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19.異想への海溝
7.打ち寄せる波濤
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立ち尽くし、なかなか動こうとしないアレンに、シキが首を傾げた。アシドは訝しみながら眉根を寄せ、コストイラとアストロは目を細めた。レイドはアレンの変化に気付けなかったことを後悔しつつ近づき、エンドローゼはおろおろしながらアレンの体に触れた。
アレンの目の前にいるシキは、素早くナイフを抜いた。自分は足手纏いだ。斬られても不思議じゃない、とどこか人生の諦めを見せているアレンにナイフを振る。
バチンと何かを弾く音が聞こえた。
「え?」
思わずアレンは目を開けながら振り返った。しかし、何も見えない。それはそうだろう。高さ50mの岸壁の上から見えるのは水平線だ。今、気付いたがかなり遠くの方に島が見える。霞んでいて、うっすらとしか見えていない。
「ぐえっ!」
襟が引っ張られ、首が絞められる。アレンの目の前を水砲が通過した。
相手が誰だか分からないが、どうやらアレンは狙われていたらしい。助けてくれたシキに感謝しておこう。
「ありがとうございます。僕達は何に襲われたのですか?」
「レイクミミックだ」
きつく締められた首を押さえながらのアレンの質問に、コストイラが崖から身を乗り出して答えてくれる。
レイクミミックのレイクは湖という意味なのだから、海じゃなくて湖に居ろよと文句を言っても仕方ない。アレンは弓に手を伸ばすが、動きが止まった。そういえばもう矢がない。
ドゴンとコストイラが爆発した。黒煙を手で分けながら、顔を出した。派手に咳き込む口を押さえ、煤を付けた頬をわずかな涙が流す。
「急に何してんの」
「いや、前にお前がやってた魔力の矢ってのを作ってみたかったんだよ」
何か魔物の襲撃かと思って心配したが、魔力の調整が上手くいかなかったらしい。
アストロの呆れ声で判明したが、無駄に緊張してしまった。今も心臓がバクバクしている。
「お前スゲェな。毎回失敗せずにこんなんつくるとか。オレなら神経すり減らしすぎて死ぬわ」
「私これでも学舎の魔術学科主席卒業なもので」
コストイラが手をパンパンと叩いたり開閉させながら、面白おかしくアストロを褒める。アストロはわざとらしく髪を梳き、自分のことをアピールして自慢してくる。学舎に行ったことがなければ行こうとしたこともないアレンには、それがどれほどすごいことなのかピンと来ない。
「つーか攻撃が飛んでこねェな」
アシドがこりこりと頭を掻いた。そういえば波の音に紛れて戦闘音が聞こえてくるのに、こちらに攻撃が飛んでこない。
アレン達も疑問に思いながら崖に近づく。
崖の下ではレイクミミックが人に襲われていた。自分たちと同じ冒険者か漁師か。
そう思うアレンはまだ人間なのだろう。
それらはヘルソーディアン達だった。ヘルソーディアンは犠牲を出しながらもレイクミミックを削っていた。1体のヘルソーディアンはゴーストシップの上に常駐し、指示を出している。帽子の色が違うので隊長なのだろう。
ヘルソーディアンがレイクミミックの疑似餌を支える蔓を切った。疑似餌の宝箱がレイクミミックの頭でバウンドして海に落ちた。
裂傷だらけのレイクミミックがやり返す。3,4体のヘルソーディアンを纏めて噛み潰す。その隙に額に乗ったヘルソーディアンが刃を入れていた。レイクミミックが沈んでいく。すでに水面から顔を出す力もないようだ。
ゴーストシップに乗っているヘルソーディアンがこちらを見た。腐肉で覆われている骸骨が見えてしまう。
眼窩に灯るオレンジの瞳が勇者一行のことを射抜き、骨が丸見えの口が動く。
ツ・ギ・ハ・オ・マ・エ・ダ
アレンの目の前にいるシキは、素早くナイフを抜いた。自分は足手纏いだ。斬られても不思議じゃない、とどこか人生の諦めを見せているアレンにナイフを振る。
バチンと何かを弾く音が聞こえた。
「え?」
思わずアレンは目を開けながら振り返った。しかし、何も見えない。それはそうだろう。高さ50mの岸壁の上から見えるのは水平線だ。今、気付いたがかなり遠くの方に島が見える。霞んでいて、うっすらとしか見えていない。
「ぐえっ!」
襟が引っ張られ、首が絞められる。アレンの目の前を水砲が通過した。
相手が誰だか分からないが、どうやらアレンは狙われていたらしい。助けてくれたシキに感謝しておこう。
「ありがとうございます。僕達は何に襲われたのですか?」
「レイクミミックだ」
きつく締められた首を押さえながらのアレンの質問に、コストイラが崖から身を乗り出して答えてくれる。
レイクミミックのレイクは湖という意味なのだから、海じゃなくて湖に居ろよと文句を言っても仕方ない。アレンは弓に手を伸ばすが、動きが止まった。そういえばもう矢がない。
ドゴンとコストイラが爆発した。黒煙を手で分けながら、顔を出した。派手に咳き込む口を押さえ、煤を付けた頬をわずかな涙が流す。
「急に何してんの」
「いや、前にお前がやってた魔力の矢ってのを作ってみたかったんだよ」
何か魔物の襲撃かと思って心配したが、魔力の調整が上手くいかなかったらしい。
アストロの呆れ声で判明したが、無駄に緊張してしまった。今も心臓がバクバクしている。
「お前スゲェな。毎回失敗せずにこんなんつくるとか。オレなら神経すり減らしすぎて死ぬわ」
「私これでも学舎の魔術学科主席卒業なもので」
コストイラが手をパンパンと叩いたり開閉させながら、面白おかしくアストロを褒める。アストロはわざとらしく髪を梳き、自分のことをアピールして自慢してくる。学舎に行ったことがなければ行こうとしたこともないアレンには、それがどれほどすごいことなのかピンと来ない。
「つーか攻撃が飛んでこねェな」
アシドがこりこりと頭を掻いた。そういえば波の音に紛れて戦闘音が聞こえてくるのに、こちらに攻撃が飛んでこない。
アレン達も疑問に思いながら崖に近づく。
崖の下ではレイクミミックが人に襲われていた。自分たちと同じ冒険者か漁師か。
そう思うアレンはまだ人間なのだろう。
それらはヘルソーディアン達だった。ヘルソーディアンは犠牲を出しながらもレイクミミックを削っていた。1体のヘルソーディアンはゴーストシップの上に常駐し、指示を出している。帽子の色が違うので隊長なのだろう。
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ゴーストシップに乗っているヘルソーディアンがこちらを見た。腐肉で覆われている骸骨が見えてしまう。
眼窩に灯るオレンジの瞳が勇者一行のことを射抜き、骨が丸見えの口が動く。
ツ・ギ・ハ・オ・マ・エ・ダ
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