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12.世界樹

5.龍を使役する者

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 使役する魔術というものは存在していない。正確には250年前までは存在していたが、今では廃れた魔術となっている。

 当時の技術を学ぼうとする人は多い。使役する魔術を身に着け、よからぬことをしようとする者が多い。

 ”異世界人”と呼ばれる勇者が、その魔術の危険性を説き、禁止にさせた。ゴートは異常なほど人望があり、250年以上経った今でも約束は守り通されている。
 ドラゴンマスターは過去の存在だ。残しておいてはいけない。使役の魔術は使役するものが多ければ多いほど使用者の脳を焼き切る。使役される側は、じわじわと脳を使用者の感情や情動に侵食されてしまう。
 だからこそ、駆逐した。その魔術を禁忌のものとして消していった。ゴブリンマスター、ゾンビマスター、様々なものがいたが、ドラゴンマスターは狡猾だった。ドラゴンマスターだけ完璧には駆逐できなかった。

 これはゴートの三大悲劇として数えられている。






 怖い。恐い。恐い。

 どうしてみんな揃って私をいじめてくるのだろう。

 分かる。理由は。もし自分が逆の立場なら自分もいじめていただろう。

 異物。自分とは違う者。

 年など関係なく、それだけでいじめられる。

 そんなことは分かっている。私だって怖い。自分のことを排除しようとする存在が恐くないはずがない。
 私だって死にたくないのだ。抵抗するのは、当然だろう。






 壁が壊れたかと思ったら、視界が真っ白に染まった。それは純粋無垢な聖なる色だ。そこに一点の黒が生じる。レイドの影だ。レイドは楯と魔術を行使し、後ろにブレスが届かないようにした。

『ヌゥン。防ぐか』

 コストイラは肉薄し、刀を振るう。しかし、ドラゴンマスターが杖を輝かせると、聖龍が代わりに受ける。コストイラは返り血に視界を潰された。聖龍の尾はコストイラの脇腹にめり込む。壁に激突したコストイラは吐血する。内臓が傷ついたことが原因だろう。エンドローゼが慌ててコストイラに駆け寄る。

『ヌゥン。そこだ』

 杖を振るい、聖龍にブレスを撃たせる。
 エンドローゼは回復対象を見ると、なりふり構わない癖がある。エンドローゼはブレスに背を向けたまま、回復を続ける。諦めているのではない。自分では対処できないから、任せているのだ。

 エンドローゼの前にアシドが立ち、槍を振るって、ブレスを往なす。

『ヌゥン。これでも駄目か。楽ではないな』

 ドラゴンマスターが杖を振るおうとすると、パキンと音が聞こえた。見ると、杖の先端、ドラゴンの足元にある空色の宝玉が罅入っていた。中心を見るとナイフが刺さっている。空色の宝玉から輝きが失われていた。

『ヌゥン! これは!?』

 驚くドラゴンマスターの首元にホーリードラゴンが噛みついた。ホーリードラゴンの眼はオレンジ色となっており、当初の空色はどこにも見えない。支配の解けたドラゴンは、主に対し反旗を翻した。

 ドドドと地鳴りがする。階下からドラゴン達が上がってきたのだ。今のアレン達に抵抗する力があるのだろうか。レイド達はエンドローゼの元に集まり、固まる。凌がなくては。
 構えていると入り口を壊し、拡張しながらドラゴン達が侵入してくる。ここが正念場だ。

 しかし、そこで予想外のことが起きた。

 ドラゴン達はアレン達を素通りにした。真っ直ぐにドラゴンマスターの元に寄ったのだ。そして噛みついている。使役していたドラゴンに噛まれるとは、相当恨まれているのだろう。

『ヌゥン』

 ドラゴンマスターは杖を振るい、攻撃してくるドラゴンの頭を潰す。本体だけでもそこそこ戦えるようだ。

 こそこそと今のうちに部屋の外に逃げ出す。

「やられたらやり返したいが、無理なもんは諦める。これ戦いの基本な」

 アレン達は急いで階段を折りていく。途中エンドローゼがこけそうになるが、アストロが手を握り、先導していく。半分以上下りた時、天井が壊れる。螺旋階段の中央、貫かれた空間をドラゴンマスター、ホーリードラゴン、その他複数のドラゴンが落下していく。

「止まるな!」
「抜けるぞ!」

 判断に一瞬の迷いが生じたアレンの代わりにコストイラとアシドが命を出す。

『ヌゥン。ヌゥアアアアア!!』

 ドラゴンマスターは聖龍に喉を食い千切られる。

 強制的に結ばれた主従が消え、凶悪な竜達は解放された。まず竜達が狙ったのは同じ竜だった。複数のドラゴンはホーリードラゴンを狙う。対する聖龍はブレスで蹴散らしていく。

 アレン達は塔から脱出する。しかし、安心できない。一刻も早く遠くに行きたい。止まることなく走り続ける。

 ドガァンと塔が爆発する。上から瓦礫が降ってくる。

「うわわ」

 エンドローゼはアストロに抱き着き、お腹に顔を埋める。アストロは必死に引き剥がそうとするが、こういう時のエンドローゼは意外に力が強い。アレンは頼れる人がいないので一人で丸くなる。他4人は降ってくる瓦礫を弾く。

 ドス。

「フッ!?」

 アレンの横ギリギリに杖が刺さる。アレンが見上げるとドラゴンマスターの杖だった。6mはあろう巨人の持ち物だ。杖だけでも大きい。

 ナイフの刺さった空色の宝玉も降ってきた。

「私の」

 シキは軽々と砂場だというのに4mもジャンプして宝玉を拾う。ナイフを抜くと、同時に宝玉が割れた。パラパラと宝玉の破片が落ちる。アレンはその破片を何とはなしに拾ってみる。違和感がある。

「アストロさん」
「何?」
「この破片に魔力を流してみてくれませんか?僕にはそういう細かいことは出来なくて」
「ハァ、まぁできるようになった方が得よ」
「はい」

 溜息を吐きつつ、やってくれる。出会った頃に比べればだいぶ優しくなっただろう。アストロが首を傾げる。

「何ていうか、魔力を吸われる感覚がっ!!」

 最後声が大きくなったのは、破片が破裂したからだ。おそらく魔力を吸いすぎて許容量を超えたのだろう。

「これって?」
「秘封石です。魔術を閉じ込めておける魔石です。レイドさんの楯の素材である月天石の2倍は値打ちがあります」

 2倍と口の中で転がしながら、アストロは粉々になった宝玉を見る。

「惜しいことをしたわね」
「………非常に」

 アレンは悲しみのあまり、砂に膝をつけ落ち込むのだった。そんなアレンとアストロを余所にコストイラ達は空を見上げていた。正確にはホーリードラゴンを。
 あの大量のドラゴンを蹴散らし、傷だらけになった暴龍は、彼方へと飛んで行った。コストイラ達も向かう世界樹の方へと。

「根性スゲェな」
「負けられねェな」

 コストイラとアシドは己の武器を握り締めた。
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