メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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13.魔界

7.コウガイのシロ

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 アレン達は朝っぱらから酒場にいた。酒を飲むためではない。酒場だというのに酒がお預けであり、コストイラとレイドは外で待機していた。酒を見ると飲んでしまうからだ。

「いらっしゃい」

 迎え入れてくれたのは、顔に大きな切り傷を持つ、全身タトゥーの男だ。どう見ても威圧的だ。しかし、男がカウンターの向こうにいるということは、店員ということなのだろう。だとすれば、その笑顔は心の弱い者なら泣き出してしまうだけの威力がある。エンドローゼは恐がっていないことを装っていた。

「あぁ、依頼の方はどうなったんだ? 調査の結果は」
「正体は精霊でした」
「精霊か」
「はい。新鮮な果物でも供えれば喜びますよ」
「新鮮な果物ね。なるほど、分かった。依頼受けてくれてありがとうな。これで娘と一緒にピクニックに行ける」

 豪快に笑いながら親指を立ててきた。アレン達は苦笑で返す。

「報酬なんだが、見ての通りボロい酒場だ。相応の金はそろうか分かんねェ」
「いらないわ、そんなにいっぱい。旅をするのに大金なんて、文字通りお荷物よ」

 アストロの溜め息交じりの発言に目をパチクリとさせた。そして困惑したように頭を掻く。

「じゃあ、何が良いんだ」
「娘さんを幸せになさい」
「……あぁ、当たり前だ」

 意図が分からず、困惑したままだった。






 黄色い髪をした、快活な少女が走る。手には買い物袋が握られていた。見た目年齢15,6歳であるため、微笑ましい。少女は村から少し外れたところにある屋敷に入っていく。
 村人も覚えのない屋敷だ。いつの間にか建てられていた。村の大工であるお爺さんは建てたのが自分ではないので首を傾げていた。

「買ってきたよ~」

 黄色い髪の少女は鼻歌交じりで買い物袋を掲げる。買い物を頼んだ女はベッドから体を起こし、袋を受け取る。

『ゴホッゴホッ。ありがとう』

 女が薬の梱包を解く。

『あ、お水』

 女はボーっとしており、薬を飲むための水を用意し忘れていた。開ける手を止めようとした時、少女がなみなみと水で満たされたコップを差し出してきた。

『ありがとう』
「魔族でも風邪って引くんだね」
『そうね。でも初めてのことね』
「へェ~~」

 少女は空になったコップを受け取ると、部屋を出る。手をひらひらとさせると、ひらひらと返された。どうやら回復に向かえているようだ。

「カレトワ」

 台所で洗っていると名を呼ばれた。顔を上げると赤褐色の肌の男が立っていた。

「イライザ様は回復に進んでいるのか?」

 話しかけてきたのはコウガイという男だ。元々魔王インサーニアの下で働いており、7人しかいない軍幹部を務めていた、カレトワの同僚である。現在は妹とともにカレトワ同様にこの屋敷に住み込んでいる。住み込みはもう一人、ロッドという男がいる。今はコウガイの妹のアスミンに勉強を教えている時間帯だろう。

「カレトワ?」
「ん? あぁ、イライザ様でしょ。自分で見に行けばいいのに。まぁ、回復してはいるけど、笑顔は難しいかな」
「そうか」

 コウガイは抱えていた洗濯籠を持ち直して去ろうとする。

「コウガイさぁ。よくこんな場所知ってたね。追い出されなそうで、見つかりにくい場所」
「昔、カンジャが研究棟を建てようとしていた土地だ。聞いてもいないのに語っていたよ」
「アイツらしいね。そういやアイツどうなったの? 死んだ?」
「体組織がグチャグチャになっていた。あそこまでの破壊はもはや蹂躙。苦しんで死んだだろうな」
「そこまで?」
「グロかったよ。アスミンは確実に嘔吐だろうな。傷や筋繊維、骨や脳に至るまですべて露出していた。今のオレがレベル1や2のゴブリンを相手取るようなものだ」

 カレトワはその光景を想像し、体を震わせた。今まで自身の手で作ったことがないのではないが、カンジャのレベルを考えると、自分でも手が出ないだろう。推定レベル100以上。自分が対峙したらと考えると恐怖で体が震える。

「出会ったらどうする?」
「オレは拳闘士だ。勝てる勝てないではなく、強そうだから戦う。負けて死んでも、本望だ」

 カレトワはコップを水切り籠に置く。手を拭いながら、初めてコウガイの顔を見る。

「妹ちゃんを置いて逝くなよ」
「当たり前だ」

 力強い返答が聞け、カレトワはそれ以上の言及を止めた。カレトワが満足したのを感じ取り、コウガイは庭へ洗濯物を干しに行く。カレトワは自分のすべきことが終わり、暇になってしまった。彼女はイライザの様子を見た後、ロッドの邪魔をすることにした。






 アレン達はタランネの街を出た後、南に向かって進んでいた。アシドがヲルクィトゥから聞いた話では、この先に奈落へと繋がる道があるということらしい。具体的な地名などないが、着けば分かるのだと言っていたのだとか。

「着けば分かるってどうなってんだろうな」
「もう奈落への入り口って書いてあるんじゃない?」
「あぁ、分かりやすい」

 などと軽く言っていると、城が建っているのが見えた。街から歩いて30分ほどたった場所にあり、周りには4,5の小屋がある。城がでかいため、小さく見えるが、普通に二階建てだ。小屋の総てからは禍々しいオーラが感じ取れ、あまり中に入る気にはなれない。

「明らかにヤバめな奴が住んでそうだな」

 多分面倒事だと言うアシドに、コストイラも賛同する。しかし、2人の違いはアシドは入るのに躊躇っているのに対し、コストイラは入りたくてうずうずしている。

「小屋の位置的にもう敷地内だと思うのですけど、お城の方は開いてるんですかね」
「開いてなかったら引き返すしかないでしょ」

 アレンがキョロキョロしていると、アストロが頭を殴ってくる。アレンが涙目で訴えるが、無視される。開くかどうか試そうと城の扉に近づくとコストイラが後ろから襟を引いた。

 唐突に首が締まり、コストイラをグラタックの餌食にしてやろうと考えたところで、目の前を魔術が通り過ぎた。魔術の発生源を見ると、5mほどの骸骨が立っていた。魔王軍との戦いで見た記憶がある。マインドフレアだ。
 奇襲が失敗したことに狼狽したマインドフレアは体を反転させ、逃げようとする。

「追うか?」
「いえ、自分の有利なところに移動したのでしょう。深追いは危険です」

 走ろうとするアシドは、アレンの答えに納得して背筋を伸ばす。

「どうする? 中に入るか?」
「入るでしょ。だって、追い返そうとするものが中に入ってるんでしょ?」

 アストロの考えが勇者というより盗賊のそれだったので、さすがに焦る。扉に向かおうとするアストロの袖をシキが引く。おぉ、シキも指摘してくれるのか。

「一緒に行こう」

 シキはアストロ側だった。アシドがアレンを追い抜かしながら肩を叩く。

「諦めな」

 アレンは肩を落とし、城の中に入っていった。ちなみに城の扉は開いていた。
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