メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
241 / 391
14.冥界

2.沈みかけの湿原

しおりを挟む
 不快感を覚えることというのは人によって違う。おかゆが好きな人がいたりする一方、お米が水分を吸って美味しくないという人がいたり、お米を汚したことに不快感を覚える人もいたりする。

 アレン達7人は全員が不快感を覚えることに向き合っていた。水だ。踝まで水に浸かっており、靴まで侵食していた。

 ホキトタシタは不快感を顔に出さず先頭を歩いている。足元を見てみると、浸水しなさそうなブーツのような靴を履いていた。

「すまないな。現在は東方の方が沈んでいてな。こんな地形が少し続くんだ」
「何かあったんですか?」
「詳しくは言えない。我々の仕事は秘密にするべきこともあるからな。まぁ、今対処しているところだ。近いうちに解決するよ」

 ホキトタシタは鼻の付け根の傷を左の人差し指で掻く。アストロは鋭く舌を打った。靴を脱ぎたくても下が砂利道であるため、足裏を切ってしまうかもしれない。

「この水は我慢してくれ」

 宥めるように言うホキトタシタにもう一度舌を打つ。これで怒られないのは、隊長の心が広いからだろう。違う人なら敵対していたかもしれない。

 今ここにいるメンバーは勇者一行の7人と自衛隊隊長ホキトタシタと隊員2人の計10名だ。隊長が先頭を歩き、隊員2名が殿を務めている。

 最初に気付いたのはホキトタシタだった。剣を半ばまで抜き、何事もないかのようにスルーする。
 次に気付いたのはアレンだった。何かいることに気付き、目を凝らす。6mくらいあるだろうか。気にしては低い方の高さだが、同時に人型である点を見ればデカいだろう。

「魔物がいることに気付いたか。ちょっと確認をば」
「木みたいな魔物です。女性もいるような気も」
「あ、何とかはここからでも見えるのか」
「アレンです」

 まだ覚えてもらえていないらしい。

「冥界で植物の魔物と言えばドライアドだけだな。ドライアドはその体に含まれている宝玉3つの内1つが本体だ。他2つは意味がない」
「燃やしちゃダメなの?」
「別にいいけど」

 ホキトタシタは微妙な顔をして、頬の傷を掻く。燃やしても宝玉は燃えないからリアクションに困っているようだ。

「ところで、危険なの?」
「ドライアドは冥界の中だと中の上ほどの危険性だ。縄張り内に入っている生き物はすべて栄養だと考えている」
「ちなみにこの位置は?」
「……縄張り内かな」
「もっと早く言えよ!」

 コストイラに突っ込まれ、申し訳なさそうな顔をしている。立ち上がろうとすると、ドプリと脚が沈んだ。足元の砂利が泥に変わっていた。

『アッ!!』

 ドライアドの口のような器官から音波が発せられ、水面が波打ちアレン達が飛ばされる。何かがアレン達を受け止めた。凄い柔らかい何かだ。アレンが視線を向けると、緑色の網だった。それはドライアドの蔦だった。
 ドライアドの蔦が解け、一人一人を絡め取っていく。シキは僅かな隙間からぬるりと脱出していく。コストイラは蔦を焼き切る。アシドとアストロそしてホキトタシタも脱出する。レイドは蔦を切ろうとするが、一層絡めとられビクともしなくなる。エンドローゼとアレンは非力のため抵抗虚しく絡めとられた。隊員も抵抗しても解けなかった。

 5人が引き込まれる。このまま栄養にされてしまうかもしれない。

 アシドは一気にトップスピードになり、蔦に追いつき、その一つを切り離す。アシドが繭のようになっている蔦をお姫様抱っこで受け止める。パラりと蔦が捲れ、中身が見える。助けたのはエンドローゼだった。アシドの横をシキとコストイラが抜ける。水に足が取られ速度が出ない。その横をホキトタシタが追い抜いていく。見るとホキトタシタの足は水に沈んでいなかった。水面を地面のように走っていた。
 ホキトタシタは蔦の繭を通り過ぎ、ドライアドの宝玉を狙う。迫りくる蔦を切って自身の進む道を作る。繭を切り取りながら見ていたコストイラはその美しい剣技を睨んでいた。ドライアドとの戦いに慣れているのか、剣技に悩みも迷いも惑いもない。そして目の前にある宝玉を無視する。宝玉を足場にして女型の頭の後ろに隠れていた宝玉を斬り壊す。

『アアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 女型が叫んで自分の顔を覆う。頭の先、木の頂点から体が崩れていく。蔦の繭も消え去り、中にいた人たちも解放される。

「あの程度、お前らなら何とかなるだろう。何身を任せてんだよ」
「ちょっといいか」

 部下を叱る隊長の元にコストイラが歩く。ホキトタシタは言葉を止め、コストイラを受け入れる。

「何だい?」
「何で本物を見つけられたんだ」
「というと」
「何で目の前の奴じゃなくて頭の後ろの奴を真っ先に狙ったんだ?」

 アッと今気付いたような顔でホキトタシタが固まった。眼だけを動かして部下に助けを求める。部下は視線を逸らした。こいつ人望がないのか、舐められているのか。

「しょうがない。私はこれが使えるんだ。君達の仲間にもいるだろう。似たようなことができるやつがさ」

 ホキトタシタの目がぐるぐると渦巻いており、色は彩色に変わっていった。コストイラにも分かるほど瞳に魔力が篭る。確かにアレンでもたびたび見たことある。

「魔眼か」
「産まれた時に宿っていたらしい。私はそれなりにいい家の出でね、赤ん坊の時に調べたら、その時には魔眼と分からなかったが、人とは違うことは分かっていたんだ」

 目を閉じ、魔眼を解除して目を開けた。

「魔力の消費が激しいので、解除させてもらうよ。まったく、私の全盛期には魔力何てなかったんだがね」
「え?」

 両目を閉じ、過去を回顧するホキトタシタ以外が動きを止める。魔力がない時期なんてあったのか。

「知らなかったか? 魔力が観測されたのは確か500年前ほどだったかな」
「お前年齢いくつだよ」
「私はすでに約800年ほど生きているよ。まぁ冥界にいる時点で生きているのかという問題があるんだけどね」

 アストロが何か考え込んでおり、俯いていた顔を上げた。

「魔力の前って何があったんだ」
「当時は神力と呼ばれていたな。扱えるものは僅かしかおらず、使える者は選民、特に素晴らしいものは神選民と言っていたよ」
「それは今でも一部で言われているわ。私も育ての親に選民だと呼ばれていたもの。でも、今は大半が知らないわよ」
「……そうなのか」

 ホキトタシタは少し寂しそうな顔をしていた。気付くと、10人は薄霧に包まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...