メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
235 / 400
13.魔界

12.洞窟で乾かしたい

しおりを挟む
 格好つけて出てきたはいいものの、現在アレン達を吹雪が襲っていた。迷子にならないように全員で1本の縄を持っていた。

「吹雪のせいで視界が悪いなってきました。これ以上進むのは危険です。どこかでやり過ごせる場所を探しましょう」
「しゃーねェな。って言っても視界が悪いんだ。そうそう洞窟なんて見つかるわけ、……あったわ」
「あんじゃん」

 ちょうどいいタイミングで見つけたコストイラに、アストロは舌を打つ。洞窟に足を踏み入れ、少し奥に進む。アシドとコストイラは犬のように身を震わせ雪を落とす。

「ちょっと、こっちにも飛んでんだけど」
「んお!? すまん」
「へぁ!? 悪ィ」

 ついている雪を払いながら文句を言うアストロに即座に謝る。

「火を着けてくれ、身が凍えるぜ。風邪ひきそうだ」

 アシドが上を脱ぎ、絞ると水が出てきた。

「キャッ!?」

 アシドの上裸を見て両手で目を覆い、顔を背けた。

「おい、仕切りを造れ。それか奥に行け」
「すまん。すまん」
「僕達はもう少し奥に行きましょう」

 アシドは服を拾い上げ、洞窟の奥に歩いていく。

「じゃあ、火を着けましょう。ほら、風邪ひくから服を脱ぎなさい」
「だ、だ、大丈夫ですかね。の、の、覗かれないですかね」

 アストロはレイドから受け取った薪に火を着ける。シキはすでに下着姿になっており、服を岩にかけていた。アストロに視線を戻すと、アストロも服を脱いでいた。豊満な体を見せつけられ、エンドローゼは戦慄した。

「ほら早く脱げ。風邪ひくわよ。病気は回復魔法じゃ治せないんでしょ」
「う」

 おずおずと自身の服を脱いでいく。寒さのせいで指が震えてしまい、うまく脱げない。

「私が脱がしてあげましょうか?」
「ピッ!?」

 下着姿の状態のアストロが近づいてきたため、エンドローゼは焦りまくり、余計に釦が外せない。

「い、い、いや」
「でも、アナタ脱げていないじゃない」
「で、で、で、でも」

 エンドローゼは壁に背を付け、いやいやと首を振る。しかし、このまま脱がなければ病気になり死んでしまうかもしれない。

「シキ。手伝いなさい」
「仰せのままに」
「ピィエ!?」

 シキはエンドローゼの目にもアストロの目にも止まらぬ速さで後ろに回り、羽交い絞めにする。アストロが手をワキワキさせながら近づいてくる。エンドローゼはいやいやと顔を動かし、更に手足をバタバタさせるが、シキの拘束がエンドローゼごときに解けるはずがない。

「諦めなさい」
「ぴぃえええ!?」






「何か響いてきてんだけど。これ助けに行った方がいいのか?」
「アストロさんに燃やされますよ」
「それは勘弁願いたいな」

 下着一枚のコストイラが中途半端に上げていた腰を下ろし、焚火に当たる。全員の視線がなぜかアレンに集まっている。居心地が悪い。

「な、何ですか。じろじろと」
「アレンって意外にも筋肉あんだな」
「温泉の時とかじゃ気付かなかったな」
「そうですか?」

 アレンは自分の体を見下ろす。3人に比べれば貧相な体をしていると思っている。そんなに筋肉はあるだろうか。

「お前、腹筋シックスパックじゃん」
「僕、樵になるつもりだったので結構体は使ってたんですよ」
「樵」
「何で樵」
「僕の家系は何代も続く樵の家系なんです」

 アシドが自身の顎を撫でる。

「樵は途絶えたのか?」
「……分かりません。僕の12も下に弟がいるので、弟が継いでいるかもしれません」
「兄弟いるんだ。オレ一人っ子だから分かんねェな」

 パチリと跳ねた火の粉が手の甲に当たり、アレンが右手を振る。コストイラはアレンの火傷跡を見て目を逸らす。アレンとしてはコストイラの両腕の傷の方が目を逸らしたくなる。まぁ、背向けた理由はもっと別にあるのだろう。

