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9.先駆者
1.帰ってきた勇者
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250年の間、恐怖が続いていた。恐怖は人々を支配し、脈々と受け継がれてきた。当時を生きてきた人間はおらず、知らぬ世代が増えてきたが、恐怖は薄れることはなかった。お話の題材になり、吟遊詩人の歌になり、絵本にもなった。
茶化す者はおらず、真摯に書かれており、2,3歳の子供でさえ真面目に理解に努めた。恐怖の度合いには都会も田舎も、大人も子供も、裕福も貧乏も、どんな要素も関係なかった。
その恐怖は魔王といった。
その日、鐘の音が響いた。
それはまるで世界が祝福するかのようだった。
それは世界が待ち望んだ者の誕生を知らせる音だった。
勇者の誕生であった。
初代の勇者が生まれたのは、350年前の話だ。その勇者はジョコンドという。
それからランダムな周期で勇者は生まれた。
勇者は様々な偉業を成し遂げた。
勇者は世界を旅し、救済をしながら地図も作った。恐怖が支配する頃、第6代勇者のツセコイルが生まれた。ツセコイルは人類で初めて魔王という存在を観測した。
世界には6体の魔王が生まれた。
今から10日前に、その一角が倒れた。倒されたのだ。
倒した本人であるシキ達は今、初めて会ったカフェにいた。
「ここ、アップルパイなんてあったっけ?」
「最後に来たときはなかった気がする。あれ?どっちだっけ?」
コストイラはアップルパイにフォークを入れながら、メニューを見ている。アストロはパスタを巻きながら適当に答える。シキはナッツをポリポリと食べ、レイドはステーキを、アレンはサンドウィッチを、アシドはアクアパッツァを、エンドローゼはフルーツパフェを口に含む。
アレンは改めてテーブルの上を見渡す。
「このカフェ何でもありますね」
「確かに。カフェっぽくないメニューまであるよな。幅広くね?」
アシドは自分で言っていて疑問が増えた。
「食べる?」
「え、い、い、いいんですか?」
「ええ」
エンドローゼはぱくっと口に含む。幸せそうな顔をするエンドローゼを見て、アストロは目を細める。お返しとばかりにパフェを差し出す。
全員が食べ終わると、アレンがまとめて支払いをする。
「それでは、またどこかで」
「ええ、またどっかで」
道の分岐点でアレンとシキ、アシドとアストロとコストイラ、レイド、エンドローゼの4組に分かれる。分かれ方は故郷の場所だ。いつ再開するのかの話し合いなどなく、意思がないことを示していた。
コストイラはアシドとアストロを見る。
「今後、何すんだ」
勇者は解散した。つまり、2度目の人生を歩むことを強制されていた。
「漁師にでもなるかな。足の速さを活かすのも悪くねェけど、そっちはなんも分かんねェからな」
アシドは槍を銛に見立てて振るう。
「教師になりたいわ。子供の頃の夢だもの。有能な魔術師で育てたいわね」
アストロは髪をかき上げる。
「アンタは?」「お前は?」
「オレは家業を継ぐかな。もしくは剣術指南とかかな。オレの剣を誰かに伝えたいぜ」
「無理だろ。お前独学だし」
「習得するのに何十年とかかりそう」
「んなことァねェだろォ!!」
アシドとアストロの呆れに怒号で返すが、ともなく笑い始める。
一時の、平和。
「アレン」
名を呼ばれ、ドキリとした。好きな人に名前を呼ばれるのは初めてだが、こうも胸が熱くなるものなのか。というか初めて名前を呼ばれた気がする。
「私は、勇者になれた?」
その疑問を聞いて、別の意味でドキリとした。シキはそんな疑問を持っていたのか。
「どう、なんでしょうね。勇者って何なのか、僕も分からないのでなれたのか分かりません。そもそも勇者が職業なのかも疑問です。役目とか役割じゃないんですかね。ただ、僕の中ではシキさんは勇者でしたよ」
「そう」
素っ気ない対応だが、頬に紅が差すのを見逃さなかった。答えは間違ってなかったようだ。
「おい、大将。今後はどうすんだ。親父さんの跡でも継ぐんか?」
『父さんの遺志を継ぐ気はないよ。僕は僕なりに僕の夢を目指すよ』
「その割にあの魔法。ヴェー達を誤魔化せるわけなかろう」
『はぁ。とにかく意思はないよ。あと、今後は仲間をもう少し集めることを意識しつつ、魔大陸を目指しますよ』
