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10.境目果て
2.寒風が吹き荒ぶ海峡
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寒い地の海は温かい。
アレンは最初何を言っているのか分からなかった。
だってそうだろう。水は冷たいものだ。夏場は水の張った桶に足を漬けると気持ちいいものなのだ。
それが温かい。
意味が分からない。
いや、意味が分からなかった。
考えてみれば当たり前のことだ。水温が氷点下近くても、気温がマイナス20度であれば相対的に水は温かいものになる。
まぁ、だからといって水には入らない方がいい。岸に上がった時、濡れた体は確実に死んでしまうからだ。それに水に入る前に寒さで水面が凍っている可能性さえある。
では海風は冷たいのか。答えはその時々によるだ。無責任な解答だが、つまり、そういうことだ。
では、ここはどうか。気温と体感温度は違う。
「さっきより寒くねェかっ!? これっ!?」
その事実はコストイラをキレさせた。風に巻き込まれた冷たい空気が層になり、体を打っていた。体感温度は風の有無によっても変わる。身を持って知った。もう勘弁だが。
アレン達はすでに海峡に着いていた。感動する間もなく南下していく。感動していたら7つの氷像ができてしまうだろう。
「もう少し海から離れねェか。寒すぎるぜ」
アレン達はコストイラの意見を採用し、少し離れ始める。
「影?」
レイドの呟きに皆がその視線の先を見る。半径50㎝程の黒い影が雪の上に広がっていた。
「罠かもしれませんね」
「誰が罠なんて張るんだよ」
「た、確かに」
アストロに指摘され冷や汗を流してしまう。汗が寒風により冷え、体温を奪っていく。汗をかくのも命懸けだ。
「何かの巣かもしれねェな」
アシドが槍で肩をポンポンと叩きながら首を傾げる。
「まず、僕が矢を撃ち込んでみます」
「いったれいったれ」
コストイラはもう投げ槍になっていた。こんな調子で最後まで持つのだろうか。アレンは風を考慮して弓を引く。矢は風に揉まれながら陰に当たる
『ォォォォォォォォォ』
影からくぐもった声が聞こえる。
次いで穴から魔物が姿を現す。額の真ん中から捻じれた角を1本生やした黒い牛だ。下半身は影の中に残したままだ。
『ォォォォォォォ』
ナイトビーストはオレンジの瞳を輝かせ、こちらを窺う。
風が吹き荒び、雪が視界を塞いでいく。遮られていく景色の中で、そのオレンジの光だけが浮いていた。
瞳の位置は分かる。しかし、一瞬見えただけの角の長さは覚えきれていない。仲間との連携はどうする。アレンは自身の技で仲間と敵の位置把握はできる。しかし、他の仲間は五感に頼っている。視界は吹雪で潰されている。聴覚も風の音で使えない。嗅覚は冷たい空気に支配されてしまっている。味覚は使えてなんか意味あるか?触角は寒風のせいでそれ以外の何も感じられない。
どうやって連携をとるか、などと考えているアレンを尻目に、コストイラ達は動き出していた。アシドは雪に足を取られることなく疾走していく。ナイトビーストの角は電磁波を受け取っており、この吹雪でも見えて、いや、感じ取っていた。
『ォォォォォォォ』
吹雪に掻き消える唸り声をあげながらアシドを見据える。ナイトビーストは下半身を影に残したまま、突進する。
アシドは風を貫いてくる角を視認した瞬間、体を捻り、角を躱す。勢いを利用し、回転蹴り、黒牛の側頭部に踵を叩き込む。黒牛の側頭部は凹み、右目は半分飛び出しているが、絶命には至らない。すごいタフネスだ。
しかし、そのタフネスはそれ以上の剛力によって打ち砕かれる。レイドの大剣が断頭台のギロチンの如く下ろされる。大剣は的確に黒牛の首を捉え、ドンとそのまま落とした。
「そんな勢いで下ろしたら」
アストロはコートを纏っている己の腕を擦りながら言ってくる。
「?」
「いや、雪崩」
言われて初めてその可能性に気付いて、顔を青くする。確かにその可能性がある。
「平原ですし、大丈夫じゃないですか?」
