メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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20.シン・ジゴク

11.国内便

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「うっぷ」
「ちょっと。ここで吐かないでよ。皆から見えないとこにして」

 二日酔いの所為で気分を悪くしているアシドを、引いた眼でアストロが見つめる。

「く~~。何でオレだけ。レイドなんてオレの2倍以上は飲んだだろ!」
「真に酒に強い者は、自らの適量を知っているのだ」
「…………いや、対決形式で飲んでたじゃん」
「私はあと6杯はいけた」
「バケモンかよ!」

 叫んだ自分の声が頭に響いたのか、アシドは自身の頭を押さえて背を丸めている。エンドローゼでも酒の酔いはどうにもできないが、出来たとしても対応しないだろう。酒に関して、エンドローゼは自業自得と考えているからだ。

 足を引き摺るように歩いているアシドの尻を叩き、早く進ませる。

 アレン達の前に山が現れた。別に気付いていなかったわけではなく、遠くからだと何か分からなかったのだ。

「針、だな」
「針、ね」

 よく見ると、山に生えていたのが草ではなく針だった。1本の長さが1mありそうな針が、所狭しと並んでいた。

「拷問かな?」
「かもね」

 流石のコストイラも登る気がないらしい。シキが針を1本引き抜いた。全員が針山から離れるように草原に入る。こちらは針ではなく草花だ。

 その時、コストイラが顔色を変えて刀を抜いた。ばんと何かを弾く。それはドライアドの蔓だった。
 コストイラが刀を抜くのと同時にシキが針を投げた。方向はコストイラと逆。針山の方だ。針山の方では、上からバルログが降ってきた。針はバルログの左肩に突き刺さった。バルログは土煙を出しながら着地し、左肩の針を引き抜く。それを強く握ることで折った。

『オオオオオオオオオオ!!!』

 バルログは気合を示すように叫んだ。






 都市と都市を繋ぐ旅客用の馬車を国内便と呼び、国境を超えるものを国際便と呼ぶ。

 女はこれから出発する国内便のキャビンアテンダントだ。馬車はすでに準備が完了しており、荷車は荷物も人もいっぱいだ。

 女の仕事の7割は最終確認にある。女は頭の中にあるチェックリストにチェックを入れていく。全てのボックスにチェックが付き、うんうんと頷く。今日も大丈夫だ。
 出発までの残り時間を示す砂時計が落ち切っていない。いつもより少し早いが、早いことに越したことはない。出発してしまおう。

「それでは出発いたします」

 アナウンスをすると、御者台に座っていた男が、馬の尻に鞭を打つ。馬車がゆっくりと動きだす中、女は御者の隣に座った。

 女が懐中時計で時刻を確認する。出発時に砂時計を使っているのは組織の方の方針だ。時計の針が遅れていても問題ないように、だったか。魔力で動く時計がどうやったらズレるのか教えてほしいくらいだ。そんなことを考えながら懐中時計をしまう。
 出発して5分が経ったので、ここから女の仕事が再開される。女は腰を上げ、荷車の方に移動する。

「お客様の中にお飲み物や小腹がお空きになった方はいらっしゃいますか?」

 この問いに対して手を挙げた者を、女は見た事ない。周りの客に見られていることが恥ずかしいのだろう。だからこそ女の仕事は最終確認時点で7割終わっていると言われるのだ。
 そんな中、1人の客がおずおずと話し出す。

「あの。何か荷物から煙が出ていますよ?」

 見てみると、荷物の中にあった小さな木箱から白煙が伸びていた。慌てた女が木箱を手に取り、蓋に手をかけた。
 木の蓋は僅かに抵抗を見せたが、あっけなく開いた。中には赤々と光る白瓏石と、それを受け止める沸騰している液体。それは少し浮いたところから湯気に変わっている。
 湯気には少し臭いが付いているが、何かは分からない。よく分からないが命に別状がなさそうなので放置することにした。きっと誰かの悪戯だろう。

 この日の爆弾は爆発しなかった。
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