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21.月の裏側
2.湖のほとりで
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ディーノイの能力の一つに瞬間移動がある。しかし、使い勝手のいいものではない。強力な分、相応の不自由さがある。
ディーノイの場合、それがはっきりしている。ディーノイは見ている場所にしか飛べないのだ。一度見たことがある場所でも、詳細に思い浮かべられる場所でも、今見ていないと飛ぶことができない。飛ぶ瞬間に、別の場所を見たら、そっちに飛んでしまうのだ。
視力のいいディーノイは、遠くに見えている場所を目視して、再び飛ぶ。これを繰り返すことで、驚異の時速1300㎞を記録していた。
5分程で勇者一行の姿を捉えることに成功した。
100m程離れた位置から観察する。紫と赤と銀の髪がこちらを見た。どんだけ感度いいんだ。
「どうしたんですか?」
「いえ、何でもないわ」
アレンに声を掛けられて、アストロが視線を切った。
アストロにもよく分からないが、今何かが異常な勢いで近づいてきた。何をしてくるのかと身構える前に移動を止めた。だいたい100m先くらいか。
おそらくであるが、コストイラとシキも気づいているだろう。両者は今、ヘルソーディアンやサイクロプス達の相手をしている。そんな中でも気付くとか、余裕か?
「アレンの魔眼って何m先まで見えるの?」
「エ? そうですね、見える範囲ならどこまでも、ですね。ただ、道具を通すと駄目ですね」
「じゃあ、岩裏にいるかどうか分かるの?」
「無理ですね。いてもいなくても、岩一つ、ドア一枚挟んだだけでも見えないです」
「案外制約が多いのね」
「万能ではないですね」
どうしてそんなことを聞いてきたのか、と疑問に思いながら、アレンは素直に答える。アストロはフーンと言いながらもう一度、何かがいる岩陰を見る。感覚的には2m大の大柄な男だ。岩の陰に隠れてしまっているので、アレンの魔眼は使えないだろう。
「貴方は誰? 敵? それとも味方? 」
『私はディーノイ。残念だが、敵か味方かは言及しないよ』
ディーノイはホキトタシタと違い、ともに歩くことをしない。そこまで馴れ合う気がないのだ。あと主に怒られるかもしれないというのもある。
ディーノイが懐から羊皮紙の束を取り出す。そこには勇者一行の情報が書かれていた。
『さっき私に気付いたのは、アストロとコストイラとシキ、か。シキは勇者なのか。ま、私に気付いた時点で優秀、優秀』
岩から顔を出して、シキを見る。ギロリと睨まれてしまった。すぐに岩陰に引っ込む。100m離れているのに気づくなんて、早すぎないか? 流石レンの娘といったところか。
『赤髪はコストイラか。退治屋の息子? あのフラメテの息子か。フォンの奴が、ヤンチャすぎるってキモノを乱れさせながら言っていたな。というかコストイラの名ってこの一件でしか聞いたことないな。あのアイケルスに剣術を教わったのか。その割には弱いな』
岩陰から覗き見ようとしてやめた。また睨まれそうだ。
『アストロは、親が凡人だな。ごく一般的なパン屋の父母。フム。金銭的な理由で捨てたのか。拾ったのがグランセマイユのコプロか。まぁ、奴は結局クソ親父であり、相当なものを残していったな』
ディーノイが岩陰から顔を出して、アストロを確認した。その瞬間アストロがシキに指示した。
「シキ!」
「ん!」
シキがヘルソーディアンの幅広の剣を投げた。えげつない回転とスピードでディーノイを襲う。ディーノイは咄嗟に身を引っ込め、その剣を掴み取った。
『危ない危ない。単純にビビったな。とりあえず敵ではないことを示した方が身の安全につながるな』
ディーノイは筆を取り出すと、サラサラと走らせ始めた。必要なことを書き終えると、投げ返した。
投げられた幅広の剣がヘルソーディアンの頭を破壊した。刺さった衝撃に耐えられなかったのか、そのまま破裂する。
「返ってきたんだけど」
「えっと、どこに投げて、っていうか誰かいるんですか?」
アレンが目を凝らすが、何も見えない。どうやらアレンはまた状況に置いて行かれたらしい。
ディーノイの場合、それがはっきりしている。ディーノイは見ている場所にしか飛べないのだ。一度見たことがある場所でも、詳細に思い浮かべられる場所でも、今見ていないと飛ぶことができない。飛ぶ瞬間に、別の場所を見たら、そっちに飛んでしまうのだ。
視力のいいディーノイは、遠くに見えている場所を目視して、再び飛ぶ。これを繰り返すことで、驚異の時速1300㎞を記録していた。
5分程で勇者一行の姿を捉えることに成功した。
100m程離れた位置から観察する。紫と赤と銀の髪がこちらを見た。どんだけ感度いいんだ。
「どうしたんですか?」
「いえ、何でもないわ」
アレンに声を掛けられて、アストロが視線を切った。
アストロにもよく分からないが、今何かが異常な勢いで近づいてきた。何をしてくるのかと身構える前に移動を止めた。だいたい100m先くらいか。
おそらくであるが、コストイラとシキも気づいているだろう。両者は今、ヘルソーディアンやサイクロプス達の相手をしている。そんな中でも気付くとか、余裕か?
