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15.奈落

15.帰らずの森の闘技場

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 奈落に存在する植物はすべて光合成をしない。しないわけではないのだが、する機会がないのだ。それでも育つ植物がある。彼らは光合成をせず、根から吸収した養分と魔力で成長する。それゆえに奈落の植物は魔物化しやすい。魔物化した植物は、各地に点々としている木々に擬態して、得物を狩る機会を窺う。

 暗く翳った森はそれだけで迷子の人数を増やし、そこに潜む植物系モンスターが迷子を殺す。そのため、この森に入った人は帰ってこない。

 このことから、この森は地元住民に帰らずの森と呼ばれている。

 帰らずの森には近づくなというのが奈落の常識なのだが、稀に森に入っていくものが目撃される。それらは2種類に分けられる。一方は闘技場挑戦者であり、もう一方は常識を持ち合わせていないものだ。

 後者である勇者一行は森の中を歩いていた。パチパチと松明の火が跳ねている。

「ちゃんと目的地があって歩いているよな」
「あ、はい。あそこに見えている光ですね」

 レイドは前回の反省を活かし、アレンに質問する。アレンも今度は目的地があるというので少し安心する。その目的地が安全だとは限らない。

「ん?」
「どうかした、エンドローゼ?」
「な、何か木が動いているような気が」
「木が?」
「そらそうだろ」
「え?」

 コストイラがさも重大ではなさそうに重要なことを言う。木が動いている。何故普通なことのように振舞えるのか。

「ほれ」

 コストイラは刀の先に火を灯し、その火を木の一本に当てる。

『グャア!?』

 木が動いた。どうやら魔物だったらしい。ダークトレントは枝を振るい、火を消そうとする。コストイラは残酷にも枝を一本一本切っていく。そして木の顔の真ん中を刺す。ダークトレントは轟々と燃え、コストイラは首だけを動かし、アレンの方を見る。

「な? 動いたろ?」

 アレンとエンドローゼは馬鹿みたいに口が開いたまま塞がらなくなってしまった。適応力高くない?

 コストイラの火に驚いたダークトレント達もざわめき出す。もしかしたら自分も燃やされてしまうかもしれないという恐怖が行動を促した。
 ダークトレントの半数が逃走して、もう半数がコストイラに枝を振るった。
 しかし、レベル50前後のダークトレントがレベル80近いコストイラに勝つには、何かの罠やもっと物量が必要だったのだろう。コストイラはダークトレントを次々と燃やしていく。

「アストロさん、アストロさん」
「ん? 何?」
「コストイラさん、妙に張り切ってませんかね? 何でか分かりますか?」
「…………奈落と言えば何があると思う?」

 質問をしたのに質問で返されてしまった。アレンは寛容なのでいちいちそんなことでは腹を立てたりしない。考えてみよう。奈落の目玉は何だろう。

「…………えっと、闘技場?」
「それよ。強い奴と戦えそうだから今から張り切っているのよ。ピクニック前の子供のようにね」
「成る程」

 アレンがコストイラに半眼を送る。まぁ、分からなくもない。闘技場という者に初めて参加、観戦するのだ。興奮しないはずがない。

 森を抜けた先、印にしていた先を放つ建物に到達する。建物が大きく、上から見たらどんな形をしているのか、正面からだけでは分からない。幅はエンドローゼの歩幅で歩いて1万歩はありそうだ。距離にすれば6㎞ぐらいか。
 巨大な建築物からは大きな声援や怒号が飛び出している。

 今からこれを浴びるのは我々だ。アレン達は闘技場に足を踏み入れた。






 闘技場。

 第9代勇者ローローという女によって建てられた施設。強者と戦いたい者達が集う荒れくれ者の総本山。

 チャンピオンには莫大な金きんと賞品が手に入る。金きんは大まかな値段が決められており、約10㎏、金額にして約400万リラのものが貰える。

 賞品は毎回変わる。伝説の防具や魔剣、巨大な鉱石や宝石などが主な例だ。

 今回、アレン達が参加する会の賞品は、魔界に存在していたジョコンドの槍だった。
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