「場所分かんのか?」
『ジョコンドの地図とヌネの手記、イムカロの研究論文。これらがあれば辿り着ける』
「儂はショカンについてゆこう」
「ボクも」
「では行くかの」
『あぁ』
茶化す者はおらず、真摯に書かれており、2,3歳の子供でさえ真面目に理解に努めた。恐怖の度合いには都会も田舎も、大人も子供も、裕福も貧乏も、どんな要素も関係なかった。
その恐怖は魔王といった。
その日、鐘の音が響いた。
それはまるで世界が祝福するかのようだった。
それは世界が待ち望んだ者の誕生を知らせる音だった。
勇者の誕生であった。
初代の勇者が生まれたのは、350年前の話だ。その勇者はジョコンドという。
それからランダムな周期で勇者は生まれた。
勇者は様々な偉業を成し遂げた。
勇者は世界を旅し、救済をしながら地図も作った。恐怖が支配する頃、第6代勇者のツセコイルが生まれた。ツセコイルは人類で初めて魔王という存在を観測した。
世界には6体の魔王が生まれた。
今から10日前に、その一角が倒れた。倒されたのだ。
倒した本人であるシキ達は今、初めて会ったカフェにいた。
「ここ、アップルパイなんてあったっけ?」
「最後に来たときはなかった気がする。あれ?どっちだっけ?」
コストイラはアップルパイにフォークを入れながら、メニューを見ている。アストロはパスタを巻きながら適当に答える。シキはナッツをポリポリと食べ、レイドはステーキを、アレンはサンドウィッチを、アシドはアクアパッツァを、エンドローゼはフルーツパフェを口に含む。
アレンは改めてテーブルの上を見渡す。
「このカフェ何でもありますね」
「確かに。カフェっぽくないメニューまであるよな。幅広くね?」
アシドは自分で言っていて疑問が増えた。
「食べる?」
「え、い、い、いいんですか?」
「ええ」
エンドローゼはぱくっと口に含む。幸せそうな顔をするエンドローゼを見て、アストロは目を細める。お返しとばかりにパフェを差し出す。
全員が食べ終わると、アレンがまとめて支払いをする。
「それでは、またどこかで」
「ええ、またどっかで」
道の分岐点でアレンとシキ、アシドとアストロとコストイラ、レイド、エンドローゼの4組に分かれる。分かれ方は故郷の場所だ。いつ再開するのかの話し合いなどなく、意思がないことを示していた。
コストイラはアシドとアストロを見る。
「今後、何すんだ」
勇者は解散した。つまり、2度目の人生を歩むことを強制されていた。
「漁師にでもなるかな。足の速さを活かすのも悪くねェけど、そっちはなんも分かんねェからな」
アシドは槍を銛に見立てて振るう。
「教師になりたいわ。子供の頃の夢だもの。有能な魔術師で育てたいわね」
アストロは髪をかき上げる。
「アンタは?」「お前は?」
「オレは家業を継ぐかな。もしくは剣術指南とかかな。オレの剣を誰かに伝えたいぜ」
「無理だろ。お前独学だし」
「習得するのに何十年とかかりそう」
「んなことァねェだろォ!!」
アシドとアストロの呆れに怒号で返すが、ともなく笑い始める。
一時の、平和。
「アレン」
名を呼ばれ、ドキリとした。好きな人に名前を呼ばれるのは初めてだが、こうも胸が熱くなるものなのか。というか初めて名前を呼ばれた気がする。
「私は、勇者になれた?」
その疑問を聞いて、別の意味でドキリとした。シキはそんな疑問を持っていたのか。
「どう、なんでしょうね。勇者って何なのか、僕も分からないのでなれたのか分かりません。そもそも勇者が職業なのかも疑問です。役目とか役割じゃないんですかね。ただ、僕の中ではシキさんは勇者でしたよ」
「そう」
素っ気ない対応だが、頬に紅が差すのを見逃さなかった。答えは間違ってなかったようだ。
「おい、大将。今後はどうすんだ。親父さんの跡でも継ぐんか?」
『父さんの遺志を継ぐ気はないよ。僕は僕なりに僕の夢を目指すよ』
「その割にあの魔法。ヴェー達を誤魔化せるわけなかろう」
『はぁ。とにかく意思はないよ。あと、今後は仲間をもう少し集めることを意識しつつ、魔大陸を目指しますよ』
「場所分かんのか?」
『ジョコンドの地図とヌネの手記、イムカロの研究論文。これらがあれば辿り着ける』
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