「アレンの魔眼って何m先まで見えるの?」
「エ? そうですね、見える範囲ならどこまでも、ですね。ただ、道具を通すと駄目ですね」
「じゃあ、岩裏にいるかどうか分かるの?」
「無理ですね。いてもいなくても、岩一つ、ドア一枚挟んだだけでも見えないです」
「案外制約が多いのね」
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どうしてそんなことを聞いてきたのか、と疑問に思いながら、アレンは素直に答える。アストロはフーンと言いながらもう一度、何かがいる岩陰を見る。感覚的には2m大の大柄な男だ。岩の陰に隠れてしまっているので、アレンの魔眼は使えないだろう。
「貴方は誰? 敵? それとも味方? 」
『私はディーノイ。残念だが、敵か味方かは言及しないよ』
ディーノイはホキトタシタと違い、ともに歩くことをしない。そこまで馴れ合う気がないのだ。あと主に怒られるかもしれないというのもある。
ディーノイが懐から羊皮紙の束を取り出す。そこには勇者一行の情報が書かれていた。
『さっき私に気付いたのは、アストロとコストイラとシキ、か。シキは勇者なのか。ま、私に気付いた時点で優秀、優秀』
岩から顔を出して、シキを見る。ギロリと睨まれてしまった。すぐに岩陰に引っ込む。100m離れているのに気づくなんて、早すぎないか? 流石レンの娘といったところか。
『赤髪はコストイラか。退治屋の息子? あのフラメテの息子か。フォンの奴が、ヤンチャすぎるってキモノを乱れさせながら言っていたな。というかコストイラの名ってこの一件でしか聞いたことないな。あのアイケルスに剣術を教わったのか。その割には弱いな』
岩陰から覗き見ようとしてやめた。また睨まれそうだ。
『アストロは、親が凡人だな。ごく一般的なパン屋の父母。フム。金銭的な理由で捨てたのか。拾ったのがグランセマイユのコプロか。まぁ、奴は結局クソ親父であり、相当なものを残していったな』
ディーノイが岩陰から顔を出して、アストロを確認した。その瞬間アストロがシキに指示した。
「シキ!」
「ん!」
シキがヘルソーディアンの幅広の剣を投げた。えげつない回転とスピードでディーノイを襲う。ディーノイは咄嗟に身を引っ込め、その剣を掴み取った。
『危ない危ない。単純にビビったな。とりあえず敵ではないことを示した方が身の安全につながるな』
ディーノイは筆を取り出すと、サラサラと走らせ始めた。必要なことを書き終えると、投げ返した。
投げられた幅広の剣がヘルソーディアンの頭を破壊した。刺さった衝撃に耐えられなかったのか、そのまま破裂する。
「返ってきたんだけど」
「えっと、どこに投げて、っていうか誰かいるんですか?」
アレンが目を凝らすが、何も見えない。どうやらアレンはまた状況に置いて行かれたらしい。
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