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15.奈落
7.語らう日々もまた珍しく
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「ふぅん。じゃあ、これは雨ってわけじゃなくて、地下水ってことなのね」
アストロは納得しながら何年ものかわからないコーヒーを口にする。コーヒーを初めて飲むエンドローゼは、湯気の出るカップを両手で挟み、フーフーと可愛らしく息を吹きかけている。シキは優雅に冷えた体にお湯を入れている。
コストイラは熱くないのかコーヒーを一気飲みしている。アシドはコーヒーが飲めないらしく、お湯に塩を溶かし、飲んでいる。レイドは完璧な所作でコーヒーを淹れている。あの動き、慣れていると見ていいのだが、どこで覚えたのだろうか。
ちなみにアレンは一口目で舌を火傷してビビりまくりだ。右目の上部を、瞼を切られ、左手と右手は痺れと火傷跡でうまく動かず、左耳からは聴覚が限りなく奪われている。その上で舌がどうかしようものなら目も当てられない。
アレンはカップをテーブルに置き、一人棚に向かう。そこには多くの絵が飾られており、その多くが少女の絵だった。アレンは埃の被った写真立てのようなインテリア雑貨ごと持ち上げる。
「どうした?」
その様子を見ていたコストイラがカップ片手にアレンに近づく。アレンはコストイラに見ていた絵を見せる。
「これを見ていました。肖像画ですね」
「何だ? ここの住人か?」
「上の方はどんな方だったんですか?似てました?」
アレンがコストイラに質問すると、コストイラは渋い顔をする。
「魔物化が進んでて全然分からん」
「何と」
「だから動かないのね」
いつの間にか合流していたレイドとアストロが覗き込んでいる。机の方を見ると、アシドは台所から何年物なのか分からない調味料を持ってきて並べていた。全部お湯に溶かして試そうとしているらしい。
シキがジャムの器を手に取ると、エンドローゼに薦めている。エンドローゼは熱かったのか、舌を出し手で扇いでいる。小声で苦、苦と言いながらジャムを指で掬い舌に乗せてる。ジャムの中に果物の皮が見えているので、マーマレードかコンフィチュールなのだろう。エンドローゼは相好を崩している。甘かったようだ。
「聞いてみるか」
コストイラが絵を1枚ひったくり、階段に向かう。コストイラはいつでも刀が抜けるように左手に絵を移動させておく。
「よぉ、さっき振りだな。聞いてなかったけどよ、アンタ、名前は何て言うんだ?」
『ユアコス。何故、来た』
「オレはアンタってここの住人なのかって聞きに来たんだよ」
『そうか。そうだが、それがどうした』
「―――。いや、この絵のどれがアンタだ?」
コストイラは4人が描かれている絵を見せた。ズズっと頭を天井に擦りながらこちらに目を向ける。
『その上段、左だ』
「よし、分かった」
『もう、終わろ』
「そうだな。じゃあな」
部屋から出るコストイラを見送り、ユアコスはズズッと頭の位置を戻す。少しだけ開いた衣装棚に向かう。
コストイラは階下に下りると、唇を濡らす。何を話すのか決めていなかった。コストイラの顔に視線が集まる。
「――。聞いたら絵に乗ってたぜ。左上の奴らしい」
「魔物化の原因は?」
「分かった、今もあそこに閉じ込められてるようなことはしないだろう」
「それもそうか」
アシドが絵を受け取り、机に持っていく。コストイラはその場を動かず両手を腰に当てた。アストロがコストイラに近づく。
「何を隠しているの?」
「何が?」
「隠してるでしょ。アンタ、話す前に唇を濡らして、嘘つく気満々だったもの。丸分かりよ」
「マジ? 唇濡らしてた?」
「えぇ、アナタの嘘を吐く時の癖よ」
「うへェ」
あくまでもしらばっくれるコストイラに痺れを切らし、個室に連れ込む。
「で、何なの?」
