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8.魔王インサーニアを討て
20.選ばれし者の証
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ヴェスタとはローマ神話にと登場する神の名前だ。結婚や家庭の象徴とされた神。ギリシア神話ではヘスティアと同一視されている。詩人オウィディウスはその神体を燃え続ける火とした。
魔王軍幹部ヴェスタはその話に惹かれた。ヴェスタには幼少のころに作った、炎のような形の火傷の痕が背中にあった。火の神様でもよかったのだが、燃え続けるというところに惹かれ、家庭を大切にしているのも評価ポイントだった。
ヴェスタはオタクっぽい知識を多く持った転生者である。
ヴェスタは転生前からヒーロー願望があった。ヒーローとは優しく強いものだ。困っている人がいたら話しかけ、いじめられている人がいたら必ず味方になり首謀者加担者全員をボコボコにした。ヴェスタはヒーローでありたいがため、常に自身の正義によって行動していた。ヴェスタは自分の思うヒーローになろうとした。
ヴェスタが死んだ日もそうだった。犯罪に加担しようとする学校の後輩を止めようと懲らしめようとしていた。拳を振るうものには拳で、刃物を手に取るものには木刀で対応した。
過去には教員に呼び出され、両親に怒られたりもした。しかし、彼には分からなかった。なぜ怒られているのか1ミリたりとも理解できなかった。だから同じことを繰り返した。自分は正しいことをしているのだ。その意義は自己の行動を正当化させた。そして、自分の行いに酩酊した。
その時、ズタンと音と衝撃があった。見ると、そちらでは一人の不良が銃を構えていた。銃口からは煙が出ており、不良自身は尻餅をついていた。
「あ?」
誰の声かは分からなかった。ヴェスタが視線を体に下げると、そこには穴があった。ゴボリと血が出た。不良たちは恐怖に顔を引き攣らせながら逃げていく。追わなければと思ったが、力が入らない。ヴェスタの体は倒れていったが、顔は笑っていた。逃げても無駄さ。すぐに追いついて説教してやる。
次に目を覚ました時、ヴェスタはこの異世界にいた。
「よくも逃がしてくれたな」
塔から金髪の男が出てくる。恨めしそうなセリフを吐きながら、どこか心の籠っていないように感じる。曇りなき眼は真っ直ぐ戻って来たばかりのコストイラを見ていた。
「魔王軍幹部、光の守護者、<破邪顕正>のヴェスタ」
大剣を抜きながら宣言した。正式な決闘の申し込み方法だ。剣の切っ先はコストイラに向いている。
「名乗れよ。全員でもいいぞ」
「勇者の右腕、<駿足長阪>のコストイラ。お前なんか一人で十分だ」
コストイラは刀を抜きながら前へ出る。
「言ってくれるな。じゃあ、何を開始の合図にする?」
「ん?ああ、そうだな…………」
コストイラが答えようとする隙を狙い、攻撃を開始する。
大剣とは思えない速度の突き攻撃だった。最速の決着を目指したのだろう。しかし、コストイラは一回転して大剣を横から叩き、軌道を逸らしながら自身は独楽のように回り、首を狙う。ヴェスタは頭を下げ、空振りに終わらす。大剣の斬り上げにバックステップ躱す。
「あれを対処するのか」
ヴェスタは再び大剣を構える。コストイラも構えなおす。
「ふっ!」
地面が爆ぜた。武器が大剣とは思えない速度で肉薄するヴェスタにコストイラは一つ一つ丁寧に対応していく。エンドローゼはもうついていけずきょろきょろしている。
「大丈夫よ。私も見えてないから」
何が大丈夫なのか分からないが、エンドローゼは何故か安心できた。しかし、安心させてくれているのだろうが、背中で形を変える二つの大きな物質に怒りがわいてきた。
一合、また一合と剣を交えるたびにヴェスタの動きが速まっていく。速さがあればその分威力が高まる。剣が交わる位置が少しずつ押し込まれていく。
いける。ヴェスタがそう思った瞬間、視界が炎に彩られる。吹っ飛ばされたヴェスタは俯せに這い、左手で顔を覆った。
「この火傷は油断した記録として甘んじて受け入れよう」
痛々しい火傷を風に晒し、立ち上がる。コストイラはカウンターを狙っているヴェスタを見切り、近付いていない。
「右手に剣を」
ガチャと音を立てながら切っ先をコストイラに向ける。
「左手に剣を」
両手で剣を持つ。それが本来のスタイルなのだろう。かなり様になっている。
「力を貸せ、ラストレインボー」
言うと剣身が虹色に光る。ヴェスタは一気に踏み込み、大剣を大雑把に振っていく。先程までの精巧な剣術とは違う別の戦い方。さらに違う点は剣の通った道に虹がかかっている。直感だが、この虹もれっきとした攻撃だろう。
「英雄はどんなに傷ついても、負うごとに復活し、勝つようにできているのだ」
前世のヴェスタ、安藤圭一を知るものにとって、彼は恐怖の象徴だった。彼にとっての”正義”は自分の正義であって、社会的な正義ではなかった。ゆえに世間と外れたことをすることもあった。周りからは偽善者、正義の押し付けやろうと陰で言われていた。クラスの人や近所の人、親、兄弟姉妹にまで言われた。
圭一は知っていたが、咎めるようなことはしなかった。英雄の行動は時には理解されないものだと考えていたからだ。だから無視し続けていた。時には平然と人を殴り、時には単騎で暴力団の元に行ったり。
それが正しいと思っていた。
だから、コストイラの言葉を理解するのに時間を使ってしまった。
「じゃあ、勝つのはオレだな」
じゃあに繋がらなかった。ヴェスタの動きが鈍ってしまった。コストイラの右手がブレる。振り抜いた体勢のコストイラを見て、隙と断じ大剣を振り下ろす。
大剣がコストイラの左肩スレスレを通り過ぎる。地面に叩きつけた衝撃が右腕を襲う。左腕に来ない。そういえば左腕の位置もおかしい。剣の柄に左手がある。左手だけある。左腕にくっついていない。
「があああああああああああっ!!?」
傷口を押さえながら蹲る。
「クソッ!!」
起き上がりながら大剣を摑み、地面から解放し振り上げる。しかし、血を失う体は重さに耐えきれず倒れてしまう。
負けるのか。これは死ぬ。駄目だ。間違いない。ゴポリと口から血が零れる。ヒーローは死なない。主人公は死なない。あぁ、気持ちよくなってきた。幸せさえ感じる。
――死を受け入れるのか。
声が、聞こえた。
――光を求めよ。
何を言っているんだ。あれ。声が出ない。
――恐れるな。
無理だろ。姿も見えない相手を信用するなんて。
――私はお前を恐れない。
それはあんたの勝手だろ。僕には関係ないね。
――私を解放せよ、ヒーロー。
ハハ。僕の助けが必要ならそう言ってくれよ、神様。
魔王軍幹部ヴェスタはその話に惹かれた。ヴェスタには幼少のころに作った、炎のような形の火傷の痕が背中にあった。火の神様でもよかったのだが、燃え続けるというところに惹かれ、家庭を大切にしているのも評価ポイントだった。
ヴェスタはオタクっぽい知識を多く持った転生者である。
ヴェスタは転生前からヒーロー願望があった。ヒーローとは優しく強いものだ。困っている人がいたら話しかけ、いじめられている人がいたら必ず味方になり首謀者加担者全員をボコボコにした。ヴェスタはヒーローでありたいがため、常に自身の正義によって行動していた。ヴェスタは自分の思うヒーローになろうとした。
ヴェスタが死んだ日もそうだった。犯罪に加担しようとする学校の後輩を止めようと懲らしめようとしていた。拳を振るうものには拳で、刃物を手に取るものには木刀で対応した。
過去には教員に呼び出され、両親に怒られたりもした。しかし、彼には分からなかった。なぜ怒られているのか1ミリたりとも理解できなかった。だから同じことを繰り返した。自分は正しいことをしているのだ。その意義は自己の行動を正当化させた。そして、自分の行いに酩酊した。
その時、ズタンと音と衝撃があった。見ると、そちらでは一人の不良が銃を構えていた。銃口からは煙が出ており、不良自身は尻餅をついていた。
「あ?」
誰の声かは分からなかった。ヴェスタが視線を体に下げると、そこには穴があった。ゴボリと血が出た。不良たちは恐怖に顔を引き攣らせながら逃げていく。追わなければと思ったが、力が入らない。ヴェスタの体は倒れていったが、顔は笑っていた。逃げても無駄さ。すぐに追いついて説教してやる。
次に目を覚ました時、ヴェスタはこの異世界にいた。
「よくも逃がしてくれたな」
塔から金髪の男が出てくる。恨めしそうなセリフを吐きながら、どこか心の籠っていないように感じる。曇りなき眼は真っ直ぐ戻って来たばかりのコストイラを見ていた。
