メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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13.魔界

13.冥府の塔

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 アレン達は奈落に向かって進んでいた。アレン達は、このまま進めば奈落へ行けるものだと考えていた。

 しかし、現実は違った。奈落までの道には中間地点があり、アレン達はそこへ行くための入り口に立っていた。洞窟の出口はこの入り口に繋がっていた。アレン達はそんなこと知る由もなく、入り口の前に立った。

「人工の扉だ。しかも両開き戸」
「どうしますか? もう戻りますか? 結構危険な臭いがしますけど」
「中だけでも見てみたいな」

 10mはあろう両開き戸を前に、ビビり始めるアレンを無視し、コストイラが扉を開ける。
 中は完全に人工物しかなかった。切りそろえるだけではなく、さらに石材で加工された床や壁、天井。その天井に埋め込まれた常時点灯している魔石灯。そして、今触れているものと同じ扉が複数見つかる。

「完全に人が住んでいるな。ここに修繕の跡だってある。スゲェ綺麗に直されてんな」
「あんまり探索すると怒られるんじゃないですか?」
「その時は正直に話すさ。もしかしたらさっきの奴らみたいに分かってくれるかもしれねェだろ」

 張り切って歩き出すコストイラに溜息を吐きつつ、アレン達は後を追った。
 道は真っ直ぐになっておらず、緩くカーブを描いていた。もしかしたら環状型になっており、一周しているのかもしれない。コストイラが左側に歩き始めたので何の疑問もなく左方向に歩く。コストイラはランダムに扉を開ける。今のところ4回開けて、空き部屋、トイレ、空き部屋、空き部屋と続いている。空き部屋多くない? この広さを使いこなしているわけではなさそうだ。
 しばらく歩くと階段があった。下りしかない。この建物は一階+地下という感じの構成らしい。階下に行こうとした時、草の匂いがした。花ではなく草の匂いだ。地下かと思ったが、中庭なのかもしれない。

「草」
「草だな」
「草ですね」

 実際に下りてみると、広がっていたのは草原ではなく、草だった。家畜に提供する草のようだ。切り口を見ると、鋭利な刃物で作られたものだと分かる。

「家畜でもいるんですかね」
「この草の量は壮観だな。家畜の量も考えたくない」

 レイドは床一面に広がる草にげんなりとする。コストイラは何の躊躇いもなく草に踏み入っていく。アレン達も後を追っていく。ガサガサとアレン達以外の足音が聞こえてきた。足音はだんだんと近づいてきている。

「何か近づいてきてます」
「少し急ごう」
「いざとなったら戦うか、どこかの部屋でやり過ごすかね」

 アストロの発言直後にコストイラが一つ扉を開ける。中の光景に絶句した。中には死体がいくつか転がっていた。原型がかろうじて残っているものと、残っていないものの二種だ。残っていないものは何人分の肉によってできているのか分からなかった。

「な!?」
「うぷ」

 グロ耐性のあるコストイラでさえ声を上げた。グロかったというより唐突であり、あると思っていなかったものがあったから驚いたということだ。アレンはその光景と、草の匂いを上書きする死臭に吐き気を催した。

 足音が近づいている。

「入るか、走るか、迎えるか!」
「走りましょう」

 咄嗟の選択肢にどうしてもその部屋に入りたくなかったアレンが即答する。

「アシド。ランダムに扉を開けろ。階段だったらとっとと降りろ」
「分かった」

 アシドを先頭に走り出す。死肉部屋から6つ先の扉を開ける。今度は草の詰まった部屋だ。死肉部屋に比べればマシだ。アシドに次いでシキ、アレンと入っていく。

 その時、ヌッと姿が見えた。カブトムシだ。子供の頃、夢中になって採っていたカブトムシだ。しかし、普通のカブトムシであるはずがない。普通のカブトムシは高さが4mほどもないし、体長が5m以上もない。

「ぴぃ!?」

 その姿に驚き、エンドローゼが草に躓く。鈍臭いエンドローゼは期待を裏切らない。逆に言えば予想がついていたということだ。レイドがつんのめったエンドローゼを抱えて部屋に飛び込む。

 あとはコストイラだけ。
 殿を務めていたコストイラは部屋に入る直前、足を滑らせた。カーリングのストーンのように滑っていくコストイラは部屋の前を通過していった。

「コストイラッ!?」
「ファッ!?」

 流石のアストロも声を出し、コストイラを心配し、アシドはカブトムシの方を見やる。カブトムシはアシド達を見ることなくコストイラに向かった。
 アレンがパラパラとガレットの書を開く。

