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16.天界
5.山頂の仙人
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コストイラがヴァルキリーのような構えから突きを繰り出す。小ヴァルキリーことヘブンズソードが丸盾で防ぎ、表面を滑らせる。
距離がなくなった状態でサーベルが振られる。シキが鮮やかな足技でヘブンズソードの手首を蹴り上げ、斬撃を中断させる。コストイラが膝を腹にぶつけ、ヘブンズソードを後ろへと飛ばす。
ヘブンズソードは武器を持っているコストイラの方が危険だと判断し、一気に肉薄する。コストイラがトンッと後ろに下がる。
両者の間にシキが割り込む。シキは突きを半身で躱し、左手を上、右手を下にしてサーベルに添え、左手を下に右手を上に動かし、剣を使ってヘブンズソードを投げる。
ヘブンズソードはサーベルから手を離し、身を器用に捻って木の枝の上に乗る。
シキは落ちていたサーベルの鞘を拾う。そういえば鞘が装備の中になかったが、捨てていたのか。シキが鞘に投げつける。ヘブンズソードは綺麗に受け取る。シキも本気で投げた感じがない。
コストイラはもう完全に戦う気がなく、腕組みをして眺めている。刀も収めていて、木に背中を預けている。
コストイラの前でもう一度激しい衝突となる前に、シキはサーベルを投げつけた。ヘブンズソードは半身で躱し、サーベルの柄を握る。ヘブンズソードは鞘を捨て、フルーレのように構える。そして一気に肉薄し、サーベルを振るう。シキは無表情のままに身を低くし、前転して後ろに抜ける。走りながら鞘を拾うと、すぐさま投げつける。
咄嗟にサーベルで鞘の先端を叩きながら、横にズレ、シキに警戒を向けようとする。そこで、鞘が爆発した。金属片が飛び散り、ヘブンズソードの左半身に刺さる。
その隙にシキが肉薄し、強力な蹴りを繰り出す。ハイキックがヘブンズソードに完璧に当たる。ヘブンズソードの身長がそれなりに高いので、顔面を狙った蹴りが首に当たる。
ヘブンズソードの首が折れ、首の骨が若干露出する。蹴り抜かれた足を胸まで引き、横に跳ぶヘブンズソードは蹴飛ばす。
大の字に倒れるヘブンズソードを確認すると、死んでいた。シキは難しい顔をして首を傾げている。
「実践はきついんじゃね?」
「やっぱりそう思う?」
「んまぁ、時間かかるのはそうだけど、小柄相手にこの威力じゃ、大型相手は無理だろ」
「確かに」
コストイラにハッキリと告げられ、シキは大いに凹むのであった。
宮殿を取り囲む巨大な塀を前に7人は驚愕していた。ここの入り口が分からない。
塀の上から白髪に眼帯をつけた女が眺めている。包帯を根元まで巻いた腕で頭の天頂を掻く。その手首をパシリと掴まれた。
「ふぅん。珍しい義手だな。呪術か何かか?」
懐かしい声を聴いた。女は目を丸くして声のした方を見る。
「ホウギ!」
そこには黄土色の髪をした。2m大の男が、ニカッと笑っていた。
「ほい、土産」
「蜜柑?」
シロガネはホウギから、胡乱な目を向けながらも受け取る。
「オレ様達鬼は、生き残った奴全員で人気のない山に行くつもりさ。いずれレイベルスの奴も来てくれるだろうよ。シロガネ。お前も一緒に来るかい?」
「ホウギ」
ホウギは手元の盃から酒を呷ろうとして止め、シロガネの顔を見る。シロガネはどこか嬉しそうな、でも悲しそうにも見える顔をしていた。。
「今の顔は鬼ではないわ。これで鬼になった私は、腕を取り戻して、完治・・しないとね……」
ホウギは包帯の巻かれた腕を見て、目を閉じた。
「あぁ……そうだったな……。腕には力・としての意味もある。だから鬼みんなのために人間から奪い戻せよ」
ホウギが塀の上に立ち、盃を月に掲げる。シロガネは人間に見つかる可能性を危惧したが、7人はテントを張って中に入っていた。
「まぁ、あとはレイベルスに合わす顔がないっていうのもあるわね」
ムハーと酒から口を外し、息を吐く。ホウギは二ッと牙が見えるほどの笑みを作る。バンと破裂音がして視界がブレた。
「分かったよ。それじゃあオレ様は先に行くぜ。ハッハッハッ!」
豪快な笑い声と爆発的な打撃音に勇者一行が反応するが、ホウギはまったく気にしない。東方に伝わる履物である下駄を鳴らして立ち去る。魔眼の不快さも笑って吹き飛ばす。
「頑張りなっ!」
叢に突っ込んだシロガネが唸りながら空を見つめる。
「ハァ」
シロガネは怒りを吐き出すように溜息を吐く。
そう。私は少なくとも人間じゃない……。
グシャッと蜜柑を潰した。
クロエの最後の言葉が脳裏によぎる。
「お主と出会って、余の仙人という夢を馬鹿にせずに協力してくれて、幸せな毎日じゃ。じゃが、一人の時……、考えてしまうのじゃ……。死んだ時のことを。恐くて、怖くてたまらないのじゃ」