「魔王軍幹部、光の守護者、<破邪顕正>のヴェスタ」
大剣を抜きながら宣言した。正式な決闘の申し込み方法だ。剣の切っ先はコストイラに向いている。
「名乗れよ。全員でもいいぞ」
「勇者の右腕、<駿足長阪>のコストイラ。お前なんか一人で十分だ」
コストイラは刀を抜きながら前へ出る。
「言ってくれるな。じゃあ、何を開始の合図にする?」
「ん?ああ、そうだな…………」
コストイラが答えようとする隙を狙い、攻撃を開始する。
大剣とは思えない速度の突き攻撃だった。最速の決着を目指したのだろう。しかし、コストイラは一回転して大剣を横から叩き、軌道を逸らしながら自身は独楽のように回り、首を狙う。ヴェスタは頭を下げ、空振りに終わらす。大剣の斬り上げにバックステップ躱す。
「あれを対処するのか」
ヴェスタは再び大剣を構える。コストイラも構えなおす。
「ふっ!」
地面が爆ぜた。武器が大剣とは思えない速度で肉薄するヴェスタにコストイラは一つ一つ丁寧に対応していく。エンドローゼはもうついていけずきょろきょろしている。
「大丈夫よ。私も見えてないから」
何が大丈夫なのか分からないが、エンドローゼは何故か安心できた。しかし、安心させてくれているのだろうが、背中で形を変える二つの大きな物質に怒りがわいてきた。
一合、また一合と剣を交えるたびにヴェスタの動きが速まっていく。速さがあればその分威力が高まる。剣が交わる位置が少しずつ押し込まれていく。
いける。ヴェスタがそう思った瞬間、視界が炎に彩られる。吹っ飛ばされたヴェスタは俯せに這い、左手で顔を覆った。
「この火傷は油断した記録として甘んじて受け入れよう」
痛々しい火傷を風に晒し、立ち上がる。コストイラはカウンターを狙っているヴェスタを見切り、近付いていない。
「右手に剣を」
ガチャと音を立てながら切っ先をコストイラに向ける。
「左手に剣を」
両手で剣を持つ。それが本来のスタイルなのだろう。かなり様になっている。
「力を貸せ、ラストレインボー」
言うと剣身が虹色に光る。ヴェスタは一気に踏み込み、大剣を大雑把に振っていく。先程までの精巧な剣術とは違う別の戦い方。さらに違う点は剣の通った道に虹がかかっている。直感だが、この虹もれっきとした攻撃だろう。
「英雄はどんなに傷ついても、負うごとに復活し、勝つようにできているのだ」
前世のヴェスタ、安藤圭一を知るものにとって、彼は恐怖の象徴だった。彼にとっての”正義”は自分の正義であって、社会的な正義ではなかった。ゆえに世間と外れたことをすることもあった。周りからは偽善者、正義の押し付けやろうと陰で言われていた。クラスの人や近所の人、親、兄弟姉妹にまで言われた。
圭一は知っていたが、咎めるようなことはしなかった。英雄の行動は時には理解されないものだと考えていたからだ。だから無視し続けていた。時には平然と人を殴り、時には単騎で暴力団の元に行ったり。
それが正しいと思っていた。
だから、コストイラの言葉を理解するのに時間を使ってしまった。
「じゃあ、勝つのはオレだな」
じゃあに繋がらなかった。ヴェスタの動きが鈍ってしまった。コストイラの右手がブレる。振り抜いた体勢のコストイラを見て、隙と断じ大剣を振り下ろす。
大剣がコストイラの左肩スレスレを通り過ぎる。地面に叩きつけた衝撃が右腕を襲う。左腕に来ない。そういえば左腕の位置もおかしい。剣の柄に左手がある。左手だけある。左腕にくっついていない。
「があああああああああああっ!!?」
傷口を押さえながら蹲る。
「クソッ!!」
起き上がりながら大剣を摑み、地面から解放し振り上げる。しかし、血を失う体は重さに耐えきれず倒れてしまう。
負けるのか。これは死ぬ。駄目だ。間違いない。ゴポリと口から血が零れる。ヒーローは死なない。主人公は死なない。あぁ、気持ちよくなってきた。幸せさえ感じる。
――死を受け入れるのか。
声が、聞こえた。
――光を求めよ。
何を言っているんだ。あれ。声が出ない。
――恐れるな。
無理だろ。姿も見えない相手を信用するなんて。
――私はお前を恐れない。
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