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9.先駆者
5.道具に頼る魔法使い
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酒場。
しかも昼間の酒場。
その時間帯に酒場にいるのは明らかに普通の人ではない。実際、ただの暇人だったり、待ち合わせに使っていたりなどで、特に変人とは限らない。
アストロは酒場の扉を開ける。アストロは客観的に見て美人である。深いスリットの入ったワンピースタイプのドレスも加わり、視線を集めていた。アストロは気にも留めず髪を耳にかけ、カウンター席に座る。
テーブル席に座っていた男達はスリットから覗くむっちりとした太ももや大きな胸に下衆な視線を向ける。
「シャカとユレダのカクテル」
マスターはフンッと鼻を鳴らすと金属のカップの中に材料を入れる。男達の間で誰が最初に話しかけるのか、アイコンタクトで牽制しあう。
「よぉ、嬢ちゃん。両手にゴテゴテといっぱい道具つけてんな。ん? 首元もか。装飾品が一個もねェや」
男達から怒りの視線を一身に浴びる男がアストロの隣に座ってくる。酒臭い男だ。全身に金銀、宝石魔石様々な装飾を身に着けている。それらがすべて魔力を帯びており、ただの装飾品ではないのはアストロには明らかだ。その装飾品すべてが似合う美形と浅黒い肌。日焼けではなく元からの色だろう。
だからといってアストロは酔っ払いを相手する気分ではない。体を斜めにして無視する。
「っかぁ! 無視されちまったぜ。まぁいいや。とりま、おめっとさん」
紫色の髪をくるくると指に巻き付け、手元の酒を呷る。
「あぁ、すまん。意味不だよな。魔王討伐ご苦労さんって意味だ。何か奢ろうか?」
魔王討伐がなされたことはもう知られているが、誰が成したのかは知られていない。なぜ、知っているのか。
「………」
「何で知ってんのかって話だよな。オレがお前の先代だからだよ」
「先代?」
「お、やっとこっちを向いてくれたなって恐ェよ、睨むなよ。先代は先代。先代の勇者の魔術師だからだよ」
アストロはそこでようやくまともに話を聞く気になった。当初は嘘かもしれないと思ったが、語られる冒険譚、漏れ出ている魔力、装備している装飾品の数々。彼が本物であることは明白だった。
「それで? こうして接触してきた理由は何? こうして楽しくお喋りするために来たんじゃないでしょう?」
いい感じに酒が回った2人は頬を赤くしている。アストロは18歳の乙女とは思えない妖艶な動きで頬杖をつき、テグと名乗った男に問いかける。
「ん? あぁ、結構時間が経ってんな。先輩として一発鍛えてやろうと思ってな」
「あら、私を成長させてくれるの?」
「グランセマイユ設立者の弟子のアンタに教えるのは恐れ多いが、<仙才鬼才>の称号に誓おう」
2人はほろ酔いの状態で店を出ると、アストロは宿屋の方に向かおうとする。
「あれ? 宿に行くの?」
「えぇ、家にはいたくないの」
「何だ、親が嫌いか?駄目だぜ、たまには顔ぐらい見せてやんねェと」
「親は知らないわ。私孤児だもの」
「うぇ、あぁ。何かすまん。触れん方がいいか?」
「大丈夫よ。私の中では決着をつけたつもりだから」
「じゃあ、家には嫌な思い出でもあんのか」
「それは触れないで」
「あいよ」
分かり易く地雷を踏み抜きそうになり、緊急回避するのがテグの生き方だ。それ以上の会話はなく、2人は宿に向かった。
翌日。
アストロとテグはマーケットにいた。テグが特訓に必要なものを揃えたいと言ったからだ。
「何を買うの?」
「バレット」
バレットとは風魔鉄と白瓏石をそれぞれ削り、繋げた魔道具だ。火、水、然、地、闇、理、光、無属性の八種類存在する。アストロも火、水、闇、光の4つを所持している。
バレットがあれば魔力さえあれば誰でも魔力を弾丸のように発射できる。魔術師が使うときは自身の魔術の威力を上げたい時だ。
「おや、貴方は」
買い物袋を抱えた男が声をかけてきた。アストロにも見覚えがある。そう、あの。えっと。そう、吸血鬼姉妹のところにいた執事だ。アストロは名前が一向に思い出せない。多くの人が往来するマーケットで吸血鬼の名を出すのは憚られた。
