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10.境目果て
5.休息所
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リドルエッグと別れてからも歩き続けた。足がすでに存在していないんじゃないかと心配になるほど感覚を失っていた。記憶が間違ってなければ、アレン達は現在も歩いている。吹雪がさらに強まり、皆はさらに前傾になった。
前が見えない。
目的地に着けない。
体力だけでなく、精神力まで削れていく。
どちらかが崩れた瞬間、アレン達は死ぬ。絶望に片足を突っ込みかけた時、アシドが口を開いた。
「洞窟だ」
その言葉に皆が力を振り絞る。
洞窟に入ると、すぐさま木綿を取り出す。コストイラに火をつけてもらい、それを石で囲む。
「これがこのまま続くはきついぞ」
「そうね。エンドローゼも倒れちゃったしね」
コストイラは両の掌を火に見せて、アストロは膝の上に頭を乗せたエンドローゼの髪を梳く。
「ですが、日数を増やしても雪風を防げるところはないですよ。無理して動くか、ゆっくり行って徹夜するかの2択です」
全員が閉口する。どちらをとっても地獄だ。
「エンドローゼ。貴方はどっちがいい?」
最初に沈黙を破ったのはアストロ、そして判断をエンドローゼに任せた。
「わ、私のことは、か、か、構わないでく、ください。こ、これまで通りのよ、よ、予定で行きましょう」
「本当に大丈夫? 貴方、自分の殺しすぎよ。もっと我儘を言っていいのよ?」
アストロがエンドローゼを心配している。出会ったばかりの頃からすれば想像もできなかっただろう。エンドローゼも予想外だったのか、一瞬ぽかんとしたのち、困ったような笑顔を浮かべる。
「じゃ、じゃ、じゃあ、我儘です。か、構わないでください」
我儘を言われてしまえば何も返せなくなる。
「本人に言われちゃしゃあない」
「負担を減らすために、戦闘を避けていきます。逃げることを最優先にしていきましょう」
全員がアレンの言葉に同意すると、そのまま岩がたくさん転がっている地面に寝転がった。
チェシバルを支配してのはすでに恐怖ではなく、絶望に変わっていた。
ベートは示したのだ。安全な場所などないのだ、と。
5か月が経つ頃、被害は女子供しかいないので、彼女達は男と一緒に行動するようになった。しかし、全員が一緒に行動できるわけではない。街の男は街の女子供の数よりも少ないのだ。
被害は続いた。
そんな中、初めての生還者が現れた。
12歳の男の子だった。
食われる前に逃げ、樵と出会えたことで逃げ延びたらしい。男の子は恐ろしいものを見たと、体育座りをした状態で震えている。街の者達もあまり男の子に無理をさせたくなかった。
しかし、彼は唯一の生還者。唯一の目撃者だ。今後の対応のためにも聞かなくてはならない。
「何を見たんだ」
「………獣。でっかい獣」
「でかい? オオカミか?」
「仔牛ぐらいでかかった」
オオカミは平均して1.2m、仔牛は1.6mはある。確かにでかい。この地方にはその大きさの獣は住んでいない。誰か、貴族様が飼っていなければの話だが。
「他に特徴はあるか?」
「………………背中に一筋の縞模様があった気がする」
少年の眉根が寄せられる。恐怖と驚愕で記憶が曖昧になっているのだろう。ただ、一番気になるのは。
「どうしてベートだと思えた?」
そこだ。
これだけあれば、ただ平均よりでかいオオカミを見つけました、で終わってしまう。ベートだと思えた確固たる証拠・証言が欲しいのだ。明日を生きる希望を12歳の少年に求めた。
「………オオカミと戦ってた。それで、勝ってた」
オオカミは集団で生きる獣だ。ベートがオオカミだったとしたら、群れを追われた弱い獣のはずだ。1匹で集団のオオカミに勝てるとは思えない。
決まりだ。
そこからの対応は迅速だった。1日でチェシバルの街全体にベートの情報を公開した。身体的特徴、これまでの被害者から見えた襲撃の特徴・対策。
それでも、被害は続いた。
まるで、獣が殺人を楽しんでいるかのように。これまでの被害を再度纏めていた時、とある発見があった。60㎞も離れた地点で1日のうちに被害が出ている。本当に獣は1匹なのだろうか。
