メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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21.月の裏側

1.ささやかな復讐

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 月すら出ていない夜遅くに、ンッナンシリスは一人思考を深めていく。
 昼間に勇者一行と戦闘をしたことで、すでにボロボロになっている。身体が痛くてベッドから起き上がれない。それどころか寝返りも打てない。勇者一行め、よくも。などと思っていたが、よくよく考えれば、戦う相手を指名したのは自分だ。
 しかし、心情的に自分が悪いとは思いたくない。では、悪いのは誰だ。

 ンッナンシリスは自身の白くて立派な角に触れながら考える。目を閉じてうんうんと唸る。
 そして、何も考えが浮かばないまま、目を開けた。窓から何も光が入ってこない。

 今宵は新月。しかし、星の光があってもいいのではないか?

 その時、脳に電流が走る。そうだ。この手で行こう。

『フフフ』

 後で何が起こるのかを考えないまま、ンッナンシリスは計画を実行することにした。


 アレンを除いた6人がレベル100を突破した。エンドローゼでさえ、レベル101だ。アレン? アレンは95だ。
 このまま足手まといだと言われて、パーティを追放されても仕方ない。

 そんなネガティブなことを考えていたアレンが目を覚ました。体内時計を信じれば、今は朝7時くらいだろう(現在時刻6時28分)。
 寝ぼけたまま体を起こし、左目を擦る。目を開けると、自分の目を疑った。しかし、何度瞬きしても景色は変わらない。
 とても古典的であるが、自分の頬を抓ってみる。痛い。ということは今目の前の光景は夢ではなく、現実ということか。

 いや、そんなはずがない。信じられるわけがない。だって、さっきまで自分達の見ていた空の景色じゃないんだぞ。嘘だろ? ここはどこだよ。

 アレンが現実逃避して二度寝をしようとするが、後頭部を軽く蹴られた。

「いや、寝んな」

 見上げるとコストイラがいた。

「夢じゃねェよ、現実だ」
「なるほど、つまり」
「あぁ。魔王に何かやられた」

 その魔王が誰なのか言及することなく、辺りを見渡した。

 これ、どこに向かえばいいんだ?


『フィー。外に出たくねぇ。家から一歩も出ずに視察できないかなぁ』
『これがトップの台詞とは思いたくないな。外に出る仕事はもう当分ないから安心しろ』
『うぇ~~い』

 格好と言動、立場が全く合っていない少女が執務室に入った。黒地に炎をのような赤の模様があしらわれたキモノの袖を、パタパタと揺らし、水晶を起動させて椅子に座る。
 厚底サンダルのような赤いポックリの鼻緒に、足の指を引っかけてプラプラさせ始めた。
 子供のような仕草を見せる主に、ディーノイは頭を痛めた。子供っぽいことを気にしているはずなのに、なぜ子供っぽい態度をするのか。

 ガタッとフォンが立ち上がった。ワナワナと震えて、顎がガタガタとなっている。流石のディーノイも眉を顰める。主がこんな反応するのはかなり珍しい。

『どうした?』
『え、え、エ!』
『エ?』
『エンドローゼちゃんが月にいるぅ!?』
『ハァ!?』

 ディーノイが立場を忘れてフォンに近づき、水晶を覗き込んだ。水晶にはアップでエンドローゼの横顔が映し出されている。その背景は間違いなく月の石だ。

『ウバババババババ』
『おい、壊れるな。どうするんだ、フォン』
『バババ……。うん? えっと、そうだなぁ』

 フォンの目がかなり泳いでいる。想定外すぎる。月の魔物は地獄の魔物とは比べ物にならない程、レベルが高い。
 しかも、このレベルというものが曲者だ。レベルが同じというのは適正というわけではない。実力が同じということだ。勝てるかどうかわからないが、相性次第で勝てるという意味だ。

『ディーノイ! 頑張って見張ってくれ。君が頑張る間、私も精一杯やろう。この机の上にある仕事をすべて終わらせようじゃないか。罰則は一月エンドローゼちゃん禁止!』
『本気すぎる。だが、そこまで言うのならいいだろう。あいつらをここに連れてくるまでの間、……終わらせておくんだぞ』

 釘を刺すようにビシリとフォンを指さして、勇者一行の元へと向かった。

『え、ちょ、エ? 仕事が増えてる~~~!?』
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