メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
161 / 407
8.魔王インサーニアを討て

34.妻として…………

しおりを挟む
 習い教わり頑張って身に着けた攻撃力に対し、夫は心底不思議な顔をしていた。



『なぜ、君が戦うのだね?』



 これは昔の考え方だ。女子供は戦わず、男が女を護り戦う。夫はそちらの方が力を発揮できるから戦わないでくれと頼んできた。何もせずに待っていろというのか?イライザにはできなかった。一緒に戦おうと思った。夫の前で言えたらどれほど楽だったのだろうか。



 あなたが表に出るのなら、私は影になるわ。あなたが言ったのよ。妻は夫の影となり支えるものだって。だからは私は影になり、敵を倒していった。



 当然よ。妻として。当然の役目よ。















 じゃあ、誰がイライザを護るのさ。



 魔王様はその姿を知らないから支えられない。だったら護れるのは部下しかいない。イライザの影としての姿を知っているのはパンタレストさんとロッドとコウガイとアタシだけ。



 パンタレストさんはよくイライザに遠慮しがちに小言を言っている。婉曲した表現すぎてイライザは理解できず、よく首を傾げていた。



 ロッドとコウガイは影の影として後始末をしている。彼女の失態が明るみに出ると面倒なことになると疲れた顔で言っていた。



 アタシはイライザの相談によく乗る。大抵がパンタレストさんに言われたことの意味に関することなのだが。一緒にいるうちにアタシ達は友達を超えて親友と呼べるものになっていた。



 だから、この状況が許せなかった。



「コウガイッ!」



 アイコンタクトだけですべてを理解したコウガイは、アスミンを剥がしロッドの方に押す。



「え?マジで?」



「ふぇ?」



 ロッドも何かを察した様子で確かめるように言葉を漏らす。アスミンは何も分かっていない。



 アタシは魔王城を向いて軽く跳び、コウガイの脚に着地する。コウガイの脚は動いており、それは蹴りの動作だった。ちょうど良いタイミングでアタシも脚を伸ばす。



 アタシは水を纏う。その上で、水が螺旋状に動く。ドリルのように回るアタシは大気を貫き、真っ直ぐと魔王城へと進む。



 アタシは今、最速の槍だ。















 一本の細剣が槍とナイフを防いだ。黄色の髪を揺らし、蒼色の眼でアシドとシキを睨む。アシドとシキが後ろに跳ぶ。



『カレトワ…………』



「うん。カレトワだよ」



 カレトワはイライザの方を向かず、細剣を振るい牽制する。レイドも復活し、圧倒的な不利を背負う。



「イライザ、もう少し後ろへ」



『えっ?』



「もう少し」



 イライザは言われるままに後ろへ下がっていく。破壊された壁の位置まで移動させられていく。



『///////////////////ッッ!』



 イライザが最後まで詠唱できたのはカレトワがいたからだ。詠唱を止めようとするアシドの凶槍も、シキの凶刃も、カレトワが傷つきながらも防いでいく。



 両者の間に隕石が割って入る。先ほど攻撃を食らったアシドは苦い顔をして躱していく。



「キャッ」



 エンドローゼの元にも降り注ぐ。頭を抱えてやり過ごそうとする。しかし、当たらない。顔を上げると目の前にはレイドがいた。



 カレトワは自嘲気味に笑う。無理だろ、これ。



 攻撃の一つ一つを致命を避けて受けていく。いや、一番の武器である脚を傷つけられている時点でもう致命的なのかもしれない。普段なら既に逃げているだろう。逃げ道だって確保してある。



 だが、できない。



『////ッ!?』



 悲痛な叫び声を上げるイライザの存在だ。親友を見捨てて逃げることなんてこのカレトワにはできない。イライザの援護があるからギリギリで死なずに保っていた。



 状況はさらに悪化していく。



 不滅の炎が復活した。勇者一行最大攻撃力が最前線に復帰する。



 視界の端がきらりと光った。



 一瞬コストイラの視線が光の方を向く。合図だ。準備が整ったようだ。カレトワは細剣を振るい、吹雪を起こす。各々が各々の対処をする時間を稼ぎ、カレトワは次の行動に移る。右の後ろ足でイライザを足払いして、前に倒れさせる。



『え!?』



 振り向きながら左腕で受け止め、外に飛び出す。



「重ッ!」



『え、ちょ、失礼ッ!』



 考えれば当たり前のことである。イライザの身長は3メートルもあるのだから、それ相応の重さがある。それに加えて、カレトワの細腕だ。イライザを抱えるのでやっとな太さであり、こういった力仕事には適していない。しかし、やらなければ2人とも死んでしまう。



 死にたくない。その思いだけが常識外れの行動を成功させた。外に張られた糸を伝ってカレトワが逃げていく。



 吹雪を抜けた勇者一行はすでに逃げてしまったカレトワ達に下唇を噛む。渡り切ったカレトワはイライザを下ろし、四つん這いになる。



「よく渡り切った、アタシ!!」



 カレトワは自分で自分を褒め、仰向けになる。ロッドはカレトワの治療にあたる。コウガイはイライザに寄り添い怪我の状況を確認する。アスミンはイライザを見たことがなかったので、警戒して棚に隠れて半身だけを覗かせている。



 アレンが瞳に魔力を集める。ここからでは攻撃が届いても相手を倒せる威力はない。



「深追いはしません。魔王を探しましょう」



「それならあそこだ」



 破壊された壁から身を乗り出したアシドがある一点を指さしていた。



 巨体のくすんだブロンズヘアがいた。



 あれが魔王か。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...