メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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10.境目果て

14.間欠泉

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 丘の上から見える景色には湯気が見えていた。ただの森かと思ってしまう。それほどまでに湯気は小さかったが、温泉を楽しみしているエンドローゼが目敏く見つけた。

 すでに日が沈み切っており、夜は星が支配していた。太陽が出ている時間が短くなっているのだ。今は18時ごろか。

 アレン達はここで止まることはない。おそらく2,3時間は動くだろう。目的地に辿り着いたらすぐに休んでしまいそうだ。

 魔物が出てくるだろうが、アレン達は絶対に辿り着いてやると皆の意思が一致していた。森の中に入ると縄のように細い魔物がいた。

『フシュ―』『フシュルル』『フシュ―?』

 しかも複数。

 灰色の魔物は貧相ではあるが、ワイバーンのような見た目をしていた。灰細竜は鼻が見えないが、匂いを嗅ぐように顔を動かす。顔を左右に動かし、匂いの元を探る。

 3匹の灰細竜が一斉に一点をを見る。視線の先にいるのは、エンドローゼ?

 灰細竜、いや、魔物にとってエンドローゼは明確な敵だ。目障りな光だ。

 オレンジの瞳に嫌な光が差す。

 邪魔だ。じゃまだ。ジャマダッ!

『『『フシャアアアアアアアアアッッ!!』』』

 3つの殺意を真正面から当てられ、エンドローゼは短く悲鳴を上げ、尻餅をついてしまう。

 予想以上に開いた口はエンドローゼの拳程度なら軽々と噛み千切れそうだ。その灰細竜に対して、レイドは楯でタックルをかます。残り2匹はアシド、コストイラが止める。アシドは槍で貫いた、コストイラは刀で首を切り落としたつもりだった。硬い。その灰細竜の外皮の硬さは、刀の侵入を拒んだ。

 しかし、痛みはある。

『シャッ!!』

 灰細竜の口の中で爆発が起こる。魔力の塊だ。無理矢理こじ開けられ、口の端が少し裂けている。アシドが口の中へ槍を突き入れ、灰細竜の脳ごと貫く。

「あ?」

 感触が変だ。何がかの説明ができないが明らかに何か違う。槍に刺さったままの灰細竜が溶けるように地面についていく。あの硬かった外皮が嘘のように柔らかくなり、ズルリと自然と槍から溶け落ちた。

 灰細竜の口の中にナイフが刺さる。シキはそのまま口の中の筋肉を切り裂く。灰細竜は口が閉じれず、シキを拒めなくなる。シキがサッと身を引く。

 コストイラが灰細竜の口の中に炎を流し込む。ボゴンと灰細竜の腹が膨らむ。限界まで開かれた口の中にナイフが投げ込まれる。ナイフに括り付けられていた白瓏石が熱に反応し大爆発が起こす。

 灰細竜は内側から破裂した。

「ふぁっ!?」

 一番近くにいたコストイラは直撃寸前にバックステップで躱す。

「危ねェ」

 コストイラが顔を上げると、ペタリと左目を隠すように外皮が付いた。

「ちょっ、シキさん?」

 コストイラがシキを見ると、少女は小さくガッツポーズをしていて、ビシッと親指を立ててもいた。違う、そうじゃないとコストイラは思ったが指摘するのを止めた。無駄な感じがした。

 アレンが灰細竜の1匹を狙う。しかし、パシと弾かれる。灰細竜の表皮が固く矢が刺さってくれない。

『シャアッ!』
「うわっ!」

 飛びついてくる灰細竜にアレンは必死に躱し、逃げに徹する。灰細竜は樹木にぶつかり、鼻の骨に罅を入れる。

「フンッ!」

 レイドが大剣を思い切り首に叩きつける。アシドやコストイラの一撃と違い、一瞬ではなく地面と挟み撃ちにする断頭台の刃のようだ。地面に押し付けられ、灰細竜は首を折られる。大剣は止まらず、地面を割り、さらに押し込む。口から血や内壁などが吐き出る。パリッと体の方でも音が出る。体の内側から盛り上がり、外皮が割れ何かがその隙間から吹き出し、漏れ出してくる。

 ビクンビクンと体を痙攣させ口をパクパクと動かしており、未だにこの灰細竜は生きているということを示していた。

 大剣を離すと、堰き止めていたものがどいたことで、血が流れ始め、飛び出した目玉の隙間から、口から、割れた顔からも血や内臓が出てくる。ゴボゴボと音を鳴らし、大きくビクンと体を反応させ、それ以降動かなくなる。

「よし、倒せたな」
「うむ」
「ご、ご、ごめんなさい。ななな、何か私に向かっていたような」

 エンドローゼが自身の臀部についた雪を払いながら、謝罪する。

「なんでなんでしょうね」
「分からん」
「力になれん」
「………?」
「きゅう」

 誰もまともに推察もできず、エンドローゼは変な声が出てしまう。その時、ゴゴゴと地面が揺れる。

「ッ!? 何だ。地震か!?」
「まさか、また雪崩!?」
「確認はできないが」

 急な地の揺れに焦り、原因を探そうとするが、レイドが雪崩説を否定する。シキは木に登って上から確認したが首を横に振っている。

「まさかさっきの私の攻撃の余波で?」
「だとしてももう何もできないだろ」

 何か気付いたようなレイドに対し、コストイラが背を叩いてツッコむ。

 地震が収まった。

「止まった?」
「何かあるかもしれません。警戒を続けましょう」
「ったりめェだ」

 アレンの言葉にコストイラが噛みつくが、その眼はキョロキョロとしており、意識はアレンには向いていない。

 ドッと大きな音がして、遠くの地面が爆ぜた。

 そちらに顔を向けると、柱が立っていた。その柱の先端から何かが分かれ降っていた。遠くにいるアレンの頬についた。

「温かい。これ、お湯ですね」
「お湯?」
「温泉が近ェってことだなっ!!」

 アレンが頬を拭い、腕を見ていると、コストイラが元気を取り戻した。風はなくとも寒さには限界だったようだ。すでに夜の帳が下りているが、最後まで進むことにした。
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