「名前が分かったのか?」
「走っている間に」
「やるなァ」

 ドゥームビートル。でっかいカブトムシ。然属性。デカいカブトムシ。これ以上の何でもない。表皮が硬く、壊しづらいが、剥がせればそうでもない。唐揚げにすると、パリッとしていて、意外と美味い。角は武器にできる。硬くて美味しくない。

「アイツは本当に何でも食べるな。それより表皮を剥がせばいいのか」
「そうですね」
「それと」

 アシドが顎を撫でる。

「ドゥームビートルのドゥームって何だ? ビートルは確かゴートの言葉でカブトムシだよな?」
「そうですね」
「ドゥームは差し迫った死とか凶運って意味よ」
「じゃあ」

 アシドは少しだけ扉から顔を出し、コストイラが走り去った方を見る。

「アイツはドゥームビートルの前でドゥームしたってわけだ」






 コストイラは何とか立ち上がり走り出す。まさか自分がこんなに運の悪さを発揮するとは。何とも悲しいことだろうか。
 若干湿っている草は絶妙に滑りやすくなっており、今も滑りそうで絶妙に怖い。巨大で凄い勢いで迫ってくるのは恐怖を感じてしまう。

 5秒後。下りの階段を見つけた。コストイラが走りこむと、ドゥームビートルは急に方向を変えられず、通り過ぎて行った。

 コストイラも急には止められずそのままの速度で走る。草の上を走る調子のまま普通の床に足を着く。そのままつんのめり、階段を転げ落ちていく。咄嗟に頭を守る。産まれたての子鹿のように立ち上がる。目の前には8mはある魔物がいた。
 黒いローブを着ている女型の魔物だ。赤い髪に先端が紫色となっており、床につきそうなほど長い。青色すぎる顔を見て悟った。一人で相手取るべき相手ではない。

 しかし、この痛みを訴えてくる体で逃げ切れるかと言われれば、分からないと言わざるを得ない。コストイラは何が来ても対応できるように刀を半身で抜いておく。

 コツ。と、魔物が動きだした。






 人魚の洞窟の近くにはシラスタ教の教徒が集まった花畑がある。最近、ゴーストバスターが倒されたとあって、あまり近寄る者がいなくなった。

 そんな花畑に一人の少女が走っていた。どこか逃げているようにも見える。キョロキョロと周囲を見渡しており、挙動不審である。

『シュルメ~~。匿って~~』

 狐の面をつけた150cmほどの身長の少女は、振り袖部分を振り回しながら、少女を探す。1分ほど探すと、少女はあることに気付いた。

 花畑の一部が消えていた。誰かが採取していったのだろうか。しかし、それをシュルメが許すはずがない。この花畑にとって花は魂そのものだ。主が去ればそれを追っていなくなる。後1年でこの地から花畑は消えてなくなるだろう。

 フォンは最後の花畑を堪能するようにゆっくりと散歩する。そっとしゃがみ、少しだけ面をずらし、真っ直ぐに見つめる。愛おしそうに見つめ、匂いを嗅ぐ。花の匂いから、すでに魂はそこにはないことを示していた。
 そういえば、あの時貰った花冠もすでに魂が篭っていなかった。すでにここを立ち去る準備はしていたということか。もっと強く勧誘すればよかった。
 今頃シュルメは地下深くにいるだろう。

『今頃はあの子も地下深く。よかったね、シュルメ。もう一度あの子に会えるよ』

 独り言は風にさらわれ、大気に溶けて消えた。そよ風に気持ちよさそうに目を細める。

『ここにいらしてたんですね。フォン様』
『げ。ディーノイ』

 後ろから声をかけられ、フォンが振り返ると、ハルバードを携えた青年がいた。己の主を半眼で見つめる青年は溜息を吐いた。

『これ以上逃げないでくださいよ。毎度追いかけるのは大変なんですから』

 ディーノイは月の使者と呼ばれるフォンの軍隊の隊長を務めている。彼は月の使者を率いて戦う以外の役目も任されていた。フォン脱走時の捕縛役だ。

 900年前から使えているからこそ与えられた役目ともいえる。本人は全く嬉しくないが。

『逃げないでくださいよ』
『もう今日は逃げないよ。帰ろう』
『今日だけじゃなくて、毎日確約してほしいものだな』

 長年の付き合いだからこそ言える軽口をあえて無視する。後ろから溜息が聞こえるがこれも無視する。

 フォンが一人言葉を溢す。

『頑張るんだぜ』
『何かおっしゃいましたか?』
『何でもな~い』

 フォンはゆっくりと顔を上げ、自分の邸宅を眺めた。
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