今でも後悔している。私はクロエの気持ちを踏みにじった。
約束したのに。仙境で厳しい修行を終えて、生命の源といわれている気を扱う仙人になると。不老不死になると。何百年も前に。
距離がなくなった状態でサーベルが振られる。シキが鮮やかな足技でヘブンズソードの手首を蹴り上げ、斬撃を中断させる。コストイラが膝を腹にぶつけ、ヘブンズソードを後ろへと飛ばす。
ヘブンズソードは武器を持っているコストイラの方が危険だと判断し、一気に肉薄する。コストイラがトンッと後ろに下がる。
両者の間にシキが割り込む。シキは突きを半身で躱し、左手を上、右手を下にしてサーベルに添え、左手を下に右手を上に動かし、剣を使ってヘブンズソードを投げる。
ヘブンズソードはサーベルから手を離し、身を器用に捻って木の枝の上に乗る。
シキは落ちていたサーベルの鞘を拾う。そういえば鞘が装備の中になかったが、捨てていたのか。シキが鞘に投げつける。ヘブンズソードは綺麗に受け取る。シキも本気で投げた感じがない。
コストイラはもう完全に戦う気がなく、腕組みをして眺めている。刀も収めていて、木に背中を預けている。
コストイラの前でもう一度激しい衝突となる前に、シキはサーベルを投げつけた。ヘブンズソードは半身で躱し、サーベルの柄を握る。ヘブンズソードは鞘を捨て、フルーレのように構える。そして一気に肉薄し、サーベルを振るう。シキは無表情のままに身を低くし、前転して後ろに抜ける。走りながら鞘を拾うと、すぐさま投げつける。
咄嗟にサーベルで鞘の先端を叩きながら、横にズレ、シキに警戒を向けようとする。そこで、鞘が爆発した。金属片が飛び散り、ヘブンズソードの左半身に刺さる。
その隙にシキが肉薄し、強力な蹴りを繰り出す。ハイキックがヘブンズソードに完璧に当たる。ヘブンズソードの身長がそれなりに高いので、顔面を狙った蹴りが首に当たる。
ヘブンズソードの首が折れ、首の骨が若干露出する。蹴り抜かれた足を胸まで引き、横に跳ぶヘブンズソードは蹴飛ばす。
大の字に倒れるヘブンズソードを確認すると、死んでいた。シキは難しい顔をして首を傾げている。
「実践はきついんじゃね?」
「やっぱりそう思う?」
「んまぁ、時間かかるのはそうだけど、小柄相手にこの威力じゃ、大型相手は無理だろ」
「確かに」
コストイラにハッキリと告げられ、シキは大いに凹むのであった。
宮殿を取り囲む巨大な塀を前に7人は驚愕していた。ここの入り口が分からない。
塀の上から白髪に眼帯をつけた女が眺めている。包帯を根元まで巻いた腕で頭の天頂を掻く。その手首をパシリと掴まれた。
「ふぅん。珍しい義手だな。呪術か何かか?」
懐かしい声を聴いた。女は目を丸くして声のした方を見る。
「ホウギ!」
そこには黄土色の髪をした。2m大の男が、ニカッと笑っていた。
「ほい、土産」
「蜜柑?」
シロガネはホウギから、胡乱な目を向けながらも受け取る。
「オレ様達鬼は、生き残った奴全員で人気のない山に行くつもりさ。いずれレイベルスの奴も来てくれるだろうよ。シロガネ。お前も一緒に来るかい?」
「ホウギ」
ホウギは手元の盃から酒を呷ろうとして止め、シロガネの顔を見る。シロガネはどこか嬉しそうな、でも悲しそうにも見える顔をしていた。。
「今の顔は鬼ではないわ。これで鬼になった私は、腕を取り戻して、完治・・しないとね……」
ホウギは包帯の巻かれた腕を見て、目を閉じた。
「あぁ……そうだったな……。腕には力・としての意味もある。だから鬼みんなのために人間から奪い戻せよ」
ホウギが塀の上に立ち、盃を月に掲げる。シロガネは人間に見つかる可能性を危惧したが、7人はテントを張って中に入っていた。
「まぁ、あとはレイベルスに合わす顔がないっていうのもあるわね」
ムハーと酒から口を外し、息を吐く。ホウギは二ッと牙が見えるほどの笑みを作る。バンと破裂音がして視界がブレた。
「分かったよ。それじゃあオレ様は先に行くぜ。ハッハッハッ!」
豪快な笑い声と爆発的な打撃音に勇者一行が反応するが、ホウギはまったく気にしない。東方に伝わる履物である下駄を鳴らして立ち去る。魔眼の不快さも笑って吹き飛ばす。
「頑張りなっ!」
叢に突っ込んだシロガネが唸りながら空を見つめる。
「ハァ」
シロガネは怒りを吐き出すように溜息を吐く。
そう。私は少なくとも人間じゃない……。
グシャッと蜜柑を潰した。
クロエの最後の言葉が脳裏によぎる。
「お主と出会って、余の仙人という夢を馬鹿にせずに協力してくれて、幸せな毎日じゃ。じゃが、一人の時……、考えてしまうのじゃ……。死んだ時のことを。恐くて、怖くてたまらないのじゃ」
今でも後悔している。私はクロエの気持ちを踏みにじった。
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