メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
180 / 400
10.境目果て

5.休息所

しおりを挟む
 リドルエッグと別れてからも歩き続けた。足がすでに存在していないんじゃないかと心配になるほど感覚を失っていた。記憶が間違ってなければ、アレン達は現在も歩いている。吹雪がさらに強まり、皆はさらに前傾になった。

 前が見えない。

 目的地に着けない。

 体力だけでなく、精神力まで削れていく。

 どちらかが崩れた瞬間、アレン達は死ぬ。絶望に片足を突っ込みかけた時、アシドが口を開いた。

「洞窟だ」

 その言葉に皆が力を振り絞る。

 洞窟に入ると、すぐさま木綿を取り出す。コストイラに火をつけてもらい、それを石で囲む。

「これがこのまま続くはきついぞ」
「そうね。エンドローゼも倒れちゃったしね」

 コストイラは両の掌を火に見せて、アストロは膝の上に頭を乗せたエンドローゼの髪を梳く。

「ですが、日数を増やしても雪風を防げるところはないですよ。無理して動くか、ゆっくり行って徹夜するかの2択です」

 全員が閉口する。どちらをとっても地獄だ。

「エンドローゼ。貴方はどっちがいい?」

 最初に沈黙を破ったのはアストロ、そして判断をエンドローゼに任せた。

「わ、私のことは、か、か、構わないでく、ください。こ、これまで通りのよ、よ、予定で行きましょう」
「本当に大丈夫? 貴方、自分の殺しすぎよ。もっと我儘を言っていいのよ?」

 アストロがエンドローゼを心配している。出会ったばかりの頃からすれば想像もできなかっただろう。エンドローゼも予想外だったのか、一瞬ぽかんとしたのち、困ったような笑顔を浮かべる。

「じゃ、じゃ、じゃあ、我儘です。か、構わないでください」

 我儘を言われてしまえば何も返せなくなる。

「本人に言われちゃしゃあない」
「負担を減らすために、戦闘を避けていきます。逃げることを最優先にしていきましょう」

 全員がアレンの言葉に同意すると、そのまま岩がたくさん転がっている地面に寝転がった。






 チェシバルを支配してのはすでに恐怖ではなく、絶望に変わっていた。

 ベートは示したのだ。安全な場所などないのだ、と。

 5か月が経つ頃、被害は女子供しかいないので、彼女達は男と一緒に行動するようになった。しかし、全員が一緒に行動できるわけではない。街の男は街の女子供の数よりも少ないのだ。

 被害は続いた。

 そんな中、初めての生還者が現れた。

 12歳の男の子だった。

 食われる前に逃げ、樵と出会えたことで逃げ延びたらしい。男の子は恐ろしいものを見たと、体育座りをした状態で震えている。街の者達もあまり男の子に無理をさせたくなかった。

 しかし、彼は唯一の生還者。唯一の目撃者だ。今後の対応のためにも聞かなくてはならない。

「何を見たんだ」
「………獣。でっかい獣」
「でかい? オオカミか?」
「仔牛ぐらいでかかった」

 オオカミは平均して1.2m、仔牛は1.6mはある。確かにでかい。この地方にはその大きさの獣は住んでいない。誰か、貴族様が飼っていなければの話だが。

「他に特徴はあるか?」
「………………背中に一筋の縞模様があった気がする」

 少年の眉根が寄せられる。恐怖と驚愕で記憶が曖昧になっているのだろう。ただ、一番気になるのは。

「どうしてベートだと思えた?」

 そこだ。

 これだけあれば、ただ平均よりでかいオオカミを見つけました、で終わってしまう。ベートだと思えた確固たる証拠・証言が欲しいのだ。明日を生きる希望を12歳の少年に求めた。

「………オオカミと戦ってた。それで、勝ってた」

 オオカミは集団で生きる獣だ。ベートがオオカミだったとしたら、群れを追われた弱い獣のはずだ。1匹で集団のオオカミに勝てるとは思えない。

 決まりだ。

 そこからの対応は迅速だった。1日でチェシバルの街全体にベートの情報を公開した。身体的特徴、これまでの被害者から見えた襲撃の特徴・対策。

 それでも、被害は続いた。

 まるで、獣が殺人を楽しんでいるかのように。これまでの被害を再度纏めていた時、とある発見があった。60㎞も離れた地点で1日のうちに被害が出ている。本当に獣は1匹なのだろうか。

 1匹であるのなら、わざわざ60㎞も移動するだろうか。いや、ない。

 人の手が入っている。

 チェシバルの町長は怪しい人をリストアップした。もっとも疑いがかかったのは、森の中に住まう猟師だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...