メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
上 下
150 / 400
8.魔王インサーニアを討て

24.紫魂の塔

しおりを挟む
 淡い紫色の塔なのだが、という印象があまりない塔に辿り着いた。印象が薄くなる理由は明白だ。辺りには魔物の牙や爪に、剣から翼が6枚生えた紋章のようなものが彫られている。それが塔を中心に数百個も飾られているのだ。囲いがないのに、まるで囲いのようで結界のようでもあった。



「気味が悪いわね」



 アストロが紋章のようなものが刻まれた爪を摘まみ、まじまじと見ている。アレンも見ているが、見たことのない紋章だ。いや、見たことがある。癒院や要塞、魔王軍の兵士と戦った時、あの場所にもこの紋章を見た気がする。これは魔王軍の印なのか。細かい意匠が施されており、魔王軍の技術力の高さがうかがえる。



「美しい彫りこみだ。いくつか持って帰りたいな」



 レイドは創作意欲が刺激されたのか、紋章をなぞりながら見ている。



『コレノ良サガワカルノカ』



 皺嗄れた声がし、そちらを向くと、老いたゴブリンがいた。杖を持ち、ローブを着こんでいる風采容貌から、ゴブリンウィザードであることは確かだ。



『コノ良サガワカルノハ熟練ノ技術者カ宗教ニ精通シタ者ダ。オマエハドチラダ』



「…………」



 レイドは答えてもいいのか迷う。相手は魔物だ。下手に気持ちを激しく揺らし機嫌を悪くさせるのも悪手だ。



「…………技術者だ。熟練者ではないがな」



『フム、ソウカ。謙虚ナノハ良イコトダ。ダガ、今ノ世ハ自分ヲアピールデキナケレバ生キ残レナイノモマタ事実ダ。謙虚デアルト同時ニ傲慢デモアルベキダ』



 魔物に諭されてしまった。レイドは汗を垂らす。大丈夫だ。相手はまだ敵ではない。



『持ッテ行クト良イ。インサーニア様ノ加護ヲ得ルコトガ出来ヨウ。コレデ我々ハ仲間ダ』



 欲しいには欲しいが仲間になりたいわけではない。ここが限界なような気もしてくる。



『スグッ!?』



 首から刃が生える。シキはいつの間にかゴブリンウィザードの影に移動しており、暗殺していた。

 レイドやアストロ、シキまでもが爪や牙を懐にしまっていく。そんなに欲しかったのだろうか。自分も懐に入れるアレンは自身を棚に上げてそんなことを思っていた。



 シキの眉がピクリと動く。横の森から魔力の塊が出現する。シキは体を回転させ魔力の塊を切断する。直後爆発して、シキが吹き飛ばされる。



『カタカタカタ』



 森の中から5メートルはあろう身長のローブ姿の何かが出てきた。ローブに隠れていない所には白く骸骨のようなものが見えた。ローブは大きく、体全体が覆われており、手先は手袋、腕は袖で、頭はフードと垂れた幕のようなもので隠されている。魔物であることを隠しているような装いだ。魔物の首元には紋章の描かれた爪や牙を使ったネックレスがかかっている。



『カタカタカタカタ』



 ローブの隙間からスルルルルルとカードが宙を舞う。規則正しく並んだカードたちは2つの輪を描くように動き、×の字を描くように魔物の体を取り巻く。



 魔物は右手を突き出すと、それに合わせてカードが1枚右手の前に止まる。



『カタカタカタカタ』



 カードから紫色の霧が噴出され、吐き出し終わるとカードが消える。



 霧が絡みつくように手足に纏わりつく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

処理中です...