「僕は12下の弟が一人ですね」
「オレも一人っ子」
「私は一つ下に二人の弟がいる。あとは3つ下に妹が一人いる」
「4兄妹か」

 レイドの父が魔王インサーニアの軍幹部になっていたのは、もはや全員が知っている。あまり突っ込んで聞いていいのかが分からない。

「妹はすでに他界してな。弟どもは行方も分からん」

 さらに空気が重くなる。その空気を破ったのは魔物だった。今だけは魔物に感謝しよう。
 淡く光るそれはホーリードラゴンと同様の白さを誇っており、目を痛くするほどに眩い。額には立派な角が一本立っており、どこか気高ささえ感じさせる。くいっと顔を上げ、顎をこちらに向ける姿はどこかこちらを見下しているようで、その濃く、赤に近いオレンジの瞳には吸い込まれるように深さがあった。
 フルルと喉を鳴らし、こちらを窺う魔物に対し、アレン達は足元の武器を拾う。掴むと同時に走り出すコストイラに対し、魔物は目を張りながらも喉を喉をボコりと鳴らし、ブレスを吐く。コストイラはすんでのところで横に飛んだ。コストイラよりも遠くにいたアレン達も横に回避していた。この先には女子組がいる。






 エンドローゼは己の腕で自分の体を抱いていた。初めて男の前で肌を晒した。純潔の乙女のように身を縮こませていた。

「肌見せんの初めてじゃないでしょ」
「だ、だ、だってここは外ですよっ!? い、いし、い、意識したら余計に恥ずかしく。う~~」
「ハァ。シキ。エンドローゼの体覆える布ない?」
「ない」

 顔どころか耳の先、体まで真っ赤にして、エンドローゼは抵抗していた。その様はすでに体から湯気を出しそうなほどである。アストロはその様子に見兼ねて隠してあげようとするが、無駄に終わった。

「ごめん」

 シキが謝った。2人には真意が伝わらなかったが、それはすでに判明した。シキはアストロの肩を蹴り、エンドローゼを抱き着き何かから庇う。アストロは軽く蹴られたので3,4歩後ろに下がった程度で済んだ。
 アストロが文句を言おうとした時、両手の間にできた空間を白い光線が通り過ぎた。

「うわっ!?」
「ぴぃっ!?」
「何? 今通り過ぎたの? 光線?」

 シキは乾かしていた服をひったくり、急いで着る。

「合流しよう」

 二人も頷き服を掴む。まだ湿っている。不快感を覚えるが我慢して身に着ける。アストロ達は急いで男子組との合流を計る。シキは二人に合わせてゆっくりと走る。前方から足音が近づいてくる。シキはナイフを抜き臨戦状態に入る。向かってきたのはアシドだった。

「いた!」
「アシド!」
「キャッ!?」

 下着一枚のアシドだった。反応の理由に気付き、急いで言い訳をする。

「お前らが心配で急いできたんだよ。服を着てないのは勘弁してくれ」
「よく分からん。ドラゴンが一体だ。3人でも問題はないだろう」

 アシドは言い残すとさっさと走り去ってしまう。

「相変わらず嵐のように去っていくわね」

 呆れたように言うとアストロ達も走り始める。アレン達の元に辿り着くと、戦いはすでに終わっていた。コストイラ達は服をもぞもぞと着ている最中だった。

「おう、アストロ達じゃねェか」
「どうしたんですか?」
「凄い光線が来たから見に来たんだけど」
「ん」

 コストイラは親指で一点を指す。そこを見ると、角の折られた馬のような魔物がいた。

「これが何なのか知らねェけどよ。この角、高く売れそうじゃね?」
「確かに」
「いい武器だって作れそうだな」
「確かに」

 アストロは角に触れ、高度を確かめ、魔力を流してみる。魔力伝導率も高そうだ。

「この後どうする? 雪が止むのはまだ待ちそうだぞ」
「そうですね。洞窟の奥でも探索しますか?」
「いいね。暇つぶしにはなりそうだな」
「その前に」

 武器を待ちながらやる気いっぱいな男子組をアストロが止める。

「その前に服乾かさせて」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...