「―――。アストロはさ、初対面に名前って聞く?」
「は?」
アストロはコストイラの質問に呆れつつも真剣に考える。
「そうね。場合によるわ。今後も付き合いが続きそうなら聞くわね。でも基本は聞かないわ。どうして」
「相手の名前を聞かねェのは基本的に興味がねェからだ」
コストイラの持論に、フムと顎に手を当てる。
「言っても言わなくてもいいなら、言わないを選択するやつは基本聞かない。それは逆に関わりたくねェことの表れの可能性もある」
「何が言いたいの?」
すでに痺れを切らした状態にあるアストロが苛立って聞くと、コストイラから軽薄な雰囲気が消えているのに気付いた。アストロの熱は一時的に冷め、コストイラの顔を見て、もう一度言う。
「何が言いたいの?」
「上にいる奴は名前を聞いてこなかった。オレは聞いて、アッチは答えた。けど、アッチはは聞こうともしなかった。それどころか」
そこで少し間を取る。
「それどころか?」
「早く出て行ってほしそうだった」
「家から?」
アストロが窓から、未だ地下水が降り注ぐ外を見て言う。コストイラはゆるゆると首を横に振る。
「だったら1階は使わせない。おそらく、奴がいる部屋からだ」
「何で一つの部屋に」
「80%くらいの憶測だが、良いか?」
「聞きましょうか」
「おそらく奴はあの絵の中にいない」
「なぜそう思ったの?」
「圧倒的勘」
「そういうとこ尊敬するわ」
「ありがと」
アストロは呆れて溜息を吐いた。一瞬笑顔になったコストイラの顔が真顔に戻る。
「話の続きだが、奴はここの住人じゃない。奴はあの絵の少女のストーカー、もしくは下着泥棒ってところだ」
ズズン。
答えがあっていたのか、2階が揺れた。たった数分の間で外が止んだことを確認すると、コストイラ達はアレン達と合流する。
ペロリと半ばまで唇を舐めて、自分で気づく。成る程、確かに癖になってるな。
「おい、今の揺れは何だ?」
「さぁな。上の奴が体勢を変えたのかもしれないな。そんなことよりも、もう雨が上がったんだ。行こうぜ」
不安がるアシドにコストイラは荷物担いで爽やかに応じた。
アストロは納得しながら何年ものかわからないコーヒーを口にする。コーヒーを初めて飲むエンドローゼは、湯気の出るカップを両手で挟み、フーフーと可愛らしく息を吹きかけている。シキは優雅に冷えた体にお湯を入れている。
コストイラは熱くないのかコーヒーを一気飲みしている。アシドはコーヒーが飲めないらしく、お湯に塩を溶かし、飲んでいる。レイドは完璧な所作でコーヒーを淹れている。あの動き、慣れていると見ていいのだが、どこで覚えたのだろうか。
ちなみにアレンは一口目で舌を火傷してビビりまくりだ。右目の上部を、瞼を切られ、左手と右手は痺れと火傷跡でうまく動かず、左耳からは聴覚が限りなく奪われている。その上で舌がどうかしようものなら目も当てられない。
アレンはカップをテーブルに置き、一人棚に向かう。そこには多くの絵が飾られており、その多くが少女の絵だった。アレンは埃の被った写真立てのようなインテリア雑貨ごと持ち上げる。
「どうした?」
その様子を見ていたコストイラがカップ片手にアレンに近づく。アレンはコストイラに見ていた絵を見せる。
「これを見ていました。肖像画ですね」
「何だ? ここの住人か?」
「上の方はどんな方だったんですか?似てました?」
アレンがコストイラに質問すると、コストイラは渋い顔をする。
「魔物化が進んでて全然分からん」
「何と」
「だから動かないのね」
いつの間にか合流していたレイドとアストロが覗き込んでいる。机の方を見ると、アシドは台所から何年物なのか分からない調味料を持ってきて並べていた。全部お湯に溶かして試そうとしているらしい。
