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18.最果ての孤島
20.白髪と銀髪
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テスロメルがアストロの顔を見る。
「それで? 聞きたいことって何だい?」
「魔物って何?」
アストロがかなり核心に迫るのではないかという質問をする。テスロメルは目を丸くしたが、すぐに目元を弓なりに曲げた。
「魔物とは魔素に汚染された獣や人の総称だ。そう教えてもらった」
「人」
エンドローゼが戦慄とした表情をしている。魔物が獣からできたと言われれば納得できる。どこか獣の特徴を有しているからだ。
しかし、人からも生まれると言われ、納得できない。だってそうだろう?自分があれになると言われて、すんなりと飲み込める者がいるだろうか。
「賢い魔物ってそういうことだったのね」
アストロが鋭い目つきで何とか自分を納得させる。アレンには無理だ。到底受け入れられるものではない。
「勇者とは、何なのだろうな」
どこか感慨深そうに遠い目をして呟いた。
「その問いには後で話し合いましょう。その前に教えてもらったって誰に?」
「ん? あぁ、言っていなかったな」
テスロメルは腕の力だけで、車椅子に座りなおす。
「結論から言えば、グレイソレア様だ」
白髪の男の前にナイトメアと呼ばれる魔物が出現した。5mの巨体と紫の肌、銀の鎧、斧、楯、そして馬の下半身。すべてが威圧感を放っていた。
白髪の男がギロリと睨むと、ナイトメアは怯んで退散していった。
ぞくりと背筋が凍った。今からでも対処できるし、そもそも相手の殺意は悪戯だ。
「趣味が悪いですよ、そうやって気配を消して近づくのは」
『あら、いつもの貴方だってやっていることでしょう? 今だって気配皆無だし』
「何の用でしょう、グレイソレア様?」
『様だなんて』
グレイソレアは口元を手で覆い、クスクスと笑っている。この邂逅もお戯れなのだろう。
ちなみにこの対面、グレイソレアの方が圧倒的に弱い。地の利や事前の準備などの下駄を履かせても、100回、1000回挑んでも1回とて勝てないだろう。
『今から帰るところなのですが、寄り道しすぎて時間がかかってしまいました。まぁ、時短のための足を貴方に返されてしまいまして』
「申し訳ない」
『いいですよ。お散歩好きですから』
プクっと頬を膨らませながらナイトメアの去っていった方を指さしたかと思うと、すぐに笑顔に戻り、その場でくるりと回った。少女のような行動を見て、ヲルクィトゥは溜息を吐いた。
「だから子供っぽいと言われるのですよ」
『えっ!?』
グレイソレアの顔が笑顔のまま引き攣った。子供のようだと揶揄されることの多いグレイソレアは、それをかなり気にしている。常に優しい紳士のようなヲルクィトゥに言われたのは、普通にショックだ。
『こ、子供っぽいですか?』
「えぇ。そのように頬を膨らませて不機嫌を表現したり、その場でクルクル回ったり、そのものって感じがします」
よほど衝撃的だったのか、グレイソレアの目が見開かれている。1歩、2歩と後ろに下がり、わなわなと震える唇を何とか動かした。
『ぜ、善処します』
「原初」
「そう。そのグレイソレア様だ。初めてお会いした時は衝撃的だった。纏うオーラが異常だった。戦ったら死ぬ。それが本能的に理解できたんだ」
アストロが口に出した二つ名に肯定する。そのままテスロメルは当時のことを話し始めた。
「あの時の私はすでにジョンと2人旅でね。どうにか私が1人で逃げられるだけの時間を稼ごうとした。しかし、私は見ての通り、こんな姿だ。一人で逃げるなど、何時間必要になる。だから私は対話を望んだのだ」
テスロメルは身振り手振りで先を続ける。
「原初の魔王グレイソレア。彼女はなかなかに話の出来る方だった。というよりもかなり話がうまかった。驚いたよ。あれは相当慣れているね」
テスロメルも相当慣れているように見える。筆の勇者と言われているが、口の勇者でもある気がする。
「勇者とは何か、だったわね」
アストロが、話を前の段階まで引き戻す。
「私は常々思うのだ。勇者は職業ではない、と」
「何を言っているの?私達のステータス欄には勇者って書いてあるじゃない」
アストロの言う通り、ステータス表示内には職業という欄があり、勇者と書かれている。
「英雄や勇者はなるものではなく、成っているものだ。それは職業ではなく、役目に同じだ」
テスロメルは片手を額に当てる。指が細く、隙間が大きく見える。
「私の職業は勇者でなく、文筆家に変わっている。次代のグリードも勇者ではなく衛兵のはずだ。その仲間は、主婦やら行商人やらに変わっていった。職業は絶対ではない。そして、勇者も永遠ではない。必ず終わりが来る。だからといって自暴自棄になるなよ、今代」
「それで? 聞きたいことって何だい?」
「魔物って何?」
アストロがかなり核心に迫るのではないかという質問をする。テスロメルは目を丸くしたが、すぐに目元を弓なりに曲げた。
「魔物とは魔素に汚染された獣や人の総称だ。そう教えてもらった」
「人」
エンドローゼが戦慄とした表情をしている。魔物が獣からできたと言われれば納得できる。どこか獣の特徴を有しているからだ。
しかし、人からも生まれると言われ、納得できない。だってそうだろう?自分があれになると言われて、すんなりと飲み込める者がいるだろうか。
「賢い魔物ってそういうことだったのね」
アストロが鋭い目つきで何とか自分を納得させる。アレンには無理だ。到底受け入れられるものではない。
「勇者とは、何なのだろうな」
どこか感慨深そうに遠い目をして呟いた。
「その問いには後で話し合いましょう。その前に教えてもらったって誰に?」
「ん? あぁ、言っていなかったな」
テスロメルは腕の力だけで、車椅子に座りなおす。
「結論から言えば、グレイソレア様だ」
白髪の男の前にナイトメアと呼ばれる魔物が出現した。5mの巨体と紫の肌、銀の鎧、斧、楯、そして馬の下半身。すべてが威圧感を放っていた。
白髪の男がギロリと睨むと、ナイトメアは怯んで退散していった。
ぞくりと背筋が凍った。今からでも対処できるし、そもそも相手の殺意は悪戯だ。
「趣味が悪いですよ、そうやって気配を消して近づくのは」
『あら、いつもの貴方だってやっていることでしょう? 今だって気配皆無だし』
「何の用でしょう、グレイソレア様?」
『様だなんて』
グレイソレアは口元を手で覆い、クスクスと笑っている。この邂逅もお戯れなのだろう。
ちなみにこの対面、グレイソレアの方が圧倒的に弱い。地の利や事前の準備などの下駄を履かせても、100回、1000回挑んでも1回とて勝てないだろう。
『今から帰るところなのですが、寄り道しすぎて時間がかかってしまいました。まぁ、時短のための足を貴方に返されてしまいまして』
「申し訳ない」
『いいですよ。お散歩好きですから』
プクっと頬を膨らませながらナイトメアの去っていった方を指さしたかと思うと、すぐに笑顔に戻り、その場でくるりと回った。少女のような行動を見て、ヲルクィトゥは溜息を吐いた。
「だから子供っぽいと言われるのですよ」
『えっ!?』
グレイソレアの顔が笑顔のまま引き攣った。子供のようだと揶揄されることの多いグレイソレアは、それをかなり気にしている。常に優しい紳士のようなヲルクィトゥに言われたのは、普通にショックだ。
『こ、子供っぽいですか?』
「えぇ。そのように頬を膨らませて不機嫌を表現したり、その場でクルクル回ったり、そのものって感じがします」
よほど衝撃的だったのか、グレイソレアの目が見開かれている。1歩、2歩と後ろに下がり、わなわなと震える唇を何とか動かした。
『ぜ、善処します』
「原初」
「そう。そのグレイソレア様だ。初めてお会いした時は衝撃的だった。纏うオーラが異常だった。戦ったら死ぬ。それが本能的に理解できたんだ」
アストロが口に出した二つ名に肯定する。そのままテスロメルは当時のことを話し始めた。
「あの時の私はすでにジョンと2人旅でね。どうにか私が1人で逃げられるだけの時間を稼ごうとした。しかし、私は見ての通り、こんな姿だ。一人で逃げるなど、何時間必要になる。だから私は対話を望んだのだ」
テスロメルは身振り手振りで先を続ける。
「原初の魔王グレイソレア。彼女はなかなかに話の出来る方だった。というよりもかなり話がうまかった。驚いたよ。あれは相当慣れているね」
テスロメルも相当慣れているように見える。筆の勇者と言われているが、口の勇者でもある気がする。
「勇者とは何か、だったわね」
アストロが、話を前の段階まで引き戻す。
「私は常々思うのだ。勇者は職業ではない、と」
「何を言っているの?私達のステータス欄には勇者って書いてあるじゃない」
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「英雄や勇者はなるものではなく、成っているものだ。それは職業ではなく、役目に同じだ」
テスロメルは片手を額に当てる。指が細く、隙間が大きく見える。
「私の職業は勇者でなく、文筆家に変わっている。次代のグリードも勇者ではなく衛兵のはずだ。その仲間は、主婦やら行商人やらに変わっていった。職業は絶対ではない。そして、勇者も永遠ではない。必ず終わりが来る。だからといって自暴自棄になるなよ、今代」
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