「あの姉妹のところの」
「はい、執事長のリックと申します」
「アストロよ」
お互いに会釈する。
「なぜここに?」
「主様が現在こちらに滞在しておりますので」
「そう」
では、とリックが立ち去る。見渡すとテグがいない。
あれ?この年で迷子。
澄ました顔をしながら内心焦っていると、前からきらびやかな格好をしたものが近づいてくる。
「探してた無属性のバレットがあったぞ。しかもきらずまであるなんて凄いなこのマーケット」
きらずが何かわからないので反応に困る。マーケットから抜けるように歩き出すテグの後ろを歩きながら聞く。
「きらずって何」
「知らねェの?豆腐つくる時に出る豆乳絞った後のカスなんだけど」
「豆腐殻のこと?」
「豆腐殻とかおからって骸を想起させるだろ?だから言わねェの。切んなくても使えるからきらず」
ふと、疑問が頭に浮かんだ。
「何でそれを特別に言ったの?」
「好物だから」
単純だった。
広い丘にいた。
テグがせっせと的を立てている。
「的当て?」
「そ、的当て」
テグは買ったばかりのバレットを手渡してくる。これでやれという意味だろう。的は全部で5つ。すべて木製だが、種類は3つある。
両端は正方形の的に木の棒がついており、棒を地面に刺して立てられていた。その内側2つは一回り大きい正方形の的を木の棒に寄りかからせているだけのもの。真ん中はその両側に似ているが、違う部分は的と木の棒が打ち付けられている点だ。
「じゃあ、端から順に打ってくれ。どっちの端からでもいいぞ」
合図が出された。
ちなみにテグは的の横、歩数2,3歩ほどの位置にいる。あの位置で大丈夫なのだろうか。
指輪のタイプの魔道具は指に嵌めて初めて装備したと判定される。アストロの両手十指にはすべてに指輪が装備されている。誤射しないように左手の中指に嵌める。
左手の中指だけを立てて、的に向け右手は左手首を包み込むように掴む。固定させるためだ。
一射目。真っ直ぐに的に吸い込まれていき、的の右半分に中る。的はくるくると回りぱたりと倒れる。
二射目。的の上部に中り、地面を滑り、的は倒れる。
三射目。ど真ん中にバンと中り、その箇所が黒くなり、煙を上げているが、倒れることがない。
四射目。的の下部に中り、地面を滑り、今度は前面側に倒れた。
五射目。ど真ん中に中り、垂直に刺さっていた的は後方に40度ほど傾いた。
「どうなの?」
「今、レベルいくつ?」
「………50よ」
軽薄そうな雰囲気が消え去り、剣呑なそれに代わっていた。
「じゃあ、十分か」
それは一瞬のことで、すぐに軽薄そうなものに戻った。
「全部中ってるし、精密射撃は指導理由はないなぁ。威力もバレットだし、こんなもんだろ。つか、的壊した時点で高ェ高ェ」
一射目に中てた的を拾い、欠けた部分を指でなぞる。テグは冷や汗を流す。教えることなくね?
「落ち着け。オレのレベルはいくつだ?そう100だ。アイツの2倍だ。経験だってたくさん積んできた。大丈夫だ。教えられる。誓ったんだ、オレなら大丈夫だ」
小声で何か言うテグの言葉はアストロまで届かず、放置されていることに苛立ち始める。
「よし、アストロ。実践しようぜ」
やけくそだった。教えることが結局見つからなかったので実践をして見つけることにした。
その日から特訓が始まった。
達成目標は動く相手に魔術を当てること。達成することを目標としてまず動く相手を捉える。事実、アストロにはテグの動きが見えなかった。速度のステータスが2倍を超えていた。これはテグも予想外。額に手を当て、天を仰ぎ、マジかよ、と呟きもした。
特訓13日後。
アストロの視力はギリギリテグの端を捉えることに成功した。その後、囮や罠の魔力の塊を駆使して、偏差撃ちを決めることに成功した。
「やるじゃん」
テグは軽い感じで、でも自分のことのように喜び、アストロも素直に喜んだ。今日ぐらいは家に帰れる気がした。酒を飲み、頬を赤くし、上機嫌で家に帰る。まるで育ての親のような恰好で家に向かう。
あぁ、何年ぶりだろう。
育ての親との日々が蘇ってくる。
アストロの口角が僅かに上がる。