シキがジャムの器を手に取ると、エンドローゼに薦めている。エンドローゼは熱かったのか、舌を出し手で扇いでいる。小声で苦、苦と言いながらジャムを指で掬い舌に乗せてる。ジャムの中に果物の皮が見えているので、マーマレードかコンフィチュールなのだろう。エンドローゼは相好を崩している。甘かったようだ。
「聞いてみるか」
コストイラが絵を1枚ひったくり、階段に向かう。コストイラはいつでも刀が抜けるように左手に絵を移動させておく。
「よぉ、さっき振りだな。聞いてなかったけどよ、アンタ、名前は何て言うんだ?」
『ユアコス。何故、来た』
「オレはアンタってここの住人なのかって聞きに来たんだよ」
『そうか。そうだが、それがどうした』
「―――。いや、この絵のどれがアンタだ?」
コストイラは4人が描かれている絵を見せた。ズズっと頭を天井に擦りながらこちらに目を向ける。
『その上段、左だ』
「よし、分かった」
『もう、終わろ』
「そうだな。じゃあな」
部屋から出るコストイラを見送り、ユアコスはズズッと頭の位置を戻す。少しだけ開いた衣装棚に向かう。
コストイラは階下に下りると、唇を濡らす。何を話すのか決めていなかった。コストイラの顔に視線が集まる。
「――。聞いたら絵に乗ってたぜ。左上の奴らしい」
「魔物化の原因は?」
「分かった、今もあそこに閉じ込められてるようなことはしないだろう」
「それもそうか」
アシドが絵を受け取り、机に持っていく。コストイラはその場を動かず両手を腰に当てた。アストロがコストイラに近づく。
「何を隠しているの?」
「何が?」
「隠してるでしょ。アンタ、話す前に唇を濡らして、嘘つく気満々だったもの。丸分かりよ」
「マジ? 唇濡らしてた?」
「えぇ、アナタの嘘を吐く時の癖よ」
「うへェ」
あくまでもしらばっくれるコストイラに痺れを切らし、個室に連れ込む。
「で、何なの?」
「―――。アストロはさ、初対面に名前って聞く?」
「は?」
アストロはコストイラの質問に呆れつつも真剣に考える。
「そうね。場合によるわ。今後も付き合いが続きそうなら聞くわね。でも基本は聞かないわ。どうして」
「相手の名前を聞かねェのは基本的に興味がねェからだ」
コストイラの持論に、フムと顎に手を当てる。
「言っても言わなくてもいいなら、言わないを選択するやつは基本聞かない。それは逆に関わりたくねェことの表れの可能性もある」
「何が言いたいの?」
すでに痺れを切らした状態にあるアストロが苛立って聞くと、コストイラから軽薄な雰囲気が消えているのに気付いた。アストロの熱は一時的に冷め、コストイラの顔を見て、もう一度言う。
「何が言いたいの?」
「上にいる奴は名前を聞いてこなかった。オレは聞いて、アッチは答えた。けど、アッチはは聞こうともしなかった。それどころか」
そこで少し間を取る。
「それどころか?」
「早く出て行ってほしそうだった」
「家から?」
アストロが窓から、未だ地下水が降り注ぐ外を見て言う。コストイラはゆるゆると首を横に振る。
「だったら1階は使わせない。おそらく、奴がいる部屋からだ」
「何で一つの部屋に」
「80%くらいの憶測だが、良いか?」
「聞きましょうか」
「おそらく奴はあの絵の中にいない」
「なぜそう思ったの?」
「圧倒的勘」
「そういうとこ尊敬するわ」
「ありがと」
アストロは呆れて溜息を吐いた。一瞬笑顔になったコストイラの顔が真顔に戻る。
「話の続きだが、奴はここの住人じゃない。奴はあの絵の少女のストーカー、もしくは下着泥棒ってところだ」
ズズン。
答えがあっていたのか、2階が揺れた。たった数分の間で外が止んだことを確認すると、コストイラ達はアレン達と合流する。
ペロリと半ばまで唇を舐めて、自分で気づく。成る程、確かに癖になってるな。
「おい、今の揺れは何だ?」
「さぁな。上の奴が体勢を変えたのかもしれないな。そんなことよりも、もう雨が上がったんだ。行こうぜ」
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