1匹であるのなら、わざわざ60㎞も移動するだろうか。いや、ない。
人の手が入っている。
チェシバルの町長は怪しい人をリストアップした。もっとも疑いがかかったのは、森の中に住まう猟師だった。
前が見えない。
目的地に着けない。
体力だけでなく、精神力まで削れていく。
どちらかが崩れた瞬間、アレン達は死ぬ。絶望に片足を突っ込みかけた時、アシドが口を開いた。
「洞窟だ」
その言葉に皆が力を振り絞る。
洞窟に入ると、すぐさま木綿を取り出す。コストイラに火をつけてもらい、それを石で囲む。
「これがこのまま続くはきついぞ」
「そうね。エンドローゼも倒れちゃったしね」
コストイラは両の掌を火に見せて、アストロは膝の上に頭を乗せたエンドローゼの髪を梳く。
「ですが、日数を増やしても雪風を防げるところはないですよ。無理して動くか、ゆっくり行って徹夜するかの2択です」
全員が閉口する。どちらをとっても地獄だ。
「エンドローゼ。貴方はどっちがいい?」
最初に沈黙を破ったのはアストロ、そして判断をエンドローゼに任せた。
「わ、私のことは、か、か、構わないでく、ください。こ、これまで通りのよ、よ、予定で行きましょう」
「本当に大丈夫? 貴方、自分の殺しすぎよ。もっと我儘を言っていいのよ?」
アストロがエンドローゼを心配している。出会ったばかりの頃からすれば想像もできなかっただろう。エンドローゼも予想外だったのか、一瞬ぽかんとしたのち、困ったような笑顔を浮かべる。
「じゃ、じゃ、じゃあ、我儘です。か、構わないでください」
我儘を言われてしまえば何も返せなくなる。
「本人に言われちゃしゃあない」
「負担を減らすために、戦闘を避けていきます。逃げることを最優先にしていきましょう」
全員がアレンの言葉に同意すると、そのまま岩がたくさん転がっている地面に寝転がった。
チェシバルを支配してのはすでに恐怖ではなく、絶望に変わっていた。
ベートは示したのだ。安全な場所などないのだ、と。
5か月が経つ頃、被害は女子供しかいないので、彼女達は男と一緒に行動するようになった。しかし、全員が一緒に行動できるわけではない。街の男は街の女子供の数よりも少ないのだ。
被害は続いた。
そんな中、初めての生還者が現れた。
12歳の男の子だった。
食われる前に逃げ、樵と出会えたことで逃げ延びたらしい。男の子は恐ろしいものを見たと、体育座りをした状態で震えている。街の者達もあまり男の子に無理をさせたくなかった。
しかし、彼は唯一の生還者。唯一の目撃者だ。今後の対応のためにも聞かなくてはならない。
「何を見たんだ」
「………獣。でっかい獣」
「でかい? オオカミか?」
「仔牛ぐらいでかかった」
オオカミは平均して1.2m、仔牛は1.6mはある。確かにでかい。この地方にはその大きさの獣は住んでいない。誰か、貴族様が飼っていなければの話だが。
「他に特徴はあるか?」
「………………背中に一筋の縞模様があった気がする」
少年の眉根が寄せられる。恐怖と驚愕で記憶が曖昧になっているのだろう。ただ、一番気になるのは。
「どうしてベートだと思えた?」
そこだ。
これだけあれば、ただ平均よりでかいオオカミを見つけました、で終わってしまう。ベートだと思えた確固たる証拠・証言が欲しいのだ。明日を生きる希望を12歳の少年に求めた。
「………オオカミと戦ってた。それで、勝ってた」
オオカミは集団で生きる獣だ。ベートがオオカミだったとしたら、群れを追われた弱い獣のはずだ。1匹で集団のオオカミに勝てるとは思えない。
決まりだ。
そこからの対応は迅速だった。1日でチェシバルの街全体にベートの情報を公開した。身体的特徴、これまでの被害者から見えた襲撃の特徴・対策。
それでも、被害は続いた。
まるで、獣が殺人を楽しんでいるかのように。これまでの被害を再度纏めていた時、とある発見があった。60㎞も離れた地点で1日のうちに被害が出ている。本当に獣は1匹なのだろうか。
1匹であるのなら、わざわざ60㎞も移動するだろうか。いや、ない。
人の手が入っている。
チェシバルの町長は怪しい人をリストアップした。もっとも疑いがかかったのは、森の中に住まう猟師だった。
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