109 / 391
6.紅い館
11.過去の遺物
しおりを挟む
姉妹と戦った後にその館に何食わぬ顔をして泊れるほど神経が図太くないアレン達は、満場一致で野宿を決めた。霧の森の魔物は好戦的なものが多いとナカウで説明された。連戦につぐ連戦によって眠れないことを覚悟していたが、意外にも長時間眠れた。どうやら近くに吸血鬼姉妹が住んでおり、その強さを恐れて魔物が近付いてこないらしい。
アレンは野宿に使った薪を崩していく。レイドとシキは荷物をまとめていく。コストイラとアシドは敵が来ないか警戒する。
アストロは両手を頭の上にあげ体を伸ばす。一瞬だけ強調された胸にエンドローゼが嫉妬で下唇を噛む。
「それでは行きましょう」
アレン達の歩く道はすでに霧が晴れており、見通しが良くなっていた。だからといって決して歩きやすい道ではない。湖沿いに歩いているが、人工の道のはずなのに凸凹している。エンドローゼは数分も歩くとすでに疲れ始めていた。数十分経っても文句も言わずついてきていた。体力があるのかないのか分からない。数時間も歩くと石造りの建物を発見した。
明らかに使われなくなって長い景観だ。蔦が伸び放題で、石壁は欠けていた。正式な使われ方をされていないだろうが、人が使っている形跡がある。誰か確実にいる。しかし、それが今も使っているのかも分からない。
その時、後ろからがさりと音がした。
天之五閃。
世界に5人しかいない、剣の頂に至った者に与えられる称号。発足した詳しい年月も5人の個人的な名前や戦歴も、もし調べることが出来たら歴史的な大発見となるとさえ言われている。しかし、それも過去の称号である。
白髪の男は、天之五閃のうち4人と出会ったことがある。そのうちの1人は神速の刃と呼ばれる女性剣士である。力の強さではなく技の速さを求め天剣へ至りし者。レイピアを構え相対した彼女はこちらの弁明を許さず仕掛けてきた。原因が何だったのかは今となっては忘れてしまったが、様々な場面で白髪の男の後ろについてきた。
「なぜそんなに私に突っかかってくるのだ。そんなに怒っていて疲れないか?」
白髪の男は次々と繰り出される剣戟を捌きながら質問する。この時すでに両者のレベルはトップクラスであり、一般的な冒険者であれば、その攻防は捉えることさえも不可能であろう。
神速の名を冠しながら、彼女より白髪の男の方が速い。これが許せなかった。
網の目のような剣戟に白髪の男は刀をうまく使い往なし続ける。圧倒的なスピードに対して絶対的な技術差で彼女を往なしていく。レイピアを振るうたびに速度が上がっていく。上がっていくたびにレイピアの精度が下がっていく。そこを狙い白髪の男は刀でレイピアを突き、そのまま本人ごと押し込んだ。斬り、斬られを繰り返し、それなりの時間が経った時、彼女は倒れ、白髪の男はその頭に刀の切っ先を向けていた。
「これで満足か?私はこれにて行かせてもらおう」
「待って!」
白髪の男が刀を収め背を向けたことに怒り、呼び止める。
「命を賭した戦いに、情けをかけるつもり!?」
「……ふむ」
怒れる女に白髪の男は向き直り、自らの顎に触れる。
「殺せ、と?」
「そうだ」
「おかしくないか?」
「何が?」
女は本当に何を言われているのか分からず白髪の男を睨みつける。
「なぜ敗者が勝者にものを要求する」
納得してしまった女は黙り込むしかない。
「私は刀を振るうのが好きだ。強き者と出会えた時の高揚も捨てがたい。私は君と出会えた時もっとそれを感じた。だからこそ君を生かしたい。強くなり、また出会えるに来い。命を狩るのも情けをかけるのも勝者の特権だ」
「殺しに来い、と」
「構うまい。好きにすると良い」
白髪の男は笑顔で返した。
アレンは野宿に使った薪を崩していく。レイドとシキは荷物をまとめていく。コストイラとアシドは敵が来ないか警戒する。
アストロは両手を頭の上にあげ体を伸ばす。一瞬だけ強調された胸にエンドローゼが嫉妬で下唇を噛む。
「それでは行きましょう」
アレン達の歩く道はすでに霧が晴れており、見通しが良くなっていた。だからといって決して歩きやすい道ではない。湖沿いに歩いているが、人工の道のはずなのに凸凹している。エンドローゼは数分も歩くとすでに疲れ始めていた。数十分経っても文句も言わずついてきていた。体力があるのかないのか分からない。数時間も歩くと石造りの建物を発見した。
明らかに使われなくなって長い景観だ。蔦が伸び放題で、石壁は欠けていた。正式な使われ方をされていないだろうが、人が使っている形跡がある。誰か確実にいる。しかし、それが今も使っているのかも分からない。
その時、後ろからがさりと音がした。
天之五閃。
世界に5人しかいない、剣の頂に至った者に与えられる称号。発足した詳しい年月も5人の個人的な名前や戦歴も、もし調べることが出来たら歴史的な大発見となるとさえ言われている。しかし、それも過去の称号である。
白髪の男は、天之五閃のうち4人と出会ったことがある。そのうちの1人は神速の刃と呼ばれる女性剣士である。力の強さではなく技の速さを求め天剣へ至りし者。レイピアを構え相対した彼女はこちらの弁明を許さず仕掛けてきた。原因が何だったのかは今となっては忘れてしまったが、様々な場面で白髪の男の後ろについてきた。
「なぜそんなに私に突っかかってくるのだ。そんなに怒っていて疲れないか?」
白髪の男は次々と繰り出される剣戟を捌きながら質問する。この時すでに両者のレベルはトップクラスであり、一般的な冒険者であれば、その攻防は捉えることさえも不可能であろう。
神速の名を冠しながら、彼女より白髪の男の方が速い。これが許せなかった。
網の目のような剣戟に白髪の男は刀をうまく使い往なし続ける。圧倒的なスピードに対して絶対的な技術差で彼女を往なしていく。レイピアを振るうたびに速度が上がっていく。上がっていくたびにレイピアの精度が下がっていく。そこを狙い白髪の男は刀でレイピアを突き、そのまま本人ごと押し込んだ。斬り、斬られを繰り返し、それなりの時間が経った時、彼女は倒れ、白髪の男はその頭に刀の切っ先を向けていた。
「これで満足か?私はこれにて行かせてもらおう」
「待って!」
白髪の男が刀を収め背を向けたことに怒り、呼び止める。
「命を賭した戦いに、情けをかけるつもり!?」
「……ふむ」
怒れる女に白髪の男は向き直り、自らの顎に触れる。
「殺せ、と?」
「そうだ」
「おかしくないか?」
「何が?」
女は本当に何を言われているのか分からず白髪の男を睨みつける。
「なぜ敗者が勝者にものを要求する」
納得してしまった女は黙り込むしかない。
「私は刀を振るうのが好きだ。強き者と出会えた時の高揚も捨てがたい。私は君と出会えた時もっとそれを感じた。だからこそ君を生かしたい。強くなり、また出会えるに来い。命を狩るのも情けをかけるのも勝者の特権だ」
「殺しに来い、と」
「構うまい。好きにすると良い」
白髪の男は笑顔で返した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる