メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
164 / 424
8.魔王インサーニアを討て

37.とめどない進化

しおりを挟む
 魔王とインサーニアの二つの名前がある。



 魔王とは魔王因子を持っている者のことだ。人間の王と同じなので複数存在している。魔王は成る時に名を捨てる。過去の自分を名に込めて捨て、新たな名をもらう。一度魔王になったならば自分も周りも捨てた名を呼んではならない。



 新たな名は他の魔王が考える。



 最も新しき魔王が襲名したのは”インサーニア”。古き言葉で異端児。



 自己中心的な魔王ばかりな中、他の魔族のために奔走するその姿は異端児と呼ぶに相応しい。強欲を意味するメニスと呼ばれた祖父と、後追いという意味を持つアメアリンドと呼ばれる父とは違い、明確に他者のために動くインサーニアを他の魔王はにやにやしている。いや、にやにやしているのは1人だけか。



 奴らはインサーニアで賭けをしようとしていた。計画が成功するのかどうか。ちなみに全員が失敗に投票し、賭けが成立しなくなってほぼ興味がなくなったのだ。















 淡い光がコストイラを包む。



「よく生きてますね」



「すげぇだろ。根性って言うんだぜ」



「喋らないでください!」



「あ、すいません」



 治療中、しかも死ぬ直前ぐらいのコストイラが話し始めたのでエンドローゼが強い語気でコストイラを黙らせる。



 ドン、と唐突にコストイラがエンドローゼを突き飛ばす。



「え?」



 エンドローゼが怒ろうと顔を上げると、コストイラが巨大な岩を刀で弾いていた。流星群だ。巨巌の塔で術士が吐きまくっているのを知らないアレン達には、どれほど降り注ぐのか分からず恐怖しかない。あと何発打てるのか上限さえ分かればビクビクしなくて済むのだが、バキベキと木々のへし折れる音も恐怖を助長していた。



 しかし、木々の折れた原因は流星群だけじゃなかった。目の前にはインサーニアがそこにいた。



「アレンッ!」



 アレンは名を呼ばれ、意図を察する。アレンはエンドローゼを抱えて走る。



「え?あ、れ、レイドさんは!?れ、れ、レイドさんも一緒に!」



「駄目です」



「あ、な、何で?なな、何で駄目なんですか!?」



「レイドさんは自分の身でもって僕達を逃がしてくれたんです。無駄にしてはいけません」



「っ!」



 エンドローゼも納得していないが飲み込んではくれたようだ。アレンの両足を淡い光が包む。足が回復する。疲労が取れていく。まだ走れる。



「私にで、で、で、出来ることはこ、こ、これくらいなので」



 走れるし、疲れも取れていっているのだが、エンドローゼが地味に重いことは隠しておいた方がいいだろう。















「なぜ」



 シキは問う。なぜ自分を庇うのか、と。シキに覆い被さるように四つん這いになっているアシドは血まみれになっている。先ほどの流星群からシキを護った代償だ。シキの印象ではアシドはこんなことをするような者ではないと思っていた。



 アシドはゴロリと横に転がる。



「オレは勇者だ。勇者なんだよ。勇者ってのは人を救えるもんだと思っている。悔しいが、オレじゃ勝てない。だからオレはお前に意思を託すために救った。頼んだぞ」



 血に濡れた眼はそれでも鋭さを消していない。



 シキが立ち上がる。



「分かった」



 シキは振り返ることなく走り去る。



「心配してくれてもいんじゃねェのか?」



「大丈夫だと思ったんでしょ?」



「アストロ」



 木から身を出し、アシドに近づくアストロはアシドの頭を自身の膝に乗せる。



「お、これは快適だね」



「馬鹿なこと言ってると頭落とすわよ」



「恐っ!」



 アストロはフンッと鼻を鳴らした。















 それは呪いだった。



 インサーニアの知らぬことを延々と聞かされ続けた。ヂドルを取り戻せと。インサーニアはヂドルが魔物の領だったころを知らない。ただの歴史の話だ。ヂドルなどなくとも今ある土地を工夫して生きていくのでは駄目だったのか。



 しかし、それは呪いとなっていた。



 呪いとして体も心も支配されていき、絡め取られていく。呪いがあっては生を享受できない。だからこそ解放されなくてはいけなかった。呪いが解けて初めて生が始まる。



 他人に尽くして、優先して見えるのはただのポーズだ。そうすることが呪いを解く鍵だと思っている。他の魔王の一部しか気付いていない、インサーニアの自己中な部分。



『フンッ』



 地面を舐めるようにレイドに迫る右手。張り手ではなく、拳。その拳には呪いに対する苛立ちや怒りといった感情が入っている。



『フッ』



 ゴォンと拳が止められる。大剣での完全防御。拳を振り抜くこともできない。血管を幾重にも浮き上がらせながら、拮抗する。インサーニアは魔力の塊をぶつける。煙が一気に上がる。インサーニアは煙を突き抜けようとする。



 マントの上から大剣が叩きつけられ、右足の骨に罅が入る。右目を赤くして、鬼の形相をしたレイドがいた。上半身は裸となり、血を滲ませ、痛々しい様相となっているが油断できない。



『フンッ』



 気合と魔力を込めた左手を叩き込む。大剣で防ぐが、先の攻撃のダメージが残っていたのか、大剣が砕ける。地面を押し付けるように拳を叩き込む。魔力が爆発する。地面にはクレーターができており、底にはレイドがボロボロの雑巾のように沈んでいる。



 インサーニアが顔を上げる。コストイラがいない。



『また奴か』



 苛立ちを隠さずに舌を打つ。















「コストイラ」



「何も言うなよ、シキ。それよりも、こいつだ」



 シキはそんなコストイラに嫌な脂汗が浮かんでいるのを見逃さないが、言われたようにあえて見逃す。痛々しく折れ曲がった指で祠を叩く。他が痛すぎて、鈍感になっている。



「祠」



「しかも下は魔法陣。怪しまない方がおかしい」



 シキの視線もコストイラ同様、下を向く。ベキと音を立てながら刀を握り、居合で後ろを斬りながら振り返る。ズバリとインサーニアが切られる。



「ぐっ」



『ぐむっ!』



 両者は痛みに顔を歪める。インサーニアは腕を振るい、コストイラをはたく。それに合わせて祠が壊れる。



 コストイラがにやりと口角を上げる。だが。



『この程度では計画は狂わん。むしろ加速する。祠など、意味のない記号に過ぎない』



 魔法陣が明るく輝いた。すでに夜といって差し支えない時間帯の大発光は周囲にいた者、望遠鏡を覗いていた者、使用していなかったアスミンでさえ視界が白み、両目を押さえる。



『計画は成功だ。これで攻め落とせる』



 光はインサーニアに収束していき、包み込む。



『すでにこれは奪還ではない!凱旋だ!』



 誇るインサーニアにシキは引かない。ナイフをナイトメアスタイルで構え、対峙する。



 この瞬間、彼女は勇者となった。















『いない!』



 ショカンは深淵の塔にて苛立っていた。



 父に言われ、幹部を倒そうとして仲間を呼び寄せ、ここに赴いたのだが、誰もいない。ここに住まうロッドは幹部の中では一番レベルが低い。とっとと倒し、父に進言しようと来たのだが、蛻の殻だった。



「で、どうすんだよ、大将。他の塔に行くのか?」



 着物を着た男が蒼髪をがりがりと掻きながらショカンに尋ねる。



『そうだな…………』



 何かを話そうとすると、窓の外がカッと光る。



「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」



「どうした」



 声変わりのしていない子供の叫び声が響き、絶世の美女が介抱する。



「羨ましいな、くそっ」



 上裸の男が子供を睨みつける。



「フン。ヴェーに介抱されたくば、も少し可愛くなれ」



 美女は子供を胸に抱き寄せ、妖艶に笑う。子供は無抵抗にぶらぶらとしている。



「んでっ!今光ったのは何だよっ」



「自分で確認しろよ」



「んだとっ!」



 侍と格闘家が額を合わせ、ガルルルルと互いに牙を見せて唸る。



「あ奴らの肩を持つわけではないが、結局あの光は何じゃったのじゃ」



『…………僕のお父さんだよ』



「ほぉ。向かうのか?」



『……そうだね。でも助けはしないよ。助ける意思なんてないしね』



 ショカンの哀しそうな顔に気付かず蓄えられた髭を撫でる、ずんぐりとした体形は典型的なドワーフのものだ。



 ショカンが塔を下り始めるとその後ろからドワーフ、侍、格闘家、そして子供を抱え、項に鼻を突っ込む美女と続く。子供は過去の経験から抜け出せないことが分かっているので抵抗しない。男も女も魅了する美女の胸に集中することにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

処理中です...