281 / 393
15.奈落
26.―闇の試練―
しおりを挟む
「見ていなかったんですか?」
アレンが上の服を捲し上げ、青痣となっている箇所を消毒液で濡らしながら、口の端をヒクつかせている。
「私は見ていたぞ」
レイドが名乗り出るが、結局は一人だ。
「僕が戦っている間、何をしていたんですか?」
少し怒りながら聞くと、エンドローゼがあわあわとシキのことを見る。
「私の治療をしていた」
「オレ達はシキの方が大事だからな」
アレンはすごい勢いで両手で顔を覆った。
「じゃあ、私は出番だから行くわね」
「悪かったって。ほら、お前も見に行こうぜ」
アレンは唇を尖らせたまま、素直にアストロの試合を見に観客席に向かった。
久し振りに見た敵だ。魔王城で見たのが最後だろうか。緑の甲冑に茶色の肌のミノタウロスのような見た目。
ダークジェネラルは完全近接戦闘型だ。アストロにとっては一番やりづらい相手である。アストロはそれなりに身体能力があるのだが、近接戦闘に対してで言えば、中の上ほどだ。最近出会う相手の近接戦闘能力は上の中以上でしかないから光れない。
下着が見えてしまうのを考慮して、長ズボンを履いているアストロがキックボクシングの構えのような態勢をとる。ダークジェネラルの武器を見る。
丸太のように太い腕。ぶつけられた時点で背骨が粉々だろう。
アストロの肩幅ほどある足。蹴られた途端、肉体が爆発四散してもおかしくない。
斧の代わりなのだろう棍棒。殺傷禁止であるはずの闘技場だが、ダークジェネラルの筋力があれば簡単に人を殺せるだろう。
アストロがじっと動かないことに苛立ちを覚えたダークジェネラルが、一気に距離を詰めてくる。アストロはその時を待っていて、魔力を器用に兜の眼の位置に当てる。目潰しをしながら逃げる。
棍棒が空振り、地面を強く叩く。同心円状に床が砕け、沈んでいく。地面が波のようにたわみ、アストロの膝がガクンと落ちる。倒れはしなかったが、バランスが崩れてしまったので、すぐに追いつかれてしまう。
振り下ろされる棍棒を横に飛んで躱す。アストロは転がりながら炎を間に挟む。
ダークジェネラルは距離を失いながらも、棍棒を下から上に振り上げる。アストロは直撃を免れるが、風圧によりさらに飛ばされる。
アストロは地面に尻を着けたまま、右の人差し指でダークジェネラルの顎を狙う。ダークジェネラルとて無抵抗で受けるほど馬鹿ではない。左右に頭を振りながら突進してくる。
「稚拙」
アストロはダークジェネラルを睨みながら、魔力を発射する。高速に迫る魔力を避けることができず、頭が後ろに持っていかれる。
ダークジェネラルの体はそれでも前に進み続けていたため、当然のように仰向けに倒れる。アストロは立ち上がり、臀部に付いた砂を叩きながら、ダークジェネラルを見つめる。ダークジェネラルはしばらくビクンビクンと動いていたが、ある程度ジタバタすると動かなくなった。
「ん?」
アストロが不思議そうに見つめる中、アナウンスが入った。
「勝者、アストロ!」
アストロは珍しく狼狽えながら、ドッキリを疑ったという。
アレンが上の服を捲し上げ、青痣となっている箇所を消毒液で濡らしながら、口の端をヒクつかせている。
「私は見ていたぞ」
レイドが名乗り出るが、結局は一人だ。
「僕が戦っている間、何をしていたんですか?」
少し怒りながら聞くと、エンドローゼがあわあわとシキのことを見る。
「私の治療をしていた」
「オレ達はシキの方が大事だからな」
アレンはすごい勢いで両手で顔を覆った。
「じゃあ、私は出番だから行くわね」
「悪かったって。ほら、お前も見に行こうぜ」
アレンは唇を尖らせたまま、素直にアストロの試合を見に観客席に向かった。
久し振りに見た敵だ。魔王城で見たのが最後だろうか。緑の甲冑に茶色の肌のミノタウロスのような見た目。
ダークジェネラルは完全近接戦闘型だ。アストロにとっては一番やりづらい相手である。アストロはそれなりに身体能力があるのだが、近接戦闘に対してで言えば、中の上ほどだ。最近出会う相手の近接戦闘能力は上の中以上でしかないから光れない。
下着が見えてしまうのを考慮して、長ズボンを履いているアストロがキックボクシングの構えのような態勢をとる。ダークジェネラルの武器を見る。
丸太のように太い腕。ぶつけられた時点で背骨が粉々だろう。
アストロの肩幅ほどある足。蹴られた途端、肉体が爆発四散してもおかしくない。
斧の代わりなのだろう棍棒。殺傷禁止であるはずの闘技場だが、ダークジェネラルの筋力があれば簡単に人を殺せるだろう。
アストロがじっと動かないことに苛立ちを覚えたダークジェネラルが、一気に距離を詰めてくる。アストロはその時を待っていて、魔力を器用に兜の眼の位置に当てる。目潰しをしながら逃げる。
棍棒が空振り、地面を強く叩く。同心円状に床が砕け、沈んでいく。地面が波のようにたわみ、アストロの膝がガクンと落ちる。倒れはしなかったが、バランスが崩れてしまったので、すぐに追いつかれてしまう。
振り下ろされる棍棒を横に飛んで躱す。アストロは転がりながら炎を間に挟む。
ダークジェネラルは距離を失いながらも、棍棒を下から上に振り上げる。アストロは直撃を免れるが、風圧によりさらに飛ばされる。
アストロは地面に尻を着けたまま、右の人差し指でダークジェネラルの顎を狙う。ダークジェネラルとて無抵抗で受けるほど馬鹿ではない。左右に頭を振りながら突進してくる。
「稚拙」
アストロはダークジェネラルを睨みながら、魔力を発射する。高速に迫る魔力を避けることができず、頭が後ろに持っていかれる。
ダークジェネラルの体はそれでも前に進み続けていたため、当然のように仰向けに倒れる。アストロは立ち上がり、臀部に付いた砂を叩きながら、ダークジェネラルを見つめる。ダークジェネラルはしばらくビクンビクンと動いていたが、ある程度ジタバタすると動かなくなった。
「ん?」
アストロが不思議そうに見つめる中、アナウンスが入った。
「勝者、アストロ!」
アストロは珍しく狼狽えながら、ドッキリを疑ったという。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる