メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
308 / 393
17.彼岸

9.死者が行き着く波止場

しおりを挟む
 コストイラの気分が絶望的なまでに沈んでいる。ドライアドの首を斬った際に、樹液というべきか体液と言うべきか分からない液体を全身に浴びたのだ。
 粘性がある程度あるため、ポタポタではなくボタボタと落ちていた。誰も近寄ろうとしない。

「体を洗いてェなァ」

 ボソリと呟くコストイラの眼が遠くを見ている。フォローの声をかけてやりたいが、何も言えない。
 コストイラを連れて水場を探す。森を抜けた時、水場が見えた。その水場の光景の中に築造物が見える。太陽の塔もそうだが、ここには人工的な物が多い。太陽の塔に石柱、シキの身長ほどある石板。そして、今目の前にある波止場。ここは人の手がかなり入っている。今もまだ、誰かいるのだろうか。いや、いたな。包帯の少女が。

「なんだ、これ」

 コストイラがテンション低めで呻く。アレン達も近づき、水場を覗く。えげつないくらい汚れている。何も見えない。透き通っていないどころか、ヘドロが凄い。これで汚れが落ちるとは思えない。むしろ病気になりそうだ。

「臭い凄すぎて、鼻曲がりそうだな。手を付ける気が起きねェ。この……何て言ったらいいんだ?」

 コストイラはこれを水場とは認識したくないようだ。アレンもしたくないのか、水場から離れた。

「これで顔を洗ったら病気確定だろ」
「し、し、しないでくださいね」
「しねェよ!? 自分から病気になるって何者だよ」

 未だにボタボタと粘液を垂らしている。

「しょうがないわね。器を用意しなさい。出力弱で水魔術を撃ってあげるわ。レイド、受け止めて。アシド、テクニカルポイントのために殴られて」
「よし、器はこれでいいな」
「え~、殴られんの? しょうがねェなァ」

 嫌そうな顔をしながらアシドがアストロに近づく。アストロは無表情でアシドの肩を2回殴った。そして、出力を極力弱めた水魔術をレイドの楯に向かって放つ。バシャバシャと威力の低い水鉄砲が楯に反射して器に収まっていく。

「ほら、コストイラ。これを使いなさい」
「おぉ、すまねェ」

 コストイラが綺麗な水を手で掬い、顔に当てる。

 ボゴリとヘドロが泡を吹いた。ヘドロは水ほどサラサラしていないので、すぐには泡が消えない。その泡を割るように魔物の頭が現れた。
 重いヘドロのせいですぐには何の魔物か分からない。ダボダボとヘドロが落ちていき、ようやく何の魔物かが明らかになる。

 ディープドラゴン。12m級の首長竜。ドラゴンの口からブレスではない水の光線が放たれた。水の中にコストイラが巻き込まれる。レイドが楯をぶつけ、コストイラに当たる水の量の供給をストップさせたが、コストイラは吹っ飛ばされた後だ。
 アストロが炎の魔術を速射砲のように放つが、ヘドロで疎らに覆われているディープドラゴンの肌は焼かれない。アレンが矢を放つと、ヘドロに塗れた首長竜のヘドロのない部分の肌を貫き、ダメージを与えた。






 ドゴォンと音を立てた後、建築物が揺れて、崩れていった。その光景を包帯だらけの女が目撃する。

「太陽の塔が」

 包帯の隙間から覗く目が、折れて崩壊していく瞬間を映している。塔の先端がゆっくりと重力に従い落ちていく。森の向こうに消えていく塔を追うように、女が走り出す。すぐに体は痛みだし、熱が高まるが、我慢をしながら走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...