あぁ、なんて嫌な記憶だろう。
酔っ払いは酔いとともに盛大に吐いた。
しかも昼間の酒場。
その時間帯に酒場にいるのは明らかに普通の人ではない。実際、ただの暇人だったり、待ち合わせに使っていたりなどで、特に変人とは限らない。
アストロは酒場の扉を開ける。アストロは客観的に見て美人である。深いスリットの入ったワンピースタイプのドレスも加わり、視線を集めていた。アストロは気にも留めず髪を耳にかけ、カウンター席に座る。
テーブル席に座っていた男達はスリットから覗くむっちりとした太ももや大きな胸に下衆な視線を向ける。
「シャカとユレダのカクテル」
マスターはフンッと鼻を鳴らすと金属のカップの中に材料を入れる。男達の間で誰が最初に話しかけるのか、アイコンタクトで牽制しあう。
「よぉ、嬢ちゃん。両手にゴテゴテといっぱい道具つけてんな。ん? 首元もか。装飾品が一個もねェや」
男達から怒りの視線を一身に浴びる男がアストロの隣に座ってくる。酒臭い男だ。全身に金銀、宝石魔石様々な装飾を身に着けている。それらがすべて魔力を帯びており、ただの装飾品ではないのはアストロには明らかだ。その装飾品すべてが似合う美形と浅黒い肌。日焼けではなく元からの色だろう。
だからといってアストロは酔っ払いを相手する気分ではない。体を斜めにして無視する。
「っかぁ! 無視されちまったぜ。まぁいいや。とりま、おめっとさん」
紫色の髪をくるくると指に巻き付け、手元の酒を呷る。
「あぁ、すまん。意味不だよな。魔王討伐ご苦労さんって意味だ。何か奢ろうか?」
魔王討伐がなされたことはもう知られているが、誰が成したのかは知られていない。なぜ、知っているのか。
「………」
「何で知ってんのかって話だよな。オレがお前の先代だからだよ」
「先代?」
「お、やっとこっちを向いてくれたなって恐ェよ、睨むなよ。先代は先代。先代の勇者の魔術師だからだよ」
アストロはそこでようやくまともに話を聞く気になった。当初は嘘かもしれないと思ったが、語られる冒険譚、漏れ出ている魔力、装備している装飾品の数々。彼が本物であることは明白だった。
「それで? こうして接触してきた理由は何? こうして楽しくお喋りするために来たんじゃないでしょう?」
いい感じに酒が回った2人は頬を赤くしている。アストロは18歳の乙女とは思えない妖艶な動きで頬杖をつき、テグと名乗った男に問いかける。
「ん? あぁ、結構時間が経ってんな。先輩として一発鍛えてやろうと思ってな」
「あら、私を成長させてくれるの?」
「グランセマイユ設立者の弟子のアンタに教えるのは恐れ多いが、<仙才鬼才>の称号に誓おう」
2人はほろ酔いの状態で店を出ると、アストロは宿屋の方に向かおうとする。
「あれ? 宿に行くの?」
「えぇ、家にはいたくないの」
「何だ、親が嫌いか?駄目だぜ、たまには顔ぐらい見せてやんねェと」
「親は知らないわ。私孤児だもの」
「うぇ、あぁ。何かすまん。触れん方がいいか?」
「大丈夫よ。私の中では決着をつけたつもりだから」
「じゃあ、家には嫌な思い出でもあんのか」
「それは触れないで」
「あいよ」
分かり易く地雷を踏み抜きそうになり、緊急回避するのがテグの生き方だ。それ以上の会話はなく、2人は宿に向かった。
翌日。
アストロとテグはマーケットにいた。テグが特訓に必要なものを揃えたいと言ったからだ。
「何を買うの?」
「バレット」
バレットとは風魔鉄と白瓏石をそれぞれ削り、繋げた魔道具だ。火、水、然、地、闇、理、光、無属性の八種類存在する。アストロも火、水、闇、光の4つを所持している。
バレットがあれば魔力さえあれば誰でも魔力を弾丸のように発射できる。魔術師が使うときは自身の魔術の威力を上げたい時だ。
「おや、貴方は」
買い物袋を抱えた男が声をかけてきた。アストロにも見覚えがある。そう、あの。えっと。そう、吸血鬼姉妹のところにいた執事だ。アストロは名前が一向に思い出せない。多くの人が往来するマーケットで吸血鬼の名を出すのは憚られた。
「あの姉妹のところの」
「はい、執事長のリックと申します」
「アストロよ」
お互いに会釈する。
「なぜここに?」
