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8.魔王インサーニアを討て
7.龍の峠
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土地は大きさに関わらず名がつけられている。道も洞窟も、魔王領に至るまでどこにでもつけられている。現在アレン達がいるのは龍の峠と呼ばれる峠だ。しかし、アレン達の中で地理の名称に詳しいものがいないので、アレン達にとっては名もなき土地だ。だというのに、アレン達は名称に見当がついていた。
目の前にグリフォンがいたからだ。傷の種類は引っ掻き、噛みつき、刺し傷など多岐に渡っている。毛も少し焦げていた。グリフォン相手にこんなことできるのは限られる。さらに場所が峠となるとさらに絞られる。
全員の脳裏に浮かんだのはドラゴン。とりわけ、毛を焦がすほどの炎と考えるとレッドドラゴンだろう。
グリフォンは息も絶え絶えなのに、気丈に立ち上がり威嚇してきた。何ともプライドの高い魔物だろう。それに応えるようにコストイラが前に出る。アレンは久しぶりに瞳に魔力を込める。やはり相当弱っている。体力も少ない。コストイラの攻撃力であれば一撃で倒せるだろう。以前のコストイラならば、真っ先に斬りにかかっていただろう。しかし、油断しない。もう特攻しない。何がここまで変えたのだろう。あの廃屋の地下道の子供と遭ったあたりからか。コストイラはゆったりとした足取りでグリフォンに近付いていく。
両者の制空圏が触れた。まだ動かない。もう一歩近づいたところで足を止めた。
沈黙。アレン達も動かない。
先に痺れを切らしたのはグリフォンだった。先が短いからこそ焦ったのかもしれない。薙がれる鉤爪に合わせ、抜刀し左肢の傷に入れ込み、斬り飛ばす。
『クゥアアアッッ!』
コストイラは突き、グリフォンの左目から脳を傷つける。そのまま抜き、頭を豆のように二つに割った。
「何だ?」
コウガイは椅子に座ったまま振り返りもせず問うた。全身を闇に同化する黒で統一した男は見られていないのを分かっていながら一礼する。
「失礼を承知で進言を」
「何だ?」
コウガイは妹の手を握りながら聞き返す。
「ここから逃げませんか?」
空気が一変した。入って来たばかりの下っ端なら卒倒しているだろう。この男は冷や汗を垂らすのみに抑え込む。
「逃げる?」
「はい」
「このオレがか?」
「はい」
コウガイは振り返り、男の目を見る。
「お前はいつだってオレのためになるようなことを言ってきた。なら、なぜ逃げるように提案をしてきているんだ?」
「もうじき、大規模戦争が始まることはご存知でしょう」
「ああ」
「妹さんを巻き込みかねません」
コウガイは目を閉じる。考えているのだろう。逃げるメリットとデメリットを。コウガイはゆっくりと目を開け、妹を見つめる。
「アスミンは逃げたいか?」
ロッドは何も言わずにその光景を見つめ続ける。見慣れた光景だ。これがなくなってしまうのはロッドとしても悲しい。
「アスミンはここにいたいか?」
たっぷりと15秒、間を開ける。光のない目は動かない。潤いは定期的に与えられているが、罅割れた唇は何も言葉を漏らさない。拳闘士とは思えない白く細い指は筋肉を失ったかのように何も訴えない。
ロッドにはそういう風にしか見えない。
「分かった」
しかし、コウガイには何か通じたのだろう。何か納得したように頷く。
「動きたくないそうだ」
「分かりました。では勇者が来たときはどうぞ気を付けて」
ロッドは返答を待たずして部屋から出て行く。
「頑固だなぁ。まぁ、それでこそコウガイ様なんだけどさ」
ロッドは軽薄そうな口調に戻っていた。こちらが本来の口調であるが、コウガイの前では緊張していつもあの口調になってしまう。
ロッドは2階と3階の間の階段で壁に寄りかかりながら、右腕を触る。ある程度触ると溜め息を吐いて下りていく。
目の前にグリフォンがいたからだ。傷の種類は引っ掻き、噛みつき、刺し傷など多岐に渡っている。毛も少し焦げていた。グリフォン相手にこんなことできるのは限られる。さらに場所が峠となるとさらに絞られる。
全員の脳裏に浮かんだのはドラゴン。とりわけ、毛を焦がすほどの炎と考えるとレッドドラゴンだろう。
グリフォンは息も絶え絶えなのに、気丈に立ち上がり威嚇してきた。何ともプライドの高い魔物だろう。それに応えるようにコストイラが前に出る。アレンは久しぶりに瞳に魔力を込める。やはり相当弱っている。体力も少ない。コストイラの攻撃力であれば一撃で倒せるだろう。以前のコストイラならば、真っ先に斬りにかかっていただろう。しかし、油断しない。もう特攻しない。何がここまで変えたのだろう。あの廃屋の地下道の子供と遭ったあたりからか。コストイラはゆったりとした足取りでグリフォンに近付いていく。
両者の制空圏が触れた。まだ動かない。もう一歩近づいたところで足を止めた。
沈黙。アレン達も動かない。
先に痺れを切らしたのはグリフォンだった。先が短いからこそ焦ったのかもしれない。薙がれる鉤爪に合わせ、抜刀し左肢の傷に入れ込み、斬り飛ばす。
『クゥアアアッッ!』
コストイラは突き、グリフォンの左目から脳を傷つける。そのまま抜き、頭を豆のように二つに割った。
「何だ?」
コウガイは椅子に座ったまま振り返りもせず問うた。全身を闇に同化する黒で統一した男は見られていないのを分かっていながら一礼する。
「失礼を承知で進言を」
「何だ?」
コウガイは妹の手を握りながら聞き返す。
「ここから逃げませんか?」
空気が一変した。入って来たばかりの下っ端なら卒倒しているだろう。この男は冷や汗を垂らすのみに抑え込む。
「逃げる?」
「はい」
「このオレがか?」
「はい」
コウガイは振り返り、男の目を見る。
「お前はいつだってオレのためになるようなことを言ってきた。なら、なぜ逃げるように提案をしてきているんだ?」
「もうじき、大規模戦争が始まることはご存知でしょう」
「ああ」
「妹さんを巻き込みかねません」
コウガイは目を閉じる。考えているのだろう。逃げるメリットとデメリットを。コウガイはゆっくりと目を開け、妹を見つめる。
「アスミンは逃げたいか?」
ロッドは何も言わずにその光景を見つめ続ける。見慣れた光景だ。これがなくなってしまうのはロッドとしても悲しい。
「アスミンはここにいたいか?」
たっぷりと15秒、間を開ける。光のない目は動かない。潤いは定期的に与えられているが、罅割れた唇は何も言葉を漏らさない。拳闘士とは思えない白く細い指は筋肉を失ったかのように何も訴えない。
ロッドにはそういう風にしか見えない。
「分かった」
しかし、コウガイには何か通じたのだろう。何か納得したように頷く。
「動きたくないそうだ」
「分かりました。では勇者が来たときはどうぞ気を付けて」
ロッドは返答を待たずして部屋から出て行く。
「頑固だなぁ。まぁ、それでこそコウガイ様なんだけどさ」
ロッドは軽薄そうな口調に戻っていた。こちらが本来の口調であるが、コウガイの前では緊張していつもあの口調になってしまう。
ロッドは2階と3階の間の階段で壁に寄りかかりながら、右腕を触る。ある程度触ると溜め息を吐いて下りていく。
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