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18.最果ての孤島
18.最果ての休息所
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アシドが歪な祠の裏から顔を出した。
「ねェ」
アストロが壁から顔を出した。
「ない」
レイドが川から顔を出した。
「ないな」
アレンが壁を叩くのを止めて振り返った。
「ありませんね」
アレン達はあるものを探していた。それは先に続く道だ。この先へと進む道があるのかどうかは知らないが、念入りに探しているのに見つからない。
コストイラも一緒に探しに行きたいが、隣のエンドローゼがそれをもうそれはすごい形相で睨んできている。これまでの無茶のせいで、コストイラが単独で動く=怪我をするという等式が出来上がりつつある。ここで下手に動けばエンドローゼ、もといその後ろでスタンバっているフォンに天罰を貰うことになるだろう。
怪我をした左腕を持ち上げようとして中断し、右腕を持ち上げて頭を掻いた。
「先の道がねェってことは戻んなきゃいけねェのか。どっかにこの遺跡の出口なんてあったか?」
「あった」
シキの言葉に目を丸くして驚く。え? どっか見落とした?
「先の道」
「先の道かい! ……って、先の道? マジで? どこに?」
「ん」
シキが指さした先にあったのは川上だった。
「ずぶ濡れだよ、こんちきしょう」
コストイラは上着を脱いで思い切り絞ると、大量の水が出てきた。川上を向かっていくためには水の中に入らなければならなかった。
川を抜けた先では石造りの螺旋階段が鎮座していた。アシドが上を眺める。
「何だ? 家か?」
「ちょうどいいわね。服を乾かせてもらいましょう」
ビチャビチャと水を垂らしながら、アストロが階段を上り始めた。
「だいぶ登ってきましたね。あと少しですね」
「なぁ、アレン。不気味じゃねェか?」
「え? 何がですか?」
「魔物に遭わねェ」
アレンが辺りを見渡す。確かに魔物がいない。一体もいない。確かに不気味だ。この先に何がいるのだ。
「こういう場所は前にもあったよな」
「境目果ての温泉」
「奈落の闘技場周辺」
「天空への架け橋」
コストイラ達がまるで練習でもしたのかと思うほど、流れるように事例を出していく。ここまでくればいくら鈍感なアレンでもわかる。
「まさか、この先にいるのは」
「もし生きていたら面白いことを聞けそうだよな」
アレンは目を丸くして、コストイラは睨みつける。果たして、この先にいるのは先輩なのか?
頂上になったのは平凡な家だった。ごく一般的なバンツウォレイン式の邸宅に首を傾げた。普通過ぎる。世界の端に位置し、その上、山頂にある家だというのに、普通過ぎる。
「家庭菜園をしているプランターまでありますよ」
「誰か住んでんのは確実だな」
「ふはは」
家の様相を見ていると、笑い声が聞こえてきた。コストイラでさえ気配を感じることができなかった。コストイラが振り向きながら刀に手を置く。シキが高速で蹴りを繰り出した。完全に目を狙った蹴りを掠らせながら躱す。
「うお! 待て待て待て! 私は話しかけただけではないか! 客が来たらもてなすのが家に住む側の役目だろ!」
「いや、笑っただけで話しかけてないだろ」
「おお、確かに」
男は豪快に笑いながら手で額を覆った。
「世界の頂きたる私の聖域を見つけるとは大したものだ。私の名前はジョン。これまでに多くの試練を乗り越え、多くの敵を討ち倒してきたのだろうな! さて、君達の名前は?」
「ジョン!?」
アシドが驚いた。ジョンといえばかつて戦ったモシェーと並ぶ三大剣豪の一人だ。
「オレの名前はコストイラだ」
「フムフム。コストイラね。コストイラ? どこかで聞いたことがあるような。まぁ、いいか。ところで自分から名乗りを振っておいてなんだが、先に体を温めるか?」
「その気遣いができるなら、先に言え!!」
「あい、これは済まない」
アストロの怒りを受けて、ジョンは大きな体を小さくして謝った。
男達は上半身を脱ぎ、椅子に掛けている。部屋の中は暖炉に火が焚かれており、室温がかなり高くなっている。
服が乾いていくのは良いが、サウナのような状態となっているため、汗が凄く噴き出ている。こんなに汗が出ると水分が欲しくなってくる。
なぜか一緒にサウナ状態を満喫しているジョンに視線を送る。ジョンはその視線に圧倒的な察知能力で気づき、こちらを見てくるが、内容を察する力がなかった。