「主様が現在こちらに滞在しておりますので」
「そう」
では、とリックが立ち去る。見渡すとテグがいない。
あれ?この年で迷子。
澄ました顔をしながら内心焦っていると、前からきらびやかな格好をしたものが近づいてくる。
「探してた無属性のバレットがあったぞ。しかもきらずまであるなんて凄いなこのマーケット」
きらずが何かわからないので反応に困る。マーケットから抜けるように歩き出すテグの後ろを歩きながら聞く。
「きらずって何」
「知らねェの?豆腐つくる時に出る豆乳絞った後のカスなんだけど」
「豆腐殻のこと?」
「豆腐殻とかおからって骸を想起させるだろ?だから言わねェの。切んなくても使えるからきらず」
ふと、疑問が頭に浮かんだ。
「何でそれを特別に言ったの?」
「好物だから」
単純だった。
広い丘にいた。
テグがせっせと的を立てている。
「的当て?」
「そ、的当て」
テグは買ったばかりのバレットを手渡してくる。これでやれという意味だろう。的は全部で5つ。すべて木製だが、種類は3つある。
両端は正方形の的に木の棒がついており、棒を地面に刺して立てられていた。その内側2つは一回り大きい正方形の的を木の棒に寄りかからせているだけのもの。真ん中はその両側に似ているが、違う部分は的と木の棒が打ち付けられている点だ。
「じゃあ、端から順に打ってくれ。どっちの端からでもいいぞ」
合図が出された。
ちなみにテグは的の横、歩数2,3歩ほどの位置にいる。あの位置で大丈夫なのだろうか。
指輪のタイプの魔道具は指に嵌めて初めて装備したと判定される。アストロの両手十指にはすべてに指輪が装備されている。誤射しないように左手の中指に嵌める。
左手の中指だけを立てて、的に向け右手は左手首を包み込むように掴む。固定させるためだ。
一射目。真っ直ぐに的に吸い込まれていき、的の右半分に中る。的はくるくると回りぱたりと倒れる。
二射目。的の上部に中り、地面を滑り、的は倒れる。
三射目。ど真ん中にバンと中り、その箇所が黒くなり、煙を上げているが、倒れることがない。
四射目。的の下部に中り、地面を滑り、今度は前面側に倒れた。
五射目。ど真ん中に中り、垂直に刺さっていた的は後方に40度ほど傾いた。
「どうなの?」
「今、レベルいくつ?」
「………50よ」
軽薄そうな雰囲気が消え去り、剣呑なそれに代わっていた。
「じゃあ、十分か」
それは一瞬のことで、すぐに軽薄そうなものに戻った。
「全部中ってるし、精密射撃は指導理由はないなぁ。威力もバレットだし、こんなもんだろ。つか、的壊した時点で高ェ高ェ」
一射目に中てた的を拾い、欠けた部分を指でなぞる。テグは冷や汗を流す。教えることなくね?
「落ち着け。オレのレベルはいくつだ?そう100だ。アイツの2倍だ。経験だってたくさん積んできた。大丈夫だ。教えられる。誓ったんだ、オレなら大丈夫だ」
小声で何か言うテグの言葉はアストロまで届かず、放置されていることに苛立ち始める。
「よし、アストロ。実践しようぜ」
やけくそだった。教えることが結局見つからなかったので実践をして見つけることにした。
その日から特訓が始まった。
達成目標は動く相手に魔術を当てること。達成することを目標としてまず動く相手を捉える。事実、アストロにはテグの動きが見えなかった。速度のステータスが2倍を超えていた。これはテグも予想外。額に手を当て、天を仰ぎ、マジかよ、と呟きもした。
特訓13日後。
アストロの視力はギリギリテグの端を捉えることに成功した。その後、囮や罠の魔力の塊を駆使して、偏差撃ちを決めることに成功した。
「やるじゃん」
テグは軽い感じで、でも自分のことのように喜び、アストロも素直に喜んだ。今日ぐらいは家に帰れる気がした。酒を飲み、頬を赤くし、上機嫌で家に帰る。まるで育ての親のような恰好で家に向かう。
あぁ、何年ぶりだろう。
育ての親との日々が蘇ってくる。
アストロの口角が僅かに上がる。
あぁ、なんて嫌な記憶だろう。
酔っ払いは酔いとともに盛大に吐いた。
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