「ならいいんだけど」
今回は納得させられるものがあったが、次からは気を付けるべきだろう。
アレンは最初何を言っているのか分からなかった。
だってそうだろう。水は冷たいものだ。夏場は水の張った桶に足を漬けると気持ちいいものなのだ。
それが温かい。
意味が分からない。
いや、意味が分からなかった。
考えてみれば当たり前のことだ。水温が氷点下近くても、気温がマイナス20度であれば相対的に水は温かいものになる。
まぁ、だからといって水には入らない方がいい。岸に上がった時、濡れた体は確実に死んでしまうからだ。それに水に入る前に寒さで水面が凍っている可能性さえある。
では海風は冷たいのか。答えはその時々によるだ。無責任な解答だが、つまり、そういうことだ。
では、ここはどうか。気温と体感温度は違う。
「さっきより寒くねェかっ!? これっ!?」
その事実はコストイラをキレさせた。風に巻き込まれた冷たい空気が層になり、体を打っていた。体感温度は風の有無によっても変わる。身を持って知った。もう勘弁だが。
アレン達はすでに海峡に着いていた。感動する間もなく南下していく。感動していたら7つの氷像ができてしまうだろう。
「もう少し海から離れねェか。寒すぎるぜ」
アレン達はコストイラの意見を採用し、少し離れ始める。
「影?」
レイドの呟きに皆がその視線の先を見る。半径50㎝程の黒い影が雪の上に広がっていた。
「罠かもしれませんね」
「誰が罠なんて張るんだよ」
「た、確かに」
アストロに指摘され冷や汗を流してしまう。汗が寒風により冷え、体温を奪っていく。汗をかくのも命懸けだ。
「何かの巣かもしれねェな」
アシドが槍で肩をポンポンと叩きながら首を傾げる。
「まず、僕が矢を撃ち込んでみます」
「いったれいったれ」
コストイラはもう投げ槍になっていた。こんな調子で最後まで持つのだろうか。アレンは風を考慮して弓を引く。矢は風に揉まれながら陰に当たる
『ォォォォォォォォォ』
影からくぐもった声が聞こえる。
次いで穴から魔物が姿を現す。額の真ん中から捻じれた角を1本生やした黒い牛だ。下半身は影の中に残したままだ。
『ォォォォォォォ』
ナイトビーストはオレンジの瞳を輝かせ、こちらを窺う。
風が吹き荒び、雪が視界を塞いでいく。遮られていく景色の中で、そのオレンジの光だけが浮いていた。
瞳の位置は分かる。しかし、一瞬見えただけの角の長さは覚えきれていない。仲間との連携はどうする。アレンは自身の技で仲間と敵の位置把握はできる。しかし、他の仲間は五感に頼っている。視界は吹雪で潰されている。聴覚も風の音で使えない。嗅覚は冷たい空気に支配されてしまっている。味覚は使えてなんか意味あるか?触角は寒風のせいでそれ以外の何も感じられない。
どうやって連携をとるか、などと考えているアレンを尻目に、コストイラ達は動き出していた。アシドは雪に足を取られることなく疾走していく。ナイトビーストの角は電磁波を受け取っており、この吹雪でも見えて、いや、感じ取っていた。
『ォォォォォォォ』
吹雪に掻き消える唸り声をあげながらアシドを見据える。ナイトビーストは下半身を影に残したまま、突進する。
アシドは風を貫いてくる角を視認した瞬間、体を捻り、角を躱す。勢いを利用し、回転蹴り、黒牛の側頭部に踵を叩き込む。黒牛の側頭部は凹み、右目は半分飛び出しているが、絶命には至らない。すごいタフネスだ。
しかし、そのタフネスはそれ以上の剛力によって打ち砕かれる。レイドの大剣が断頭台のギロチンの如く下ろされる。大剣は的確に黒牛の首を捉え、ドンとそのまま落とした。
「そんな勢いで下ろしたら」
アストロはコートを纏っている己の腕を擦りながら言ってくる。
「?」
「いや、雪崩」
言われて初めてその可能性に気付いて、顔を青くする。確かにその可能性がある。
「平原ですし、大丈夫じゃないですか?」
「ならいいんだけど」
今回は納得させられるものがあったが、次からは気を付けるべきだろう。
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