「そういえば先ほどの話の続きをしよう。女性陣がいないが男性陣の名前は聞いておこう」
ジョンが薪を暖炉に放り込みながら、アレンの考えとは違うことを提案した。いや、何で室温上げたし。
「オレはアシドだ。モシェーと戦ったことがあるから、アンタとも戦ってみてぇな」
「ほう、アイツと」
アシドが顎にまで伝った汗を拭いながら自己紹介をする。獣のような目を向けられ、ジョンは嬉しそうに口角を上げた。
「私はレイド。このパーティでは楯を担っている」
「その上着からチラチラと見えている紋章は貴族のクレア家のものか」
「私はクレア家だからな」
熱気のせいで靄がかっている部屋で視界があまり通っていないので、手探りでペンダントを持ち出す。レイドは目を瞑り、汗を滝のように流している。覚悟が決まっているのか、心が凪いでいるのか。
「僕はアレンです。なぜか司令塔をやらされています。そして、なぜか聞いてくれません」
「えぇ~~」
「いや、ごめんて」
「でもお前の指示慎重すぎんだもん」
アレンの自己紹介にジョンが引き気味になり、コストイラとアシドが反論する。
暖炉の火で高くなる室温。火で蒸されて上昇していく湿度。唇も下も水分を失っている。完全にボクサーの減量だ。
アレンは皆の体を見る。コストイラの必要な筋肉をすべて搭載していながら、不必要な脂肪をすべて捨て去った、戦士にとって理想的な体。アシドの速さに特化した、ある程度の選別をした筋肉を持った体。レイドの肥大した、山のような筋肉。コストイラの体からすれば無駄が多いかもしれないが、人を守るのに重要な筋肉たちなのだろう。
ジョンの筋肉はコストイラ以上レイド未満だ。ところどころ白く傷が残っている筋肉だ。ジョンの方が数多くの試練を乗り越えているのではなかろうか。
「うわっ!? 暑っ!!」
ガチャリと扉が開き、外気が部屋の中に入ってくる。扉のノブを掴んだ状態のアストロがしかめっ面していた。
「少し室温を下げてくれ。老いぼれの体には少し、いや、かなり堪える」
エンドローゼの手で運ばれていた老人が笑いながら、しわがれた声で告げた。
「ねェ」
アストロが壁から顔を出した。
「ない」
レイドが川から顔を出した。
「ないな」
アレンが壁を叩くのを止めて振り返った。
「ありませんね」
アレン達はあるものを探していた。それは先に続く道だ。この先へと進む道があるのかどうかは知らないが、念入りに探しているのに見つからない。
コストイラも一緒に探しに行きたいが、隣のエンドローゼがそれをもうそれはすごい形相で睨んできている。これまでの無茶のせいで、コストイラが単独で動く=怪我をするという等式が出来上がりつつある。ここで下手に動けばエンドローゼ、もといその後ろでスタンバっているフォンに天罰を貰うことになるだろう。
怪我をした左腕を持ち上げようとして中断し、右腕を持ち上げて頭を掻いた。
「先の道がねェってことは戻んなきゃいけねェのか。どっかにこの遺跡の出口なんてあったか?」
「あった」
シキの言葉に目を丸くして驚く。え? どっか見落とした?
「先の道」
「先の道かい! ……って、先の道? マジで? どこに?」
「ん」
シキが指さした先にあったのは川上だった。
「ずぶ濡れだよ、こんちきしょう」
コストイラは上着を脱いで思い切り絞ると、大量の水が出てきた。川上を向かっていくためには水の中に入らなければならなかった。
川を抜けた先では石造りの螺旋階段が鎮座していた。アシドが上を眺める。
「何だ? 家か?」
「ちょうどいいわね。服を乾かせてもらいましょう」
ビチャビチャと水を垂らしながら、アストロが階段を上り始めた。
「だいぶ登ってきましたね。あと少しですね」
「なぁ、アレン。不気味じゃねェか?」
「え? 何がですか?」
「魔物に遭わねェ」
アレンが辺りを見渡す。確かに魔物がいない。一体もいない。確かに不気味だ。この先に何がいるのだ。
「こういう場所は前にもあったよな」
「境目果ての温泉」
「奈落の闘技場周辺」
「天空への架け橋」
コストイラ達がまるで練習でもしたのかと思うほど、流れるように事例を出していく。ここまでくればいくら鈍感なアレンでもわかる。
「まさか、この先にいるのは」
「もし生きていたら面白いことを聞けそうだよな」
アレンは目を丸くして、コストイラは睨みつける。果たして、この先にいるのは先輩なのか?
