさそうにぶつかったロングソードが、アツアツのナイフを入れられたバターのように、簡単に切れる。シキはそのままの勢いでアラクネ2体を切った。
『ほぉ、あの勇者は魔剣持ちだったのか。資料に書いていなかったぞ。カンポリーニの奴め、あとで文句を言っておかなければな』
『……』
タジャンクの部屋からでもディーノイは魔剣だと見抜けるほど、ディーノイの魔力探知能力が高い。尻を床につけた状態で、ぐったりと背を壁につけて項垂れているタジャンクにとって、絶望に値する情報だ。お前はどうあがいても勝てない、と言われたに等しい。
ディーノイほどの魔力探知の高さ、それに加えて精度が高く、魔術師が魔力を溜めているのが丸見えであると言っていい。
これと戦って勝てっていうのか? 無理だろ。
しかも、今はとある事情により、声が出せない。魔術を出すのに声は要素として必要ないが、不便である。というか、そもそも声を出すのに必要な、外部からの魔素を取り込む器官が喰われている。
体術もある程度学んでいるとはいえ、相手は月での物理最強だ。挑んだところで勝てるビジョンが浮かばない。
タジャンクは決死の思いで飛び出し、部屋の扉を目指した。ディーノイは何でもないように剣を振るい、タジャンクの左腕を切り落とした。
『フム。これぐらい削ればなんとかなるだろう。……なるよな』
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる