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15.奈落

12.腐界の魔竜

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 ドラゴンのブレスは強力だ。ワイバーンでもカオスドラゴンでも変わらず脅威となる一撃だ。その威力は最弱のワイバーンでさえ5㎡を更地に変え、レッドドラゴンは山を削る。

 そんな強力なものを何故連射しないのか。それは強力が故に反動とコストが大きいのだ。
 反動として次点の装填に時間がかかる。威力が低いものほど時間が短く、究めたものほど反動が少ない。しかし、究めたものは時間を短くする代わりに身を削る。
 コストとして体内のエネルギーを使う。エネルギーは自然回復するが、回復の手段は放置以外に存在しない。次いつ戦闘がおこるか分からない世界で強力な手札を失うのはリスクが高い。

 したがってブレスを無暗に吐くことはしない。

 しかも、それ以外に、ブレスは放っている最中は中断できず、顔を動かせない。

 強力であるが不便の多いブレスを放つのは、放たなければいけない場面に追い込まれたか、必中の場面になったかのどちらかでしかない
 カオスドラゴンにはブレスを必中にする裏技がある。それが足元をぬかるませ、動けなくなったところにブレスを放つのだ。

 その必中のコンボにコストイラは嵌められたのだ。

 エンドローゼが慌ててコストイラの元へと向かう。危なっかしく戦闘能力の低いエンドローゼの側に、レイドが付き従う。エンドローゼが必死に回復魔法を使うが、コストイラが目を覚まさない。吐き気を押し返し、涙目になりながら回復魔法を行使し続ける。
 シキはエンドローゼを信頼している。どこか小動物と認識している節があるが、後衛としての能力は全幅の信頼を置いている。だからこそシキは自分の出来ることに集中する。すなわち戦闘だ。

 ぬかるみは数瞬のものだったらしく、すでに地面が乾いている。

 走ろうとするがカオスドラゴンとの間にブラックドラゴンの壁ができる。
 シキは暗箭傷人であり、一騎当千ではない。大量のドラゴンを一瞬で蹴散らせる力はシキにはない。そのため、瞬時に目の前のドラゴンを斃し、対処し、無視することを決め、その通りに体を動かしていき、最速の突破を試みる。

 カオスドラゴンは原初の魔龍である。つまりはブレスを究めたものであるのだ。身の削りを考慮しても次点の装填まであと1分は欲しい。
 シキの死角からドラゴンの顎が出現する。ナイフを持つ右腕に噛みつこうとしている。しかし、シキはその眼に鼻横に膝を入れる。鼻から血を噴きながらドラゴンのドラゴンの顔がどく。もう一体のドラゴンの顎が現れる。

 腰を捻った状態、しかも空中。自由のない空間でシキはさらに舞った。手をドラゴンの鼻に当て、ドラゴンの頭から背にかけて転がっていく。

 他のドラゴンが同じくドラゴンに食らいつく。シキは巻き込まれないようにアクロバティックに躱していく。そこに大顎が迫る。ブラックドラゴンでは止められないシキにカオスドラゴンが噛みつきにかかる。シキは身を捻り頬の横を通り過ぎる。
 ナイフをカオスドラゴンの肌に当てる。刃が滑り肌を裂いてくれない。着地と同時にぬめりを拭いとる。ナイフは頬以外の場所にも走るが、傷がつかない。ドロドロとした何かが刃を拒んでいた。

 ドロドロのないところを探さなければならない。シキは足で情報を稼ぐ。

 走り、カオスドラゴンを観察するが、傷をつけられそうなのは体内しかない。シキはブラックドラゴンの死体を乗り継ぎながら正面に回る。爆弾の個数もこの先の戦闘を考えると心許ない。

 しかし、シキは今を生きる人間だ。後の戦闘など知ったことではない。カオスドラゴンの口の中に白瓏石を投げ込む。牙に圧迫され爆発し、牙が数本欠け、傾く。

 この巨体に対して威力が低い。

 ゾブッとシキの体が沈む。シキの体がつんのめる。カオスドラゴンの口の中にブレスが溜まる。このままではコストイラと同じ道を辿ることになる。
 凛として澄みやかな匂いがカオスドラゴンの鼻腔をくすぐった。シキが何かしようとしている。それには気付いたがもう中断できないところまできた。放つしかない。

 ぬかるんだ地面から跳び上がる。白い花弁がカオスドラゴンの目の前をチラチラしており、視界を邪魔している。カオスドラゴンの喉が一瞬白み、ブレスが発射された。通り道にはブラックドラゴンしかいない。必中と信じていたブレスが外れた。目だけを動かし、シキを追う。

 シキの姿が大きく映る。それがどんどん近づき、目玉にナイフが突き刺される。痛みに顔を振ろうにもブレス中で動かない。
 シキがナイフで付けた傷を力任せに開き、中へと侵入する。拒む肉を裂き、中へ中へと侵入する。カオスドラゴンに残された抵抗は筋肉を強張らせるくらいなものだ。それをしたところでナイフで切られてしまうので意味がない。

 そして、とうとう脳へと到達したシキが、カオスドラゴンの脳をズタズタに切り潰した。
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