頂上になったのは平凡な家だった。ごく一般的なバンツウォレイン式の邸宅に首を傾げた。普通過ぎる。世界の端に位置し、その上、山頂にある家だというのに、普通過ぎる。
「家庭菜園をしているプランターまでありますよ」
「誰か住んでんのは確実だな」
「ふはは」
家の様相を見ていると、笑い声が聞こえてきた。コストイラでさえ気配を感じることができなかった。コストイラが振り向きながら刀に手を置く。シキが高速で蹴りを繰り出した。完全に目を狙った蹴りを掠らせながら躱す。
「うお! 待て待て待て! 私は話しかけただけではないか! 客が来たらもてなすのが家に住む側の役目だろ!」
「いや、笑っただけで話しかけてないだろ」
「おお、確かに」
男は豪快に笑いながら手で額を覆った。
「世界の頂きたる私の聖域を見つけるとは大したものだ。私の名前はジョン。これまでに多くの試練を乗り越え、多くの敵を討ち倒してきたのだろうな! さて、君達の名前は?」
「ジョン!?」
アシドが驚いた。ジョンといえばかつて戦ったモシェーと並ぶ三大剣豪の一人だ。
「オレの名前はコストイラだ」
「フムフム。コストイラね。コストイラ? どこかで聞いたことがあるような。まぁ、いいか。ところで自分から名乗りを振っておいてなんだが、先に体を温めるか?」
「その気遣いができるなら、先に言え!!」
「あい、これは済まない」
アストロの怒りを受けて、ジョンは大きな体を小さくして謝った。
男達は上半身を脱ぎ、椅子に掛けている。部屋の中は暖炉に火が焚かれており、室温がかなり高くなっている。
服が乾いていくのは良いが、サウナのような状態となっているため、汗が凄く噴き出ている。こんなに汗が出ると水分が欲しくなってくる。
なぜか一緒にサウナ状態を満喫しているジョンに視線を送る。ジョンはその視線に圧倒的な察知能力で気づき、こちらを見てくるが、内容を察する力がなかった。
「そういえば先ほどの話の続きをしよう。女性陣がいないが男性陣の名前は聞いておこう」
ジョンが薪を暖炉に放り込みながら、アレンの考えとは違うことを提案した。いや、何で室温上げたし。
「オレはアシドだ。モシェーと戦ったことがあるから、アンタとも戦ってみてぇな」
「ほう、アイツと」
アシドが顎にまで伝った汗を拭いながら自己紹介をする。獣のような目を向けられ、ジョンは嬉しそうに口角を上げた。
「私はレイド。このパーティでは楯を担っている」
「その上着からチラチラと見えている紋章は貴族のクレア家のものか」
「私はクレア家だからな」
熱気のせいで靄がかっている部屋で視界があまり通っていないので、手探りでペンダントを持ち出す。レイドは目を瞑り、汗を滝のように流している。覚悟が決まっているのか、心が凪いでいるのか。
「僕はアレンです。なぜか司令塔をやらされています。そして、なぜか聞いてくれません」
「えぇ~~」
「いや、ごめんて」
「でもお前の指示慎重すぎんだもん」
アレンの自己紹介にジョンが引き気味になり、コストイラとアシドが反論する。
暖炉の火で高くなる室温。火で蒸されて上昇していく湿度。唇も下も水分を失っている。完全にボクサーの減量だ。
アレンは皆の体を見る。コストイラの必要な筋肉をすべて搭載していながら、不必要な脂肪をすべて捨て去った、戦士にとって理想的な体。アシドの速さに特化した、ある程度の選別をした筋肉を持った体。レイドの肥大した、山のような筋肉。コストイラの体からすれば無駄が多いかもしれないが、人を守るのに重要な筋肉たちなのだろう。
ジョンの筋肉はコストイラ以上レイド未満だ。ところどころ白く傷が残っている筋肉だ。ジョンの方が数多くの試練を乗り越えているのではなかろうか。
「うわっ!? 暑っ!!」
ガチャリと扉が開き、外気が部屋の中に入ってくる。扉のノブを掴んだ状態のアストロがしかめっ面していた。
「少し室温を下げてくれ。老いぼれの体には少し、いや、かなり堪える」
エンドローゼの手で運ばれていた老人が笑いながら、しわがれた声で告げた。
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