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20.シン・ジゴク
18.川を渡る怨嗟の蛇
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彼女は目的があって移動していた。それがどこに向かっているのか分からない。目的があっても目的地がないのだ。
何を言っているのかと思うかもしれないが、彼女の目的は至極単純だ。
自分のことを置いて去った男を追っているのだ。男がどこに行ったのか知らない。どこに向かっているのかも分からず、行方を足で探している。蛇の体なので足はないが。
男は必ず戻ると言った。にもかかわらず、あれ以来会えていない。それどころか音沙汰もない。
女は男を追いかけて、一度は見つけることに成功したのだが、この川に沿って逃げていったのだ。
だからこそ女は蛇に体を変え、川から追い詰めるのだ。
そこで、ある神物の魔力を感じた。彼からも僅かに感じた魔力を溢れんばかりに纏っている。
まさか、彼はそいつと会っていたのか?
女は今、蛇の体をしている。その為、通常の蛇も持っているピット器官が備わっている。ピット器官は熱感知器官だ。暗闇に生きることの多い蛇が生み出した、獲物の位置を把握するための部位だ。
それにより、獲物の温度を感知して、闇の中でも素早く捕捉、捕食することが可能である。それはまさしく、暗闇の暗殺者だ。
そして、この魔物のピット器官には熱感知のほかにも機能がある。魔力感知だ。
だからこそ、かなりの精度で、それが誰なのか知ることができる。
欺いてきた男と似た魔力を感じる。
だからこそ、清姫は河から顔を出した。シルエットだけでなく、その姿を見てやろうとしたのだ。
河から顔を出した瞬間、エンドローゼの姿を見た。淡い紫色の少女が見えた。自分よりも弱弱しく見える、守りたくなる少女だ。
他の周りにいる奴も見ようとした時、視界が暗転した。遅れて痛みがやってくる。目元を切られたらしい。その行動が早すぎて、何に切られたのかすら分からない。
そもそも斬られたのか? 潰されたのかもしれない。それすら怪しい。
しかし、ピット器官に映し出されるシルエットは切った体勢をとっている。やはり切られたのだ。身長150㎝と少しほど、性別は女だ。
そして、女は切った勢いのまま、体を回転させ、踵を落とした。空中からの攻撃だったにもかかわらず、威力は絶大だった。
目玉が半分飛び出てくる。蛇の牙が口内で唇を突き破った。顔の肌が割れ、血が噴き出した。端正で綺麗で、滑らかな顔がゾンビのように変わる。
清姫が女を見る。すでに瞳は切られていて、姿は見えない。ただのポーズだ。
脳が揺れて、体も揺れる。これは天罰か? 男を追ったことに対する仕打ちか?
体が河に沈んでいき、顔が上を向く。もう何も見えない。眼球が月を観測する。
――しょうがないにゃ~~。
声が聞こえた。語尾が猫の声真似しているのは何か意味があるのだろうか。
疑問に答えが返ってくることなく、状況が一変した。周りに人がいなくなっていた。
いや、7人がいなくなっていなわけではない。自分がいる場所も河ではなく草原になっている。清姫が舌を出す。花のいい匂いがする。ここは花畑。そして、目の前には求めていた男がいた。
『チョウ』
知っている男の名を口にする。しかし、知っている男の姿ではない。男の姿は自分と同じ蛇だ。自分は起伏を生み出す鱗がないが、男には青い鱗がある。男の目が何か動揺しているように揺れている。
女は蛇の体を巻き付けた。女からの愛情が強すぎる。男はドン引きだが、女は気付いていない。
『ああいうの実は嫌い』
『じゃあ何で会わせたの?』
『まぁ、多少はね、あとはよろしく、シュルメちゃん。ごめんね』
『いいよ。いつも通りだもん』
何を言っているのかと思うかもしれないが、彼女の目的は至極単純だ。
自分のことを置いて去った男を追っているのだ。男がどこに行ったのか知らない。どこに向かっているのかも分からず、行方を足で探している。蛇の体なので足はないが。
男は必ず戻ると言った。にもかかわらず、あれ以来会えていない。それどころか音沙汰もない。
女は男を追いかけて、一度は見つけることに成功したのだが、この川に沿って逃げていったのだ。
だからこそ女は蛇に体を変え、川から追い詰めるのだ。
そこで、ある神物の魔力を感じた。彼からも僅かに感じた魔力を溢れんばかりに纏っている。
まさか、彼はそいつと会っていたのか?
女は今、蛇の体をしている。その為、通常の蛇も持っているピット器官が備わっている。ピット器官は熱感知器官だ。暗闇に生きることの多い蛇が生み出した、獲物の位置を把握するための部位だ。
それにより、獲物の温度を感知して、闇の中でも素早く捕捉、捕食することが可能である。それはまさしく、暗闇の暗殺者だ。
そして、この魔物のピット器官には熱感知のほかにも機能がある。魔力感知だ。
だからこそ、かなりの精度で、それが誰なのか知ることができる。
欺いてきた男と似た魔力を感じる。
だからこそ、清姫は河から顔を出した。シルエットだけでなく、その姿を見てやろうとしたのだ。
河から顔を出した瞬間、エンドローゼの姿を見た。淡い紫色の少女が見えた。自分よりも弱弱しく見える、守りたくなる少女だ。
他の周りにいる奴も見ようとした時、視界が暗転した。遅れて痛みがやってくる。目元を切られたらしい。その行動が早すぎて、何に切られたのかすら分からない。
そもそも斬られたのか? 潰されたのかもしれない。それすら怪しい。
しかし、ピット器官に映し出されるシルエットは切った体勢をとっている。やはり切られたのだ。身長150㎝と少しほど、性別は女だ。
そして、女は切った勢いのまま、体を回転させ、踵を落とした。空中からの攻撃だったにもかかわらず、威力は絶大だった。
目玉が半分飛び出てくる。蛇の牙が口内で唇を突き破った。顔の肌が割れ、血が噴き出した。端正で綺麗で、滑らかな顔がゾンビのように変わる。
清姫が女を見る。すでに瞳は切られていて、姿は見えない。ただのポーズだ。
脳が揺れて、体も揺れる。これは天罰か? 男を追ったことに対する仕打ちか?
体が河に沈んでいき、顔が上を向く。もう何も見えない。眼球が月を観測する。
――しょうがないにゃ~~。
声が聞こえた。語尾が猫の声真似しているのは何か意味があるのだろうか。
疑問に答えが返ってくることなく、状況が一変した。周りに人がいなくなっていた。
いや、7人がいなくなっていなわけではない。自分がいる場所も河ではなく草原になっている。清姫が舌を出す。花のいい匂いがする。ここは花畑。そして、目の前には求めていた男がいた。
『チョウ』
知っている男の名を口にする。しかし、知っている男の姿ではない。男の姿は自分と同じ蛇だ。自分は起伏を生み出す鱗がないが、男には青い鱗がある。男の目が何か動揺しているように揺れている。
女は蛇の体を巻き付けた。女からの愛情が強すぎる。男はドン引きだが、女は気付いていない。
『ああいうの実は嫌い』
『じゃあ何で会わせたの?』
『まぁ、多少はね、あとはよろしく、シュルメちゃん。ごめんね』
『いいよ。いつも通りだもん』
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