メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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12.世界樹

12.魍魎が跋扈する湿原

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 霧が立ち込めた時、その濃度にかかわらず、歩こうとするのはおススメしない。視界不明瞭は事故の元だからだ。それでも歩きたいというのなら、より一層の注意をしてほしい。周囲の景色が変わることがなく、方向感覚を失う。そうすると同じ場所をぐるぐると回ってしまい、ずっと同じところに停滞なんてこともある。

 霧が晴れるまで待つことをおススメする。それでも歩きたい時は、足元に注意しろ。光を出すと乱反射するのでやめておけ。私はそれで怪我をした。だから本当にやめておけ。



                                  テスロメル著『欠損者の歩き方』






 薄い霧に包まれた土地を眺め、コストイラが頭を掻く。必死に目を凝らしているが、5m先も見えてこない。

「どうする? 進むか?」
「アレンは何か見えるか?」

 コストイラが進退を聞くと、レイドがアレンが先導できるかどうかを問う。

「厳しいですね。15m先までが限界、ですかね」
「めっちゃ見えんじゃん」

 アシドが驚愕な顔でアレンを見る。アレンは魔力を使わずともよく目が見えるのだ。
 アレンは一歩遺跡の外に出る。グシャリと地面がぬかるんでいる。泥? まさか泥? また? え? やっぱアイツ出る?

「どうした?」
「え? 何でもないです」

 後ろにいたコストイラが首を傾げる。例のトラウマを思い起こし汗を垂らしながら前へ進む。コストイラ達も後を追うように遺跡を出る。グチャリ。コストイラ達もアレンが立ち止まった理由を察した。全員が泥にまみれた記憶を思い出す。

「霧が晴れるまで待たない?」

 アストロの顔が引き攣っている。この先に洗う場所があるとも限らない。アストロ含めアレン達は泥が天敵なのだ。

 しかし、今は泥地帯というよりは湿原だ。もしかしたら出てこないかもしれない。アレンは魔力を使い、場面を展開させる。範囲は半径20mにしておく。魔力消費が少し多いが、安全のためだ。少しは吐き気を我慢しよう。アレンは魔素を魔力に変換できる量も速度も人より劣る。そのため、魔力酔いにすぐなってしまう。

「右前方、20m先敵です」
「種類は?」
「分かりません」
「大きさとか他の情報は?」
「ごめんなさい」
「いるって分かるだけ準備ができる」

 敵が近いことを察知したアレンはそれだけしか分からなかったが、コストイラがフォローする。息を潜めて歩いていると、前方からガーゴイルが歩いてくる。台座からディアボロスに似ている。

「あれはディア、いや、ガーゴイルか」

 すでにコストイラでも見える距離に近づいていた。もうコストイラの射程範囲内だ。ガーゴイルは何かを探すようにキョロキョロとしながら歩いている。攻撃しようとすると、ぬかるんだ地面に足を取られ、音をならしてしまう。もう少し近くに来たら斬る。

 3m。2m。1m。

 今だ。

 コストイラは急に動きだす。コストイラとガーゴイルの目が合う。ガーゴイルが咄嗟に腕を振るうが、コストイラはその腕ごと居合で切り落とす。くるくると腕が宙を舞い、血を撒いていく。ガーゴイルが次の反応を示す前に振り下ろす。ガーゴイルはオレンジと黒の混じった煙を出しながら倒れる。バチャリと腕が落ちてきた。

「湿原だからって油断してたが、やっぱり泥だな」

 コストイラは自身のズボンの裾についた泥を見てげんなりする。やっぱりマッドスライムがいるかもしれない。いや、対処できるのではないだろうか。コストイラは闘志に火を灯した。

「任せろ。次が出ても任せろ」
「面倒な火のつきかたしたわね」

 瞳を炎にした。コストイラからアストロは距離を取った。

「コストイラさん。前から来ます」
「うし」

 アレンが告げると小さく気合を入れて前を向く。アレンはポンと肩を叩かれ振り向くとアストロが親指を立てていた。何か正しい判断をしたらしい。

「おい、アレン。相手はどのへんだ。どれくらいの距離にいる」
「近づいてきませんね。向こうも気づいているのかもしれませんね」
「位置は?」
「前方、そうですね。13mほどですかね」
「少しだけ近づく」
「分かりました」

 コストイラはそろりそろりと近づいていく。

「駄目です。離れていきます。こちらが見えているようですね」
「遠距離か」

 コストイラが苦手とする戦い方だ。アレンの方を見ると、アレンは口元を押さえ膝をついてしまった。

「!? 敵に何かされたのか」
「違うわ。馬鹿ね。魔力を使いすぎたのね」
「魔力? そうか。オレ達は頼りすぎたのか」

 アレンの背中をシキが擦る。え? 嘘。介抱してくれている? アレンは泣きそうになり体を震わせる。シキが少し動揺する。

「体を震わせて、そんなにきつかったのか。すまんな、気付かなくて」
「そんなんじゃないと思うけど」

 アレンの気持ちをコストイラを気付かなかったが、アストロには気付かれていた。

「今はそれよりも敵の方だろ」

 温まった心は”それ”という単語に打ち砕かれた。やっぱりアレンには味方がいないのか。

 コストイラはアレンを他の者たちに任せ、いまだ見えぬ敵を見据える。アレンの言っていた方向にゆっくりと歩く。唐突に黒い魔力が出現する。敵から攻撃だ。コストイラは目を見開き、咄嗟に刀を振るい対処しようする。刃が魔力に触れられることなく擦り抜ける。顔面に当たりそうになり、目を瞑る。魔力はそのまま顔面まで擦り抜ける。

「え?」

 コストイラが間抜けな声を出してしまうが、仕方のないこと。全員が爆発すると思ったのだ。魔力はコストイラとアシドの間で爆発した。

 え? 今? 爆発するのか。コストイラとアシドが不思議そうな顔をし、レイドは楯が役に立たない感じ、顔を顰める。アストロは敵の狙いに気付いた。

「コストイラ、相手は距離を調べている。何とかして狂わせなさい」
「何とかって雑だなァ」

 そう言いつつもコストイラは魔力が飛んできた方に走る。10mなどという距離は一瞬で消し、辺りを見る。
 いた。魔物だ。その姿昔、母に聞かされた幽霊そのもの。青白い肌にオレンジの眼。足がなく浮遊した体。正真正銘の悪霊が目の前にいた。
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