メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
259 / 400
15.奈落

4.研究者の森

しおりを挟む
 アレン達が絶望的な状況なのは変わらない。いくら凶暴な雷獣の脅威を避けようが、いくらアレンの耳が手で無造作に破ったルーズリーフのようにボロボロのようになろうと、灯りが自分たちの周りにないのは変わらない。

「次進む道を勘ででもいいから決めるか。もしくはあの巨大な金仮面を追うかのどっちかだ」

 コストイラは究極の2択でも出題するかのように提案する。その金仮面を見ていないアストロとシキは首を傾げる。シンクロ率200%である。

「何その金仮面って」
「さっきの男と遭う前にいたんだよ。2,3体の死体を持ってどっか行っちまってな。正体はオレ達も分かんねェ」
「けど、それしかヒントがないんでしょ? 行くしかないんじゃない?」

 アストロはどっちに金仮面がいなくなったのか分からないので、キョロキョロと周辺を見渡す。コストイラがいなくなった方を指さす。

「いなくなったのはあっちだ。途中で道を変えたって構わねェだろ」

 コストイラは頭をガリガリと掻いて、鼻息を荒くしている。アレンは追いかければ碌な目に遭わないだろうことは想像できた。しかし、だからといって別の案が出せるわけではないので、素直に従っておくことにする。

 アストロの爪に火が灯ったまま、先ほどコストイラが指さした方へ移動していく。本当に光源がない。頼りの炎が頼りないので、いつも先頭を行くアシドとコストイラでさえ、前に出ようとしない。

「何かいる」
「金仮面か?」
「いや、違う。オレ等より小せェ」

 暗闇で感覚が極限まで研ぎ澄まされているのか、誰より早く、敵を捕捉する。

「火は消すべき?」
「いや、むしろ囮に使おう。ゆっくりと飛ばせるか?」
「了解」

 ゆっくりと炎が爪から離れ、ゆらゆらと揺れながら前に進む。

「敵は?」
「動かねェ。ただ、多分炎を見てる」

 しかし、すぐさまコストイラ自身が否定する。

「やっぱりこっち見てんな」
「炎に惑わされていない?」
「もしかしたら、視覚でものを見ていないのかもな」

 影に潜む何かは杖を振るう。唯一見えているコストイラが刀を抜き、何かを弾く。刀と当たり、何かが砕け、アレン達の頬に当たる。

「水、いや、氷?」

 濡れた頬を指で拭い、何かを類推する。水が飛んできたということは、これは攻撃を受けたということだろうか。

「逃げて行ったぞ」
「何だったんだ?」

 コストイラが敵の状況を確認すると、アシドが疑問を呈する。それに対する答えは誰も持ち合わせておらず、沈黙が返ってくる。アレンにはそれ以上の疑問があった。

「何でこの暗闇でそんなに見えるんですか?」
「……オレは闇に愛されているからな」

 これはあれか? イタイ発言か?






 再び火を着けて歩いていると、森が見えてきた。いや、これは森と呼ぶにはあまりにも冷たく、無機質なものだ。加工された10m大の石柱だらけの場所だ。ところどころにランタンが灯っている。明らかに人工的な森だ。

 アストロは爪の先に灯していた炎を消し、石森に足を踏み入れる。

『誰だお前等』

 しばらく歩いた先で声をかけられた。瞼をまつり縫いにしたハイウィザードだ。しかし、しっかりとこちらを向いている。この状態でも見えているのだろうか。

『ん? 待て、お前等は目が開いているのか?』
「え? そりゃもちろん」

 アレンは自分の発言を悔いた。相手は最初から目が見えていなかったわけではなく、わざわざ自分から目を縫っているのだ。訳がない、はずがない。しかも、そんな相手が、視覚ある者を誘うように火を焚いているのだ。もっと周囲に気を張っておくべきだった。
 超人的速度で手が伸ばされ、アレンの頭が掴まれる。

「え?」

 間抜けた声が出たせいで、アレンは自分の愚かさに気付いたが、もう遅い。ハイウィザードの手から魔力が飛び出す。その直前、経路が途切れる。真上からシキがナイフを突き立てたのだ。ハイウィザードの腕が派手に折れ、肘が爆発し、オレンジと黒の混じった煙が吐き出される。

 ハイウィザードが拳を握る。振ってきた少女もろとも殴り飛ばそうというのだ。

 グリッとナイフが捻じられ、ハイウィザードの体勢が崩れる。シキは脛を首の裏に当て、ハイウィザードを地に伏せさせる。
 アレンがようやく脱出する。掴まれた時に痛めたのか、頬を押さえている。

『食らっ』

 ハイウィザードが何かする前に首にナイフを入れ、一気に切り開く。易々とハイウィザードは絶命した。

「自分から目を縫うなんて正気を疑うぜ。何でこんなことを」
「何か怪しい宗教の匂いがすんな」

 コストイラが向いた先には、肌色が90%を占めるゾンビのような奴がいた。

『ヴァア』

 急に走り出したかと思えば膝が崩れ、その姿勢のまま腕を振るう。アシドは槍を振るい、腕を弾く。腕は何回も回転し、千切れ飛んだ。槍をそのまま一回転させるようにして、ゾンビの顎を弾いた。顎は砕け、歯がバラバラと宙を舞い、地面に落ちる。
 ゾンビがギギギと動きだす。その動きを不審に思い、アシドが少し距離を置く。ゾンビがガクガクと震えだし、そして爆発した。

 ビチャリと肉片を頬につけ、アシドが固まる。え? 自爆? 何で?

 ヌゥと7m大の巨体が現れる。それは肉の海で見かけた金仮面だ。

『爆発したか。実験は失敗だ。何がいけなかったのだ』

 金仮面の大きな手がグズグズの肉塊になったゾンビを掴む。その間もぶつぶつと何かを言っている。金仮面は唐突にアレン達の方を向いた。

『そうか。邪魔が入ったからか』

 アレン達の背筋が凍った。

 本能が言っている。この金仮面は危険だと。







『ヴァア』

 焦点の合わぬ目をした少女は意味もなく声を出した。



「フゥ」

 白髪を風になびかせる少女は左目の眼帯を掻きながら声を出した。




「ハァ」

 手入れのされていない髪の男は瓢箪から口を離し声を出した。



「ホゥ」

 赤く太い腕を掻く男は温泉の気持ちよさに自然と声を出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...